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イルミンスールの冒険Part2~精霊編~(第3回/全3回)

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イルミンスールの冒険Part2~精霊編~(第3回/全3回)

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●学校も、そして校長も、私たちが守ってみせる!

(……ちっ、まだ戦力に余裕があるというのか? ……ならば、方針変更といくか。どうせこの先にも邪魔者がいるに違いない。要は俺一人が侵入できればいいわけだ、こいつらはそのための囮にすればいい)
 エリザベートが眠る校長室への道を進みながら、黒衣の男が残り三つのカプセルの内の一つを握り締める。そして男の予想通り、最も近道であるルートには、閃崎 静麻(せんざき・しずま)とそのパートナーが布陣していた。
「マスター、配置完了しました。クリュティとマスターの知識から導き出される、敵がこのルートを使用する確率は90%です」
 クリュティ・ハードロック(くりゅてぃ・はーどろっく)の報告を受けて、静麻がショットガンを担いだ姿勢で欠伸を漏らす。
「ふわぁ……ま、正直なところ、俺の出番は無いで済めばそれに越したことはない。俺も楽出来て万々歳、万事解決ってところだ」
「静麻、またそんなことを言って……」
「ふわぁ……でもボクもう眠くなっちゃったよ……」
 静麻のいつも通りの面倒くさそうな様子にレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)が溜息をつき、既に日付をまたいでいることもあって眠たげな様子の閃崎 魅音(せんざき・みおん)が、舟を漕ぎかけてはクリュティに支えられていた。
(……ま、わざわざここを突破してくるとも思えない。だが確実に選択肢の一つは奪った。お次はどの手で来る? その都度選択肢を潰していけば、最低限の労力で事を収められるものさ)
 静麻のそんな思考を知ってか知らずか、黒衣の男はその場を離れ、別のルートから円形状の物体の上に乗り、空路でエリザベートのところを目指す。魔力で浮かび上がるそれは、男がイルミンスールにやって来る時に使用し、隠しておいたものである。上昇速度はそれなりにあるが、速くすればするほど魔力を放出する際に出る衝撃や音が強まり、周囲に存在を気取られてしまう代物であった。
(そもそもこれを使用した時点で、隠密行動は藻屑と消えた。ならば、一刻も早く辿り着くしかないか――)
 魔力を集中させ、男が上昇を続ける。これで周囲を誰も捜索していなかったのなら、問題なくエリザベートのところに辿り着けたかもしれないが、彼は生徒の力をまだ甘く見ていた。
 突如、男の周囲が煙幕に包まれる。
(何っ――)
 奪われる視界に男がたじろいだその瞬間、濃酸の霧が男を襲う。咄嗟に霧を中和する魔法を行使するが、それにより集中が乱れ、上昇速度が著しく減少する。そしてそれは、男を見つけて捕縛しようとする作戦に移った六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)にとって、容易く背後に回り込める好機であった。
「一気に決めます!」
 乗っていた飛空艇から飛び、爆発的な加速力で一気に男に近づいた優希が、強力な槍の一撃を男に見舞う。すんでのところで避けた男の黒衣が裂け、そして槍に貫かれた円形状の物体が電撃を発して機能を停止し、男は重力に従って落下する。
「ちっ!」
 男が懐からカプセルを取り出し、真下の枝に投げつける。そこから現れたキメラが男を銜えて跳び、手近な枝に着地して男を下ろす。
「今ので終わりと思うな!」
 煙幕を突き抜けて降りてきたアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)が、無数の小物が詰まった袋を投げつける。それは途中で弾け、鋭い刃のついた小物がキメラに傷を与え、周囲に落ちて爆発した小物が、男の張った防御結界にヒビを入れていく。
「訳の分からぬ代物を! 行け、キメラ! 眼前の敵を焼き尽くせ!」
 男が命じ、口に灼熱の炎を蓄えたキメラが発射体勢に入った直後、そのキメラを穿つ弾丸が見舞われる。範囲から逃れた男が上空を見上げれば、銃を手にしたミラベル・オブライエン(みらべる・おぶらいえん)の姿が映った。
「悉く邪魔をしてくれる!」
 男が、懐からごつい作りの銃を抜き放つ。銃から闇の瘴気を孕んだ弾が、飛空艇に乗るミラベルへ飛び荒ぶ。しかしミラベルも軌道を読み切り、飛空艇を操作して避ける。瘴気を振り撒きながら弾が枝にぶつかり、衝撃と音を立てる。一方のキメラも炎を放つが、やはり対象はその場にはいなく、掠めた炎が枝を焦がす。
 舌打ちを繰り返す男とキメラを、ミラベルの操る飛空艇に優希、アレクセイという布陣が取り囲む。男が足を着ける枝は一本道、他に逃げ場はない。
「……その程度で、俺を捕まえられるとでも思っているのか?」
 言葉の端にまだ余裕を持たせた口ぶりで、男が今度は両手に銃を握る。キメラに炎を命じ、男が片方の銃をミラベルに向けて放つ。それを避け、膨張して爆発する闇を背後に、優希が再び爆発的な加速力で迫る。キメラの炎を避けたアレクセイも接近する。
「そう来ると思っていた。……行け!」
 男がもう片方の銃を、何とキメラに向けて放つ。闇を受けたキメラが膨張し、そして内部から爆発する。
「くっ!!」
「優希!」
 衝撃で宙に投げ出される優希を、すんでのところでミラベルが回収する。
「アレクセイ!?」
「……俺様は問題ない。しかし、取り逃がしたか。この先は……」
 アレクセイが見上げた先には、エリザベートがいるはずの校長室が遠くに見えていた。

「ええい、何ということだ! この俺が、こうも先回りされ、後手後手に回るなど、あり得ん! ……まさか、既に校長とやらの手の内!? そんなはずはない! そんなはずはないのだ!」
 溜まりに溜まったストレスを吐き出すように喚きながら、男が乱れた黒衣のまま校長室に続く枝を駆ける。追っ手を撒くためにジグザグに駆け続け、そしてようやく、校長室にしては少々以上に大きい、まるで枝同士が組み合わさったかのように出来上がった建物の前に辿り着く。
「……ちっ! どうやらここの生徒たちを甘く見ていたようだな。これからは慎重に行くか」
 今更ながらそのことに気付いた男が、残り二つのカプセルを放り、二体のキメラを先行させて建物の中に入る。そしてすぐに、一体のキメラが踏んだ仕掛けが作動し、ワイヤーで出来たネットがキメラを絡め取る。
「俺ならば苦労したかもしれんな。だが、キメラだったのが残念だ。……焼き尽くせ!」
 二体のキメラが同時に炎を放ち、ネットを焼き切る。しかしまるでそれを見越していたかのように、焼き切ったネットが次の仕掛けを発動させる。引火性の強い液体が降り注ぎ、火達磨と化したキメラが床をのた打ち回る。
「メイベル発案のトラップ、大成功だね! ヘリシャさんのアドバイスのおかげだよ!」
「そ、そんなことないですぅ。ただぁ、火を使ったら余計燃えるようにしたらどうかなぁって、思っただけですぅ」
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)に誉めの言葉をもらった『ヴォルテールの炎熱の精霊』ヘリシャが、照れた表情を見せる。
「メイベル、セシリア、敵はまだ戦力を残していますわ。油断なさらぬよう」
「大丈夫ですぅ。ミーミルがこの上で戦っている中、彼女の『お母さん』であるエリザベート校長は私たちが守るですぅ!」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が、警戒している素振りを見せない表情のまま武器を携え、トラップを仕掛けようと発案したメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)、そしてセシリアがヘリシャを背後に、鈍器を構えて立ち塞がる。
「ふん、メイドのつもりか知らぬが、お前らごときわざわざ俺が相手する必要なぞないわ。……行け!」
 男がキメラに命じ、咆哮をあげたキメラが飛び込みからの爪の一撃をフィリッパに見舞う。爪とブレードが触れ合い、激しい金属音を奏でる。キメラの獰猛な一撃も、たおやかにそして優雅にフィリッパが受け止める。
「女ごときが小癪な――」
「わたくしの力は、女性をお守りするためのもの。今のわたくしに、守れぬものなどございませんわ!」
 普段のおっとりとした様子からは想像もつかない身のこなしで、フィリッパがキメラを徐々に押し込んでいく。振り抜いた一撃がキメラを弾き飛ばし、正面広場を突き抜け反対側の廊下までキメラが吹き飛ばされる。
「何をしている! お前はこの程度の存在だったのか!?」
 主の叱責に、ふらつきながらもキメラが立ち上がる。自らを奮い立たせるように咆哮をあげて、キメラが飛び込むために身体を折り曲げ、力を溜める。

「万物を司るマナよ、彼のものを凍てつかせよ!
 フリーズ・バレット!」


 キメラが飛び込もうとしたその瞬間、詠唱が響き曲がり角の先から氷柱が飛ばされ、それがキメラに刺さり動きが急激に鈍っていく。
「おにいちゃんの勘が当たったね! ここを狙ってくるなんて誰か知らないけど、エリザベート様は私たちが守るんだから」
「それにしても、どうしてこんなところにキメラが……いや、今はそれを考える場合ではないな。クレア、前衛を頼む。私は援護に回る。手の内は知っているとはいえ、油断は禁物だ」
 かつての経験から有効だと判断した本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が魔法でキメラの行動を封じ、一度剣を交えた時よりもさらに身のこなし、構えた剣の軌道の正確さや重さに磨きをかけたクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)が、反撃で飛ばされた炎を避けて一撃を叩き込み、キメラを正面広場、男の足元まで吹き飛ばす。そのまま立ち上がることなく意識を失ったキメラに一瞥くれて、男が舌打ちして口を開く。
「……お前たちのおかげで、予定が完全に狂った。……こうなれば、校長もろとも吹き飛ばしてやる!」
 男が懐から、長方形の装置を取り出す。スイッチを入れた瞬間、電子音がタイマーの起動を告げる。
「ば、爆弾!?」
「みんな、離れるんだ!!」
 それを爆弾と思い込んだメイベルと涼介の一行が通路に避難するのを見遣って、男が口端をニヤリと歪ませる。
(企みが阻止された時点で無用と思っていたが、まさかこのような場所で役に立つとはな。ここにいないということは、おそらく私室だろう。そして私室とは、常に最上階にあるというもの。……バカと煙は高いところが好きってな、ハハハ!)
 装置を放り、男が正面広場を抜けて上を目指す。装置が音を立てて地面に落ち、一際長い電子音が響き渡り……そして、何も起こらなかった。
「……爆発しない?」
 フィリッパに守られながら恐る恐る頭を上げたメイベルが、爆弾と思っていたものが爆発しなかったことに疑問の声をあげる。
「これはおそらく、何かを起動させるタイマーつきの装置のようだ。早合点とはいえ、まんまと騙されたな」
「おにいちゃん、こうしてる場合じゃないよ! 早くエリザベート様のところへ行かないと!」
 装置を掴み上げて機構を確認する涼介を、クレアが急かす。
「そうだな。急いで校長の部屋に行って、護衛をしなければ。あなた方は?」
「私も行きますぅ!」
「僕も付いていくよ。ヘリシャさん、守りは僕たちに任せてね」
「はい〜、よろしくですわ〜」
「皆さまの従者として、共に行かせていただきますわ」
 涼介の問いに、メイベルとセシリア、フィリッパが頷き、一行はエリザベートの私室を目指す――。

(さて、上まで来たが……ちっ、結界が張られているか)
 エリザベートの私室を目指す男が、何枚も張られた結界の存在に気付く。
(フン、この程度、俺にかかれば何のこともない。わざわざこの先に校長がいることを示してくれるとは、ご丁寧なヤツらだ)
 男が得意げに、結界を解除していく。力任せに破壊されることが多い結界ではあるが、本来の解除方法は例えばドアロックを解除する時のように、個々の結界に定められた暗号を、特定の位置で打ち込む方法が一般的である。もちろん暗号も暗号を打ち込む場所も隠蔽するのが普通だが、今張られている結界には暗号を打ち込む場所、さらには暗号そのものまでもが既に示されていた。
 見えないスイッチを押すように、男が手元を動かしていく。ツー、と押すのとタン、と押す二つの押し方の組み合わせで文字を表現し、適切な暗号を打ち込むのだ。
 一枚目の結界には、ツー、タン、タン、タン。
 二枚目の結界には、タン、ツー。
 三枚目の結界には、ツー、タン、ツー。
 四枚目の結界には、タン、ツー。
 順に打ち込み、結界を解除していく。最後の結界が解除され、そして悠々と進み出た男を、電撃の放射が出迎える。
「親衛隊が居るのは女王候補だけじゃない! 『エリザベートちゃん親衛隊』峰谷・恵、参上!」
「私が知る限りは、校長先生の親衛隊はケイ一人ですけれど」
「余計なことは言わなくていいよっ!」
 事前に男の気配を察知した峰谷 恵(みねたに・けい)と、連絡を聞きつけて恵と合流したエーファ・フトゥヌシエル(えーふぁ・ふとぅぬしえる)が男の前に立ち塞がる。
「ちっ、親衛隊だと、下らん! そこを退かぬと言うなら、力づくでも退かしてくれる!」
 男が銃を抜き放ち、闇に包まれた弾が二つ、恵を襲う。キメラを一撃で死に至らしめた弾は、しかし恵には十分な効果を発揮しない。恵の持っていた闇に輝く石が、闇の弾の効力を鈍らせた結果であった。
「ボクにはそんなの効かないよ!」
 反撃とばかりに恵が生み出した濃酸の霧に視界を奪われ、男が身悶える。
「小癪な……ならば見せてくれる、俺の本気を!」
 一旦銃を仕舞い、再び取り出した時には、砲身が黒色から赤色に変化していた。
「霧ごと消し飛ばしてやる!」
 一発、二発と発射された弾は、炎を吹き上げながら進み、霧を炎に包んで蒸発させる。これで奴も黒焦げだ、そう思った矢先の出来事であった。
「それで決着を付けたとでもお思いでしたか!?」
 舞い上がる炎の中に紛れて、男に近づいたエーファが突撃を見舞う。服の端や髪の先端を焦がしつつも概ね無傷のエーファが剣を振るい、咄嗟に両手に握った銃でガードした男を銃ごと弾き飛ばす。武器を失った男が立ち上がり、何かないかと辺りを見回した先に、男はそれを見つける。

【エリザベートちゃんの寝室】

(フハハハハ、バカめ! わざわざ案内してくれるとは!)
 疑うこともなくそのなんとも可愛らしい看板の提げられた扉を開けて、男が中に転がり込む。校長がいるにしては簡素な作りの部屋の、一つだけ据えられた窓際に置かれたベッドの上で眠っているエリザベートへ、男が駆け寄る。エリザベートを抱え、窓から外へ脱出を図る、そんな算段であった。
 そして、ベッドの傍まで男が近づいたところで、真横から強風が男を押し止める。
「その人には手を出さないで!」
 声をあげる『ウインドリィの風の精霊』タニアが、足元にしがみつく『サイフィードの光輝の精霊』ハルカを庇いながら、男へ向けて風をぶつける。
「ええい、邪魔をするな! 邪魔をすると貴様もたたでは済まさんぞ――」

「それはこっちの台詞だね」

 風が止み、注意が完全に精霊へ向いていた男は、ベッドから跳ね上がり飛び込んできた赤羽 美央(あかばね・みお)の一撃を肩口に受け、そのまま仰向けに床に倒される。
「今だ、頼むぞエレキテルっ!」
 最後の抵抗にと蹴り飛ばそうとした男の脚に、隠れ身を解除した四条 輪廻(しじょう・りんね)の銃から発射されたワイヤーが絡まる。美央の剣と、歩み寄った輪廻の脚、そしてワイヤーに四肢を封じられ、万事休す、である。
「私が校長だと思いましたか? おっと、無理に動かない方がいいですよ。この剣は切れ味抜群です、勢い余って真っ二つに切り裂いてしまうかもしれません」
「ちっ、騙したな! どうりで話に聞いたより貧相……があっ!」
「痛いですか? やめて欲しいですか? なら質問に答えて下さい。剣をグリグリしますよ」
「い、言いながら動かすな、引き抜くな、また刺すな!」
 貧相、と言われたのがよっぽど気に障ったのか、男が喚くのも聞かず馬乗りの格好になった美央が何度も何度も傷口に剣を突き刺す。
「その辺にしておけ。……こういうことは誰かがやらなければならない。女にやらせるくらいなら俺が請け負おう」
 美央を押しとどめ、輪廻が男のこめかみに銃を突きつけ、眼鏡を光らせ口を開く。
「……この事件について、お前の属する組織について知っていることを全て吐け。言っておくが、隠し事はお前のためにならん」
「誰がそんなことを……があっ!」
 言い淀んだ男に溜息をついて、輪廻が伸ばされた男の手を取り、その小指を折る。
「安心しろ、後九本ある……失うも残るもお前次第だ」
「…………」
 それでもなお口を割ろうとしない男に、再び溜息をついて輪廻が二本目の指に手をかける――。

「どうやら、全て計画通りにいったようじゃな。後で報告を聞く手間も惜しい、ここで話を聞こう。ほれ、おぬしたちも入るがよい」

 声が聞こえ、次いで姿を現したアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)に続いて、優希、アレクセイ、ミラベル、メイベル、セシリア、フィリッパ、涼介にクレア、恵にエーファが入ってくる。
「計画通り……? どういうことだ、貴様!」
「いちいち吠えるでない、エリザベートが起きてしまうではないか。まあ聞け、つまりこういうことじゃ――」
 アーデルハイトがわざわざ説明するところによれば、まずジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)からエリザベートが狙われているという報告を受けた美央がアーデルハイトに連絡を取った。キメラという単語から、カプセルを持っていたのが目の前にいる男だと推測を付けたアーデルハイトが、魔力逆探知で男の位置を割り出し、美央と同じようにエリザベートを守ろうとした生徒たちに詳細を伝え、計画に協力してくれるように頼んだ、といった次第であった。
「ま、私がこうして出てくる必要は全くなかったのじゃがな。おぬしたちも張り切るのう。……それとも、エリザベートが意外に慕われていることの証なのかの? ……まぁよい。というわけじゃ、理解したか?」
 アーデルハイトの説明に、男はついに観念したように口を開く。
「……結局貴様らの手の内か。こうまでいいとこなしじゃ、到底幹部になぞなれんな」
「さあ、色々と教えてもらいますよ。……黄昏の瞳の方たちは、一体何なのですか?」
「……詳しいことは知らん。彼らは『五千年前の先住民の血を受け継ぐ者』と言っているが、そう聞いたに過ぎん。地球人でないのは確からしいがな」
「何故、魔王を崇拝し始めたのですか?」
「俺が入った時には既にそうだった。俺のような下っ端には何も知らされない。だから俺は手柄を立てて、幹部に引き立ててもらえば何かが分かると思った」
「シャンバラ古王国のことは何か知っているか?」
「んなもん知るか。俺は地球人だ」
「貴方達の本当の目的はなんですか?」
「魔王を復活させることだ。幹部は「あれが運用できれば、我々の存在を知らしめることが出来る」と呟いていた」
 その他にも質問が投げかけられたが、男は『黄昏の瞳』の中では下位の者らしく、それ以上に有用な情報を持ってはいなかった。
「……ま、こんなもんじゃろ。おぬしたち、後は私に任せてよいぞ。なあに、私が言い出したことだ、責任は私が持とう。おぬしたちは精霊を守り、精霊祭を成功に導くがよい」
「アーデルハイト様、約束は忘れてないよねっ!?」
 恵が進み出て、アーデルハイトに問いかける。
「ああ、忘れておらんよ。事が済めば好きにするがよい。……後でどうなっても知らんとは言っておくがな」
「分かった!」
 言って恵が勢いよく部屋を飛び出し、呆れつつエーファが後に続く。他の者も続いて部屋を後にし、そこにはアーデルハイトと男だけが残された。
「……さて、と。『こういうこと』はやはり、私が手を下さねばな。つうわけで、もう少しだけ付き合ってもらうぞ」
「な、何をする、離せ……俺をどこに連れて行く」
「なあに、苦しい思いはせんよ。……違うな、苦しみを感じないだけじゃな」
「は、離せー!」

 男がアーデルハイトに引き摺られていく――。