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ンカポカ計画 第3話

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ンカポカ計画 第3話

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第4章 

『前略

  母さん。お元気でしょうか。
  僕は今、ロドペンサ島にいます。
  世界の平和を守るためです。
  今度の敵は、ンカポカという地球人の滅亡をもくろむ大悪党です。
  正直言って、怖いです。
  でも、僕が名前の由来をきいたとき、母さんは言ってくれましたね。
  僕が進むべき道に迷ったとき、きっとこの名前が背中を押してくれると言ってくれましたね。
  今、その意味がわかった気がします。
  実は、子供のころは、この名前が嫌なときもありました。
  重荷だと思って、母さんを恨んだこともありました。
  でも、これが僕の宿命なのですね。
  母さんがくれた名前が、僕を一人前の人間に、世界のヒーローにしてくれるんだと実感しています。
  僕は行きます。
  ンカポカを倒しに行きます。
  奴は強敵です。二度と帰れないかもしれません。
  最後に、これだけ言わせてもらいます。
  僕、母さんの子供でよかった。ありがとう。
                             草々

                      2019年冬、神代 正義(かみしろ・まさよし)

 という手紙を砂浜で書いていたパラミタ刑事シャンバランこと正義だが、郵便切手を貼ったところで気がついた。
「郵便局がねえ!」
「おーい。シャンバラン!」
 凹んでるシャンバランのもとに、牙竜がやってきた。
「おお……って、誰てめぇ!」
 ボッコーーーッ!
 妙に馴れ馴れしい見知らぬ青年をぶん殴った。
「うががああ。俺だ、俺。武神牙竜だ! なんの冗談だあああ!!」
「俺が故郷を想って涙してるときに、知らない奴が話しかけてくるんじゃねえ!!」
 ボッコーーーッ!!
 牙竜は遙か彼方までふっとんでいった。
 ケンリュウガーの仮面を被ってないと、仲間ですら誰だかわからないのだった。
 正義が所属する“りゃくりゃく団”は、次なる任務に燃えていた。
 洞窟イキ・ド・マリーの攻略である。
 いんすます ぽに夫(いんすます・ぽにお)が正義のもとにやって来た。
「シャンバランさん。セシリアさんとケンリュウガーさんですが、やっぱりいませんよ。どうしましょう」
「困ったな。お。ルカルカ! こっちだ、こっち!」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)がプルプルガーを連れてやってきた。
「みんなー! セシリアはいきなり走ってどっか行っちゃったらしいよ」
「しょうがねえな。とりあえず今いる3人でやるしかねえか」
「ボクハ、ドウクツニハ、イカナイヨ。イヤダカラ」
 プルプルガーとともに洞窟に向かうつもりだったりゃくりゃく団は戸惑った。
「まあ、しょうがねえだろ。俺たちだけでなんとかしようぜ」
 戻ってきた牙竜がルカルカの肩をポンと叩いた、そのとき――
 ルカルカがその手を掴んで、クルッと投げると地面に叩きつけた。
「へい。見知らぬ青年。ルカルカの背後に立たないで」
「お、おい。冗談にしては面白くねえぞ。俺は! あいたたたたたたー」
 りゃくりゃく団は、見知らぬ青年の話なぞには聞く耳持たなかった。
 ぽに夫は提案した。
「プルプルガーがもっと協力的になるように教育しましょう」
 ルカルカはまず、戦士としての技術を叩き込む。
「私たちの子、プルプルガー。立派な正義感あふれる巨大ロボットに成長してね☆」
 むぎゅーーーっと抱きしめ、そのまま関節技を叩き込む。
「イタイー。イタイイタイー。イヤダー。ボクハ、タタカッタリシタクナイヨ……!」
 煙を出して拒否されてしまった。
 牙竜は技術の前にカタチから入るべきだと主張し、ヒーローポーズを教え込む。
「ここで、こうして、ファイファー! ほら、やってみな」
「ソンナポーズ、イヤダヨ。ソンナコトバ、イヤダヨ。ダッテ……ダサイカラ」
「ダ、ダサイ……? そんな!!」
 自信を喪失した牙竜は、自分がケンリュウガーだと言い出せなくなってしまった。
 この青年の“使い道”を思いついたぽに夫は、彼に尋ねた。
「ところで、青年。名前はなんでしたっけ? た……た……?」
「た……田中です。田中太郎です」
「では、田中さん。一緒に行ってくれますね?」
「は、はい。ボクでよければ……ははは」
 牙竜の自我は崩壊寸前だった。
 りゃくりゃく団はプルプルガーをあきらめ、イキ・ド・マリーに向かった。
 解放されたプルプルガーは、ホッと一息ついた……
 が、どうも落ち着かない。
「ダレカノシセンヲ、カンジルゾ。ダレカナ?」
 じーーーーー。
 砂浜でうずくまったままのソアが、じーっと見つめていた。
「プルプルガーさん! その水着……私にもちょうどよさそうですねっ」
 ソアは、英希のセクハラ磨きによって服が破れていた。
 フツウなら誰かがタオルの1枚でもかけてくれそうなものだが、この混乱状態ではそれも期待できない。そこで、狙いを定めたのだ。
「その水着……くださいっ!」
「ダダダダダダダダダダダダッダダメデス!!!」
「ううー。じゃあ……なんかスクール水着探知センサーとかついてないんですかー?」
「スクミズセンサー……ソンナキノウハ、ツイテマセン。コノイショウハ、ゼッタイニ、ヌギマセンカラ」
 プルプルガーは、大きめの貝殻を拾ってソアに渡した。
「コレデ、ドウニカシテクダサイ」
「ありがとう。プルプルガーさん」
 ソアは仕方なく、貝殻と破れた服で水着を作りはじめた。
 プルプルガーはやさしく、それを手伝ってくれた。
 ソアはこの機会に気になっていたことを訊いてみた。
「プルプルガーさんは、皆川陽さんが見たスク水の精……えっと、プルプルですよね。そのプルプルさんとはどういう関係なんですか?」
「プルプル……ウウウ……」
 プルプルガーは涙もろい。また泣き始めてしまった。
「プルプルガーさんっ?」
「ボクハプルプルデ、プルプルハボクダッタ……ヒックヒック……」
 話はこうだ。
 もともとはスク水の神“プルッダ”がいたらしい。
 プルッダは地球人、特に日本男子のスク水妄想があまりにも肥大化したため、妄想を引き受けるための人格ならぬ精格プルプルを作り上げた。そして、ロボットであるプルプルガーを製作し、インプットするはずだった。が、プルプルガーを製作している間にも日本男子の妄想は異常なまでに肥大化し、プルプルはもうプルプルガーに入らなくなってしまったのだ。
 プルプルは今でも全国の日本男子の妄想を受けてどんどん膨張してコントロールを失いつつあるらしい。プルプルガーもこうなってはまったく無用の長物であり、存在意義を見失ってどんどん能力が下がってるらしい。人間でいうところの痴呆である。
 という、どうしょうもないプルプル神話を聞かされたソアは……
「プルプルもプルプルガーも……かわいそうっ!!」
 泣いていた。
 そして、プルプルがこれ以上スク水の妄想被害を受けないように自分が少しでも引き受けなくちゃ! と責任のようなものを感じてもいた。
 と、そのときプルプルガーのコンピュータが激しく作動した。
「ピッピピピピピ! ……タイヘンデス。アナタノカイガラミズギハ……スグ、ポロリ。スグ、ポロリ」
「ええーっ! どうすればいいんですかー」
 がっくりと肩を落とすソアだった。
 プルプル神話を聞いていたのは、ソアだけではなかった。
 皆川 陽(みなかわ・よう)が、プルプルガーのヒレを掴んでぐわんぐわんと揺さぶった。
「プルプルってどこだよ! どこにいるんだよ! うそつくなよ! そんなの最初からいないんだろ。都合のいい話でっちあげてんじゃねえよ!!」
 陽は奇行発症中にプルプルと喋っているが、奇行が醒めたらその記憶がまるまる抜けてしまうのだった。
 極限状態のこの島で、彼はスク水的妄想をすることで生きるための活力を見出そうとしたのだが、いかんせんまだ14歳。妄想道の道半ばで足踏みしている彼は、実際のスク水が必要だった。
「ボクのスク水、返してよ。返してよ……。スク水がないと、生きていけないんだよ……」
「イキルチカラ、アル。デモ、イキルイシ、ナイ。ピッピピピピピ……イキラレナイ。サミシイナ」
「嘘だ! 寂しいなんて嘘だっ!! ロボットだから言ってるだけなんだろ! そう言うようにプログラムされてるんだろう! サミシイのはこっちだよっ!」
「サミシイ。コドク……コドク……ピッピピピピピ……ゼツボウ。イキラレナイ。ゼツボウ。イキラレナイ。サミシイナ」
「ほんとは、ほんとは……サミシイなんて思ってないくせに!!!」
 陽は涙をボロボロこぼしながら、駆けていった。
「ゼツボウ。イキラレナイ。ゼツボウ。イキラレナイ。ゼツボウ。イキラレナイ。ゼツボウ。イキラレナイ……」
 彼の頭の中を、プルプルガーの言葉がリフレインしていた。
 陽の背中を見つめて涙を流すプルプルガーに、今度はもっともな質問を投げかける者がいた。
 島村 幸(しまむら・さち)だ。
「ちょーっといいですか? あなた、何故この島の情報を持ってるんですか?」
「エッエッエッエッ。ピッピピピピピ……ワカラナイ。ボク、ワカラナイ……ヨ!」
「おかしいですね。何故わからないのですか。もしかして、あなた……ンカポカの仲間なんじゃないでしょうね!」
「チチチチチチチチチチチチチチチチチチチチガウ……ヨ! チガウ……ヨ!」
「だったらどうしてこの島のことを知ってるんですか!」
「キオクニゴザイマセン。キオクニゴザイマセン……」
「幸姐さん。怪しいですねー」
 島村研究所の助手、遠野 歌菜(とおの・かな)が疑いの目でプルプルガーを見つめる。
「歌菜もそう思いますか」
「うん。思い出せないなら……思い出してもらいますか?」
「そうですね。頼みます」
 歌菜は幸姐さんの指示を受けると、ゆっくりプルプルガーの前にやってくる。
「プルプルガーさん……あなたに恨みはないんですが、これも全てはみんなが生き残るため。覚悟してください」
「ナニヲスルノデスカ……」
 ――プルプルガー改造計画。
 これは、なんかしんないけどとにかく改造してみたーい。というサイエンティストとしての欲望に忠実な計画で、全ては彼女たちの想定通りだった。
「アナタ、メガコワイ。アナタ、ウシロガコワイ!」
 プルプルガーには歌菜の守護霊ズメイが見えたのだろうか、後退りしていく。
「大丈夫。怖くない怖くない。幸姐さんの手で新しく生まれ変わるだけです……ヨ?」
「イヤデスーーーー!!」
 逃げ出すプルプルガーに、歌菜は容赦なくヒロイックアサルト!
「エルヴィッシュスティンガー!」
「イヤデスーーーー!!」
 しかし、ロボット相手には効かなかった。
「む。まずい! どうしよう……」
 と、トツゼン――
「こんなもん食えるか!」
 奇行症を発症して、プルプルガーをちゃぶ台返し!
 ガッチャアアアン。
 足が外れて逃げられなくなった。
「ヒイイイイイ。コワイイイイイ……」
「お、重い。重いぃぃぃぃ」
 幸がプルプルガーをどかしてみると、そこにはミニトコくんから復活したミニガチくんが倒れていた。
「カガチ! こんなところにいたんですか。探してたんですよ?」
 プルプルガー改造計画に夢中で探してるようには見えなかったが、それはミニガチくんも知らない方が幸せだろう。
「カガチ。手伝ってくれますね。歌菜、お見事です。はじめますよ」
 歌菜は嫌がるプルプルガーを押さえつけ、公開処刑、否、公開改造手術がはじまった。
「アア! オモイダシタ! ドウクツニ、ヒミツガアリマス。イキ・ド・マリーニ、ヒミツガアリマス……!」
 プルプルガーは最後の抵抗を見せたが、走り出した暴走島村研究所は止まれない。
「なんかうるさいですね。ここのボタンとこことここを同時に押してみると……」
「ヒミツガ……ヒミツガ……ピーーーーーー」
 コンピュータが強制終了された。


 洞窟イキ・ド・マリーの入り口には、ソークー1の姿があった。
「さらば、わんこしいなさん! ありがとう!」
「わおーん!」
 わんこしいなはお腹が減ったので、ナオランナを目指して行ってしまった。
 1人になったソークー1は、まず入り口周辺をくまなく調べた。
「中に巨大ロボが隠してあるわりには、やけに無防備……。それが怪しい。はっ! これは!!」
 すぐ目の前には小型飛空艇が置いてあった。
「いつの間にこんなところに……」
「さっきからずっとあったぜ」
 ソークー1のボケにツッコミを入れる声が聞こえる。
「きっとンカポカのものだな」
「違うな。見ればわかる。この改造技術、これは学生のもんだ」
「はっ! いつの間にか人がっ!!」
「俺か? 俺ならさっきからずっといたぜ」
「きっとンカポカの一味だな」
「えっと、いい加減メンドクセエんだが……もういいか?」
「?」
 ソークー1はいつだってマジなので、ボケてるつもりはなかった。
 島を脱出するために山の向こうに抜けてみようというデゼルは、危険な洞窟に1人で入るのが躊躇われ、誰か来るのを待っていたのだ。だが、巨大ロボが隠されていると信じるソークー1を前に、悩んでいた。
(いちいち突っ込むのがメンドクセエな……)
 そこに、ジャングルから声が届いた。
「おーい! そこが洞窟なのー?」
 クラーク 波音(くらーく・はのん)だ。
「んっふっふ〜。よかったー。人がいて。安心安心。さあ、行こう!」
「おい、あんた。もうちょっと警戒とかしなくていいのかよ」
「でも、お腹減っちゃったから。ほら、洞窟の中に何か食べられるものがあるかもだから! さあ、しゅっぱーつ♪」
「まあ、こういう明るさも大事かもしれねえな」
 と、トツゼン――
 波音は壁に頭を打ち付けて、奇声をあげた。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
 ゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴン。
 デゼルは苦笑するしかなかった。
「メンドクセエ奴らとパーティーになっちまったぜ……」


 一方、小型飛空艇の持ち主コトノハは、イキ・ド・マリーの中で究極の選択を強いられていた。
 二股の分かれ道だ。
「右は行き止まりっぽいわ。左は大丈夫そう。でも……決められないわね」
 シャンバラ女王の加護がこもっていると言われる“女王の短剣”を立てると、目をつむった。
 倒れた方に行くつもりだ。
「シャンバラ女王の導きのままに……」
 パッと手を離すと、短剣は左に倒れた。
 が、コウモリが飛んできて……ぶつかった。
 短剣は右に倒れた。
「こっちね。いいわ。信じる!」
 コウモリは天井にぶらさがると、人間には聞こえないが、まるで笑っているかのような超音波を出していた。
 コトノハが二股を右へ進んでしばらくすると、トツゼン――
「えへっ。えへっ。えへへへ」
 ヤンデレツインスラッシュを炸裂!
 ドンガラガッシャアアアン!
 今来た道を塞いでしまった。
「はっ。あれ? どういうこと? もしかして? うわあああああああああ。帰れない〜」
 コトノハは、前に進むしかなくなった。
 が……
「イキ・ド・マリー。名前に偽り無しね」
 すぐ行き止まりだった。
「と、とりあえず食糧ならあるわ」
 小人の小鞄をあけた。
 中には小人の他に、船で集めた芋けんぴが入っている――
 が!
「あれ? ない! なんで?」
「ごちそうさま。ごちそうさま。ごちそうさま。ごちそうさま……」
「まさか、小人さん。食べたんですか?」
「ごちそうさま。ごちそうさま。ごちそうさま。ごちそうさま……」
 もう一つ持っていた大きな鞄をあけてみるが、そちらには大量のトイレットペーパーがあるだけだ。
「な、なにがロドペンサ島の紙様よ。私のバカ〜〜〜!!!」
 為す術なく、項垂れた。


 その頃、イキ・ド・マリーを目指しているりゃくりゃく団はジャングルを進んでいた。
 危険な先頭は、田中が押しつけられていた。
「田中さん、しっかり頼みますよ」
 ぽに夫は大きな草をかきわけながら、先頭に声をかけた。
「た、田中じゃないんだがなあ……」
 田中の後ろ姿を見て、首を傾げる者がいた。
「あの人誰なのかな。見たことない顔だぞ……?」
 カレン・クレスティアが、りゃくりゃく団にこっそりついてきていた。
「でも、どうでもいいや。どこかでバナナを掴みかけたような気がしたけど、んぱー。気のせいかな。ああ、おなかすいたー」
 好奇心旺盛なカレンだが、今は食べ物のことで頭がいっぱいのようだ。
 田中はやっぱり田中のままだった……。