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葦原の神子 第3回/全3回

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葦原の神子 第3回/全3回

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14・山陵で行われた、もう一つの儀式

 山陵で、八鬼衆が近寄らなかった大木がある。
 傷ついたものが数多く看病された。傷を負った兵たちの直りは早く、勿論、その理由には献身的な介護とスキルの作用もあるが、この大木の存在があったのではないか。
 房姫を手助けするために神卸しの儀式をどこで行うか、迷っていたウィングはこの大木に宿っている「何か」が、先ほど話したナラカ道人と通じると感じる。
「なぜ、城に向かうのか」との問いかけに、「心がそう呼びかける」と女は答えた。
「心」は、まだ山陵に留まっているのではないか。
 ウィングは、大木を取り囲むように、儀式場を作る。
 儀式場は、火、氷、雷、光、闇・・・それぞれの力を禁じられた言葉でまとめ、場の力を平衡にすることで完了する。
 死霊術師として、始祖の血に連なる者たちと私の呼びかけにより、御影の祭神の一柱<天月結姫大神>の神力をアーガステインに降ろし、その神力と私の封印解放でアーガステインを一時的に覚醒させる舞だ。

 御影 月奈(みかげ・るな)は、御影 春菜(みかげ・はるな)御影 春華(みかげ・はるか)と共に、
 ?を招聘し、<楔を穿つ書>を覚醒させる戦巫女の舞を行う準備をしている。
「実家にいるときは、結姫様は普段から顕現して私たちと暮らしていたから使うことはなかったけど、修行の時に何度も練習したので、次期党首として完璧に舞って見せます!!」
 月奈は少し意気込んでいる。
 三人が呼び出す神様は天月結姫大神だ。
「神降ろしの舞いを踊るのは久しぶりだから、途中でとちらないように注意しなくちゃね」
 御影は、四姉妹だが長女を除く3人がパラミタの大地に来ている。
 既に多くのナラカ道人は、城へと向かい、大木周辺に人気はない。

「もし、神卸しが成功したら、ナラカ道人の本体にナラカ道人本体にアーガスティンを突き立て、その血に連なる者度もが抱える悪の連鎖を断ち切る」
 ウィングの作戦が成功すれば、ナラカ道人は死すことが出来るようになり、数千体のナラカ道人は、そのまま人として寿命を全うすることが出来るかもしれない。

「森羅の峰深き処に根を繁がる精霊の唄よ。猛き炎は天を焦がし、瀬を止めし氷は死へと誘う。幽世を駆けし雷は霊文の下、光と闇の狭間にその身を顕さん」
 ウィングは全身全霊の力をこめて、神卸しの言葉を吐く。月菜、春菜、春香の酸姉妹は、共に戦巫女の舞を踊る。

 神封剣 『アーガステイン』。
 形状は魔宝剣である。
 封印が解放されるまで、場の均衡を崩さないように禁じられた言葉を唄い、ウィングの詠唱のアシストをしている。
 大木を囲む陽光が、一転、闇に包まれる。
 暗闇の中、稲妻が走り、光が、神封剣 『アーガステイン』へ宿る。
 大木が揺れる。
 一瞬の闇が終わると、再び、陽光が戻る。
「楔を穿つ書が覚醒した!」
 ウィングが叫ぶ。
 しかし。
 剣は再び色を失う。
「なぜだ!」
 全く同時刻、葦原城では、房姫の秘儀が行われていた。
 ウィングの儀式は、房姫の秘儀に吸収された。
 楔を穿つ書の持つ力、それは、房姫の命を救っている。
 本来は、死すべき房姫は、この降臨した力によって、のものへと吸い込まれた。
 今、ウィングと御影姉妹はこのことを知らない。
「降臨は成功したのに」
 大木の根元に小さな穴が開いている。
 この穴も、後々のナラカ道人封印に大きな役割を持ってくる。
 そのことも、ウィングたちはまだ知らない。
「ボク、力になれなくて」
 神封剣 『アーガステイン』の声は、かすかに震えている。
「大丈夫だよ、きっと。仲間がいるんだ。ナラカ道人を防ぐ手立てはまだ他にもあるはずだ」
 ウィングは、先ほど見た楔を穿つ書の輝きを思い出し、宿った力が、仲間の力となり、この現状を打開してくれるよう、祈った。

 愛くるしいネズミのきぐるみ姿。幻 奘(げん・じょう)は、風間 光太郎(かざま・こうたろう)と共に祠内を歩いている。
「まだ眠っている美女がいるかもしれないアル」
 奘は、先ほどからナラカ道人に声を掛けていた。いわゆるナンパである。
 ナラカ道人が自ら戦わないことに気付いた奘は、ひたすらに声を掛けてきた。ナンパである。
「戦いは結局の所、お互いに痛くて辛い思いをするだけなので、止めて朕と愛し合って一緒に『愛の国』を創らない?」
 光太郎は、ばかばかしいと思いながらも、お師匠様と呼ぶ奘の回りを、光学迷彩とブラックコートで姿と気配を消して同行している。
「あれ?」
 ばかばかしいと思っていたナンパ作戦だが、光太郎はあることに気がついた。同一と思われるナラカ道人の返答がそれぞれ異なるのだ。
 返事もせず、話しかけられても虚ろなのが大多数だが、中には、笑ったりおどけたりするものもいる。不快そうに眉をひそめるものもいる。
「愛人にならないアル?」
 こんなバカな問いに笑って答えたナラカ道人に、
「物好きもおるだろう、祠で待っていれば、戦が終わった妾たちが戻ってくるぞ。気のあう妾を見つけるがよい」
と軽くいなされ、二人は祠内をうろついている。



15・八鬼衆が再び、しかしその力は戻っていない

 学生たちとの戦いによって八鬼衆は全て倒れ、その血によってナラカ道人は復活した。今また、八鬼衆はナラカ道人の胎内に戻り、再び生を受けた。
 死ぬことによって永劫に続くと思われた苦難から開放された八鬼衆は、再び産まれることによって再び苦難を背負う。
「母が死なぬ限り、わしらも死ねぬのか」
 数千年の蓄積した記憶そのままに再度、生を受けた砂の葉は苦笑しながら、しわ一つない手を見やる。
 生れ落ちた砂の葉は、赤子から急速に10代の少女となった。
「それにしても皆であう機会があるとは」
 蟲籠は城から戻っている。
 火焔は、まだ全身を火で包まれていない。火は指先に灯るのみだ。
「思い出した。我が身が火で覆われたのは、母と共に火に焼かれたためであった」
 大太は、まだ樫の木ほどの大きさだ。
「我が母は、地中深くに埋められた。掘り起こすために我が手は大きくなり我が身体も山となった」
 無灯はじっと目を閉じる。
「我は戦わぬ。ここで獣母と共に戦況を見守る」
「再度、耐えがたき苦難が起こってもか」
 小人ほどの大きさの綿毛が言う。
 彼らは胎内での暫しの眠りを得て、安息を知り、人の心を取り戻している。
「明日、朝日が昇ることには全てが終わっているだろうよ、戦うものは戦い、待つものは待てばよい」
 砂の葉もここに残るようだ。
「しかし我らは、母の無念を晴らし再度の安息を得る」
 数人の八鬼衆は、そういい残すと外へと散らばった。

「歩くのはこれほど楽しいとは」
 城へと向かう火焔。指先の焔を弄びながら城下に達する。
 見知った顔を見つける。相手も同じようだ。
 目の前にいるのは、桐生 ひな(きりゅう・ひな)桐生 円(きりゅう・まどか)だ。
「前にもあったね?」
「同じことを考えていた、二人の、その赤い瞳に覚えがある」
「焔が少ないですね」
「まだ、業火に焼かれるほどのことをしていないからさ」

 火焔は、指先の焔を大きく拡大させると、円に向かい投げる。円は、予測していたのか大きく跳び、焔を避けると、アルティマ・トゥエーレで銃に冷気を帯びさせ一気に連射する。
 火焔、その攻撃を避ける。
 円の背後には燃えさかる焔、火焔の足元には凍った大地がある。
「そんなに苦しんでるのに、何故戻ってきてしまったのですか……」
 地面に向けて、アルティマトゥーレを遠当てを掛けて、火焔に砂をかける。
「あなたたちのお陰て、母の胎内も戻り、休息することが出来た。既に苦しみはない。あとは、母を救うのみだ」
 火焔は、焔をひなに投げる。
「お前たちと戦うつもりはない」
 火焔が笑う。
「では、誰と戦うのですか」
「ハイナという女だ。この地を、我らと共に、草木一本、鼠一匹残さず焼き尽くすと聞いた。我は、数千年を焔に包まれ苦しんだが、無駄に草木を焼かなかった。我らの命は有限となった、冥土の土産に、その悪魔も連れ行く」
「ハイナは悪魔じゃありませんっ」
「では、神か」
 火焔の焔が大きくなる。右手が焔に包まれている。
「時間がない、刃向かうなら倒す」
 氷術とアシッドミストを打つ、オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん) 。火を消す作戦だ。
「みなさーん、あの炎に近付いたら容赦なく凍らせますよー、手間かけさせないでくださいねぇー」
 オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)は、助太刀をしようと集まる兵を遠ざける。
「なんだ、また燃えてるのか」
 ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)は、騒いでいる。
「なんだかこの前と勝手がちがうのじゃのう」
 ヒールにアリスキッス、ナーシングまで揃ってもっているナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)は、誰か怪我をしたら、直してあげよう、ついでに、弄り回す気でいる。
「退屈ならお相手しようか」
 やってきたのは、小さな男だ。甲高い声で叫ぶ。
「胃が大きくなったからね、前のように食べても食べても腹が空くということはないんだ。有難い。あなたのその大きな胸を二つ食べれば、暫くはお腹が空かない」
 綿毛だ。
 その尖った牙をむく。
「残念だが、一度人を食べてしまうと、他のものは食べたくないんだ。あなたを頂くよ」
「残念じゃが、妾はアリスじゃぞ、人のように旨くはないのじゃ」
 ナリュキは、小さな男を邪悪な瞳で見下ろす。
「そうか、アリスは旨くないか」
 ナリュキは、戦闘用ドリルを綿毛に向ける。
「それで、穴を開けて食うのもいいな」
 対峙する二人に、火焔を円に任せた。ひなが来る。
「ひな、来てはならぬのじゃ」
「なんでです?」
「こいつは、人を食らう、あの小さな化けものじゃよ」


 「大太…さん?」
 七瀬 歩(ななせ・あゆむ)は、目の前に現れた大男をみて呟く。確かに大きいが3メートル程度の高さで、横幅もあまりない。
「小さくなって…というか、痩せました?」
「邪魔しないでくれ…城を壊しにいく」
「えっ?」
「あの城こそ、災い。我が命あるうちに城を壊す」
 腕を振り回す大太。
 腕が当たった、歩が大きく弾かれる。
 牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)が、木に激突しそうになる歩を受け止める。
「可愛いお姫様、歩ちゃんになんてことを」
 歩が、アルコリアを制する。
「なんか、感じがちがいます」
「城を壊して、母を守る」
「大太さん、お母さんと会えて嬉しかったですか?もし、嬉しいって思えたなら、どこか人の目に触れないところで皆でひっそり暮らしていくことはできませんか?」
「葦原藩がある限り、無理だ。彼らはどこまでもわれらを追ってくる。山里に隠れた仲間もみな、惨殺された」
 そのことを思い出したのか、大太の目が潤む。
「ここは、それがしに任せ城に行け」
 現れたのは、無灯だ。両手に見えない剣を持っている。
「もう戦わないといっていたのに」
「考えが変わった。葦原藩は世のためにならぬ、この地はナラカ道人で収めたほうがよい、我らは苦を知っている、おろかなおなごとは違う」
「死を望むのかと思えば、権力とは!」
 アルコリアが驚きの声を挙げる。
「死は救いだ」
「死が救いであるというなら、与えて差し上げますよ。何度でも望む限り、力の限り!」
 アルコリアは剣を構える。
「剣が得意か?」
 無灯が剣を構える。
「お相手しよう」


 ナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)は、歩の側についている。
 小さな動物がナコトと歩を取り囲む。
「砂の葉だわ」
 ディテクトエビルの感知で、敵多数と感じたナコトは、魔法の詠唱を始める。

 禁じられた言葉にて呪文詠唱を開始する。
「フルパワーで行きますわ」時間は掛かりますが、撃たせたら終わりと思ってくださいましい」
 その言葉に、唯一の男性ランゴバルト・レーム(らんごばると・れーむ)が近寄る。
「ナコト殿、魔法攻撃の支援に、骨弓を用いた弾幕援護じゃ。安心せい」
「紅の瞳の王が命ず、四の従者に死の門を開けと……」
 幽鬼に陣を作らせ、魔法発動準備する。
「暗き奈落より、冷たき吐息を、凍れる災厄を招き賜え…」
 小さな生き物が、歩の腕を駆け上る。ランゴバルトがその生き物を蹴散らす。
「禁忌の光で、小さき鍵穴を照らせ……開け、冥界の門!」
 鋭い牙を持つ小動物が、一瞬で氷、粉々に姿を消す。
「全力のブリザードですわっ」
「ありがとう、ナコトちゃん。ところで、大太さんは…」

 大太はシーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)の前で立ちすくんでいた。
「封印の魔女ではないのか?その腕ももがれると分裂するのか?」
 大太は海で死ぬときに、シーマがメモリープロジェクターを起動させ、同じ顔を映し出し見せたことを覚えている。
 戦えば戦うほど増えてゆく同じ顔に、大太は、分裂して増殖する母を見た。
「ボクが、母…ってそういうことか」
「魔女じゃないけど、機晶姫だ…同じだよ、人ではない。メンテナンスを怠らなければ半永久的に生き、ほうっておかれればすぐに死ぬ」
「幸せか…」
「友がいるからね…母がいるんだね」
 頷く大太。
「ボクには母はいない」
 歩が、子守唄を歌う。目を閉じる大太。


 円は火焔と戦っている。焔と氷の打ち合いで消耗戦となっている。
 ひなは、綿毛をで忘却の槍で打ちつけた。
「人以外のものも食べるのですよ」
 アルコリアは無灯と純粋に剣の勝負を楽しんでいる。これだけ強い相手と戦えることは滅多にないからだ。
 歩は、眠ってしまった大太を見ている。

 ゆらゆらと腰の曲がった老婆がやって来た。杖を持つ手は多くの刀傷がある。
 顔は皺で覆われ、100歳は優に超えていると思われる。
 老婆は、みなの前に歩み出た。
「引き取りたい・・・ご苦労を掛けた」
 老婆の言葉をきき、八鬼衆は大人しく、剣を治める。
 そのまま無灯が大太を起こし、つれてゆく。
「このままにしておきましょう」
歩が言う。
「そうですね、なんだか、戦う気力がうせましたね。綿毛さん、美味しい野菜沢山食べてくださいね」
ひなの声だ。
 闇が八鬼衆を多い、老婆ともども姿が消えた。


16・八鬼衆と対話する

 祠には、赤城 長門(あかぎ・ながと)がいる。八鬼衆は、長門よりハイナの大量破壊兵器の話を聞いていたのだ。
「いぜんに戦った女子たちにあった」
「我らは、既に一度、死んだ身ゆえ、もう、無駄な殺生をするより、母を救い成仏したい」
 長門は、八鬼衆の言葉に偽りはないと思う。
 そのためには。
「お母上の封印を再び行う手伝いをしてくれぬか、房姫様が秘儀を行ったときく。お前たちの手伝いがあれば、ナラカ道人も再度の眠りを承知するかもしれない」
獣母が笑う。
「そちは、まっすぐで良い気性じゃ。が、母のもととなる岩長姫さまの苦痛は封印では治まらぬ。五千年の怨念、晴らすには血が必要じゃ。我らが怖くないのなら、ここに留まり全てを身よ」



16・城外に留まるもの

 比島 真紀(ひしま・まき)は、サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)と共にシェルターの治安維持に当たっている。
 秩序を守り、有事に備えるのは教導団の仕事でもある。災害訓練もある。
 真紀は、ナラカ道人が侵入しないよう気を気張りながら、城外に出て、街の様子をサイモンと共に見回っている。
 人気はないとはいえ、着の身着のまま逃げ出した住人の中には、施錠をしなかったり貴重品を残しているものもいる。
 命知らずのものが、シェルター内で人攫いを計画しているように、城外では空き巣がいる。それを取り締まっている。
 また、残してきた犬やネコの世話を頼まれることもある。
「自分は、こういう地味な仕事も、らしいと思うであります」
 真紀は、犬にえさを与えながらサイモンに話しかける。
「俺もだよ」
 サイモンは、雨戸に戸板を打ちつけている。この住まいの住人に頼まれた。
「いずれ、飼い主が戻ってくる、それまで、生きろ」
 真紀は犬の紐を外すか悩んでいる。
「いつまで、シェルター暮らしは続くんだ?」
 真紀は、悩んだ末、紐をそのままにした。
「短くて明日の朝、次に短いのは・・・数ヵ月後と思うであります」
 真紀は決断のときが近づいているのを感じている。
 そのとき、通りをナラカ道人が通る。
 殆どの女は、既に城まで達していて、街に残るのは珍しい。
「知り合いでもいるのか?」
 サイモンの言葉に、珍しく真紀が笑った。
「五千年ごしの再会でありますか」

 高月 芳樹(たかつき・よしき)は、町に残るナラカ道人を一人ずつ、討ち取るのではなく生け捕りにして牢に閉じ込めていた。
「妾を殺すがよいぞ、腕を切るなり足をもぐなり、なんなりと」
「そういわれても無理だよ」
 芳樹は手剣で女の背後に回りこみ、気絶させて、ここに運んでいる。
アメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)伯道上人著 『金烏玉兎集』(はくどうしょうにんちょ・きんうぎょくとしゅう)、それにマリル・システルース(まりる・しすてるーす)は女たちの見張りをしていた。
 最初、街をうろつくナラカ道人は道に迷っているのかと、芳樹は思っていた。
 しかし、何かを探しているようだ。
  芳樹は丹念に、町をみて、女の姿を探す。最初、牢の見張りは一人でよかった。人数が増えたのは、女たちが互いに傷つけあい、増殖を繰り返すようになったからだ。
「そこのおなご、見るが良い」
 ナラカ道人は、お互いの腕を切り落とす。血が飛び散り、牢の床がどす黒く染まる。
「このような面白い見世物はないぞ」
 血糊がそのまま人の形となり、すぐさま、牢は息も出来ないほどのナラカ道人で覆われる。
 そのたびに、アメリアは女たちを別牢に移す。
 そこでも同じことが起こる。
「わらわは、もううんざりじゃ」
 玉兎は、芳樹を探して外にでる。
 芳樹が玉兎と共に戻ってきた。
「もう時間がないようだ」
「我らには、悠久のときがある」
 ナラカ道人の一人が皮肉っぽく言う。
「いいかい、ここの扉を開けるわけにはいかない、だが僕たちはもう、街を出る。君たちと次にあうのは、明日の朝だ。もう増殖しないでくれ。朝になれば、開放できる…と思う」
「そちは、嘘がへたじゃ」
「そうか、復活したのであろう」
「そうか、神子か」
 芳樹は、アメリアたちを連れて、シェルターへと急ぐ。
「薄気味悪いとはいえ、あのままじゃ…」
 アメリアが芳樹に言う。
 芳樹は城へと急いている。
「避難指示が出たんだ。城や山陵、城下に残るものは、3時間以内に全てシェルターに戻るように…」
「じゃ、最終破壊兵器が」
「いや、ハイナ総奉行は、謀反人をお咎めなしとして、兵器使用はしないと…だが、分からない、房姫が消えたらしい…どんな事態になってもおかしくないよ」