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嘆きの邂逅~離宮編~(第4回/全6回)

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嘆きの邂逅~離宮編~(第4回/全6回)

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第2章 時計塔

 地下道調査に向かおうとしていたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)とパートナーの中原 鞆絵(なかはら・ともえ)アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)は、刀真からの増援要請に応じた神楽崎優子からの指示で、西塔から直接宮殿へ向い、攻略隊と合流を果たした。
 危険を伴う調査なため、足手まといになると思われる一般の軍人達は同行していない。
 宮殿が見える位置に集い、宝物庫の方に向っていく光条兵器使い達の姿を注意深く見た後、隊長の樹月 刀真(きづき・とうま)は、皆に指示を出していく。
「先に交戦、もしくは説明した通り、あの光条兵器使いに人間の知能はありません。ダメージを与えての無力化は難しいでしょう。肉体の一部を破壊した敵から襲われることのないよう、対峙した際には確実に殺してください」
 その言葉に、補佐班の白百合団員の一部が動揺を見せる。
「でも、光条兵器を壊してしまえば大丈夫じゃないでしょうか?」
「石化させるって手もあるかと思います」
「足を狙って動けなくした後捕縛するとか……」
 彼女達から意見が出て行くが、刀真は強い瞳で真っ向から否定する。
「石化は一時的なものでしかありません。兵器を失っても弱者の首を捻ることは出来るでしょう。捕縛に時間を割いている間に、犠牲者が出てしまいます。殺害に躊躇するようならば、邪魔にしかなりません」
 厳しい言葉に、白百合団員達が押し黙る。
「経験が浅い子もいるの。ごめんなさい」
 攻略隊、補佐班の班長のティリア・イリアーノが前に出る。
「確かに邪魔になるかもしれないから、補佐班は宮殿前で遠距離攻撃によるサポートを行います」
「俺は解放班と一緒に行こう」
 四条 輪廻(しじょう・りんね)がそう言い、刀真は頷いた。
「交渉の余地があるかを考慮する時間は過ぎ去たと思う。仲間を守るためには敵に確実に止めを刺しておかないといけない」
 クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)は自分に言い聞かせるようにそう言った。
 殺さなければ、守れない。
 それは騎士になった時から判っていた事であり、神楽崎優子に協力し闇組織に攻め入った時もそのつもりだった。
(鏖殺寺院に協力し、尚更人を殺す可能性は考慮してたのにね。初めて殺した際に、醜態を晒さなければいいけど)
 クリストファーは動揺は見せずに、軽く目を伏せる。
 ちらりと、そんなパートナーにクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)が目を向ける。
(必要ならパートナーを殺す覚悟もしていた。でも覚悟と実際の行為の間には隔たりがある)
 口は開かずに、鼻で大きく息を吸い込んでそっと深呼吸をする。
(殺した際に皆の動揺を誘うのは避けたいから、せめてその場では感情を押し殺せればいいのだけど)
 あの光条兵器使いは、有機質で作られた人型の兵器だ。だけれど、自分達と同じ姿をしていること、同じ造りの剣の花嫁は人に近い存在として親しくしている者もそれぞれいることが、皆を戸惑わせていく。
 人じゃない。そう思うとしても、人にしか見えない。
「残念ながら、彼らに対して躊躇していたら自分たちが倒れるでしょうから。必ず止めを刺しましょう」
 教導団員の比島 真紀(ひしま・まき)がそう言う。
「最初の目的は時計塔の頂上です。こちらを調査、確保の後、範囲を広げていきます。準備はいいですか?」
 刀真は青い顔をしている影野 陽太(かげの・ようた)に目を向けた。
「乗りかかった船ですし……俺に手伝えることがあれば何でも助太刀します」
 緊張した面持ちで、陽太は唾を飲み込んで続ける。
「皆で揃って地上に生還したいと思います」 
 その言葉に、刀真が首を縦に振った。
「では、行きましょう」
 エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)は、刀真に近づいて禁猟区をかけた。
「私は補佐班の人達と、援護にあたるね。皆、頑張って」
 衛生兵として共に訪れた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は皆にそう声をかける。
 無茶しないでといいたいところだけれど、無茶を承知で皆行くのだから。
 気をつけて、ともいえなくて。
 だから、頑張って、とだけ伝えた。
 頷いて、目を合わせた後、一同宮殿正面へと走り出す。

「ここから先、俺とシロは別行動をさせて貰う、時計塔には退路がない、敵に捕まれば降りれなくなるだろうからな」
 扉の前で輪廻がそう話していく。
「こちらが先に宮殿に突入して敵を引き付ける、タイミングを見計らってそちらも突入してくれ」
「わかりました」
 と、刀真は答え、パートナーの漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が2人にパワーブレスをかける。
 宝物庫の方に向っていた光条兵器使い達がこちらに気付き、駆け寄ってくる。
 輪廻はピッキングで開錠し、扉を開けた。
「では、互いに、力を尽くそうか」
「また後で」
 輪廻に月夜がそう答え、頷き合った後かけ込んでいく。
 すぐに、皆もその後に続く。ドアは開け放ったままだ。

 輪廻は隠れ身を使い、エントランスにいる光条兵器使いに近づいた。
 光条兵器使いが一行に気付いて武器を手にした途端、接近した輪廻がその頭を銃で撃ちぬく。
「さぁ、ここだ、ここにいる、貴様らの敵はここにいる、一人残らず鏖にするぞ、恐れるならば、死にたくなければ」
 姿を現して、鬼眼を発動する。
 光条兵器使い達は軽く反応を示すが、怯まず輪廻の声の方向に向ってくる。
「俺を……殺して見せろっ!!」
 そう叫んだ後、敵が集まる廊下に走りこみ、銃を撃っていく。
 白矢もその後に続いた。

 輪廻が敵をひきつけているうちに、他のメンバー達はエントランスを駆け抜けて、中央階段に走りこむ。
 宮殿内は暗かった。エメが光精の指輪で精霊を呼び出し、辺りを照らしていく。
 2階の部屋や、輪廻を追わなかった敵がばたばたと押し寄せてくる。
「皆さん、僕達の後ろに」
 そう声をかけて、片倉 蒼(かたくら・そう)がガードラインで皆を保護していく。
 皆を護衛する形で先陣を切り、エメは高周波ブレードを押し寄せる敵に振り下ろす。
 無言で、深く斬り裂いた。
 心苦しいが、こうしなければこちらに死者が出てしまうから。
 周りにいらぬ罪悪感を持たせないためにも、何も言わずにエメは次々に敵に剣を振り下ろしていった。
「殺気だらけですね」
 前衛に出た真紀は殺気看破で周囲に注意を払う。
 更に、敵に気を取られすぎて、罠などにかかってしまわないよう前にも十分注意をしていた。
「罠は見当たらない……寧ろ、この男達が罠なのか」
 皆の前に立ち、迫り来る敵にヘキサハンマーを打ち込む。
 真紀と、後に続くクリストファーや一度彼らと交戦した者には気がかりなことがあった。
 彼らは『ジュリオ、カルロ、マリザ、マリル』のことを、合唱のように倒すと言っていた。
 しかし、その中には、6騎士の残りの2人、ソフィアとファビオの名前が入っていない。
(ファビオは亡くなった時期が早かったからとも考えられるが、ソフィアの名前が出ないのは不自然だ)
 そう思ったクリストファーは、武器を向ける光条兵器使い達に、こういってみる。
「ソフィアが帰ってきてるよ」
「ソフィア」
「ソフィア」
「ソフィア……倒さない」
「ソフィア、倒さない」
 光条兵器使い達のその言葉に、一同は眉を寄せる。
 そうしている間にも、敵は続々と現れていく。
「なるべく、一撃で仕留めないとね……」
 リカインは精神力を温存するため、パワーブレスのみ自分に使いドラゴンアーツで敵を吹き飛ばしていく。内臓や頭を潰す勢いで。
「ここでも精神力温存かよ! 俺全然戦えねーじゃん!」
 アストライトはリカインに続きながら、不満げだった。
「我慢してください。これだけ数が多ければ、皆無傷というわけにはいきませんので。途中で回復が使える存在はとても大切なんです」
 鞆絵がアストライトをなだめながら、共に最上階に向って走る。
「アストライトお願い!」
 リカインが吹き飛ばした敵が、アストライトの足元に倒れる。
「悪いが永久に眠ってもらうぜ」
 言って、アストライトは光条兵器を取り出し、敵の腹を突く。
 自分と同じ、男の剣の花嫁のような存在。
 だけれど、自分とは明らかに違う。彼らの目には輝きがないから。
「時計塔へは屋上からいけるみたいだね」
 サイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)は厳しい状況であり、メモを取る時間がない変わりに、頭の中に、地図を書き込んでいく。
「右から狙ってる!」
 上階の廊下から、弓矢で前衛を狙っている人物に気付いて、サイモンが声を上げた。
 続いて、ドラゴンアーツを叩き込み、リカイン達前衛陣をサポートする。
「足元にも気をつけて下さい。誰かに何かがあったら、全員階段から転げ落ちてしまいますから」
 陽太は弾幕援護で皆を守りつつ、仲間に攻撃を仕掛ける敵を撃っていく。
(童話の中の、お城のような場所……)
 宮殿に対して、そんな感想を持ちながら、陽太は周囲を見回しては何か得られそうな情報や、道具などがないか注意して見ていく。
「右に大きな扉があります。重要な部屋かもしれません」
 声を上げて仲間に伝えた後、銃型HCで、念のため保存をしておく。
「気をつけて」
 月夜が陽太に武器を向けた光条兵器使いの首を撃ちぬいた。
「ありがとうございます」
 礼を言って、陽太は自分の身にも注意しながら階段を上っていく。
「扉があります、進みます」
 エメがそう報告をして、剣で扉にかけられていた鎖を切り落として、扉を開けた。
 中には、螺旋階段があった。
「駆け上がって下さい。このまま最上部まで行きます」
 刀真がそう指示を出し、皆は息を切らしながら時計塔に続くと思われる螺旋階段に足を踏み出した。
 殺気看破で不意打ちに注意しつつ、刀真は殿を務め、下方から攻撃してくる敵に、ソニックブレードを打ち込んでいく。
 精神力の無駄遣いは出来ない。確実に急所に当てる。
 皆が通過した後、月夜は扉を閉めて少し時間を稼ぐ。
 その間に全員が螺旋階段に突入する。
 再び、扉が開いて光条兵器使い達が駆け込んでくる。
「侵入者、排除、排除」
「排除、排除」
「壊す、壊す」
 インプットされているかのように、同じ単語を呟きながら攻撃を加えてくる。
 上部からの方が、頭を狙いやすい。蹴落とすことも出来る。
 言葉には出さなかったが、敵を排除しやすいこと。それが刀真が先に上階の調査を選んだ理由の一つだ。
 また接近戦に関しては、足元に注意すれば済む。
 メンバーは階下の敵を上部から攻撃しながら、頂上を目指した。