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嘆きの邂逅~離宮編~(第4回/全6回)

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嘆きの邂逅~離宮編~(第4回/全6回)

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第4章 ヴァイシャリー家にて

 闇組織側の相談事もラズィーヤ・ヴァイシャリー(らずぃーや・う゛ぁいしゃりー)に持ち込まれることが多くなってきており、彼女は多忙な毎日を送っていた。
 そのため、あらゆる分野の進みが遅く、滞っている事柄も多いという状況だった。
「時間とらせてしまう分、役に立てるといいんだけど……」
 百合園女学院にあまり顔を出さない――出しても、面会することが出来ない状況になっていることから、七瀬 歩(ななせ・あゆむ)七瀬 巡(ななせ・めぐる)と共に、ヴァイシャリー家を直接訪問し、時間はとらせないからとラズィーヤとの面会を求めた。
 そんな歩達が通されたのは、応接室やラズィーヤの部屋ではなくて、他校生達の集まっている部屋だった。
「どうぞ」
「はい」
 席を勧められて、皆と会釈を交わした後、歩は巡と一緒にラズィーヤの向かいに腰掛けた。
「あの……あたし、お手伝いさんが出来たらと思って」
「メイドは間に合っていますわ。ですけれど、ここの方をお世話してくださる信用のできる方は、ほしいと思っていましたの」
「ん……」
 巡はきょろきょろ回りを見回す。
 ベッドの上で横たわっている人物もいる。
 周囲にいる人々は、護衛のようでもあった。
「子供とかはいないんだねー? 歩ねーちゃんは子供の世話とか必要かもって言ってたけど」
 巡がそう言い、歩も聞いてみることにする。
「ラズィーヤさんは一人娘だそうですけれど、ご兄弟はいらっしゃるんですよね? 大変な状況でご兄弟もお出かけできなそうですし、遊び相手にでもなれたらと思うんです」
「わたくしに、兄弟はいますけれど、ヴァイシャリー家の直系については家の都合で、あまり知られたくありませんの」
「そうですか……」
 歩は残念に思いながらも、ここで働いていたら会う機会もあるかなと密かに思うのだった。
「質問いいかな?」
 近くで資料を見ていた黒崎 天音(くろさき・あまね)がラズィーヤに問いかける。
「ええ。歩さんには意味が分からないと思いますけれど、メイドとしての立場でお聞きいただければ思います。今日は客として座ったままで構いませんわ」
 口を挟まないこと、他言しないことが義務となる。
「はい」
 歩は返事をして、巡と一緒に静かに聞くことにした。
「ソフィアはファビオが連れ去られた後に、突然現れたという話しだったかな?」
「そうですわね」
「突飛な考えだとは思うけれど、ソフィアが転移の技能を持っているのなら、ハロウィンにファビオを抱えて逃げた人物である可能性はあるよね」
「……斬新な考えですわ」
 頷いて、天音は言葉を続ける。
「ただ、ファビオが自分以外の人物の姿も消せる技能を持っていたなら、単に姿を隠して血痕を残さないようその人物と共に徒歩で逃げた可能性もあるのかな」
 手を組んで、天音は考えを纏めていく。
「前者の場合は、ファビオが離宮にいる可能性もあるし、後者の場合は離宮以外のどこかに隠されている可能性が高いと思うけれど……どちらにしても、記憶が曖昧な状態ではその協力者もファビオにとっては危険な人物だった可能性はある状態か。大怪我をした相手を殺さない程度に移動させるとなると、移動距離は限られる気がするね」
「離宮にいる可能性は少ないと思いますわ。後者も血痕を残さずに徒歩で逃げる手段はちょっと考えられません。酷い怪我でしたから……」
 さすがのラズィーヤも当時を思い浮かべて、眉を寄せる。
「あとは、これはマリザに聞いた方がいいかな」
 天音が資料を見ているマリザに目を向ける。
「何かしら?」
「6騎士が交わした再会の約束ってどんな約束?」
「同じ時代に目を覚ましたのなら、必ずここで会いましょうって約束。単純だけど大切な約束よ。いつとは決められないから、月の最後の日って決めてあった」
 それから、天音はマリザが現在ここにいる理由、復活の経緯などを聞いた。
 ――話を聞いた天音は他の騎士より先に死亡し、1年前に復活したばかりのファビオが何故それほど短期間でスムーズに仲間を探し出せたのかと軽く疑問を持つ。ミクルの援助があってのことだろうが。
「変わった羽を持ってるね? 種族を聞いてもいいかな」
「ハーフフェアリーといわれているわ。一つの村で暮らしていたごく少人数の種族だったの。戦争で大人は殆ど死んでしまったし、子供達は私達と一緒に永い眠りについていたから、子孫はこの時代にいないかもしれないわね」
「なるほど」
 興味深そうに言い、天音はティーカップを取る。その腕を、護衛としてついているブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が軽く小突いて囁く。
「興味ある話に、目を輝かせるのは良いが……足元を掬われるなよ」
「気をつけるよ」
 くすりと天音は笑ってみせる。
「マリザが申すには、ヴァイシャリー家の者も、そろそろ離宮に向かわねばいかぬようだ」
 悠久ノ カナタ(とわの・かなた)がそう言い、マリザが「あ、そうね」とラズィーヤに目を向けた。
「離宮にある女王器は、女王の血を引く人にしか上手く使えなかったはず。離宮の中で使う必要がありそうなら、ヴァイシャリー家の人に行ってもらうしかないんじゃない?」
 マリザの言葉に、ラズィーヤは少し考える。
 彼女の様子をカナタは注意深く見る。
 ラズィーヤほどの人物ならば、宝物庫にあるアイテムが女王の血を引く者にしか使えない可能性があるということは、容易に察することが出来たのではないかと。
 それなのに自らが行くことは全く検討していなかった。
 無論、彼女がいなければ地上の対策が進まないため、現状では本人に行かれてしまっては困るのだが。
 それでも、血縁者の者を共に向わせておくことは出来たはず。
「わたくしより、女王の血を濃く受け継いでいる者が百合園女学院にいますの。戦闘能力も十分ある娘ですので、血を引く存在が必要になった際には彼女に行っていただくつもりでしたわ」
 普段と変わらぬ様子でラズィーヤはそう答えた。
「ご存知の方はもうご存知でしょうけれど……神楽崎優子さんのパートナーのアレナ・ミセファヌスさん。彼女は十二星華です」
 十二星華は女王のクローン。
 最も濃い血を引いていると主張しているヴァイシャリー家でさえ、女王の血で作られた彼女達より濃い血を引いているとは到底主張は出来ない。
「ただ、彼女の身にもしものことがありますと、指揮官の優子さんに影響がでますので、必要と思われるまで学院に留めているのです」
 その言葉に特に嘘や隠し事は感じられなかった。
「ならば血縁者を向わせておくことは何故しなかったのか? 早急に女王器の力が必要になる可能性もあるのではなかろうか」
 カナタの言葉に、ラズィーヤは首を軽く傾げる。
「女王器は文字通り女王が使っていた道具に過ぎませんわ。凄い力を秘めているとは限りません。ただの女王が愛用していただけのアクセサリーである可能性もあります。封印された離宮に置いてあるからには攻防に役に立つようなアイテムではないはずです。そうでないのなら、わたくしの祖先がそれを使って鏖殺寺院の兵器と戦っているはずですわ」
 他意はないようだった。
「離宮に向った方々も、少し女王器にこだわりすぎのような気がしますわね……。離宮の調査と兵器の始末が目的なのですが、宝物庫に志願する方が多かったようですし」
 ラズィーヤは少し困ったような顔をする。この点、彼女にとって大きな誤算だったらしい。