天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

地球に帰らせていただきますっ!

リアクション公開中!

地球に帰らせていただきますっ!
地球に帰らせていただきますっ! 地球に帰らせていただきますっ!

リアクション

 
 
 立ち塞がる父 
 
 
 ヤジロ アイリ(やじろ・あいり)の実家はS県にある。茶畑に囲まれた長閑な田舎だ。
 完全な木造の実家は味わい深く、旧式な日本家屋で不便な点はあったけれど、アイリはこの家が好きだった。
 のだけれど。
 その実家に入る為の門の前では何故か、父のヤジロ カイリが仁王立ちで待ち構えていた。
「アイリ、よく帰ったな」
「ああ。ただいま」
 アイリは普通に挨拶し、門をくぐったのだけれど、続いてセス・テヴァン(せす・てう゛ぁん)が挨拶しながら通ろうとすると、カイリは門を塞いでそれを阻止した。そして殺気をこめて言い放つ。
「セス殿、この門を潜りたくば私を倒せ!」
 アイリがパラミタに行くことは許可したが、セスのことは認めない、と言うカイリに、アイリは苦笑しながら説明しようとした。
「親父、そもそも俺等はそういう仲じゃな……」
 言いかけたアイリを遮ったのは、カイリではなくセスだった。
「お受け致しましょう」
「ってセス、受けて立つのかよ!」
 そんな必要はない、と慌てて門を潜って戻って来たアイリに、セスは持ってきた土産をアイリに渡しながら答える。
「アイリのお父様の凄い殺気の理由は分かります。私と契約しなければ、アイリは今もご両親の元で暮らしていたはず。となれば、私は既にアイリをご両親の元から奪った、と言えるでしょう」
「セス、やめるんだ!」
 必死に止めようとするアイリの肩に、やさしく手がかけられた。
 振り向けばそこには、和やかな笑顔の母ヤジロ アンナがいた。
「男の人が必ず通る道だし、救急箱を用意したから大丈夫よ」
 だからここで見守っているようにとアンナはアイリを説き伏せた。
 その間にスーツの上着を脱ぎ、ネクタイを緩めて戦いの準備を整えたセスはカイリに相対する。
「私は認められ、アイリのことを任せてもらわねばなりません! ここで退いてはその資格すらないのです」
「逃げぬか。ではそちらから参れ!」
 挑発するカイリへと、セスは光を纏わせた拳で打ちかかる。
「娘さんを任せてくださいっ!」
 その攻撃を受け止めたのは、カイリではなかった。
 カイリが召喚しただいだらぼっちの足が、セスを踏み潰したのだ。
「な……今のは……?」
 今まで味わったことのない感触のものに押しつぶされ、セスは驚いた。
 足が柔らかかったからそれほど大きなダメージを受けずには済んだのだが、はじめて見る攻撃に肝が冷える。
「やはりお強い……ですが、これしきのことで諦めはしません!」
 巨大な足に踏み潰され、蹴られ。それでもセスはくじけず、何度でも立ち向かって行った。
「私をアイリのパートナーとして認めていただきます!」
 けれど父親の圧倒的な力に、セスは歯が立たなかった。何度も挑戦し、そのたびに叩きつぶされ。
 やがてセスは、息を切らして動けなくなった。
「セス! しっかろしろ」
 アイリは母親の救急箱を手に、セスに駆け寄って手当てをした。
「大丈夫……です」
 微笑んでみせようとするセスの姿にアイリは改めて、自分はセスのことが思っていた以上に大事なのだと自覚した。まだ門の前に立ち塞がったままの父親の元に、アイリは近寄って行き。
「親父! セスは俺の一番大事なバートナーなんだ。セスが門を潜れないのなら、俺も潜らないし、セスを認めてもらうまで絶対に諦めない」
 そして、セスから預かっていた土産の包みを父親に押し付けた。
「セスが親父のために悩みぬいて選んだ緑茶も入ってるんだ。これだけでも受け取って貰うぞ」
 突っ返されることは覚悟の上、だったのだが。
「パラミタの茶では、我が県自慢の茶には敵うまい」
 そう言って土産を受け取ると、カイリはセスに顔を向けた。
「とっときの茶を出すから飲み比べし、舌を磨くと良い」
 それだけを言い残し、さっさと家の中に入って行ってしまう。素直になれないのも親心。こんな分かりにくい歓迎の方法しかカイリには取れないのだ。
「って飲むの? ってか門を潜っていいの?」
 父親の豹変ぶりについていけず戸惑うアイリにアンナが肯いてみせる。
「お父さんも素直じゃないのよ。セスさんにお父様って呼ばれて否定はしないのに」
「よ、よく分からんけど……やったな、セス」
「は、はい……でも本当に良いのでしょうか」
 喜ぶアイリと戸惑うセスを、アンナは促す。
「さあ、お父さんの言う通りお茶を飲みましょう。遅いとさめるとかまた文句を言い出すでしょうから、早く家に上がりなさいな」
「あ、ああ。ほら、セス」
 まだ戦いの疲れを見せているセスに手を貸し、助けながら門を潜るアイリを眺め、アンナは微笑んだ。
 セスは娘が選んだ相手。ならばそれを信じるだけだと。