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地球に帰らせていただきますっ!

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地球に帰らせていただきますっ!
地球に帰らせていただきますっ! 地球に帰らせていただきますっ!

リアクション

 
 
 道場の夏 
 
 
 両親は死んで施設で育ったから、実家と呼べるものはない。その施設にいる人達とも、パラミタに渡ってからはお金を振り込んでいるだけで連絡もしていないから、この時期だからといって会いに行き難い。
 そんな風に言っていた樹月 刀真(きづき・とうま)だけれど、玉藻 前(たまもの・まえ)は地球に連れて行けと刀真をせっつく。おまけに、ずっと放置していた両親の墓のことを封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)に知られてしまい、いよいよ逃げられなくなった。
 どうしようかと考えていた刀真に、如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)が声をかけたのはそんな時だった。
「実家の古武術道場に帰るんだけど、良かったら一緒に行かないか?」
 かねてから古武術を実体験してみたいと刀真が言っていたのを覚えていた佑也が、そう誘ってくれたのだ。
 勿論二つ返事で刀真はそれを受けた。
「古武術を実体験できる機会なんて滅多にないし、食費宿代も浮く。その帰りに寄れば墓参りもついでにできる。うん、良案だ」
「刀真またお金の話」
 ちょっと呆れ顔でそう言うと、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は取り寄せたばかりの高価な本にまた目を戻した。
 
 
 そんな経緯あって、佑也は刀真とそのパートナーたちを伴って実家に帰ってきた。
 門をくぐり、石畳を抜けて玄関へ。和風の平屋と道場のある佑也の実家は、どこもかもゆったりと余裕のある造りになっている。
(俺ん家って広かったんだな)
 ここ1年、あまり広くない借家に住んでいた為もあってか、改めて佑也は実感した。
「おかしいな。今日友達連れて帰るって伝えておいたんだけど……」
 家にいるはずの母親の気配がない……、と首を傾げる佑也の背から声がかけられる。
「おかえり、佑也……待っていたぞ」
 いつの間に背後に回られたのかと苦笑しながら佑也は振り返った。
「ただいま、母さん」
 そこに立っていたのは、見た目だけなら佑也の姉といっても通りそうな外見の母、如月 香澄
 軽く着崩した着物に下駄。現代日本にしては時代錯誤だけれど、そんな格好が良く似合っている。
「お世話になります」
 頭を下げる刀真を、これがその友人だと佑也は母に紹介した。
 
 家に帰ってまず佑也は、母と共に父の仏壇に線香を上げた。
 父親に帰宅の報告をしたら、せっかくだから友達とゆっくり……したいけれど、そうもいかない。
 佑也は真剣な表情で、母の前に立った。
「母さん……。今まで修行の1つもせずに、好きに生きてきた奴が言えることじゃないのは分かってる。都合の良いことを言っているということも分かってる。けど、守りたい連中が出来た。護りたい人が出来てしまった。今の俺には力が必要なんだ。だから……俺に剣術を教えて欲しい」
 帰ってきて早々だけど、と佑也は母に頼んだ。
 香澄はそんな息子を面白がるような顔で見る。
「護りたい人……か。女でも出来たか?」
 そう茶化しておいてすぐ、母ではなく古武術道場当主の顔になって佑也に答えた。
「一朝一夕で剣術を叩きこむのは無理だが、一手ぐらいなら付き合ってやる。そちらのご友人も、良ければまとめて面倒を見るぞ」
 そう刀真にも声をかけると、香澄はさっさと道場へと歩いて行った。
 
 
 一方。
 地球にやってきた如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は、まっすぐに病院に向かった。
 といっても、誰かを見舞うわけではない。ただ遠目から家族がICUに入っている病院を眺め……やがて身を翻して佑也の家へと向かう。
 佑也の家の前まで行くと、門のところに良く知った顔を見つけた。
「げ、由布子」
 思わず言ってしまった正悟の声に気づくと、北沢 由布子はぱっと振り向いた。
「あ、あれ……正悟君? いきなり学校に退学届け出して蒸発して、今まで一体どこに行ってたのよ!」
 パラミタに行く時、正悟は友達にも周囲の人にも何も言わなかった。事情も分からず突然いなくなった正悟を、きっと皆どうしたことだと思ったことだろう。
 未だに皆にパラミタにいることを言うつもりのない正悟は、それには答えず由布子の持っている包みをさした。
「今日は道場は休みのはずだよな? 差し入れにでも来たのか?」
「ああこれ? スイカと水羊羹を香澄先生にお裾分けをと思って」
 由布子はここの道場の数少ない門下生の1人。美人で胸の大きい由布子に手を出そうとして、キツイ仕返しをくらった者も数多い……という噂だ。
「スイカ……」
 嫌いなものの名前を聞いて、正悟はちょっと顔をしかめる。そこに由布子はふと思いついたように言った。
「そういえば、私の親友たった正悟君の幼馴染のあの子……入院先の病院から転院になったって聞いて探したんだけど、転院先の病院が分からないの。何か知らない?」
「やっぱりか……」
 つい漏らした正悟の言葉に、由布子はちょっと目を見開いた。
「まさか……パラミタにいたの?」
 それには答えず、正悟は佑也の家に顎をしゃくる。
「俺、今日はここで世話になる予定なんだ。道場あるみたいだし、由布子も一試合やってみるか?」
「先生に聞いて、良いっていっていただけたらね」
 香澄先生、中に呼びかけながら入って行く由布子の後について、正悟とパートナーのエミリア・パージカル(えみりあ・ぱーじかる)は佑也の家の門をくぐった。
 
 
 香澄の許可を得て、まずは正悟と由布子が試合をしたが、スキルを使わずとも契約者の身体能力は一般人を圧倒する。
「どうしてそんなに強くなっちゃったの?」
 由布子はちょっと悔しそうに笑って引くと、お使いの途中だからとスイカと水羊羹を置いて帰って行った。
 その試合が終わると、佑也は竹刀を手に立ち上がる。
 一手でも教授してもらえるなら、全力でぶつかってみせる。
 その意気で向かい合う佑也に香澄はわずかに口元を緩めたが、すぐに同じ得物を手にすっと表情を引き締める。
 契約したことで佑也の能力は上がっている。その力をすべて乗せて、香澄に打ち込んだ。
 けれど軽く香澄が当てた竹刀に、全力のはずの攻撃はさらりと流される。流し、かわし、佑也の疲労をさそっておいて、香澄は佑也の竹刀を跳ね上げた。
「我流にしては上々だな、佑也」
 床に落ちる竹刀に、佑也は自分の負けを知る。
「ありがとうございました」
「だが少し余計な力が入りすぎだ。気張るのは結構だが、自分自身も誰かに護られて生きていることを忘れるな。お前が誰かを想うように、誰かもお前のことを想ってくれているんだ。……その人を悲しませるような真似だけは、絶対にするな」
「……誰かに想われている、か……」
 考えたこと無かったかもな、そんなこと……と佑也は竹刀を拾った。
「……うん。頑張れ、男の子」
 そう息子にエールを送ると、香澄は艶やかなポニーテールを手の甲で払った。
「俺にも一本付けてもらえますか?」
 試合をみるうちに自分も手あわせしてみたくなった正悟が、小太刀並みの竹刀を2本持って立ち上がる。
 武器攻撃と徒手空拳を複合させたスタイルで戦う正悟は健闘したけれど、修練の差が勝敗を分けた。
「ま、ここいらが妥当な線か……ありがとうございます」
 由布子相手のようにはいかないようだと、正悟は引き下がった。
 刀真は本格的に古武道に触れるのは初めてだ。まずは基礎から教えてもらうことにする。
 背骨を柔軟にほぐすと、しばらくは受身の練習が続く。
 歩き方さえ、これまで知る動きとは全く異なっており、勝手が違う。
 本格的に習うなら、この基礎だけでもじっくり身に覚えこませなければならないけれど、今回の帰省ではそこまでは無理だ。
 この短期間で完全に習得できるとは思っていないが、基礎の基礎ぐらいは覚えて帰りたい。
 基本を教えてもらい、それをなぞることで技の流れを知る。ある程度覚えたところで、そのまま実戦形式の組み手へと移ることにした。実戦形式を取ることにより、気づかないことに気づけるだろうとの思惑だ。
 そうしてはじめた刀真と香澄の組み手を見ながら、月夜はそれを後ろから援護していると想定したイメージトレーニングを行った。
「目で見て判断していては遅い。感覚で動け」
 香澄の注意は分かるのだけれど、つい今までの癖が邪魔をする。
「型を作るな」
 言われた時にはもう、香澄に関節を極められて動けなくなっていた。けれど刀真は構わず無理矢理動いた。
「くっ……があっ」
 嫌な音がしたが、それは無視して刀真は攻撃する。腕の骨を犠牲にしたら勝ちが拾えるかも知れないとあらば、やるだけだ。通したい『己の我』の為ならば、どんな手を使ってでも勝つ。
 が、その捨て身の攻撃はあっさりとかわされた。
「流石に腕を極めた程度で油断はしないか……まさしく骨折り損のくたびれもうけ」
「刀真、まだ続ける?」
 月夜に聞かれ、刀真は迷い無く答える。
「何を言ってるんだ? 俺はまだ負けていない、続けるよ」
 しかし、香澄の方が首を振った。
「これ以上の稽古は無駄。養生することだ」
 すっと離れてゆく香澄と入れ替わりに、月夜は刀真に近づいてその傷を癒した。
 
 
 汗を流してさっぱりした後、彼らは香澄の手料理をご馳走になることとなった。
 ……のだが。
「こ、これじゃ食卓というより食材の墓場……」
 並べられた料理かも知れない物体を前に、正悟がぼそりと言う。
「もう、正悟。失礼なこと言っちゃだめでしょ!」
 聞きとがめたエミリアが注意するけれど、実際、香澄の料理の腕は壊滅的。食べるな危険、と言わんばかりの有様だ。
 唯一食べられそうなのはぶつ切りにされたスイカだけだが、正悟はスイカは大の苦手ときている。
 酒を飲んでいた玉藻は、ひと箸料理をつまんで顔をしかめる。
「酒は美味い。だがこの飯は不味い! これでは酒も不味くなる……刀真何とかしろ」
「はいはい手伝いますよ……というか俺が作ります」
 一応命をいただいているのだからちゃんと調理してあげようと、刀真は玉藻に言われるままに台所へと立って行った。
 刀真の姿が見えなくなったのを確認してから、玉藻はさっきからため息ばかりついている白花に話しかける。
「封印の巫女、昼間のことが気になるのだろう? 美味い酒が飲めて気分が良い……今日は特別に答えてやろう」
「はい……あの……刀真さんは時々ああされるんですか? 自分を平気で傷つけるようなことを」
 迷いながら尋ねた白花に、玉藻はああと簡単に肯く。
「刀真にとって他人は物だし自分自身も物だ。己が望む結果を得る為にとりあえずで片腕くらいは平然と捨てる」
 くいと杯をあおって、玉藻は続けた。
「今まではそれにりにある実力と運でどうにかなってきたが……どうにもならなくなった時点で死ぬな」
 普段は物静かな白花も、これには声を荒げて詰め寄った。
「死ぬって……そんな簡単に言わないで下さい! 玉藻さんは刀真さんが死んで平気なんですか?」
「白花静かに刀真が戻ってくる。玉ちゃんも言い方が良くない」
 2人共を制した後、月夜はそれが決まっていることのように言った。
「刀真は死なせない、私が傍にいる限り」
「月夜さん……」
 白花はすがる様な視線を月夜に向ける。それに月夜はちょっと笑って見せた。
「大体、玉ちゃんも平気じゃない。だから危ない時はいつも一緒に来てくれる。刀真は気にしないけど、玉ちゃんは本気を出すと嫌われるかもしれないって不安があって、危なくないと来てくれあうっ」
 ぺしっ、と玉藻に叩かれて、月夜は頭を押さえた。
「刀真には我を十分満足させた後に再封印して貰わねばならないからな」
「十分満足……玉ちゃん他に言い方無いの?」
 月夜のつっこみは聞かないふりをして、玉藻は白花に尋ねる。
「月夜は当然として、お前はどうだ封印の巫女?」
「私だって刀真さんを助けます! 本当だったら影龍を浄化して死んでいたところを刀真さんに助けられたんです。その刀真さんが危ないのなら、私だって力になります!」
 白花が叫ぶように答えたその時。
「騒がしいけどどうかした?」
 きちんとした料理が出来るまでのつなぎとして簡単なつまみを持ってきた刀真が、食事の場に入ってくる。
 はっとして白花は玉藻と月夜を見たが、2人は素知らぬ顔でお茶をすすっている。
「えっ、えっと、さっ、騒がしくありませんよ? 何でもないです!」
「そう? あの声白花のだと思ったんだけど」
「違います! あ、いえ、きっと気のせいです」
 あたふたと誤魔化そうとする白花を、刀真は不思議そうに眺めるのだった。
 
 
 刀真が作り直した食事をおいしく食べた後、皆はそれぞれに割り当てられた部屋に入った。
 旅と手合わせ、そして恐らく騒ぎに心地よく疲れた身体が、健やかな眠りへと誘う。
 けれど正悟はすぐに布団には入らず、縁側に座って月を見上げていた。
 エミリアは縁側にいる正悟に気づくと、躊躇いながら近づいた。
「ゴメンね」
「ごめんって何が?」
 正悟が月からエミリアへと目を移す。
「……私が正悟の日常を全て奪っちゃったんだよ……ね。ずっとずっと……謝らなきゃと思ってた……けど怖くて……」
 エミリアは言葉を絞り出すように発した。
 謝ることで、その記憶をまた呼び覚ますことになってしまうかも知れない。けれど、それはどうしても謝らなければいけないことで。
「ああ……」
 正悟は優しくエミリアの頭を撫でる。
「由布子が言ってた件は気にしなくていい。あいつは少なくとももう手の届くところにいるんだ。それに……あの時救えなかったのは俺の力不足だ。同じ過ちは繰り返さないさ」
 由布子には言えなかったけれど、その『幼馴染』は強化人間となってパラミタにいる……。
「失ったものもいっぱいあるけど、得たものもいっぱいあるさ。お前も見てたろ」
 そう言って正悟はごろんと身体を倒して寝転がった。
 正悟の言葉に、エミリアは今まで背負っていた凄く重くて苦しいものを下ろせた気分になった。ほろりとこぼれた涙が、これまでの重荷を溶かしてくれるかのようだ。
「うん」
 泣きながらの笑顔で肯くと、エミリアは正悟の横に寝転がった。
 顔を背けて、聞こえるか聞こえないかの声で、
「ありがとう」
 それだけを言って。
 縁側に寝転がる2人を月の光が照らす。
 太陽の眩しさとは違う、優しい優しい光で――。
 
 

担当マスターより

▼担当マスター

桜月うさぎ

▼マスターコメント

 
 ご参加ありがとうございました。
 皆様の地球でのご様子、楽しく書かせていただきました。
 ばらばらの場所への里帰り、ということもあり、1組ずつページを分けさせていただきました。
 捜しやすいようにジャンル分け(といっても私の独断と偏見によるジャンル分けなので分かりにくいかもですけれど〜)してありますので、目次からご自分のページ、お知りあいのページをお探しくださいね〜。

 今回、運営様の計らいにより、パラミタに持ち込まない、という条件つきで、地球人関係者の設定をぎりぎりまで認めていただいてます。これは帰省シナリオにおいてのみ有効であり、他のシナリオ等への持込み(地球関係者に○○してもらう、親が○○だから、この時に持ちこんでいるはずだから、等)が出来ないことをご承知おき下さいませ。
 このシナリオが、皆様のキャラクターをより深めるお手伝いができたのなら幸いに思います〜。
 
 年末あたりにも、里帰りシナリオが出来るといいな〜、なんて思ってます。
 その際にはまたよろしくお願いいたします〜。