天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

三つの試練 第一回 学園祭の星~フェスティバル・スター

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三つの試練 第一回 学園祭の星~フェスティバル・スター

リアクション

「こっちだよ」
 黒崎 天音(くろさき・あまね)ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)は、樹月 刀真(きづき・とうま)たちを校長室へと案内していた。
「天音、すいません…わざわざ案内までして貰って。ご友人は、良いのですか?」
「それは他の生徒に頼んだから、大丈夫だよ」
 今日は、天音は青空学園の友人である瀬島 壮太(せじま・そうた)四条 輪廻(しじょう・りんね)に、学園祭の案内をしていた。
 屋台を一通り満喫した壮太と輪廻は、舞台のほうに早速行ってみるらしい。天音は彼らと別れ、ジェイダスへの面会の取り次ぎを頼まれた刀真に同行することにした。
 刀真の後ろには、やや硬い表情の二人が続いている。漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)だ。二人は女性であり、本来ならば校内に立ち入りはできない。美しいドレス姿であれば、なおさらだ。
 しかし、校外で待つようにと言われた二人は、頑なにそれに抗った。
「私は刀真の剣の花嫁、刀真が会談に臨むのであれば剣である私がその右側にいるのは当たり前」
 月夜は黒い瞳に並々ならぬ決意を浮かべ、そう言った。そして。
「私は樹月刀真の守護天使です、私が貴方を護るんです…月夜さんが剣で貴方の右に立つならば私が盾で左に立ちます」
 そう、白花も譲らなかったのだ。
 結局、二人は天音が密かに用意させた薔薇学の制服を一時的に着ることで、入校は許された。
 慣れない男子の制服姿ながら、毅然と正面を向いて歩く月夜を、白花は微かに隣から伺う。
 ……御神楽 環菜(みかぐら・かんな)が亡くなってから、月夜と刀真は、なにかひどく思い詰めたように行動している。それが、白花には心配でたまらなかった。
 校長室には、ジェイダスの姿しかない。ラドゥは席を外したらしい。
「やれやれ、千客万来だな」
 ジェイダスが小さくぼやいた。
「蒼空学園に所属しています西シャンバラ・ロイヤルガードの樹月刀真です、この度は突然の申し出にも関わらずお受け頂き誠にありがとうございます」
 入室すると、刀真はそう丁重に挨拶をした。月夜と白花もそれに従う。
 ジェイダスは座ったまま、軽く頷いたのみだ。しかし、天音を一瞥すると、「お前は外に」と短く指示をした。
「はい」
 天音はそう答え、一旦は退室した。
 今の状況について、ジェイダスに報告したいことは天音にもある。しかしそれを、部外者である刀真たちの前では口にできないのは事実だ。
 それから、そういえば……と天音は思い出す。先ほど、ここに来る途中ですれ違ったのは、確かミヒャエル・ホルシュタイン(みひゃえる・ほるしゅたいん)だ。ジェイダスに用事でもあったのだろうか。神無月 勇(かんなづき・いさみ)の姿が共になかったことが、天音には気がかりだった。なにかまた、早まったことをしなければいいが。
 警護もかねて、扉の外で待つことにしながら、天音は廊下の窓からちらりと外を見やった。そんな天音に、ブルーズが低く尋ねた。
「天音。……ウゲンの事、気になるのではないか?」
「それは勿論ね。先日ウゲンが訪れてから校長達の様子が少し違う気がするし……」
 天音は一旦言葉を切ると、ブルーズの赤い瞳を見つめて微笑んだ。
「でも今回は協力して事を成すのが目的だから、早川や鬼院に任せるよ。僕らは僕らの仕事が優先だね」
「ふむ。そうだな」
 ブルーズは頷いた。
 暫しそのまま、二人は沈黙した。……光一郎から、とある連絡がもたらされるまで。

「余計な挨拶はいい。……ロイヤルガードが、なんの用だ?」
 ジェイダスの力強い眼差しを真正面から受け止めながら、刀真はしかし冷静に答えた。
「率直に伺います、ウゲン様は何者なんですか? あの幼さで領主という事は外見通りの年齢ではないと思うのですが吸血鬼なのですか? 何故あの方が領主になられたのでしょうか?」
「…………」
 そんなことか、とジェイダスはやや呆れた笑みを浮かべた。
「タシガン領主になった理由は、タシガンの民に聞くべきじゃないのか。何故俺に? ……それとも、なにか推察があってのことか」
「いえ。ただ、納得はできないというだけです」
 タシガンの民だけではない。エリュシオンもそれを了承しているらしいことが、なおのこと刀真には謎めいて思えた。しかし、ジェイダスはその問いかけに答える気はないらしい。
 すると。
「なら……何故イエニチェリは13人なの? 13人である事に何か意味がある?」
 脇に控えていた月夜が、そうジェイダスに詰め寄った。しかし。
「特にはないな。おまえが気に入らないというなら、12人に変えるか?」
 くすくすと人を食った笑みを浮かべ、ジェイダスはそう返した。
 そこへ、ノックの音が響く。
「失礼。……申し訳ないが、緊急の用件でして」
 呼雪からの連絡を受け取った天音が、そう告げた。
「かまわん。客人はお帰りだそうだ」
 ジェイダスはそう言うと、一旦は彼らに背を向けてしまった。もう話すつもりはない、ということだ。
 悔しさを覚えつつも、刀真たちは、退出する他になかった。
「それで、報告とは?」
 背を向けたまま、ジェイダスが尋ねる。
「【シリウスの心】が、見つかりましたよ」
 天音は、口元に笑みを浮かべ、そう告げた。