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パラ実占領計画 第二回/全四回

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パラ実占領計画 第二回/全四回

リアクション

 チーマーとパラ実との争いに後腐れなく決着をつけるにはどうすればいいか。
 頭を悩ませたファトラ・シャクティモーネ(ふぁとら・しゃくてぃもーね)の脳裏に浮かんだのは『種モミの塔』。
 これだと思ったファトラは、すぐさまレンのもとへ走った。
「種モミの塔の最上階に、レンと良雄のどちらが早く到達できるか。これで勝負としませんか?」
 やや息を切らせてレンの前に到着したファトラの提案に、レンは「タイマンか」とニヤリとする。
 しかし、それを聞いた舎弟達から猛反対の声があがった。
「おいおい、この派手にしたダンプどうしてくれんだよ」
「生意気なパラ実生共を霊柩車にぶち込んでやろうと思ったのに……」
「クレーン車で振り回して太平洋に飛ばす計画が!」
「ゴミ収集車に詰め込んでやるっすよ!」
 などなど、後はいっせいにわめき散らしているため聞き取れない。
 つまり、リーダーばかり楽しむのはズルイ、と言いたいようだ。
 レンは口を尖らせてブーブー文句を言う舎弟達を見回し、最後にファトラを見てヒョイと肩を竦めてみせた。
「ま、そういうことだ。全面対決でぶっ潰すのみだ!」
 ファトラからすればひどく頭の悪い解決法としか思えないレンの結論に、考えを改めさせてくれる者はいないかと視線を巡らせたが、残念ながらいないようだった。
 彼としては一対一の勝負を通じてレンと良雄が互いに認め合えるようになればいい、と思っていたのだが。
 ため息をつくファトラの周囲で、闘志を燃やすチーマーの雄叫びがあがった。


 戦いは、パラ実イコン部隊の先頭にいた不動 煙(ふどう・けむい)のモヒカン型イコンが、ハスター側のド派手なダンプに岩を投げつけたことで始まった。
 タイヤ部分に岩をぶつけられたダンプは衝撃で横転し、中からチーマーも転がり出てくる。
 所属校のシャンバラ教導団龍雷連隊隊員であると共に、E級四天王でもある煙についてきた舎弟達から歓声が沸きあがった。
 血の気の多い舎弟達をまとめるために呼びかける。
「煙がみんなを守ってあげるから、心配しないで一緒に力を合わせよう!」
(気持ちは真ん中に置いておく。そうすれば裏切られたって心は痛まない)
 かけた言葉とは裏腹なことを思う煙に、根が単純なパラ実生の押忍の声が響いた。
「ダンプ一台転がしたくらいで喜んでるヒマはありませんよ」
 サポートについている古代禁断 復活の書(こだいきんだん・ふっかつのしょ)の声に、煙は敵の位置を尋ねた。
 舎弟がいるぞ四天王だ!
 そんな怒鳴り声が聞こえた。
「やっぱり来たね〜」
 苦笑する煙に復活の書は不敵に笑う。
「そうだな……でも倒せない相手じゃないだろ」
「だよねぇ〜。一生懸命がんばってチーマー大駆除しようか」
 お供しますよ、と言う復活の書に、煙は気合を入れ直す。
 そんな彼女に復活の書は言い聞かせるように言った。
「無茶はしない。一人で何でもできると思わない。OK?」
 気合と一緒に肩にも力が入っていた煙から、すっと余計な力が抜けた。
「わかったよぅ」
 見透かされたような気まずさをごまかすような煙に、復活の書は気づかないふりをした。
 そして、先ほど捉えた大型トラックと正面から力比べとなる。
 しかしそれは長くは続かず、煙が指示した通り舎弟達が棍棒でトラックを袋叩きにしていった。
 そのすぐ傍で金属同士がぶつかりあう耳障りな音が響く。
 モニターには鉄骨でブルドーザーをへこませたリーゼント型イコン。どうやら死角から接近していたようだ。
 そのイコンを操縦しているのは、同じシャンバラ教導団員のゾリア・グリンウォーター(ぞりあ・ぐりんうぉーたー)
 そしてゾリアにブルドーザーを潰すよう告げたのはザミエリア・グリンウォーター(ざみえりあ・ぐりんうぉーたー)だった。
 イコン操縦席でゾリアはいまだに疑問に思っている。
「何がどうしてこうなったにょろ……」
 パラ実の抗争に参加していることではなく、このイコンのデザインについての疑問だ。
 リーゼント型にモヒカン型。いかにもパラ実を象徴したようなデザイン。
 ゾリアはあえて前衛的と称した。
 同時に、教導団のイコンは決してこうならないよう団長に奏上しておこう、と決意する。
「お嬢、余計なことは考えるな。車と侮ってるとひっくり返されるぜ」
 サポートにあたっているロビン・グッドフェロー(ろびん・ぐっどふぇろー)の注意にハッとなる。
「その通りでした。行きますよ!」
 工事現場からかっぱらってきた鉄骨をブゥンと唸らせ、働く車のタイヤや駆動系を中心に狙っていく。
 イコンに小型車で接近する者をロビンが捉えた。操縦席に直接攻撃をしてくるつもりか。
 ゾリアは小型車が召喚範囲内に接近するとザミエリアをそこに呼んだ。
 いきなり助手席に現れた小柄な悪魔に、チーマーのハンドルは思わぬ方向へ切られる。
 車が横倒しになるのもかまわず、ザミエリアは男を殴って倒した。
 完全にひっくり返った車のドアを蹴破って外に出た彼女は、不機嫌そうに腕組みをする。
「不良の分際で己が拳を信用しないとは……。ツッパれぬ不良など、ただの塵芥以下ですわね」
 不良が武器を使うことがいたくお気に召さない様子のザミエリアだった。
 そんな彼女の気持ちを宥めるようなゾリアの声。
「まあまあザミエリアさん、もう少し付き合ってほしいにょろ」
 仕方ありませんわね、とザミエリアは返した。

 近くにいるせいか、煙とゾリアは自然と協力しあうように働く車と戦っていた。
 それを、戦場を見渡せるような高台から捉えたベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)は、携帯で伊達 藤次郎正宗(だて・とうじろうまさむね)に連絡を入れた。
 ベアトリクスの傍らには郵便配達車両が停まっている。
 一見すると、首領・鬼鳳帝に配達に来たが戦闘中で近寄れず様子を見ている、といったところだ。
 赤い10t級ダンプトラックの屋根の上にいた正宗は、携帯から『潰してほしい二機』を伝えられると運転席の屋代 かげゆ(やしろ・かげゆ)に発車を告げた。
 ようやく来た出番に、かげゆは赤いマフラーの下でニッと笑う。
 そして、目標の二機のパラ実イコンにたどり着くまでの間にある邪魔なパラ実イコンに向けて、思い切りアクセルを踏み込んだ。
 急発進したダンプに驚きながらも、振り落とされずに姿勢を低く保ちながら正宗は一機二機とパラ実イコンが跳ね飛ばされていく様をおもしろそうに眺めている。
「あー……でも、向こうもそれなりに頑丈か」
 すでにダンプの前面部はベコベコだ。
 だが、かげゆが怯む気配はない。
 やっと目標が見えてきた。手前にいるのはリーゼント型イコン。
 かげゆはさらにスピードを上げて突っ込んだ。
 リーゼント型イコンを操るゾリアがすかさず鉄骨で受け止めようとするも、むち打ち症になりそうな衝撃と共に何やら危険な音が操縦席に満ちていく。
 それはかげゆのほうも同様で。
 ロビンは考えるより先にゾリアを小脇に抱えて脱出し、正宗も早々に飛びのく。かげゆも慌てて飛び出した。
 直後、爆音と爆風に彼らの体は押された。
 空中にいた正宗はさらに遠くへ飛ばされ、目標にしていたパラ実イコンより遠くのイコン頭上まで舞い上げられた。
「ま、いいか」
 小さく呟いた正宗の体は、今度は重力に従って落下を始める。
 ドスンッ、とパラ実イコンの頭の上に足を着くと、次の目標を決めて素早く蹴り出す。
 落下されたイコンから慌てたような声があった。
 軽身功をふるに使って次々と飛び移る正宗を捕まえようと、金棒を振り回すが──。
「あ」
 そのうち一機のパラ実イコンの金棒が煙のイコンにクリティカルヒットしてしまった。
 煙と復活の書は、慌てず騒がずしかし迅速に脱出する。
 先にイコンを失っていたゾリアとロビン、ザミエリアが煙と復活の書をとりあえずの安全な場所へ避難させた。
 脱出の時に作ったみんなの擦り傷を復活の書がヒールで癒していく。
「あんな打撃で壊れるとは、本当に脆いですね……」
 何とも言えない表情の復活の書。
 すっかり傷もよくなったゾリアは、彼に礼を言うと威圧するように迫ってくるタンクローリーをキッと睨み据えた。
「もう一度行くですよ!」
 止める間もなく戦場へ駆け出した。
 生身で突撃するのはあまりにも無謀な行動だが、ロビンもザミエリアもやる気になってゾリアの後を追いかけていく。
 煙が何か言おうとした時、暴走救急車が二人目掛けて突っ込んでくるのに気がついた。
 復活の書が唱えた光術により運転を誤らせたことで二人は難を逃れた。
 ゾリア達はどうしたか、と煙が戦場を探すと、先ほど目に入ったタンクローリーが爆発を起こす。
 イコンに攻撃を受けていた様子もないので、ゾリアが何かしたとしか思えない。
 煙の思った通り、タンクローリーはゾリアの破壊工作によって爆破されたのだが、その本人はロビンの腕の中で目を回していた。
「ちょっとキツかったか? ま、余計な巻き添え食う前に離れるぞ」
「では、わたくしについてきてくださいね」
 ザミエリアがもっとも危険の少ない道を見出し、ロビンを導いた。

 ベアトリクスの郵便配達車両、かげゆの10t級ダンプトラック、そして支倉 遥(はせくら・はるか)の大型ショベルカー。
 全て赤色で統一されていた。
 遥はこれを『赤備え』と呼んでそろえた。
 その遥はレンの傍で護衛をしている。
 脆い作りのパラ実イコンとはいえ、8mもある機械兵器と大型車両や重機がぶつかり合い、爆発するたびに爆風と共に砂塵が流れてくる。
 戦いの行方を見守っていたレンが、思い出したように遥に問いかけた。
「今日は真っ向勝負なのか?」
「まぁな。キミらはオレが思っていた以上に結束が強く、真面目に店舗経営をしていた。だから、オレもたまには真面目な労働もいいかと思ってな」
「たまにはかよ」
 おもしろそうに笑うレン。
 が、次の遥の問いには笑いも引っ込み、間が抜けた表情となる。
「……なぁ、レンって実は演歌が好きだったりするのか?」
 どこからどんな理由でそんな疑問がわいたのか。
 レンの脳みそはフリーズしかけた。
 しかしパラ実イコンのひしゃげた音で我に返ると、問いへの疑問を考えるのは後にしてひとまず答えることにする。
「嫌いじゃない」
 唐突な遥の問いに疑問やら戸惑いやらを覚えていたのはレンだけではない。
 ミゲルもだ。
 だが、彼はあえて口を挟まず携帯でチーマーに指示を飛ばすことに専念する。
 パタン、と携帯を閉じた時、
「少しよいか?」
 と、声をかけられた。
 髪が青く痩身の男性、クトゥルフ崇拝の書・ルルイエテキスト(くとぅるふすうはいのしょ・るるいえてきすと)がいた。
 その表情から何か気にかかることがあるのだとわかる。
 ミゲルが話を促すと、ルルイエは池袋にいた少年達がいったい何を呼び出そうとしていたのかと、真面目な顔で聞いてきた。
「万が一ではあるが、彼らが本物のハスターを呼び出そうとしていたのであった場合、我が神の良雄ことクトゥルフとの抗争にでもなれば、文化だの経済だのと言えない状況になるのだ。──それこそ、無しか残らない」
「その少年達の目的としていたものについてはわかりませんが……たとえ、いかなる敵が来ようとも私達の正義の刃の前にことごとく膝を着くことでしょう」
 ルルイエの話に引きずられたのか、ミゲルはすっかり正義の騎士の気分になっていた。
 今の彼にはパラ実イコンが魑魅魍魎に見えている。
 ルルイエもルルイエでそんなミゲルをこれっぽっちも疑問に思っていないようだ。
 そんなファンタジーな話など知らんとばかりに無視して、清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)は後方で見守っているだけのヤクザ達に近づいた。
 ヤクザ達はゆったりと歩み寄ってくる青白磁にサングラスの奥から警戒の眼差しを向けながらも、敵対姿勢は見せない。
 ある程度接近したところで青白磁は足を止めて口を開いた。
「……のう、お主ら強いんじゃろ?」
 ヤクザ達は何も返さないが、それは青白磁という人物を見極めようとしているふうにも感じられる。
 答えがないことに特に気を悪くした素振りも見せず、青白磁は続けた。
「わからないのは、蓮田レン個人にお主らがついておるっつー理由じゃ」
「……大切な坊ちゃんですから」
 ようやく得た返事は、ごく短いものだった。
 そうか、と頷いた青白磁の視線は何となく騎沙良 詩穂(きさら・しほ)へと向いた。彼女は待機中のチーマーに話しかけていた。
 チーマーの中にも四十八星華のファンがいて、さらに自身のファンもいると知った詩穂は、彼らのことを知りたいと思った。
 詩穂を目の前にしたとたん、すごい勢いで十数人のファンが仲間を押し退けて現れた。そしてあっという間に囲まれたかと思うと、ここは危ないから安全なところへ、と担ぎ出そうとするではないか。
 まさに口を挟む間もなく運び出されようとしたところに無理矢理口を挟んだ詩穂は、どうにかその場に留まることができた。戦ってもいないのに息切れしそうだ。
「詩穂のことは大丈夫だよ」
 安心していいよ、とにっこりしてみせた詩穂は、軽く咳払いすると彼らに聞いてみたかったことを口にした。
「みんなは面白いことが好きだって言ってたけど、昔はどんなことをして遊んでたの?」
「ガキの頃か? 普通だよな、ゲームしたりゲームしたりゲームしたり」
 勉強とは無縁だったと言いたいようだ。
「じゃあ、やってみたいこととか、夢とか、なりたい職業とか……えと、形にしたいこととか何かあった? 詩穂は今でもあるよ。叶えてみたい夢とか、やってみたいこと、それは時に挫折や足枷になるかもしれないけれど……」
「そりゃあるさ。今はリーダーと一緒にパラ実をシメる! 地上も空も俺達が制覇してやるぜ!」
 オオオオーッ! と、あがる雄叫び。
 その勢いに、彼らとの和解なんてできるかな、と詩穂は考え込んでしまうのだった。