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パラ実占領計画 第二回/全四回

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パラ実占領計画 第二回/全四回

リアクション

 船は慎重に島を回り、ひと目につかなさそうな岩場に停船した。
 光学迷彩で姿を消した竜司は、秋月 葵(あきづき・あおい)羽高 魅世瑠(はだか・みせる)伏見 明子(ふしみ・めいこ)らと共に四天王救出のため潜入することにした。
 一方、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)春夏秋冬 真菜華(ひととせ・まなか)テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)は正面から乗り込むつもりだ。

 基地正面口には、チーマーとは雰囲気の違う見張りが何人かいた。全員しっかり武装しているところから、単なる溜まり場ではないと思われる。
「そんじゃ……いくか」
 前回『四天王狩り狩り』の勝負に勝ち、プロテインを手に入れたラルクの機嫌は良い。
 彼は神速を使って一番近い見張りの前に一瞬で移動すると、鳩尾を打って倒した。
 その音に気づいた他の見張り達へは、しびれ粉を振りまく。
 呻き声をあげ、しびれにより動きの鈍った彼らを、一人だけ残してあっという間に全員気絶させてしまった。
 残された一人には、テノーリオが銃を突きつけている。
「歯ごたえのねぇ奴らだな」
「けど、これできっと俺達の存在はバレたな」
 テノーリオはそう言うが、声に不安はない。
「来たら倒せばいい。それに、あいつらも入りやすくなるだろ」
 ラルクの言うあいつらとは、裏口からの潜入に向かった者達のことだ。
 そしてラルクは見張りに近づくと、捕まえた四天王の居場所を聞いた。
「聞いてどうする、助けにでも来たのか? ……はたしてアンタらのところに戻るかねぇ」
「どういう意味だ?」
 気色ばむラルクを見張りは嘲笑う。
「そのままの意味だよ。目先の欲にとらわれがちなあいつらは、俺達の兵隊となるのさ」
「四天王達に何かしているんだな?」
 表情を険しくさせたのはテノーリオも同じだった。突きつけた銃をグッと押し込んでしまう。
 見張りは一瞬怯えたように肩を震わせたが、態度を改める気はないようだ。口元には人を不愉快にさせる嫌な笑みが浮かんでいる。
 ラルクは見張りの胸元を掴んで引き寄せると、気迫たっぷりに凄んでみせた。
「で、どこにいる? もしお前の言うように変わり果ててたら、後輩らにも腐った根性の治療が必要だからな」
 その迫力に、命惜しさから見張りは案内の要請に応じることにした。

 人質をとったも同然なラルク達だったが、敵は関係なく攻撃してきた。
 銃弾を逃れるため、狭い通路に飛び込む。
「仲間を見殺しにしてでもここを守りたいわけか」
 何て奴らだ、と苦くこぼすテノーリオ。
 ラルクは見張りにここから先の道筋を尋ねた。
「道がわかってりゃお前に用はねぇ」
「ハッ、とんだお人好しだ」
「このまま盾にして進んでもいいんだぜ? 代わりはいくらでもいる」
 ラルクの本気の目に、見張りは息を飲み道順を教えた。
「じゃあな」
 ニッと笑ってラルクは見張りを気絶させた。
 背中から撃たれてはかなわない。
 ラルクは深呼吸をすると、再び神速を用い、軽身功で壁や天井をも自在に駆けて敵を翻弄して倒していった。
 戦闘はできる限り避けたかったテノーリオだが、ラルク一人に戦わせておくわけにもいかず、トマスと頷き合うと援護に回った。
 ラルクの背を狙う者には、真菜華の銃が確実に足を潰す。
「こっちだ、しっかり着いて来いよ!」
 警報が鳴り響く中、走り出すラルクにテノーリオ達も駆け出した。

 ラルク達が動き出すのを見計らい、ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)も行動を起こす。
 混戦に乗じてラルク達とは別の通路へ駆け込んだ。
 追っ手は来ていないか、ウィングの背を守るファティ・クラーヴィス(ふぁてぃ・くらーう゛ぃす)ルータリア・エランドクレイブ(るーたりあ・えらんどくれいぶ)が気を配りながら後に続く。
 ラルク達に警備のほとんどが向かったのか、ウィングの前に敵はほぼ現れなかった。
 たまに非戦闘員らしき者と出くわし、相手が驚いているうちにヒプノシスで眠らせてやり過ごすくらいだ。
 そうしてたどり着いたのは小さく声が漏れてくる扉の前だった。
 ファティとルータリアに視線で見張りを頼むと、ウィングは扉に耳を近づけて中の声を探る。
「──寺院はキミ達のようなエリートを求めています!」
(寺院? 鏖殺寺院か?)
 寺院と聞いてとっさに思い浮かぶのは、毎度お騒がせの鏖殺寺院だ。
 ウィングは耳に意識を集中させた。

 室内は薄暗く、半円形に並べられた座席に四天王達が座り、真ん中で鏖殺寺院の男が誘うように語っている。ほのかな香のかおりと低く流れるBGM。
(突き落とされた先が鏖殺寺院の基地とはな……。しかも何だこれ、洗脳か? 洗脳なのか? 誰がやられるかっつーの)
 夢野 久(ゆめの・ひさし)がイライラとそんなことを考えていると、前列の四天王達から感心するようなため息が聞こえてきた。
 今まで決して言われることのなかった『エリート』の言葉、将来の高額所得の約束。
 できそこないだのろくでなしだの言われ続けてきた彼らには、とても魅力的な言葉の数々だ。次々に降ってくる賛辞に酔っていた。
「キミ達以外の誰があのイコンを動かせるというのでしょうか? 選ばれた者にしかその才は与えられないのです。キミ達に代わりなどいないのです」
 久の隣では佐野 豊実(さの・とよみ)がうつむいてあくびを噛み殺していた。
 離れた席には、ロア・ワイルドマン(ろあ・わいるどまん)レオパル ドン子(れおぱる・どんこ)の姿も見える。
 ここからどうやって抜け出すか、と久は算段をつけ始めた。

 扉に張り付いているのは、ウィングだけではなくなっていた。
 裏口から潜入してきた羽高魅世瑠、伏見明子、レヴィ・アガリアレプト(れう゛ぃ・あがりあれぷと)の姿が増えている。
 正面組が派手にやってくれたおかげで、ここにたどり着くのにさほど危険はなかった。
 先導は魅世瑠が殺気看破や超感覚を駆使して努めた。
 四天王がこの基地のどこかに集められているなら、戦闘で殺気立っている方向ではなく、人の気配の多いところから確かめていけばいいと判断したのだ。
 途中、いかにも何かありそうな、重低音の響く倉庫のような建物の前を通り過ぎたりもしたが、四天王救出を優先した。
 そうしてこの部屋を見つけたのだった。
「みんな話しに気が取られてるみてぇだな」
「ええ……」
 声を抑えた魅世瑠の呟きに明子が同意し、横のレヴィを肘でつつく。
 意図を察したレヴィが諦観のこもった表情で「はいはい」と頷き、ドアノブに鍵はかかっているか罠はないかと調べ始めた。
 結局、罠なんかなく、ふつうの鍵がついているだけのドアノブだった。扉の見た目は鉄製の重々しいものなのだが。
 しかし、解除する直前、扉の向こうが突然騒がしくなった。
 何か硬いものがぶつかり合う音、怒鳴り声に叫び声。
 喧嘩でもしているかのようだ。
 魅世瑠達に緊張が走った。
 レヴィが鍵を開け、扉を開け放つと真っ先に刀を抜いた魅世瑠が飛び込んでいく。
「仲間を返してもらうぜ!」
 扉付近にいた寺院兵らしき男を倒して声を張り上げると、久とロアが助けが来たことに勢いづいた。
 中央で洗脳教育を行っていた男が四天王達に呼びかける。
「帰ってどうするのです、また不毛な日々に戻るのですか? それよりも私達と共に来たほうが、あなた方の恩人に充分な礼ができることはこれまでのお話でわかっていただけていますよね?」
 彼の言葉に心が傾き始めていた数人の四天王達が揺らぐ。
「彼らはあなた方の栄達を邪魔しようとしているのですよ。抜け駆けは許さないというわけです。あなた方の幸せを壊そうとしているのですよ!」
「やかましいわ!」
 と、ロアが男に飛び蹴りを食らわせて昏倒させた。
「みんな聞いてくれ!」
 ロアは迷う四天王達に大声で呼びかける。
「俺もレン相手に無様に負けた身だ、力不足だった、情けねぇ限りだ! だが、このまま渋谷なんかに占領されるのを黙って見ているのは嫌だ! 向こうにはヤクザモンもいる」
 そこでいったん言葉を区切ると、彼はガバッと勢い良く膝を着いて深く頭を下げた。いわゆる土下座だ。
「身勝手な言い分だけど、パラ実の意地を見せるために力を貸してください!」
 ロアは必死に頼み込む。
 その叫びは一時的にも喧嘩を止めるほどの気迫があった。
 全員が停止してしまった中、最初に動いたのは久だった。
 まだ微動だにせず頭を下げたままのロアの肩に、ポンと手を置く。
「……先に言われちまった」
 バツが悪そうにそうこぼす。
「次こそ勝ちにいくって気持ちは俺も同じだ。せっかく助けが来たんだ。合流するための手間がはぶけた。まずはここを出る! 俺が引き付けるからお前はみんなを連れて出口に一直線だ。邪魔する奴はぶっ飛ばせ!」
 刹那、けたたましく警報が鳴り響く。
 寺院兵の一人が非常用ボタンを押したらしい。
 魅世瑠が踏みつけていた寺院兵を脇へ転がし、刀を掲げて叫ぶ。
「先導は任せろ! 根性のあるやつはついて来い!」
 振り向かずに走り出した。
 ロアの言葉と姿勢に共感してか、甘い言葉を跳ねつけていた者が動き出す。それから、迷っていた者や半ば以上傾いていた者も。
「後ろは気にするな、俺が守る!」
 最後にロアが力強く宣言して駆けていった。
 部屋に残されたのは、倒された寺院兵らと久に豊実、明子とレヴィ。
「久しいわね夢野先輩」
 明子の挨拶で久は初めて彼女がここにいることに気がついた。
 二人は中学時の先輩後輩という関係だ。
「おまっ……何でこんなとこに」
「それはこっちのセリフよ。転校して、久しぶりに苦み走った昔馴染みに会おうと思ったら、太平洋に放り込まれたって聞いて……。それも鏖殺寺院の基地だなんて。何があったの?」
 呆れと心配の入り混じった明子の質問に、久は苦々しげに首領・鬼鳳帝やチーマーのこと、戦って負けたことなどを話した。
 その話の途中、久が現パラ実の総長であることを知った明子は、目も口もポカンとあけて固まってしまった。
「……おい、大丈夫か?」
「そ、総長? ……ええと、ドッキリ?」
「ドッキリじゃねぇよ。そんなことより行くぞ」
 敵を引き付けると言ったのだ。
 久は武器がないことに内心舌打ちしつつ、それなら拳でやるまでだと走り出した。
 魅世瑠やロア達は寺院兵が到着する前に離れることができたのか、戦っているような音は聞こえてこない。
 代わりに久が彼らと出くわした。
「パラ実総長……逃がさんぞ! 素直に配下にならないというなら、無理矢理言うこと聞かせるしかないな……!」
「自分の意志で来ればいいものを」
「どんな理由で行ってもお前らの道具だろ」
 吐き棄てるように返す久に、寺院兵達はいやらしく笑った。
 その彼らの前に、ずいっと進み出る明子。
「怪我人に手ェ出すってンなら、私の盾を抜いてからにしなさいこの三下共!」
 魔道銃で狙いをつけ、ラスターエスクードで久達を隠す。
 久がミゲルとの戦いで負った怪我がまだ癒えていないことに気づいていたようだ。
 三下呼ばわりされた寺院兵は、笑みを引っ込めて明子に剣呑な目を向ける。
「お前、脳改造決定だな」
 彼らの一人が無表情にそう告げた。
 銃口が一斉に向けられる。
 豊実が龍騎士のコピスで疾風突きを放って正面の寺院兵を倒し、明子は銃撃に備えて持てる限りの防御スキルを使った。
 豊実の頭上を越えてアウタナの戦輪が飛び、寺院兵を撹乱していく。
 どこから応援が、と戦輪が飛んできたほうを見れば、ウィングだった。残っていたようだ。
 ファティのアシッドミストで寺院兵達が苦しんでいる間に、ルータリアが「こちらだ」と逃げ道を示した。
 待て、と追いかけて来ようとする者を明子の魔道銃が打ち抜く。
 そのまま明子は殿につき、ルータリアとウィングを先頭にいまだ警報の鳴る通路を駆ける。
 先ほどの寺院兵から連絡が行ったのか、またすぐに敵が立ちふさがった。
 危うく挟み撃ちにされそうになりながらも切り抜けた時、豊実が久にどこかで見たような武器を放った。
「ガメてきた」
「……なんだろう、腹立つ武器だな」
 次の寺院兵の一団と対峙した時、久はそれがミゲルが使っていた武器と酷似していることに気がついた。

 一方、魅世瑠達は。
 途中までは順調に進んでいたが……。
「まずい、囲まれる……!」
 魅世瑠はもっとも人の気配の小さいほうを目指した。
 ロアも銃を抜き、背後に気をつけながら後を追う。
 ついに対面してしまった寺院兵を突破するべく戦っている時、豊実とレヴィが追いついてきた。
「囲まれる前に突破するぞ!」
 魅世瑠の声が追いついた仲間達に届いた。
 寺院兵もせっかくの手駒になりそうな連中を逃がすものか、と必死だった。また、この基地のことが外に知らされることも恐れたのだろう。
 完全に混戦状態になり、気がつけばパラ実生達はバラバラになってしまっていた。
 魅世瑠と豊実、それからレオパル ドン子(れおぱる・どんこ)と数人の四天王達は、乱闘の場からどうにか脱出して、今はずいぶん静かな通路に出ていた。
 とりあえず少し休むため、彼らは手近な一室に身を隠す。
 室内は誰もおらず、書類やCDがテーブルの上に散乱していた。
 何気なく紙を手に取って見た魅世瑠の目が、ハッと見開かれる。
「これは……!」
 その声に気づいた豊実とドン子が近づいてきて、魅世瑠の手元を覗きこみ同様に息を飲んだ。
 他の書類も手当たり次第にざっと目を通してみてわかったのは、日本の犯罪者の一部と鏖殺寺院が繋がっている、という事実だった。
 ドン子は部屋にデスクトップが一台あるのを見つけると、電源を入れる。
「あっ……」
 データを持って帰ってしまおうと思ったはいいが、パスワードを要求されてしまった。
「この書類だけでもちょうだいしてしまおう」
「そうですね、そうしましょう」
 豊実の言葉にドン子は電源を落とすと、逃げるのに支障がない程度を抱えた。
「追っ手が来ないようなら動力炉あたりに行ってぶっ壊してやろうぜ」
 ニヤリとして言う魅世瑠に、豊実もドン子も、四天王達も同じように笑ってみせた。

 はぐれた久にロア、明子とレヴィは、倒した寺院兵を点々と残しながら基地内を逃げ回っていた。
 後から後から現れる敵勢にいい加減体力ももたなくなってきた頃だ、味方に会えたのは。魅世瑠達ではなかったが。
「やっと見つけた!」
 ラルク達だ。
 聞き出した部屋に着いてみればもぬけの殻で、慌てて探しに走ったらしい。
「このまま船に行くのは危険だ。もっと減らすか撒くかしないと!」
 トマスの言うことはもっともだった。
 パラ実OBの漁船に敵勢もとろとも帰れば、戦闘のどさくさに壊されてしまうだろう。
 真菜華もそれに同意する。
「それに、ドン子達がどこにいるのかも問題だしな」
 ロアの懸念も重要なことだ。置いていくことなどできない。
 もう少しがんばるか、と彼らは気合を入れた。