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冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/全3回)

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冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/全3回)

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第4章 割れた仮面・その3



 まさかのおっぱいぽろりん。
 キャンペーンの大ボスにあるまじき前代未聞の失態である。
 それはともかくとして、そろそろシリアスに戻さないと、シナリオが空中分解してしまいそうなので全力で戻す。
 続いて、西側ロイヤルガードの葛葉 翔(くずのは・しょう)がガルーダの前に立ちはだかった。
「噂には聞いていたが本当に仮面を付けてるんだな……、悪いが正体を暴かせてもらうぜ!」
「ほう……、大した自信だな」
 グレートソードを構え、翔は闘志を燃やす。
「翔クン、今日はやる気十分だね」
 パートナーの全身鎧少女アリア・フォンブラウン(ありあ・ふぉんぶらうん)が言った。
「ああ、漫画で仮面の女は男に素顔を見られたら、その男を愛するか殺すってのを読んだばかりなんだ」
「……は?」
「つまり、あの仮面を割ればあいつは俺に惚れるってことになるだろ。俺が見たところ、ああいうタイプは自分より強い奴が居ないと思っているパターンだ、そういう奴は自分を負かした相手に惚れるってのが相場なんだぜ」
「あの何言ってるのか、全然わかんない……ううん、と言うかなんでそんなにテンション高いの?」
 自分で尋ねながら、ふと、その理由に思い当たる。
 ま、まさか……、電車に長い間乗ったから旅行気分でテンションあがってるの!?
 不安になる彼女とは対照的に、翔は笑顔で親指をおっ立てた。
「テンション高いか、つまり絶好調ってことだな!」
「ちょっと待って、このままだと完全に殺されるパターンのほうになっちゃうって……ああ!」
 話も早々にガルーダに向かって行ってしまった。
 男は黙って正面突破、そんな背中に女は惚れる……、巨大なグレートソードを軽々と肩に担ぎ突撃を仕掛ける。
「うおおおおお! ガルーダ、うちに嫁いできやがれーっ!!」
「ナラカの障気にでもあてられたのか、小僧?」
 その拳がカッと灼熱したかと思うと、渦巻く炎を放射した。
 直撃を目前にして、ディフェンスシフトで身を固めたアリアが、ライチャスシールドで翔を守る。
 しかしながら、その勢いは激しくもういくばくも盾は持たない。
「お願い、もうすこしもって……」
 片手を盾から放し魔力を集中する。光術で視界を奪えれば、きっと翔がなんとかしてくれるハズ。
 だが、その行動自体をガルーダに予測されていた。
「無駄なことを……、未来を見通す『天眼』の能力の前には貴様らの小細工など用をなさん」
 不意に接近したガルーダは手刀でバターのように盾を両断、驚愕するアリアを薙ぎ払いで吹き飛ばす。
 翔はギリギリと歯を噛み締めグレートソードを振りかぶる。
「この鬼嫁がーっ!!」
 絶叫する彼の姿に周囲の仲間は、これがロイヤルガードか……、と一目置いたとか置いてないとか。
 バーストダッシュで間合いを詰め、仮面の破壊を狙うが……しかし、回避されてしまった。
「正面から突っ込んでくるとは良い度胸だが……、受けるがいい『業火奈落掌』!」
 攻撃を外して隙が生じたその胸に掌底を叩き込む。
 インパクトと同時に爆発を引き起こす魔拳、翔を紫炎に包まれ吹き飛ばされた。
「うわああああ!!」


 ◇◇◇


「大丈夫ですか!」
「おい、しっかりしろ!」
 風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)風祭 隼人(かざまつり・はやと)の兄弟が倒れた翔の元に駆寄る。
 くすぶっていた炎を消すと、腹部の装甲が痛々しく剥離したヴァンガードスーツが露になった。
「うぐぐ……、ま、まだ……!」
「火傷が酷いんだ、あまり動かないほうがいい」
 隼人はそう言うと、パートナーのアイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)を呼んだ。
 傷口に手をかざしヒールを施すが、ここでは応急処置を施すのが精一杯である。
「これでしばらくは大丈夫だと思うけど、たぶん腫れの具合から肋骨が数本、内蔵も痛めてると思う……」
「早く列車に運んだほうが良さそうだな。あと、ついでにさっき全裸で燃やされた政敏の奴も回収しないと」
「その提案には賛成です。どうも雲行きが怪しくなってきました」
 諸葛亮 孔明(しょかつりょう・こうめい)は言った。
 その視線の先では、辛うじてスーパーモンキーズが支えていた戦線が崩壊しつつあった。ガルーダ側の死人戦士が防衛網を破ってこちら側に突出してきている。手の空いた仲間が迎撃をしているがそう長くは持たないだろう。
「迅速な対応が必要ですね……。優斗殿と隼人殿、それからホウ統殿はガルーダの足止めをお願いします。アイナ殿は彼を連れてナラカエクスプレスに避難をしてください。こちらに来る死人戦士は私と総司殿で対応致します」
「賢明な判断だと思います」
「あまり議論している時間もないようですしね」
 ホウ統 士元と優斗は言った。
「総司殿も異論ありませんか?」
「天下の諸葛亮孔明の提言ならそうしたほうがいいでしょう。無論、私もお供させて頂きます」
 そう言って、沖田 総司(おきた・そうじ)は引き連れてきた武者人形に眼を配る。
 戦力はガルーダ勢のほうが圧倒的、武者人形の助力があっても、そう多くの時間は稼げないだろう。
「無茶はしないでね、隼人」
 翔に肩を貸すアイナは心配そうに言った。
「わかってるって……、ルミーナさんを見つけ出すまでは倒れるわけにいかないからな……!」


 ◇◇◇


「次から次へと……、随分と手厚い歓迎だな」
 風祭兄弟とホウ統を前にして、ガルーダは不敵に呟いた。
 最初に動いたのはホウ統だ。
 戦いの始まりを告げる雷術で牽制を行う。
 相手がこちらの動きを読むと言うのなら、逆にそこから相手の動きを計算することも可能だ。ガルーダがこちらの攻撃を読んで回避をするのならば、攻撃角度を調整することである程度相手の回避方向をコントロール出来るのだ。
 ただ、それには連続した攻撃が必要である。
「私の精神力ではあと5発が限界ですね。その間に彼らが決めてくれればいいのですが……」
 そう言ったあと小声で、君たちも頼りにしていますよ、と呟く。
 後ろ手に隠した小人の鞄に視線を落とすと、小人達がよじよじと鞄から出発していくのが見えた。
 一方、前衛を務めるのは優斗と隼人である。
 優斗は近接戦闘でガルーダに貼り付き、隼人がやや下がり兄の隙を補うように銃撃で支援する連携だ。
「はああああっ!」
 優斗は聖剣エクスカリバーを構え斬り掛かる。
 威力重視の強撃ではなく、連撃重視の立ち回りで、ピッタリとガルーダの眼前を維持して離れない。
 先読みをするガルーダに対し、二人は『読めていても回避出来なければいい』と考えた。
「こちらの手数がガルーダが物理的にさばき切れる限界を上回れば、彼女を撃破することは可能なはずです……!」
 ホウ統の繰り出す雷撃を回避し。
 五月雨の如く打ち込まれる優斗の斬撃を回避し。
 反撃に転じようと攻撃をする刹那を、隼人の光条兵器グリントライフルによる銃撃で撃ち砕く。
「そうか……、すこしは頭の回る奴がいるようだな……!」
 ガルーダも自分が置かれている状況を理解したようだ。
 すると、これまで回避に専念していた彼女が、突然、優斗のエクスカリバーを素手で白羽取りした。
 動きの止まったガルーダを稲妻が打ち、グリントライフルの光弾が仮面を直撃する。
 焼かれた白い肩に血が溢れ、仮面に大きく亀裂が走るも、それでも平然と優斗を睨み付けている。
「な、何の真似です……?」
「貴様らが連携で来るなら一つ一つ確実に潰さねばならんだろう。多少手傷を負ったとしてもな……!」
 そう言って、業火奈落掌を叩き込む。
 ドォンと言う爆発音と共に、優斗の身体は紫炎を伴って空を舞った。


 ◇◇◇


「ゆ……、優斗!」
 隼人は叫んだ。
 そして、宙空に残った炎の中から、悠然とガルーダが姿を見せる。
 その時、仮面に走った亀裂が蜘蛛の巣のように広がり、とうとう異貌の面が二つに割れた。
「あ、あんたは……!?」
 邪悪に歪んだ素顔が隼人の目に飛び込む。
 ゆるやかに波打つ髪は白く、殺気を抱く瞳は炎のように赤い……、些細な相違点はあるものの、その顔を隼人はよく知っている。守護天使の長と呼ばれ、ある日忽然と姿を消した【ルミーナ・レバレッジ】その人だった。
 銃を構える手に汗が滲む。
「うすうす気付いちゃいたんだ……。彼女が消え、現れたのは同じ六枚の翼を持つ奈落人……、話が繋がる」
「なるほど。奴からあてがわれた肉体だったが……、これで色々と納得がいった。正体を知られぬよう顔を隠せと言っていたが、貴様らの知り合いだったとはな。どうやら素性が知られると奴にとっては面倒なことになるらしい」
「……だろうな。これで俺はその身体を取り戻さなくちゃならなくなった」
「それが出来ればいいがな」
 不意に、ガルーダは炎で周囲を薙ぎ払った。
 パラパラと消し炭になって降ってくるのは、先ほどホウ統が放った小人たちである。
 どうやら黒幕の正体を探ろうと、彼女の持つ携帯電話を狙っていたようだ。
「しくじりましたか……」
 ホウ統は唇を噛む。
 基本的に小人は単純な行動しか出来ない、ガルーダに気付かれずこっそり近付くなど不可能である。
「小賢しい真似をする……!」
 指揮を執るように再び腕を振るうと、高速の火弾がホウ統を吹き飛ばした。
「がは……!!」
「ほ、ホウ統……! くそ、やめろ!」
 しかし彼女は不敵に笑う。
「どうする気だ、この身体は知り合いなんだろう? オレを攻撃すればこの娘も傷付く、どうやって止める?」
「そ、それは……」