天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/全3回)

リアクション公開中!

冥界急行ナラカエクスプレス(第2回/全3回)

リアクション


第3章 再会・その2



 ニコニコ労働センターの裏手門にゾンビ馬の引く馬車が到着する。
 数名の供回りを引き連れ、【タクシャカ・ナーガラージャ】が社屋から姿を現した。
 そのすぐ後ろに、しましまの囚人服を着させられ、後ろ手に縛られた御神楽環菜が連れられてくる。
「ハヌマーンの奴め……、役に立たないだけならまだしも寝返るとはな、やはり所詮は野卑な野猿じゃ」
「如何致しましょう?」
「殺せ。どうせ遅かれ早かれ奴とガルーダは始末する予定じゃ、多少予定が繰り上がっても問題あるまい」
 一時的に結託しているとは言え、戦乱に生きる奈落人の血は押さえることが出来ない。タクシャカにとって今回の件は覇権を握るための通過点でしかない。ハヌマーンもガルーダも踏み台に過ぎない、どうせいづれは邪魔になる。
 黒幕との取引は環菜の処理に関するもの、終われば借り染めの同盟が崩壊することを彼女は知っている。
「それにしても……、現世の連中の行動が迅速過ぎる。誰か手引きしているものがおるのかのぅ」
「偵察隊の報告では青い髪の女がナラカエクスプレスを管理しているらしい、とのことです」
「ふむ、現世の者か……、あるいはこちら側の人間かもしれぬな……」
 そう言って、部下に指示を出し無理矢理に環菜を馬車に押し込ませる。
「それはおいおい調べよう。まずはこやつの移送が先じゃ」
「何故……、すぐに始末しないの?」
 環菜は言った。
「わらわとてそうしたい。しかし、依頼主がおぬしの頭の中にあるものを欲しがっておる。デイトレード……とか言うたか、わらわには価値がわからんが優れた才能のようじゃな。おぬしを始末するのはそれを解析してからになる」
「私の才能……?」
 タクシャカも馬車に乗り込むと出発の命令を出す。
 御者が手綱を握ったその時、目の前に突如瀬島 壮太(せじま・そうた)が現れた。
 環菜移送の報を聞いた彼は隠れ身で潜伏し、先制攻撃を叩き込むチャンスをずっと窺っていたのである。
「な、なんだ貴様は……?」
「てめーらに答える名前は持っちゃいねーよ」
 栄光の刀を翻し斬撃一閃、峰打ちで御者は転がり落ちた。
「御神楽ァ! すぐに助けてやっから待ってろよ!」
「おのれ曲者。わらわの馬車からすぐに降りよ。さもなくば四肢を裂いて魚の餌にするぞ」
「やれるもんならやってみろ、蛇女! よくもうちの校長に好き勝手してくれやがったなっ!!」
 元ヤン臭あふるる鬼眼でメンチを切る。
 しかしながら、ナラカの指定暴力団員こと、奈落人タクシャカも同じく鬼眼で睨み返す。
 火花散るガンの付け合いをしてる間に、壮太の相棒ミミ・マリー(みみ・まりー)が背後に回り込む。
「これでもくらえ!」
 ライトニングランスのひと突きで蛇女の尻にプスリ。
 ビビビと全身を突き抜ける電撃に感電し、ほぎゃあああと耳をつんざくような悲鳴を上げた。


 ◇◇◇


「よ、よくも……! おい、死人戦士は何をしておる! 曲者ぞ、即刻首を刎ねい!」
 ヒステリックに怒鳴った瞬間、死人戦士は頭上を飛び越えて、馬車の屋根に豪快に叩き付けられた。
 見れば規格GUYジェイコブ・ヴォルティ(じぇいこぶ・う゛ぉるてぃ)が死人戦士を相手に大立ち回りをしてるではないか。
 傍らでは、パートナーの筋肉ジジイ金剛寺 重蔵(こんごうじ・じゅうぞう)も大暴れをしている。
「校長ー! 助けに来たぞーっ!!」
「ほれほれ死人ども、戦うか逃げるかハッキリせぇ! 迷ってるようではわしらにゃ勝てんぞ!」
 身長3メートルのジェイコブと身長が8メートルの重蔵、立ち並ぶ様はなんだか新宿都庁を思わせる。
 二人が乱発する轟雷閃で周囲に稲妻がほとばしる。
「この間のデカブツか……」
 ギョロリと目を見開くと、タクシャカはみるみるジェイコブの姿に変貌を遂げた。
 コピーした栄光の刀を抜き払うと、爆炎波を繰り出して飛び交う電撃に対抗する。
 しかしその前に、虎人間ユウガ・ミネギシ(ゆうが・みねぎし)の駆る小型飛空艇が割り込んだ。なにやらしまりのない顔をしてるのは、後部に乗るリーズ・マックイーン(りーず・まっくいーん)の二つの丘陵が当たってる所為に他ならない。
「ぐへへへ……、パイパイがひとつ、パイパイがふたつ……」
「あのー、ユウガさん。ヨダレを垂らしてないでそこで止まってくださいな」
 世間ずれの激しい彼女は、彼が何故ヘブン状態なのか、イマイチよくわかっていなかった。
 そして、飛空艇から飛び降りる。
 ディフェンスシフトで味方の守りを固めるや、今度はファイアプロテクトで飛んでくる炎を弾く。
「おおっと……!?」
 パイパイの加護を失い正気を取り戻し、忘れそうになっていた環菜救出に向かう。
 超感覚で神経を研ぎすませ環菜の位置を見つけると、軽身功の軽やかさでタクシャカを飛び越える大ジャンプ。
 馬車の屋根もひしゃげる着地を決め、環菜を助けにいく。
「カンナ無事か!?」
「さっきまではね……」
 ユウガの着地の衝撃で床に転がっていた。
「おっとすまねぇな。今縄を解いて……。いやその前に、本物のカンナかキッスをして確かめないと……」
「あなたとそんなことをした記憶はないけど?」
「マジでか! 奇遇だな、オレにもねぇんだ! だからこれが二人の初キッス……!」
 完全に頭がおかしい。
 その時、丸太のような腕がユウガの首をガッチリとロックした。
「し、しまった……」
「わらわの馬車で何をやっておるか、この助平虎がっ!」
 鬼神力を使ったスリーパーホールドで締め上げると、ユウガはぶくぶくと泡を吹いて気を失った。
 それから、タクシャカは馬車の御者台に自ら座り手綱を握りしめる。
 死人戦士と小競り合いをしていたミミは不穏な動きにいち早く気付いた。
「た、大変だ……、タクシャカの奴、御神楽さんを連れて逃げる気だよ」
「そりゃヤバイな……。でも手を貸して欲しいんなら、悪いが他を当たってくれ……」
 雷嫌いの荘太は飛び交う轟雷閃に怖くなってしまったのだろう、頭を抱えて全身全霊で地面に伏せている。
 パートナーとしてはちょっと呆れてものも言えない。
「なんでジェイコブの奴轟雷閃しか使わねぇんだよー。無理無理……、立ち上がったら絶対当たるって」
 ダメだこいつ……早くなんとかしないと。
 しょうがないのでミミは単身タクシャカに挑む。
 幻槍モノケロスに再びライトニングランスを纏い、今にも走り出しそうな馬車に突撃する。
「御神楽さんを返して!」
「む……、さっきの小童ではないか。よくもわらわに槍なんぞ突き立ててくれよったな……!」
 敵意たっぷりにそう言うと、タクシャカはユウガに変貌し、先の先で等活地獄を繰り出した。
 カウンター気味に繰り出された虎の拳は、幼気な守護天使の顔面にクリーンヒット。
 グルグルと目を回し、ミミは倒れた。