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第四師団 コンロン出兵篇(第1回)

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第四師団 コンロン出兵篇(第1回)

リアクション

 
 
「朝霧嬢。貴女とコンロンの夜空を飛ぶことになるとは、光栄に存じますな」
 コンロン上空を行く、レッサーワイバーン二体。その背から、セオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)が語りかける。セオボルトは、クィクモ本隊から内地の調査任務に発った。朝霧は、前の章に見た通り、騎凛セイカを探すべく単独で飛び立ったのだった。
「僕たちもいるよ」垂のパートナーたちもそれぞれの移動手段にワイバーンの周囲に追従している。ライゼは、翼を生やして輝く花嫁衣裳に身を包み、見た目だけはまるで天使だ(見た目だけは!)。
「それから垂は、パンツを穿いてないよ!」これは読者妄想のためのサービスである。
「……」紳士であるセオボルトはそれには触れないでおいた。
「にゃはは。セオボルトのパートナーたちは?」垂の見た目を幼くしたような栞が、垂と同じふうな口調で、セオボルトのワイバーンに箒を寄せて問いかける。
「DA気味になるかと思われたもので、ちょっと置いてきました」
「DA?」※ダブル・アクション。
「代わりに、この飛龍るねっでかるととの信頼を深めようと思いましてな。コンロン山まで二人旅といったところです」
「コンロン山までか……まさか、セイカもそこまでは行ってないだろうが」
 そのとき、前を小型艇ヘリファルテで先行していた夜霧 朔(よぎり・さく)から報告が入った。
「えっ? 何か来ているって?」
「……」
 セオボルトは神経を研ぎ澄ます。辺りは物音なく静かだが。地上は荒野が続いて何者かの潜む気配もない。空か。遥か彼方にはコンロン三山の影が見えている。雲がちらほらとある。他には……
「むう……!」
「な、なんだこの妖気は?」
 二人とも何か感じたようだ。
「垂〜〜」ライゼ、栞がくっついてくる。
 周囲の気温が一気に下がる。異様な気配だ。どこか特別な土地に迷い込んだわけでもない。景色は相変わらずなのだ。
「何が、何が来ている?」
「朝霧嬢。油断なりませぬぞ」
 二人はワイバーンを空で低速で旋回させ、付近の警戒に集中した。朝霧は仕込み竹箒を抜き、セオボルトは槍を構える。
「ふふふ……貴方たち、帝国の龍騎士?」
 闇の中に姿を現した。美しい女性だが、その背には骨の翼に赤い影の皮膜を張っている、おぞましい姿である。
「強いのかしら。楽しめるといいな?」
 その手には魔弾が浮かんでいる。攻撃的な姿勢である。
「ま、待て。俺たちは帝国の龍騎士ではない」
「あら女の子? なんだ、乗っているのはワイバーンなのね」
 朝霧は説明する。龍騎士を狙っているのか? しかし、教導団の味方というべき者ともとても思えない様相だ。
「失礼ですが貴女は。自分どもとは、決して敵対する者同士ではないと認識いたしますが。申し遅れました、自分はセオボルト・フィッツジェラルド。こちらは朝霧嬢。共に教導団第四師団から調査任務に派遣されておりましてな」
 セオボルトは、あくまで冷静に紳士的に問うた。
「教導団か……。教導団と事を構えるとは、とりあえず聞いてないね。最初の獲物にできるかと思ったのに、ちょっと残念」
 女は不気味なしかし美しい笑みを湛えたまま言う。ごくりと唾を飲む、セオボルト。しかしひとまず争わずには済みそうか。朝霧も胸をなでおろす。
 先行していた夜霧 朔のヘリファルテがこちらへ近付いてきた。
「あれは?」
「あ、ああ。大丈夫。あれは、味方だ」
 と、ヘリファルテの進行を阻むように青い影の翼赤子の髑髏でできた骨の翼が闇の中に現れた。
「あっ」
 ヘリファルテに向かって猛スピードで迫っていく。
「待ちなさい、シーマ、ナコト・オールドワン!」
 女が呼びかけると、二つの翼はヘリファルテにぶつかるかという寸でにかき消えた。それから声だけが響く。
「愛しのマイロード? ここに敵はいませんの」
「早速の鍛錬の機かと思ったのだが……」
 女の周りを、先ほどの二つの翼が旋回する。
「きゃはは、ひーまー。早く、マンハントに行こう?」
 もう一つ、女のすぐ傍で声がした。女の従えているパートナーたちであるらしかった。
「そうね。貴女たち。ではお気を付けて? 私たちの気の荒いときに出会ったら撃墜しちゃうかもしれないけど……ふふ」
「きゃはは!」
 女は翼を広げるとコンロンの東の空へと急速度で飛び去っていった。
 やがて、辺りの温度が戻ってくる。
「何だったのだ。しかし、恐ろしい……」
「ああ。戦いたくはない相手だな。あいつら、コンロンで一体何を。厄介なことにならなければいいが……」
 ヘリファルテがゆっくりと近付いてきて、夜霧朔が中から顔を出す。
「垂。この先に、廃都群があります……」
「よし、俺たちはその辺りを探す。セオボルト、ここでお別れだな。ありがとう」
「え、ええ」
「さっきのは俺も恐かった。セオボルトが冷静に対応してくれなかったら、突っ走ってたかもな」
「そうですか。自分もさすがに恐かったですけどね。心細いですが、ではここで。朝霧嬢、どうかお気を付けて。行くぞるねっでかると! はぁ!」