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第四師団 コンロン出兵篇(第1回)

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第四師団 コンロン出兵篇(第1回)

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 千代と同じく調査班として内地に入った道明寺 玲(どうみょうじ・れい)は、ミロクシャ東岸の郊外まで来ていた。千代がすでに付近を占める新勢力と直に接触していたとは知らない。
 一軒の酒場に入った道明寺。付近の勢力や旧軍閥についての情報を集めようと考えていた。
 そしてどこと敵対することになるにせよ、彼らの大義を見極めねばなるまい、と。
「茶は心を癒しますな」
 茶を求める旅人を装う道明寺。とは言え茶は道明寺の嗜みなのできちんと味わうことも忘れないのだが。
 客らは皆、薄汚れた衣服を身にまとい、旧都で暴れる新勢力である夜盗らを避け郊外で暮らす者たちらしい。
 そこへ入ってきた甲冑姿。その紋章は……
「龍騎士か?」
 いきなり、帝国の龍騎士と接触することになったか。
 道明寺は、内心の動揺を抑えつつ平静を装い、茶を啜る。
 三人の龍騎士は店主に声をかけ、甲冑のまま、テーブルの一つに腰かけた。
「変わりはないか」
「……ええ、まあ。とくには」
 店主はおどおどと答え、酒を出す。一度こちらをちらりと見た気もするが、旅人は珍しいのだろうか。龍騎士は黙したまま立っており、あやしまれた様子はなかった。
 しかし、この辺りにも帝国が介入し、龍騎士団が巡回しているということだろうか。
 その上で夜盗どもがのさばっているのなら、帝国は夜盗らに肩入れしているか黙認しているのか。
「ん?」
 ぱくぱく。ぱくぱく。「何だこの音は……」道明寺の隣では、緊迫感の中、平然と饅頭を食い続けるイルマ・スターリング(いるま・すたーりんぐ)。「イルマ」「もが! もが!」「しっ。静かにするのです……!」「ぱくぱく。ぱくぱく」「〜〜……」
 龍騎士らがこちらを見ている。陰気な店の中で、明らかに目立つ挙動だった。「くっ、……まずいか」
 しかし龍騎士らはとくに関心もないといったふうに、各々の酒に手を戻した。
 するとイルマは何を思ったか、
「あれ、麿にも二つ宜しくどすな」
 龍騎士の手に取る盃を指して、店主に言った。
「イ、イルマ……」
「はあ。しかし」
 店主はブツブツ呟きながら、店の奥に行く。
「ははは。坊や。これはジュースじゃない。ミロク酒は坊やにはきつすぎるぞ」
 龍騎士の一人が言った。こちらに背を向けたままの一人だ。もう一人が笑い、残りの一人は黙したままだった。
「なんだ。おいしい飲み物じゃなかったどすかぁ。ほわほわ〜」
 龍騎士らはイルマを相手にする様子もなく、しばらくして飲み終えると、立ち上がった。
「こんな土地に美味い酒は残っていて幸いだ。行くぞ」
「旅人か。この地にあまり留まらぬことだな」
 さきの一人が帰りがけ声をかけてきた。
「え、ええ。何か、この辺りであるのでしょうかね?」
 龍騎士は立ったまま応えない。店主の方に顔を向けてみると、邪魔臭そうな視線を返されただけであった。
「行くぞ」
 龍騎士らは立ち去っていった。外で飛龍の羽ばたきがする。