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静香サーキュレーション(第3回/全3回)

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静香サーキュレーション(第3回/全3回)

リアクション



【◎2―1・開始】

 2020年12月23日。
 百合園女学院は今日も華やかで賑やかな空間を保っている。
 祝日であろうと、冬休みであろうと、生徒達はこの場を訪れ楽しく話し合い、クリスマスや年末年始の話題に忙しい様子だった。
 特に食堂は、昼食時であるということもあったが、いつにも増して騒がしく姦しく淑女の嗜みを満喫している。
 そうした空気の中トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)と、ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)は食事を終えて困り果てていた。
「今回でとうとう、食堂のランチメニュー制覇しちゃったな」
「そうね、ターニャ。これからどうする? いっそスイーツメニューにも挑戦する?」
 トマスは女装しているため、ターニャと名乗っているのだが。
 今は女性の振る舞いをするのも忘れて、強めにテーブルを叩く。
「じゃなくってさ。いい加減、教導団の学食が恋しくなってきたって話だよ。そりゃ、ここのご飯はおいしいし、おかげでテーブルマナーも上達したよ。でもやっぱり僕には、上品な学食ってのは口に合わないみたいだ」
 ナイフとフォークを空になった皿の上に置き、嘆息するトマス。
 それからトレイを返しに行く最中も、食堂を後にしてからも、どうしたものかと話し、やはり事態の解決に動くべきかという流れになっていったところで。とある人物がふたりの視界に入ってきた。
「あれ? あれはどこかで見かけた……あ! 大久保くんだ! 大久保くんだろ?」
 それは、オリーブグリーンの制帽と上下という、毛沢東時代の人民解放軍スタイルの女装をしている大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)フランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)だった。
 呼びかけられた泰輔は慌てて走ってきて。
「しーっ! ここでは泰子って呼んでや。ちゃんと女として振舞っとるんやから」
「ああ、悪い悪い。それにしても、泰子は意外と女装似合ってるな」
「『泰子は』? あれ、僕は?」
「……それはそれとして」
「あれ? 聞こえてない? ねえ、僕は?」
「またループが起きてるよな」
 女装がビミョーなフランツに関してはスルーし、強引に本題に入るトマス。
「ああ、そのことやけど。実はさっき校長はんに会ってきてやな……」
 泰輔も話題に乗って、回想の話を始めた。

 一時間ほど前。
 泰輔とフランツは、昨日までのバイトの件について話すため校長室を訪れたのだが。
「こんにちは、校長はん」「先日はどうも失礼しました、本当に」
 ラズィーヤと何やら話し合っていた静香は、わずかにきょとんとして。
「あ、うん。こ、こんにちは」
 どもりながら営業スマイルみたいな表情を浮かべ、とってつけたような挨拶をしていた。
「……? 校長はん、どうかしましたん?」
「もしかして、昨日のことがそんなに気に障りましたか?」
「え? いや、別に。ごめん今ちょっと忙しいから、用があるなら後でね」
 ろくに話もできぬままやんわりと出て行かされることになったふたりは、どうにも違和感をおぼえずにはいられなかった。
「泰子。今のどう思います?」
「どうもこうも、なんかヘンやったなぁ」
 首を傾げる泰輔に、フランツはこっくりと深く頷いて。
「僕は目が悪い分、鼻と耳はいいんです。においもなんだか違うし、ことばの抑揚が違う。なにより僕が口説いたのにも心当たりなさそうでしたしね」
「またなんか、ややこしいことになっとるんかもな」
「芸術家としての霊感もそう言ってる、『おまえは、おまえではない』と」
「……それはようわからんけど、ちょっと色々調べてみよか」

「――ってなことがあってやな。それからあちこちでひそひそ交わされてる噂話聞いたら、昨日のループは校長はんが守られるだけの立場から変わったから、一日が進んだらしいんやわ」
「それで、今回のループは、あの明らかに違う校長をなんとかすれば、抜け出せるんじゃないかと思うんです」
 泰輔とフランツの話を聞いていたトマス達は、けっこう衝撃だったようで軽く目を丸くさせていた。
「なるほどね。校長先生か……僕は、以前オペラ鑑賞のときにお世話になったくらいだけど。優しい方だったのは、よく覚えてる」
「それで、その校長先生は偽物なのよね。だとしたら、本物はどこに……?」
「偽物の校長は、本物の校長をどうしようとするだろう? まさか抹殺、とか」
「ちょっとターニャ、怖いこと言わないで」
 しかし言いながらミカエラも、まったくあり得ない話でないと考え寒気がした。
 泰輔達も同様なのか、わずかに顔色を悪くさせており。そうした重い空気を払拭させるべく、四人は話を続けていく。
「どないな具合かはわからんけど、別人が校長はんにすり替わってるんやったら『本物の桜井静香』はんは、困ってるやろなぁ」と、泰輔。
「とにかく今は無事を祈り、そして一刻も早く事態を解決する必要があります」と、フランツ。
「ああ。偽物の校長が今の百合園を仕切っているなら、シャンバラの治安を預かる教導団の一員としても、放っておけないな。なにか手を打たないと」と、トマス。
「ええ、そうね。それでみんなは、具体的にはどうするつもり?」と、ミカエラ
「僕としてはとにかく偽校長の命令を邪魔するのに専念していれば、多分本物の為になるはずだと思うけど」
 そしてまたトマスが発言すると、泰輔が顎に手をやりながら、むぅと唸り。
「なにするにしても四人だけやと厳しいやろな。よっしゃ、僕らはもうちょい校長はん助けたいモン集めて連携取ってみるわ。手ぇは多い方がええからな」
「わかった。それじゃあ僕たちは先に本物の校長を探しておく。ターゲットにされる人物を守るのが、最優先だからな」
「それじゃあターニャ、急いで探しにいきましょう。泰子さんたちも、ご協力感謝します。お互いに頑張りましょう」
 ふたりはそう言って、頷きあい走り始めた。あてこそないが、まずは行動あるのみだとばかりに。
「幸運を」
 最後にミカエラは振り返りながら告げ、去っていった。
 残されたふたりも、行動を開始しようとしたが。
「あ、そうや。困ってんのん助けたら、今回のオマエの講師のバイト代、上積みしてくれはるかもしれへんなぁ」
 その前に泰輔がポンと手を叩いて思い出したように、
「年末年始は何かと物入りやし、ちょっとでも収入アップしたら、こっちも助かる! 静香はんも僕らも、両方助かるっちゅうのは、ちょっとええんとちゃうか? 関係ないけど、誕生日お揃いやねん。お揃いでハッピーになるんもええやろ」
 次々言いながらなんかテンションあがっていた。
「確かにいいですけど、その話は後にしましょうよ。今は校長先生のことに集中しましょう。それに今にして思えば、傍にいたラズィーヤ様のことも気がかりです」
「そらそうやな。で、ラズィーヤはんやけど……ちょっと耳かしぃ」
 ひそひそとフランツは泰輔からの作戦を聞くうち「え! タイプと違う……」とか言いながらちょっと顔色を悪くさせていたりした。