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イルミンスールの日常~新たな冒険の胎動~

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イルミンスールの日常~新たな冒険の胎動~
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リアクション

 
「アーデルハイトさん、『マジックチャージャー』と『マジックミラージュ』のセットは可能かしら?」
「う、うむ……可能じゃが、おそらく同時に発動させればあっという間にエネルギーを使い果たすと思うぞ?」
「具体的にはどのくらいですか?」
「その組み合わせに関してはデータを取得しておらんからのう。レライア、可能ならデータをまとめてくれんかのう。
 稼働限界を把握しておくことは、他の生徒にとっても大切じゃろうて」
「はい、分かりました」
 
 アーデルハイトに頼んで、『アルマイン・シュネー』に近接兵装の一つ、短時間ながら超加速を得る『マジックチャージャー』と、狙撃兵装の一つ、自らの姿を隠す『マジックミラージュ』を積み、泡とレライアが乗り込む。
「……各箇所問題ありません。早速同時起動を試してみますか、泡?」
 水晶に触れ、各箇所の状態を示す立体映像をレライアが注視する。アーデルハイトの見立てでは、チャージャーの持続時間が十数秒、ミラージュの持続時間が数十秒とのことで、両方を同時に発動させれば、持って数秒であろうとのことであった。
「そうね、まずは片方ずつ、どのような挙動を示すか見てみましょ」
「分かりました。……今日もよろしくね、シュネー」
 自ら命名した機体に微笑みかけ、レライアが制御に従事する。
「まずは、マジックチャージャーの超短期かつ連続使用、行くわよ!」
 ふわり、と浮き上がったシュネーが、羽をキン、と強く発光させたと同時、通常の倍近い速度で上昇する。中の二人はそれにより、多少は軽減されつつも浮き上がるような感覚を受ける。
 次にシュネーは斜め上に、やはり加速をつけて移動する。さらに斜め下への超加速をしたところで、背中装備の魔力残量を示す立体映像から警告が発される。
「嘘! 一回にせいぜい一、二秒しか使用してないのに!?」
「見たところ、発動時に一定の魔力量を消費するようです。発動の際に魔力量ががくっ、と減るのが確認できました」
 その後の使用により、『発動時に容量の約三割を消費、その後一定のペースで減っていき、十数秒で解除』というデータを取ることが出来た。マジックミラージュについても、『発動時に容量の約二割を消費、その後一定のペースで減っていき、数十秒で解除』というデータを取ることが出来た。
「この二つのデータから、両方使用の際は発動時に容量の約五割消費、持って数秒という予想が導けますね。
 超ババ様の見立ては概ね正しかったようです」
「うーん……となると、使い方が限られてくるわね……」
 泡は当初、二つの装備の超短期&連続使用で、残像を残して移動することによる撹乱を狙っていた。が、連続での同時使用はせいぜい一度きり(時間が経てばまた使用可能になるが)と分かった以上、その使用法は実現不可能だ。
「……やりようによっては、テレポートをしたように出来ませんか? 消えると同時に高速移動で相手の死角に移動して、そこからチャージャーの連続使用で……」
 レライアの発言は思い付きであったが、それならば一度の容量で実現可能な(一回目の移動で容量の七割以下であれば)戦法でもありそうであった。
「オッケー、それは実際に試してみましょ」
 泡が呟いた先、白組の同じ近接装備の機体が接近していた。
 
「……なるほど、ようやく操縦にも慣れてきました。
 (前に進むイメージを抱きながら、右手に持ったソードを振りかぶって……斬る!)」
 
 水晶に触れる司のイメージ通り、一行の乗るブレイバーが前方に飛び進みながら、右手に持ったソードを振りかぶって斬りつける。
「よかったわね、慣れるまで待ってる間にやられなくて♪」
「まったくです……それに、周りの方も色々と試している感じですね」
 前方に映し出される周囲の光景は、二組に分かれて配置されたアルマインが、積極的にぶつかり合うわけでもなく上下左右に飛んだり、装備した武器の性能を測っているような動作を見せていた。
「しかし、てっきり篝里くんはマギウスを選ぶとばかり思っていましたが」
「あら、そう見える? アタシ、こう見えても結構器用な方なの。剣も結構得意なのよん♪
 ……それに、司ちゃんみたいにヘタレじゃないから、器用であっても器用貧乏じゃないしね☆」
 篝里のいたずらっぽい微笑に、司がはぁ、とため息をつく。
「む、顔が似てる分篝里くんにヘタレと言われると、自分自身に言われている様で微妙ですね……」
「うふふ♪ っと、そういえば精霊を乗せてればその属性に特化させられるって話だけど、どうなるのかしらぁ。試してみたらどぉ?」
「……あぁ、属性特化ですか。確かにそのような話も有りましたね。では、それも試してみましょうか?」
 司の言葉を受けて、篝里が水晶に触れ、イメージを膨らませる。するとブレイバーの周囲から闇が吹き出し、雲のようにまとわりついた。これでカラーリングを黒色系にすれば、暗所に紛れられるかもしれない。
「……むぅ」
 その時、ウォーデンが目を覚ます。寝ぼけ眼で左右を見つめ、ハッ、と目を見開く。
「っておぃ、我は何故此処に居る!?
 我はニーズヘッグのヤツに色々と聞こうと思って居ったのに、どうしてくれるっ!?」
「あら、ウォーデンちゃんやっと起きたの?」
 憤慨するウォーデンに篝里が、ウォーデンを拉致ったのが自分であることを棚に上げ、言葉を掛ける。
「……えぇ〜い、こうなったら自棄じゃ、やってやるわっ!
 ちょうど敵が接近しとるようじゃしな!」
 ウォーデンの言葉に司が前方を見ると、確かに一機のブレイバーが接近してくる。
「じ、実践ですか……とりあえず相手の攻撃を避け続け、隙を見てマジックチャージャーでの超加速による反撃、という形でいいでしょうか?」
「いいんじゃないかしらぁ? ……あら、でも相手の機体、武器持ってないっぽいわよ」
 篝里の言う通り、見れば確かに、相手の機体は丸腰である。
「えーと、じゃあとりあえず、撃ってみましょうか? (……左手に持ったシールドに内蔵したマジックショットを、目の前のブレイバーに向けて撃つ……!)」
 司のイメージ通り、ブレイバーが左手に持ったマジックシールド、そこに内蔵されていたマジックショットを放つ。
 
 飛んできたショットを、シュネーが上に飛んで避ける。
(そう、これはあくまで訓練……だけど、私たちは今、もしかしたら自らの手に余る物を使っているのかもしれない)
 心に思う泡、確かに、アルマインの行使する手段は、同性能の機体に対してでさえ十分な痛手を与える程。つまり、それより小さくか弱い、人間に行使されれば、圧倒的な力と化す。
 それはともすれば、容易に暴力へと変貌しかねない危険性を孕んでいた。
(でも、これ以上の力を以てエリュシオン帝国が攻めてくるというのならば、その脅威に抵抗するためにも……
 仲間や街の人々を守るためにも、私はこの力を借りて戦うしかない)
 自分が暴力を使用しないからといって、相手が暴力を使用しない保証はない。相手の暴力から自分を、自分の大切なモノを守るためには、相応の力がいる。
(だけど、力は奪うためにあるんじゃない……守るためにあるものだから!)
 決して曲げない、曲げたくない意思を泡が胸に抱く――。
 
「むぅ、相手もやるの。
 のぅ司、ここは思い切り近付いてのショット連射など、どうじゃ?
 リスクを負う戦法こそ奇策、じゃ♪」
 そう提案するウォーデンを見遣り、頷くと同時に司がぽつり、と思ったことを口にする。
「……そういえば最近のウォーデンくんは、本当にただの子供のようですね……。
 契約したての頃はもう少し落ち着いて居たような気もしますが……」
「な、なんじゃと!? 誰が子供じゃ誰がっ!?
 其れではまるで、我が幼児退行している様ではないかッッ!!」
「な、なんだってー、幼児退行ですって!?
 あぁ、其れは……大変ですね、ウォーデンくん……」
「違うと言うとるじゃろがッ!!
 そう言うツカサこそ最近では、ヘタレキャラが板に付いて来ているではないか……なんと情けない……」
 言い争いを繰り広げる司とウォーデンを見遣り、篝里があらあら、と息を吐く。
(どっちもどっちよねぇ……)
 
 相手の機体がショットを撃ちながら、距離を詰めようとする。隙を見てチャージャーを起動させ、ソードの一撃を見舞う腹積もりのようであった。
「どうしますか、泡?」
「そうね……あえてその意図に乗ってあげるわ!」
 言い放ち、ショットを避けたところで、わざと隙を見せるべく、シュネーに背を向けさせる。
 
 ショットを避けたブレイバーが、制御を誤ったらしく背を向けてしまうのが見えた。
「ほれ、今じゃ、行け!」
「(マジックチャージャー、起動!)」
 ウォーデンの言う通りに司がチャージャーを起動させ、いつでもショットを撃てる姿勢でブレイバーに迫る。
 
(ソードじゃなくてショットの攻撃!?)
 ソードによる攻撃と思っていた泡が一瞬動揺するが、することに変わりはない。
「(マジックチャージャー、マジックミラージュ同時起動……お願い、上手く行って!)」
 レライアの想いが通じたかは定かではないが、シュネーは周りの風景に溶け込むように消えると同時に、上空へと超加速する。
 
「……え? あれ?」
 ショットの斉射に移ろうとした司は、撃つべき相手が目の前から消え、呆然と周囲を見渡す。
「何をしとる、上じゃ!」
 ウォーデンの警告は、しかし後の祭りであった。上空へと飛んだブレイバーがチャージャーを起動させ、超加速で司の機体の背後へと回り込み……背中をトン、と押すように腕で触れた。
 
「……レライア、今のでどのくらい?」
「ギリギリです。後一秒も長く持たせられませんね」
 レライアの返答に、そっか、と泡が呟く。
「じゃあ、エネルギーの続く限り、この移動に慣れましょ。使いこなせれば大きな武器になると思うし」
「ええ」
 ……そして、二人は機体が稼働限界を迎えるギリギリまで機体の操作に習熟し、後にレライアから得られたデータはアーデルハイトに渡され、生徒たちにも共有されることになるのであった。