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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第2回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第2回

リアクション


間奏曲 〜Intermezzo〜


 ――2015年。


「噂はかねがね耳にしている」
 白い軍服を着た女性が、声を発した。
 彼女の両脇には二人の男。向かい合うのは、三組の男女である。
「フランス外人部隊契約者連隊所属、イズミ・サトーだ。よろしく頼む」
「F.R.A.G.のグエナ・ダールトンだ」
「さて、早速だが本題に入ろう」
 イズミと名乗った女性が真剣な眼差しをグエナに向ける。
「レバノンにおけるクーデター鎮圧のため、F.R.A.G.の力を貸して欲しい」
「無論、そのつもりでここに来ている」
「ただ、その前にちょっといいかしら?」
 少女の面影を残した女性が、イズミに問う。
「フランスが外人部隊を、しかも『契約者連隊』を投入するってことは、只事ではないと思ってね。その辺りの事情を説明してもらいたんだけど」
「来年でレバノン侵攻から十年が経つ。街の再建も進み、来年の万博開催に向けて、ちょうど各国の要人が視察に訪れているところだ」
 そこに今回のクーデター、というわけである。
「……要人の救出、及び新政権樹立の組織が目的か」
 グエナが声を漏らした。
「厄介なことに、クーデターを起こしたのは『契約者』ときたものだ。ただの人間では、到底歯が立たない。そこで、我々が必要となったというわけだ」
「大体状況は分かったわ。エヴァン、あなたからは何か聞くことある?」
「どうして契約者がクーデターを起こしたんだ?」
 エヴァンと呼ばれた若い男が口を開く。
「契約者はただの人間より優れた存在だと主張し、契約者による独裁政権を目論んでいる」
 しばしの間、沈黙が訪れる。
「まだ主要施設が占拠されている程度で、犠牲者はいない。だが、そのうちにただの人間を『劣等種』として無差別に殺しかねない。首謀者は、そういう人物だ。なんとしてでも、そういった事態は防がなければならない」
「ああ」
「では、作戦の説明に入る――」

* * *


 F.R.A.G.の代表者達との会合を終え、イズミたち外人部隊とF.R.A.G.が顔合わせすることになった。
 その途中、
「子供……?」
 ふと、十歳前後の少女の姿が目に入る。
「おう、お嬢ちゃん。こんなところでどうしたんだ?」
「えっと……迷子になっちゃって」
「迷子? そもそも、なぜ軍の施設にいる?」
「イズミ、そんな目つきで睨むな。ああ、別にオレたちゃ別におっかねぇ人じゃない」
「デイヴ、お前じゃ説得力がないぞ」
 そこへ、先程のエヴァン、と呼ばれた男が駆けてくる。
「ヴェロニカ!」
「兄さん!」
 この男の妹か?
「まったく、勝手に動くなって言っただろ」
「ごめんなさい……」
「おっとイズミさん、だっけか。こいつも実はF.R.A.G.の一員なんだ」
「その子も契約者なのか?」
「いんや、オレ達の中で唯一の一般人だ。まあ……色々あってな」
「安心しろ、詮索する気はない」
「助かるぜ」
 F.R.A.G.のメンバーが様々な事情を抱えているだろうことは、察しがつく。彼らの若さで傭兵をしているというのは、それ以外に選ぶ道がなかったからだろう。
「どうした?」
 ヴェロニカとエヴァンの二人をじっと見つめる同僚に気付く。
 しかし、彼女の問いに応えるより早く、もう一人の男が声を発した。
「シン、同情してやるな。そりゃあ、失礼ってもんだぜ」
「デイヴ、同情しているわけじゃない。ただ……いや、なんでもない」
 視線を二人から背け、ぽつりと彼が呟いた。
「兄妹、それに仲間、か……」
「オレ達軍人の仲間意識と違って、あいつらは本当に家族みたいなもんなんだろうよ。まあ、オレは嫌いじゃないぜ、そういうのも」
「……そうだな」
 
 後に天御柱学院のパイロット科長となり、成長したヴェロニカと再会することになるだろうとは、このときのイズミには知る由もなかった。