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第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

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第四師団 コンロン出兵篇(最終回)

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「あの、帝様?」
 ナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)が呼びかける。
「大丈夫、ですか……? 心配なさらないでくださいね。きっと、騎凛先生たちが」
 帝を乗せた、ボーローキョーを離れる馬車の中。他には、帝の世話役と思われる老人と老婆が暗い面持ちで隅に座っているのみ。
 呼びかけたナナをどこかすがるように見る、まだあどけない帝の瞳だ。こんなに幼いのに、夜盗に住居を追われ、多くの財や家臣を奪われ、今また命を狙われ……
「あっ」
 帝が、ナナに抱きついてくる。
「あ、帝様。……(い、いいのかな。私のような一メイドに……?)」ナナはちょっと戸惑うが、傍らの老人老婆はやはり暗い面持ちで下を向いているばかりだ。
 帝は少し震えている。泣いているのか?
「帝様……」無理もない、ですよね。こんな境遇で…… ! ?
「帝様?」帝様がギュッと抱きついてくるので、ナナのメイド服がちょっとだけはだけ、セクシーな下着(ルースからの贈り物だが)がチラリッと見えた。
「あっ。あの帝様……」帝は震えている。泣いているの、ですよね? ……わざとやってませんよね。うん。無理もないですよね……こんな状況だもの。今だけは、仕方ないです。……
 馬車の外は、残る帝の家臣や、龍雷連隊の兵たちがしっかりと守っている。
 さき、空を大きな翼がよぎったときは緊張が高まったが、こちらには気付かず真っ直ぐに反対方向へ飛んでいった。龍騎士だったのか。あるいは味方であったのか、判別は付かず見送ることしかできなかったが……
「それに、さっきのまばゆい光は何だったのだ? 甲賀様……ご無事で……」
「ミレイユは大丈夫でしょうか?」
「あっ。あれは……前方に何か」
 今度は、行く手の方向に、かすかな砂塵である。帝を守る一行は身構えた。しかしすぐに安堵の表情に変わる。騎狼旗。第四師団の【騎狼部隊】だ。
「率いていらっしゃるのは……あのお方は?」
 それからすぐ。後方にも気配を感じた。今度は嫌な予感。それは現実のものとなる。龍騎士団の増援部隊だ。どこからかしれないが、追ってきたのだ。間違いなくこちらに狙いを定め、馬車の一行に向かい急降下してくる。
 騎狼部隊を指揮する男が手を挙げ号令する。源 鉄心(みなもと・てっしん)だ。あらかじめ戦闘に向け用意されていた照明弾や投射系の武器が降りてくる龍騎士団に投げ込まれる。
「うわっ」眩しい不意打ちにかなりの数の龍騎士がバランスを崩し落下。これをすぐさま捕える。
 鉄心は友軍を速やかに部隊へ回収。「騎狼の速力に任せ、ここを離脱なさってください!」先日の戦闘同様の班編成で、1班・2班を相互支援させつ徐々に後退をさせた。鉄心自身も、サンダークラップで応戦する。
「おのれっ。こんなところでっ。馬車を目前にして……! 行け! あの馬車だ! 帝を殺せっ!」
 頭上で敵の隊長がわめき立てるのを、鉄心は冷ややかに見つめる。戦争に政治的な判断はつきものだろうが、いい大人が寄って集って、子ども一人を殺そうなどとは……見苦しい。だが鉄心は笑顔で、
「敵将殿。そんなに急がなくとも。まぁ、茶でもどうです? 馳走しますよ」そう言いつつ、鉄心はメンタルアサルトをかけた。
「な、何!? ほう貴様が、指揮官か。いいだろう、討ち取ってやる!」
「ははは……」
 槍を得物に急降下してくる龍騎士。さすがに手馴れた動きで味方の矢を軽々と交わしてくる。鉄心は間合いの取り方に慎重を期しつつも、堂々と魔道銃を構える。
「ハッハァ。そのようなものでこの龍騎士ハチヂガが落とせると思うてか。剣を抜いて打ち合う気もないのかァ!」
「俺は打ち合う気は、ありませんがね……」
 龍騎士の背後かなりの至近距離より一閃が走る。撃ち込まれたサイドワインダー。
「ティー」
「もう一つ」続けざま二矢目が龍騎士の飛龍の目を射て乗り手とも地に落下する。鉄心は魔道銃を突きつけた。
「ティー。よくやった!(ほんと見事だ……)」
「無理かもとも思ったけどでも、頑張りました!」ティー・ティー(てぃー・てぃー)は喜んだ。この時点でほぼ勝敗は決した。鉄心は叫ぶ。
「将を捕えた! 退くがいい!!」
 戦場がどよめく。
 しかし、馬車の周囲でそのとき異変が……
「やはり、出ましたね!」
 地中からボコっと現れた暗殺者ノスヂガ・ゾンビ。「俺ダァァ前回ヤラレタのか殺ラレテイナカッタのか、今イチよくわかってもらっていないみたいだったので(一応やられてたんだがだからこそ)ゾンヴィとして!! 灰出てきてやったぜ。覚悟シロ! 帝ッ改めて死ネ!!」
 殺気看破をしており警戒は十分であった。音羽 逢(おとわ・あい)はノスヂガゾンビが襲いかからんとする帝を抱いてバーストダッシュで逃れた。「むう……あの御仁が暗殺者であったとは……。他にも暗殺者が居るやもしれぬと思うて御座ったが、また御仁で御座るか! ゾンビになってまで!」
 帝へ向かってくるノスヂガ・ゾンビの前に、龍雷の高坂 甚九郎(こうさか・じんくろう)伍長、甲賀に取り憑いたコンロンの悪魔メフィス・デーヴィー(めふぃす・でーびー)が立ちはだかる。「とりあえず覚悟を決めるかな……」「可愛がってやろうじゃないか」。高坂は舌切り鋏でノスヂガを襲うが交わされた。暗殺者め出てきたら消し炭に変えてやる――との意気込みでいたメフィスはサンダーブラストで応戦する。「えぇえぃ、ちょこまかとよく動く!」
「雑魚に用はナイ! 帝ッ絶対ニ死ネッ!!」
 帝を抱えバーストダッシュで逃げる音羽に追いすがろうとする。「何としつこいで御座る……!」音羽も致し方なしと短刀を抜くが、
「死ネ死ネ死ネェェェ」迫り来るノスヂガ・ゾンビ。
「そうはさせないよ」
 同じく帝の近辺を警護にあたっていた、ルイーゼ・ホッパー(るいーぜ・ほっぱー)。いつもの軽いノリは消え、表情も真剣そのもの。まるで、別人のようである。そのルイーゼから棒手裏剣が飛ぶ。「……速いね!」「帝ッ何処ダッ! 邪魔スルナ!」ノスヂガは交わし、すぐさま反撃に出る。暗殺者の毒のナイフがルイーゼに迫る。獣化しそれを交わして打ち合う。
「ギャャァァァ」
 獣化ルイーゼは相手の武器を持った手にしっかりと牙を立て齧りついた。取った! しかし次の瞬間、ノスヂガ・ゾンビはもう一方の手刀で自らの手を切り落とし、帝に向かった。「なっ? なんてやつ……!」
「帝ッ確実ニ死ネッ!!!」
「ここは通さぬで御座るよ」
 音羽は面打ちとばかりにさざれ石の短刀で打ちかかるが、
「な、なんと速い……!」ノスヂガ・ゾンビは音羽の手前で太刀を見切り、ほとんど九十度直角に右に逸れて音羽を交わしその背後の帝に迫った。その急速度たるや音羽が振り向いたときにはもう帝の足もとから刃が襲いかかっている。「ヤッタゼ帝死ンダモ同然ンンンン!!!俺ノ勝チァァ」
「うあっ」
 ああ! 帝!! 誰もが帝が暗殺者の毒牙にかかったと思った瞬間、帝の影が血のようにぬるりと蠢きシェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)が飛び出した。帝を護るべく狂血の黒影爪で影に身を潜ませていたのだ。
「ウギャャャャャャ」
 霧隠れの衣で暗殺者の刃を回避したシェイドは、歴戦の必殺術で一瞬に相手の弱点を突き則天去私を心の臓へと打ち込んだ。
「ギャャァ…………」暗殺者は地に崩れ、ただの肉塊となった。
 ウワアー。だ、駄目だ! 上空を旋回していた龍騎兵の残りは全て元来た空へ飛び去っていった。難は去った。勝利だ。
「よくぞボクを護ってくれた。帝であるボク直々に礼を言おうぞ。そち、名は?」
「……シェイド・クレイン。ミレイユ・グリシャムのパートナーです」「同じく、あたしはルイーゼ・ホッパーだよ」
 シェイド、ルイーゼは帝の前に跪き、龍雷や騎狼部隊の兵も皆膝を付いた。
「それから、部隊の指揮官。よくぞ駆けつけてくれた。帝であるボク直々に礼を言おうぞ」
「え……っと、はい。シャンバラ教導団第四師団の騎狼部隊。俺は、臨時で指揮を預かった源 鉄心です。コンロンの帝、お迎えにあがりました。と言ってもひとまずはこのような無骨な騎狼たちですが……クィクモに俺たちの本隊が来ており安全です。すぐ改めての迎えが出るでしょう。そちらへ、ご案内致します」
「ほお。シャンバラ教導団、か……!」
 鉄心は、朝霧らが向かった先……神龍騎士の方はどうなっているのか気にかける。もしかしたら、やられている可能性もある。ゆっくりはできない。とにかく帝をなるたけ遠ざけねば。
「騎狼、かぁ。なかなか興味をそそる顔の、生きものだな?」
「は、はは……それはよかった、いえ、は、はい! では」
「ふむう」「ボーローキョーのメフィスの別荘に寄っていけばいいのにねぇ。あそこも結構安全なんだけど」メフィスと高坂はそう呟き合った。
「あ、また。空を……」
 何か、強大な力を感じる……! 龍騎士ではない。……イコン……?
 

 
 
「駄目か!」「何という。これが神か」「……覚悟を決めるか」
 朝霧、甲賀、風次郎は神龍騎士タズグラフに同時に攻撃を加えた。しかし、とても致命傷には至っていない。
 結局、あれは効果あったのか? 国頭は自らの犯した過ちに問うが。騎凛先生は……
「私の○○○○……」
「いや、あったじゃねえか! あったとも。神を一瞬でも、振り向かせたぞ」
「(何百人?の読者に見られたかしら……)」
「……騎凛先生、そんなにしょげないで」千代は騎凛を慰めた。