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「失礼いたします、ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)です」
 次にラズィーヤの面談室の扉を叩いたのはロザリンドだった。
「私に面談を申し込まれるとは、意外でしたわね」
 ラズィーヤがくすりと笑った。
「てっきり静香さんをご希望されると思っていましたわ」
「そう言われますと、そうかもしれません。今まであまり深くお話したことはなかったので……。ですが、これからのことを考えますと、ラズィーヤさんにお伺いしたいことができましたので」
「進路についてですわね。何を迷っていらっしゃるのかしら?」
「まず、白百合団についてですが……伊藤生徒会長や鈴子団長が辞めるのでしたら、それより年上の私も班長を辞めるべきではないかと考えますが、どうでしょうか? 何より、私が班長らしく上手く動けていたのか、不安でもありますし」
「白百合団については、残念ながらわたくしは仔細は承知しておりませんけれど……百合園生である限りは、辞める必要はないと考えますけれど?
 それに、もしロザリンドさんが班長の役目を果たせていないのでしたら、団長や副団長から指摘があるのではなくて? ないということは、そのままでいいということですわ。任期的にはこれからですし」
 ロザリンドはだが、まだ迷っているようだった。
「今まで戦闘ばかりでしたが……それだけでは足りないのではと思い始めているのです」
「そうですわね、人の上に立つ、ということは、悩みもまた増えるものですわ」
「桜井校長の秘書ないしは、女王に仕える女官といった将来を考えているのですが……、そういったカリキュラムを、これからヴァイシャリーで受けることができるでしょうか? それから、私には適正があるでしょうか」
 ロイヤルガードなのだから、 女王に仕えるという意味では既に目的を達成している。彼女はしかし、武力ではない方法で貴人の支えになることを望み始めていた。
「先程エレンさんにもお伝えしましたけれど、専攻科というものを設置することを検討していますわ。今回の面談で、進学を希望するけれどヴァイシャリーにいたい、という可愛らしい妹達の声が沢山届きましたのよ。
 ですから、もし設置されたら、そこで更に学んでいただくのも宜しいですけれど……どうしてそうお思いに?」
「校長だけではなく、ラズィーヤさんご自身のこともです。生徒会や執行部も頑張ってはいますが、政治的であったり重要な物事はラズィーヤさんが一番頑張っています」
 百合園生として、ラズィーヤには信頼を置いている。けれど、何でもかんでも一人で背負って大変なようにも見えた。
 ラズィーヤの役に立てたら、より百合園のためになれるのではないか……、と、そう思ったのだ。
 それにラズィーヤが倒れたら機能しない百合園にはしたくない。
「お一人では大変なのではないでしょうか。将来的にサポートや意見役といった人を置いたり、そうなってくれそうな人に心当たりがありますか? 個人的には、何人か……心当たりのある方がいますが、そういった方たちを側に置かれるようでしたら、負担も軽くなるのでは、と」
 ロザリンドは、心当たりのある数人の名前を挙げていく。
「お優しいですわね」
 ラズィーヤは微笑をこぼした。
「これはあくまで可能性の話ですけれど。
 伊藤生徒会長は、今まで生徒会だけでなく、わたくし個人のためにも色々と煩雑なことを引き受けてくださっていましたの。ですから会長が望むなら、そのまま個人的に秘書にすることも考えていますし、ロザリンドさんの言うサポート組織、といったものの代表を務めていただく可能性もありますわね」
「サポート組織ですか?」
「個別に動いていただくのもいいですけれど、情報は共有した方が動きやすいでしょう?
 ですから、もしご希望なら静香さんの秘書をしていただいても構いませんけれど……ロザリンドさんの場合は、実際にはそうではなくても、私情と混同すると疑いを招かないように、他の方よりより一層の努力を求められてしまいますわよ?
 それから、静香さんに直接雇われるとお小遣いがピンチでしょうから、私が雇って、という形になるかもしれませんけれど。その周辺のことも、よくご希望を考えておいてくださいね」
「はい」
 ロザリンドは真剣な顔つきで頷いた。