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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第1回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第1回/全2回)
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「……ぐぉ、こ、こいつは確かにキくけどよぉ……飲むならもっとうめぇモン飲みたかったぜ」
「……そうか。それは済まなかった。今度は美味い地酒を送るとしよう」
「あー、気使わせちまったんなら悪ぃ、この酒くれただけで十分嬉しいぜ、ありがとな」
 デューイ・ホプキンス(でゅーい・ほぷきんす)から受け取った薬酒を飲み干し、人の姿のニーズヘッグがふぅ、と息をつく。
「聞いた限りじゃあ、オレらが会ったのはババァの身体借りた大魔王ってヤツみてぇだな。チッ、そいつが分かってりゃ一発デカイの見舞ってやったのによぉ」
 言いつつ、ニーズヘッグが今度はシェイド・クレイン(しぇいど・くれいん)から差し入れられたマカロンを頬張る。色とりどりのマカロンは見た目も楽しませてくれたが、ニーズヘッグにかかればどれも等しく平らげられていく。
「私達の知っているアーデルハイト様は、どの辺りに封じられてしまったのでしょうか?」
「詳しいことは分からねぇけど、少なくともあの樹にはいねぇな。あー、見えてる分だけな」
 シェイドの疑問に、ニーズヘッグが自分が感じたことを告げる。クリフォトの地上に出ている部分と地下に残っている部分とは地理的に繋がっておらず、そして地上に出ている部分には、アーデルハイトの匂いを感じなかった、とニーズヘッグは言った。クリフォトの構造については、そもそもユグドラシルという規格外の世界樹に長年住んでいたこともあって、さほど驚いていないようであった。
「ワタシは、姿が変わってからのアーデルハイト様はアーデルハイト様じゃないって思ってた。
 みんなの話を聞いて、そうみたいってことになって、なら、本当のアーデルハイト様を助けるにはどうしたらいいんだろう……」
 呟きながら、ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)がニーズヘッグに治療を施していた。ミレイユ一行がニーズヘッグに会った時、ニーズヘッグは主に腕と脚に裂傷をいくつも負っていた。聖霊の効果で自身を回復させながらの懸命の治療で、それらの傷は少しずつ小さくなっていた。
「もう十分だぜ、ミレイユ。これ以上続けたらテメェの方がくたばっちまうだろ」
 ニーズヘッグに言われて、ミレイユがかざしていた手を引っ込める。けれど、身体はその場から離れようとしない。シェイドとデューイが気を使ったか、下の様子を見てくると言ってその場を後にする。
「どうすれば、封じられたアーデルハイト様を解放する事が出来るんだろう。
 ニーズヘッグ、アーデルハイト様に会った時、何か感じた? ほんの些細な事でもいい、気付いたことがあったら教えて欲しい」
「オレにゃあちっと分からねぇな。気付いたことも、さっき言ったことくらいだぜ。
 ……まぁ、ババァのことは、チビが大きな役割持ってんのはそれっぽいけどな」
 アーデルハイトのことは、パートナーであるエリザベート如何である。……そうだとしても、何も出来ないというのはなかなかに耐え難い。
「ワタシはもう……帰る場所が無くなるのが嫌なの。ワタシ自身、地球にいた時、家を焼かれて家族を失ってしまったから……。
 破壊を望むとか、そんな事……アーデルハイト様にしてほしくない。もうみんなが傷つくの見たくないの……」
 垂れる頭を目の当たりにして、ニーズヘッグがしかめっ面をして頭を掻く。呻き声が聞こえてきそうな仕草をしばらく繰り返して、ようやく口を開く。
「……出来ることやるしかねぇだろ。見たくない、やりたくないっつったって、見なきゃなんねぇし、やんなきゃなんねぇって時、あんだろうし。
 あー、でもよ、やれっつってるわけじゃねぇぞ? イヤイヤやるのはしんどいだろうしな。だからミレイユ、テメェ自身で決めるしかねぇ。
 ま、手伝える範囲なら、手伝ってやるぜ」
 ミレイユが頭を上げた所で、下から「ニズちゃん、入っていい?」という声が聞こえてくる。涙を滲ませていたミレイユを奮い立たせ、おう、と答えたニーズヘッグに、五月葉 終夏(さつきば・おりが)ニコラ・フラメル(にこら・ふらめる)セオドア・ファルメル(せおどあ・ふぁるめる)が姿を見せる。
「ニズちゃん、怪我の方は大丈夫?」
「あのくらいでくたばるオレじゃねぇぜ。大丈夫だ、気にすんな。
 むしろオレがテメェらの方を気にするくらいだぜ」
 言ってニーズヘッグが、持たされている携帯を開いて、関谷 未憂(せきや・みゆう)から送られたメールを表示させる。そこには、先の戦いにおいて自分はニーズヘッグの契約者として相応しくない行動をしたから、契約を解除して欲しい、という内容が書かれていた。
「確かにな、オレがケガしたのも事実だし、あの場にミユウがいたのも事実だぞ。だけどな、『オレがケガしたのはミユウのせい』ってオレ、言ってねぇだろ。だいだいこんな風に言われて、じゃあわかったぜ、って解除してみろ、何すっか分かんねぇ。だから突っぱねといてやったぞ、ふざけた事抜かしてんじゃねぇ、ってな。……多分、勘違いしてっと思うから、何かフォローしてやってくれ」
 結局その後、未憂がニーズヘッグに姿を見せることはなかった。リン・リーファ(りん・りーふぁ)プリム・フラアリー(ぷりむ・ふらありー)が一緒なら、そう酷いことにはならないと思いてぇな、とニーズヘッグが口にする。
「未憂さん、ニズちゃんのこと凄く心配してたから……。今回もやっぱり、アーデルハイト様の所に向かった生徒がいるみたいなの。もしかしたら未憂さんももう一度、アーデルハイト様の所に向かったかも」
「ったく……ま、もう慣れたぜ、こういうの。ホント人間ってのは、オレの想像の斜め上を行きやがる。
 で、そいつらは今どうしてんだ。……いや、話にあったな、帰って来てるとか」
「うん、そうみたい。だから、今回は大丈夫だったかもしれないけど、この先アーデルハイト様と向かい合う時はまた来るかもしれない。
 ニズちゃんも、また戦いに出る事になるかもしれない」
 終夏の言葉に、まぁそうなるだろうな、とニーズヘッグが答える。
「どう行動すれば、ニズちゃんが動きやすいかな。ニズちゃんが傷ついた時、どこを癒せば治りやすいかな。
 ……私は、ニズちゃんを守りたい。私もそうだし、ニズちゃんの契約者を守るためにも、もっと上手く守れるようになりたいんだ」
 終夏が思いの丈を口にし、そしてその背後では、セオドアが「ねーねーこれなんてどうだろー」と本の一ページを指差し、ニコラが鷹揚に答えつつ、自身の知識が役立ちはしないだろうかと思考に耽っていた。
「あぁ、それなんだがな。オレもテメェらを背に載せて何度か飛んだりしただろ、だけどよ、オレはよくてもテメェらが危険だ。移動する時はよくても、戦いがあった時には、背中より腹側の方がオレにとってもテメェらにとってもいいはずだ。
 ……つうわけで、こんなものを用意してみることにしたぜ」
 言うと、ニーズヘッグの服――といってもこれは、鱗を形状変化させているに過ぎないのだが――が変化し、前面だけがレスキュージャケットのような形になる。
「オレが竜形態になった時、ここは腹側になる。テメェらにはそこに入ってもらって、んで、もしここが攻撃食らって傷ついたりしたら、テメェらの出番だ。テメェらが治療するのは腹側だけでいい。どの生物もだいたい腹が弱ぇ、そこをテメェらが癒してくれるってんなら、オレが最も助かるぜ」
「ふむ、確かに理屈は分かるが……そうするとなると、些か背中側に隙が生まれるのではないか?
 それに、遠距離からの攻撃に対応しきれない。前は背中から全方位を警戒できたが、その案では回復しか出来ないぞ」
 ニコラの指摘に、セオドアもそうだねぇ、と頷く。
「今回のオレは、ちったぁ違うぜ? テメェの言ったことはちゃんと考えてあらぁ」
 ふふん、と胸を張って言うニーズヘッグへ、皆の視線が向く。
「やっぱ、竜には騎士、ってヤツだ」