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なし

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―
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リアクション

「し、失礼します」
 葉月 可憐(はづき・かれん)アリス・テスタイン(ありす・てすたいん)は、天御柱学院の校長室を訪れていた。
 コリマ・ユカギール(こりま・ゆかぎーる)と面談するためである。
『まず、退学処分の件に関してだが……』
 二人はシャンバラ王国の女王が乗ったゾディアックと真っ向から対立したことが原因で、天学を除籍になっている。
 しかし、それを決定したのはシャンバラ政府だ。マヌエル枢機卿率いるF.R.A.G.第二部隊や超霊達との戦いが行われているちょうどその頃、海京ではクーデターが勃発、学院はおろか海京という都市の機能が完全に停止していた。
 天御柱学院は多くの機密を抱える学校だ。生徒の処分に関しても、十分に検討した上で決定を下している。今回はそれを経ることなく、緊急時におけるシャンバラ各学校への命令権を有する政府が独断で決めたものだ。
 なお、海京も天御柱学院も所属は日本国であるが、天学はシャンバラ政府が日本政府から各種権限を委託され、運営されている。
『政府の決定の正当性をめぐり学院内で議論が行われているが、目撃者多数、さらにシャンバラ側に直接の被害が出ている以上、学院としてもフォローするのは困難だ。処分を取り消せる可能性は極めて薄いだろう』
 経緯を聞いた上で、アリスは切り出した。
「お願いがあります。ジェファルコンへの搭乗許可を下さい」
 乗れるのは、原則天学生だけだ。ただ、F.R.A.G.第一部隊との戦闘時に二人はその機体で出撃している。
「『理不尽なこの世界、今のこの世界を――弱い者に厳しい世界』を変えるための力を、私達に下さい。彼は強者としての頂点に立ち、世界は今また、より一層弱き者へ厳しい世界へ成り果てようとしています」
 敵の真の目的は分からない。だが、この世界を一度壊すことになると言っている以上、それは何としても阻止せねばならない。
「私達に世界を変えるだけの力はありませんが……それでも、目の前の人達だけでも護りたい。その方法があるのなら、それを選びたい。
 だから――お願いします」
 コリマ校長に頭を下げる。
『これはシャンバラだけの危機ではない。地球、パラミタの双方に関わる重大事だ。シャンバラとF.R.A.G.が互いに協力しようとしていることも考えれば、「今」はしがらみに囚われている場合ではない』
 彼女達の前に、認証カードキーが提示される。天学での学生証であり、この学院におけるイコンパイロットとしての経験が記録されたものだ。
『サトーパイロット科長、ベルイマン整備科長の二名には今テレパシーで伝えた。準備に入るといい。先日の戦いで搭乗したものと同じだ』
「ありがとうございます!」
 再度深々と一礼する。
「あと……戦いの結果次第で、何とか復学出来ればいいなー……な、なんて」
 少しおどけつつも、言うだけ言っておく。
 現時点で処分を取り消せる可能性が低くても、何かしらの結果を残せれば、少しはそれを上げられるかもしれないとアリスは考えたからだ。
『善処しよう』


 ジェファルコンへの搭乗許可を得た可憐は、トゥーレへの搬入準備を完了した。
「これでしばらくお別れになるかもしれませんが……名前を付けてあげないとですね」
 まだ機体の名前を決めていなかったことを思い出す。
「【雲隠】。欠番、雲を纏う者、生と死の境界。ずっと貴方に付けてあげようと決めていた名前。【澪漂】を継ぐ名として、貴方に捧げましょう」
 たとえ学院に戻れなくとも、いつか必ず迎えに行く。そう心に決めた。
 そこへ、「姉御」の通称で知られる整備教官長が歩み寄ってきた。
「なあ葉月、お前今後悔してるか?」
 と、彼女に尋ねてくる。
「別に後悔すんのが悪いってんじゃあない。一つの選択が正しかったかどうか、そんなの今すぐ分かるわけじゃねーんだし、迷ったりすることだってある。けどな、納得いかないものがあったとしても、その結果は受け止めろ。逃げたり、甘えたりするな。そんときのお前に何かしら譲れないものがあったから、そうしたんだろ? だったら堂々と胸張ってりゃいい。お前は若い。ここで全ての可能性が潰えるわけじゃねーんだ」
 彼女の行動がシャンバラからは容認し難いものだったとしても、その意思と覚悟を評価する者だっているかもしれない。一つの結果だけで後悔するのは早い、ということだろう。
 元々、可憐達の所属は整備科だ。放校された彼女達を教官長は気に掛けているようだ。
「ま、うだうだ垂れちまったが、精一杯やってこいよ」
 彼女もまた、トゥーレへの移動を始める。
 その途中で、ヴェロニカ・シュルツ(べろにか・しゅるつ)と顔を合わせた。
 彼女の【ナイチンゲール】は、トゥーレには運ばれていない。そのため、次に会うのは戦場に出てからだ。
 その瞳に、迷いはないように思えた。そんな彼女に声を掛けると、少し驚いていたようだった。
「あはは、色々あって学院は退学になってしまいましたが……最後まで、ヴェロニカ様と一緒にいてもいいでしょうか?」
 叶うならば、これからもずっと彼女の友人として傍にいたかった。今のままでは難しいことだが。
「うん。私も一人じゃ何も出来ないから……手伝って欲しい」
 みんなの「明日」のために。
 彼女の言葉を聞き、可憐は微笑みかける。
「行きましょう。そしてF.R.A.G.としての矜持を見せつけてやりましょう!」
 そっと手を差し伸べる。
 それを取るヴェロニカ。
 自分達にとって大切なものを守るため、彼女達は最後の決戦に臨む。