天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

リアクション公開中!

聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―
聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost― 聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost― 聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost― 聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

リアクション

 ノヴァへ至る道は拓かれた。
 ヴェロニカ達と共に最深部を目指す月谷 要(つきたに・かなめ)の頭の中を、あの宣言が過ぎる。
(『全てを洗い流す』か。この世界が歪んでるってことそのものは否定しないよ)
 自分自身、まさに欲塗れであり、主張を通そうとして別の人とぶつかって争うこともあった。思い返せば、どうしてあんなことをしてしてしまったのか、という失敗がいくつもある。嫌なこと、苦しいことも、沢山あった。
(けど、俺はまだこの世界は続いて欲しいって思ってる)
 理由、それは至極簡単なことだ。ただ心の根底に「欲」があるから。それだけだ。
 死にたくないと、美味い物を食いたいって、楽しい事をしていたい、好きな人と一緒にいたい……まだまだこの世界でやりたいことはいくらだってある。
 それを壊させるにはいかない。
 そのために――あの「白銀」に対抗するために、自分も第二世代機であるジェファルコンに搭乗した。
 都市中央の建造物には、イコンが通れる大きさの入口がある。無人機をダークウィスパーが掃討している間に、そこへ突入した。
 
 強い意志をを胸中に秘めているだろう要に視線を送りながら、霧島 悠美香(きりしま・ゆみか)もまた考えていた。
 要には言えないが、白銀のパイロットの言い分も少しは分かる気がする。
 この世界は、確かに正常とは言い難い。まともな世界だったら、自分が強化人間になることも、こうして戦いに身を置くこともなく、普通の学生として――ただの女の子として生きていけたのかもしれない。今がそうではないため、あくまで可能性としてでしかないが。
(こんな世界だって、探せば楽しいことはいくつだってある。絶望するほど悪くもないわ)
 果たして、ノヴァという人物はそれを探そうとしたのだろうか。ただ、絶望を言い訳に引きこもって見向きもせず、他者に押し付けているだけではないのか。
 そんなことで、この世界を好きにさせるわけにはいかない。
 要と共に【デザイア】を駆り、ただ白銀の元へと前進していった。

「この先に、もう一つの原初の聖像、【ジズ】が」
 久我 浩一(くが・こういち)は最深部へ至る入口に視線を送った。
 【ナイチンゲール】と対を成す機体。もう一つの「絶対」が、待ち構えているだろう。
『聞こえますか?』
 イコンの中から、この戦場にいるであろう罪の調律者に通信を送る。
『ええ。この都市の中心にある建物、見える? わたし達はその中に入れたわ』
 こちらから確認を取る前に、彼女が言葉を続けた。
『外の状況は分かっている。「完全覚醒」。薄々感づいているパイロットはいると思うけど、すぐにロックは解除出来るようになってるわ』
 認証コードを入力するだけで起動出来るようになっている、ということだ。
『けれど、貴方に話したようなことは、伝えていない。ただリスクの大きい切り札であるとしか、ね。もし今の貴方から見て、自分の仲間達が信頼するに値するものだと判断出来たら……』
 ついに、その一言が発せられた。
『伝えなさい。「完全覚醒」――その全てを』
 調律者の言葉を受け、浩一は天御柱学院のイコン部隊に通信回線を繋いだ。この戦いの前から、彼女は自分達を信じようとしていたのかもしれない。すぐにロックを外せる状態にしていたことからも、それは窺える。
 ただ、確信が欲しかった。そういうことだろう。
『今から俺達は最深部へと突入する。だけど、その前に皆に話しておかなければならないことがある』

 「代理の聖像が二つの世界を繋ぐ絆の象徴だとしたら、トリニティ・システムはその絆を深めるためのものよ。それは決して、乗り手である二人の人間の間だけのものではないわ。『器』たる聖像自身との絆もよ」

「この先世代が変化しようとも決して変わることのない、イコンをイコン足らしめる象徴となることだ。二人のパイロットと機体が一つにならなければ、本当の力を発揮出来ないと、これから増えていくだろう未来のパイロットに伝えるために」


 調律者とホワイトスノー博士がトリニティ・システムに込めた想い。
 そして、完全覚醒の全容を伝える。自分が聞いたままの全てを。
「どう使うかは、みんな次第。ただ、知っておいて欲しい。コイツはそう望まれて生まれてきたことを。そして、乗り手次第で天使にも悪魔にもなることを、改めて認識して欲しい」
 あとのことは、ここで戦う者達に託す。

「私はこれからも戦う。『夢』を実現するために。お前はどうしたい?」
 ホワイトスノー博士や調律者の想いの言葉を受け、綺雲 菜織(あやくも・なおり)は【不知火】へ問いかけた。
 機体の駆動音を聞き、呟く。
「……愚問だったか。そうだな。まずは私達の『応え』を示してやらねばな」
 白銀のイコンのパイロットに「応え」をぶつけるため、彼女達は最深部を目指した。