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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―
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第二楽章「焦燥」


 時間はF.R.A.G.とシャンバラのイコン部隊が出撃する前まで遡る。
(強化人間管理棟……実際に入るのは初めてなのよね)
 天貴 彩羽(あまむち・あやは)は閉鎖されたままの強化人間管理棟へ足を踏み入れた。
 学院には、レイヴンのブレイン・マシン・インターフェイスを応用したイコン用の新システムを提案し、その前段階としてレイヴンの開発に関わっていた風間の研究データを調査したいと申し出た。
 その内容とは、BMIの他にオーダー13による脳波ネットワークと、ブルースロートのイコン間干渉の三つの接続技術を使ったリンクシステムだ。
 それにより、位置情報や攻撃意思レベルの情報リンクによる、部隊運用レベルの向上を図る。さらに、ブルースロートがあくまで単機のエネルギーを利用するのに対し、このシステムでは繋がった機体のエネルギーを一機が吸い上げて、単機が強大なパワー出力を得るということも可能になるかもしれない。まだ理論段階だが、コリマやパイロット科長はかなり興味を示していた。
 もちろん、新システムを開発したいという思いは本当だが、一番の目的は風間の身辺調査を行うことだった。まだクーデターからそれほど日が経っていないこともあり、データは消去されていないだろう。
 むしろ、消去されているとしたら、まだ風間の協力者である何者かがいると言っているようなものだが。
(もっと早く気付いていれば、あんなことにはならなかったかも……)
 だが、もう終わってしまったことだ。犠牲になった人達は戻っては来ない。彼らのためにも、二度と悲劇が繰り返されないようにしておきたい。
 課長室を見つけ、その扉を開けた。
 整然とした室内には、余計なものは一切ない。あくまで風間の仕事部屋であるためか、彼は必要としていた最低限のものしか置いてなかったようである。
 サイコメトリで風間の使っていた机に触れる。
 読み取れたのは、風間が黒川と黄 鈴鈴と何かを話している光景だった。
(また黒川? 管区長の中では一番風間に信用されていたってことかしら?)
 他にも、風間が仕事をしているときの様子が判明した。パソコンよりも、スマートフォンを操作している頻度の方が多い。
(スマートフォン?)
 そういえば、それはどこにいった? 風間の遺品からは発見されていない。部屋の中にもそれらしきものは見当たらない。
『スベシア、至急調べて欲しいことがあるの』
『なんでござるか?』
 情報分析環境を整えてもらうよう学院の教員に根回しを行ってもらい、手続きを進めてもらっているスベシア・エリシクス(すべしあ・えりしくす)と連絡を取った。
『風間のスマートフォンの行方よ。壊れているなら反応はないだろうけど、もしそうでないならあるはず。GPSにハッキングを掛けてみて』
 風間は海京自体の管理サーバーにも深く関わっている。天沼矛の周囲に浮いている球体は、監視システムとしても機能していたはずだ。
『分からなかったら、PASDのアレン・マックスに言えば何とかなるわ。今海京のメインシステムを管理してるのは、まだ彼のはずだから』
 依頼して、情報収集に戻った。
 風間のパソコンを起ち上げる。しかし、ロックが掛かっていたため、ハッキングを行い解除した。
(それほど複雑じゃなくて助かったわ)
 研究成果として、風間だけではなく初代超能力科科長である本物の天住 樫真の論文も発見された。
(「脳波ネットワークによる知能の向上について」。これがオーダー13の大元ね。他の人の脳を使うことで、脳の一部さえ機能していれば脳障害を負った人や植物状態になった人であっても日常生活が送れるようになる。確かに画期的だわ)
 論文の参考文献の著者には、脳科学の権威であるドクトルの名前や、「新世紀の六人」と呼ばれた科学者の一人で、生物学者のバート・ウェストの名前もある。
 他に、壊滅した天学上層部である役員会の名簿や、日本政府の要人リスト、レイヴンの実験報告書が出てくる。
 「完全適合体」という項目があり、レイヴンの開発目的が記されていた。
 ――イコンのパイロットとして完成された強化人間を作り出す。
 そのために、テストパイロットの中から候補者を絞っていったようだ。最終的に、二名の強化人間が「完全適合体」と認定されている。
 オーダー13、完全適合体、能力活性薬、さらに2018年の事件の真相。それらの単語と、風間のパソコンに残されたデータが頭の中で繋がっていく。
(人為的に地球人から『神』を創り出す。いえ、風間の言葉では『新しい人類』といったところかしらね。非科学的なパラミタよりも科学の方が優れていると証明する、そのために……)
 強化人間に対する偏見を植え付けて、自分が彼らの救い主となることで利用し続けた。
 それを思うたび、はらわたが煮えくり返りそうになる。
(彩羽、大変ですぅ〜)
 天貴 彩華(あまむち・あやか)からテレパシーが送られてきた。風間らしき姿を見掛け、それを探しているという。
(……分かった。すぐ行くわ)
 部屋から出ようしたとき、ちょうど人の姿が見えた。

* * *


「風間と黒川の部屋の調査ですが、申請は通りました」
「ありがとう、ルシェン」
 ルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)は、林田 樹達が到着するまでの間に、風間と黒川の部屋を調べられるよう、学院に申し出ていた。
「『私もまた状況の一部に過ぎないのですよ』。暴走してしまったけど、最後のあの言葉は覚えてる。クーデターには、まだ裏があると思うんだ」
 榊 朝斗(さかき・あさと)の言葉に、思わず聞き返した。
「でも、それなら風間の目的は?」
「分からない。でも、落ち着きを取り戻した後、関谷さんから聞かされたことが気になってさ。黒川が自爆して、僕が飛び出していった後、一瞬何者かの気配を感じたらしいんだ。あのときの僕は、黒川が自爆したのを見たけど、仮に強化型Pキャンセラーの有効時間が切れていて、幻術が使えたのだとしたら……」
 強化型Pキャンセラーがパラミタ線の影響下にある者を完全に封じることは聞かされていたが、有効時間があることは知らなかった。言われてみると、あれだけ強力なパラミタ線への干渉力場を発生させれば、手持ち式のバッテリーでは短時間しかもたなくても納得はいく。
「もし、その推測が正しければ黒川も生存してる可能性は捨て切れません。あの幻術を使って、海京のどこかに身を潜めていても不思議ではないでしょう」
 アイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)が静かに告げる。
 そこへ、樹達が合流した。
「では、手筈通りにいこう」
 樹、ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)、朝斗、アイビスが強化人間管理棟の風間の部屋へ。ルシェン、章、林田 コタロー(はやしだ・こたろう)は黒川の部屋へ行った後、情報の洗い出しと人探しだ。
「う! るしぇんしゃん、がんまろーね」
「ええ、頑張りましょう」
 管理棟に向かい、ルシェンはまっすぐ風紀委員本部フロアの管区長室に入った。
 そこで黒川のパソコンを調べようとするが、案の定ロックが掛かったままだった。テクノコンピューターを取り出し、プログラムを解析して解除を試みる。
「…い号うっと、ぷりょてくと、はじゅして、ぱしゅわーろ、けんしゃくぷりょぐらむ、てんかいれす!」
 コタローのサポートの甲斐もあって、すぐに外すことが出来た。
「サイオドロップに関する調査報告くらいですね。あとは……」
 その文面を見たルシェンは、驚愕した。
「『記憶消去・人格操作執行者リスト』。管区長の人達のデータもありますね。……これは?」
 リストを開き、ランクSのリストを確認。六人いる内の一番上にあった零号は、他の五人とは異なりパイロット科所属、しかも『完全適合体』と記されている。
 その顔には見覚えがあった。設楽 カノンをライバル視しているレイヴンのテストパイロットといえば、学院でもそこそこ名が知れている。
『ルシェン、風間が……!』
 風間の部屋を調べに行った朝斗から連絡が入る。
 先に調べに来ていた天貴 彩羽と鉢合わせ、風間らしき人物を海京で見掛けたという情報を得たという。
 さらに、彼女が先に調べていた情報も教えてもらい、今まさに追おうとしているとのことだ。
『天貴さんから風間の目的を聞いたよ。あくまでまだ推測でしかないとはいえ、それを人の記憶を自在に書き換えられる黒川が達成したら、大変なことになる!』
 朝斗から風間の目的が告げられる。
 人為的にパラミタの定義で言うところ「神」を創り出す。それだけなら、科学信奉者の風間らしいものだ。だが、そこにオーダー13と黒川の能力が加わったらどうなるか。
 誰もが知らないうちに、記憶を操作され、オーダー13と同様のプログラムが脳内に組み込まれる。しかも、記憶を読むだけでなく書き換えることが出来る黒川自身は、「器」さえあれば他者のバックアップを生み出すことだって可能だ。
 それこそ、誰もが気付かないうちに支配されていても不思議ではない。地球人が想像するような「神」にすらなりかねないほどの潜在能力を、黒川は秘めている。
「朝斗、こちらでも分かったことがあるわ。そのデータを送るから」
 強化人間零号に関する情報を彼に知らせた。
 この事実に驚いたようだが、すぐに落ち着きを取り戻してどうすべきかを見出したようだった。
『自分が生きようが死のうが、計画は遂行出来るように仕組んでいた。……あのクーデター自体は、風間の言葉を聞いた人が言うように、本当に実験でしかなかった。そんなことのために……ッ!!』
『朝斗、気持ちは分かるけど落ち着いて。この前みたいになったら駄目よ』
『うん、まだ大丈夫。ちゃんと、僕が……いや、『僕達』が決着をつけてくる』