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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―
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第二楽章「交渉」


「カール!」
 平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)は、F.R.A.G.第一部隊副隊長カール・ウェーバーに声を掛けた。
「レオか。どうした?」
「これから交渉に行くんでしょ。僕も同行させてもらえないかな?」
 ウクライナでの共同作戦以降F.R.A.G.に身を置いていたレオではあるが、彼は天御柱学院の生徒である。イコン空母「トゥーレ」に乗り込んだのも、行き先が海京だとエルザ校長から聞いたためだ。
「俺達と一緒だと、シャンバラ政府の連中に目を付けられんじゃないのか?」
「僕がF.R.A.G.にいることは、学院の上層部も知ってる。それに、僕が洗脳や精神操作されていないことは、調べれば分かるからね」
 レオは数少ない、聖カテリーナアカデミーやF.R.A.G.をその身で見聞きしたシャンバラ側の人間だ。シャンバラと地球、双方を知っているからこそ、中立の立場で意見を言うことも出来るだろう。
「レオはただの学生だ。だからこそ、自分が感じたままのF.R.A.G.という組織を伝えることが出来る。それをどう判断するかは、シャンバラ次第になるがな」
 告死幻装 ヴィクウェキオール(こくしげんそう・う゛ぃくうぇきおーる)が言う。
「交渉とはいえ、あくまでシャンバラ側の意思を確認するだけだ。向こうも把握してるというのなら、同席させても問題ないだろう。もっとも、武器は全部置いてってもらうが」
 隊長であるダリア・エルナージの声が耳に入ってきた。
「まあ、確かに俺達のような組織に属する人間が『F.R.A.G.とはこういうものだ』って説明するよりかは説得力があるかもな。一応それを伝えるんなら、交渉に入る前――俺達がシャンバラの代表者と顔を合わせる前にした方がいいだろ」
 その上で本題に入るという流れだ。
 レオはそのまま交渉の席に残り、結果を見届けることになる。

* * *


「なるほど、お前がシャンバラ側の代表の一人、というわけか」
 交渉に赴く前に、ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)ジール・ホワイトスノー博士の元を訪れた。
「はい。そこで、交渉成立の際に向こうに渡してもいいイコン情報の選択と、提供の準備をお願いしたいのですが……」
「既に機密情報と開示用の仕分けは済んでいる」
 F.R.A.G.の空母を使うことになった場合、こちらの機体データはどのみち取られることになる。その分の手間を省き、迅速に調整を行うためにも、あらかじめこちらから情報を開示しておくことも必要だろう。
 そう考えていたから、ロザリンドは博士に依頼したのである。
「ありがとうございます。
 アレンさんは、協定と条約の締結、調印が済み次第そのデータを持って空母に向かって下さい」
 また、一枚のメモをアレン・マックスに渡す。
「了解。むしろこっちの方が得意なくらいだよ」
 これは、シャンバラ、F.R.A.G.のどちらにも悟られないように進めなければならない。
「それと……」
 ドクトルと顔を合わせた。
「オーダー13。過去の事例を考えると、クローン強化人間にも同じような原理が適用可能な気がします。その可能性について、どうですか?」
「かつてのクローン兵とオーダー13の違いは、命令を下す自由意志を持つ人間がネットワーク内部にいるか外部にいるかという点だけだよ。敵がオーダー13方式に切り替えてくる可能性は十分にある」
 もっとも、そのクローン兵を敵がまだ利用しているかは分からないが。
 クーデターの首謀者である風間は、オーダー13下の強化人間の脳を並列化した上で演算を行い、驚異的な力を発揮したと報告されている。用心に越したことはない。
 そして最後に、
「アレンさん、海京のネットワークを通じてクーデターの真相を追っている人達に情報の提供をお願いします」
 とアレンに頼み、極東新大陸研究所海京分所をあとにした。

* * *


「『教会』で動きがあったと聞いたけど……休戦協定の準備を進めていたなんて」
 ミスティルテイン騎士団を通じてそのことを知ったフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)は、シャンバラ宮殿を訪れていた。シャンバラ側として交渉の場に出席するためには、政府と掛け合うしかないからだ。
「欧州同時多発テロといい今回といい、すべてを見透かしたかのように動いているのが気になるわ」
「協力体制を築くための休戦協定と教会庇護下の諸国との友好条約。ですが、『終戦』としていない以上、完全に気を許すことは出来ませんね」
 ルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)が呟く。
 F.R.A.G.にはまだ不透明な部分も多く、警戒を続ける必要はあるだろう。シャンバラと反シャンバラ筆頭勢力であった組織という構図以上に、EMUが束ねる「魔法使い」と「教会」の間にある対立関係を知っている彼女としては、相手はどうにも信用出来るものではない。
「出席出来ないにしても、私達の意見と教会についての情報は伝えないといけないわね」
 シャンバラ政府がF.R.A.G.側の言葉を鵜呑みにするとは思えないが、念のため情報を提供する必要はあるだろう。
 案の定というべきか、申し出たものの、同席の許可を得ることは出来なかった。そのため、自分達の意見を交渉の場に赴く人へ伝えてもらうように依頼した。