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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第2回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第2回/全2回)

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●イルミンスールの森西の砦

 土方 伊織(ひじかた・いおり)が主導し、セリシア・ウインドリィ(せりしあ・ういんどりぃ)と雷電・吹風の精霊たちが手伝って建設が進められている砦は、参考にしたモット・アンド・ベーリー型が『手早く建設できる』がウリとあって、既に完成が見えようとしていた。
 しかし、ここで一つ重要な問題が発生する。砦に貯蔵する物資をどこから調達するか、であった。

「校長せんせーにおねがいするつもりでしたけど、教頭せんせーが派遣されちゃったみたいなんですよねー。
 教頭せんせーは校長せんせーのことよく思ってないみたいですし、却下されちゃうかもしれないです」
 建設が進む砦を前に、伊織が考え込む。とはいえ、兵糧の準備なしに戦いなんていうことになれば、到底勝ち目がない。いくら魔族とはいえ、これまで戦闘を重ねてきて、ただ力押しだけでは簡単に勝てないことを学んできているだろう。兵糧攻めをされた時にでも、耐え抜けるくらいの蓄えは欲しい。
「うーんうーん……苦肉の策です、支城の物資を砦の方に輸送しましょう。
 そのままだと監査が入った時に疑われてしまうので、イナテミスの市長さんに事情を説明して、支城の方に物資を融通してもらえるようにお願いしてみましょう」
 今の所、ウィール支城には相応の蓄えがある。ウィール支城の仮想敵は、大陸の東側――エリュシオン――だったが、今は停戦状態となっているため、緊急性は砦よりは薄れる。
 ダメなら辞任覚悟で、と意思を固めた伊織に経緯を説明されたサー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)は、姿勢を低くして頭を垂れ、伊織からの任務を受け入れる。
「物資の輸送の件、任務了解致しました。お嬢様がそのような覚悟を決められている以上、私が何を言うでもございません。
 共に汚名を被りましょう。イナテミスの市長へは、お嬢様が一筆したためて頂ければ、私が事情を説明致します」
「ごめんなさいなのです。そして、ありがとうなのです」
 書類を用意するため、伊織が一旦下がる。代わりにセリシアと、作業を監督していたサティナ・ウインドリィ(さてぃな・ういんどりぃ)が砦から降りてくる。
「ジャタの森方面は、苦戦中と聞いたがの?」
「ええ……ニーズヘッグさんとアメイアさんが向かったそうです。無事に済めばいいのですが……」
「そうだの。もしジャタの森が終戦すれば、次はこの砦が狙われる可能性が高い。気がかりじゃが、手を抜くわけにはゆかぬな。
 ……そろそろ到着するはずかの?」
「はい、そうだと思います……あ、来ました」
 セリシアが手を振り、そして一行の元に、サラとカヤノ、セイラン・サイフィード(せいらん・さいふぃーど)がやって来る。ケイオースはケイと一緒に、森の侵食を抑えるための手がかりを探しに行ったことを説明された後、イナテミスで検討された『森の侵食を食い止める機能』を発揮する装置の設置を始める。砦から南北に、セリシアとカヤノで蔦のようなものを張り、セイランとサラが用意した『ブライトコクーン』と同質の光を発生させる装置を砦に設置する。
「カヤノ様、こんな感じですかー?」
「うーんと……そこ、固定が弱いわ。後は……そうね、いい感じかも」
「はーい!」
 セリシアが張る蔦を、カヤノとノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が木々に巻きつけていく。巻きつけた箇所を、木々を冷やさない程度に氷で固め(冷却のための魔力は、この蔦に流す魔力で補われる)、衝撃等でズレないように固定していく。
「悪いわねー、ホントはえっと、カンナだっけ? 護衛を任されてたんでしょ?」
「そうだけどー、おにーちゃんが行ってきていいよ、って言ってくれたから。わたしはわたしに出来ることをがんばるよー」
 ぐっ、と拳を握って、ノーンが次の枝に飛び移る。手伝いの甲斐あって、予想されていたよりも早く蔦を張り終えることが出来た。
「それが装置ですの? 想像していたより小さいですわね」
「ええ、構想ではこの装置を複数用意した上で等間隔に配置、広範囲をカバーしようとしたのですが、装置の作成に手間取ってしまいまして……。
 中継の役割を担う、数を揃えられる何かがあればよかったのですけど……」
 エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)が搭乗するイコン『鉄道工事用アンズー』(『カゲノ鉄道会社』の備品として登録されている)に掘削と土台の作成を手伝ってもらい、セイランが完成した土台の上に装置を設置する。
「それでは、わたくしは他の場所を手伝ってきますわね。
 ……ノーンの故郷を守るため、多少なりとも奮戦させていただきましょう」
 そのままエリシアはアンズーを駆り、他の場所の手伝いに回る。一応は戦闘用でもあるはずだが、不思議と様になっていた。
「ケイとケイオース殿の調査結果を待ちましょう。何か役に立つ結果が返ってくることを信じて」
 セリシアが悔しげな表情を見せるのを、サラの手伝いに残ったキズナが励ます。
『蔦は張り終わったわ! 後は任せたわよ!』
『サラさん、セイランさん、よろしくお願いします』
 直後、カヤノとセイランから蔦を張り終えたとの連絡が入る。
「よし、装置を稼働させる。キズナ、出力の調整を手伝ってくれ」
「了解した」
 装置の前に立ち、サラとキズナが魔力を送り込む。
(不思議だな……サラ殿といると、ケイといる時に似た、安心感を感じる)
 それは、ハッキリとは分からなかったが、たとえるなら家族と共にいる時のような、そんな感覚であった。
(護らねば……大切な家族たちを)
 思いを新たに、そして装置は稼働を始め、装置から蔦へ力のある光が送り込まれ、蔦から木々へ光が伝導していく。
 『フォレストブレイズ』と名付けられたそれは、森を侵食から守るため動き始めた――。

「侵食対策については、これでよし……と。
 後は、物資の問題ですか。特に、保存の利く食料の確保が最優先……あ、これ、環菜の請け負った『栄養価に優れた携帯食』が適用できるんじゃないですか?」
 砦を取り巻く状況を確認していた御神楽 陽太(みかぐら・ようた)が、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)と書類を見合わせながら話し合いを始める。
「そうね。一時的に私たちが材料費等の費用を負担、生産をイナテミスが行い、この砦に搬入。かかった費用はイナテミスかこの砦の責任者がイルミンスールに請求……で回りそうね」
 神がかり的なトレーダー才能を失ってもなお、こういう時の環菜の頭の回転は早いようである。ただそれまでは環菜自身の財産で賄っていたが、それも殆どを失っているため、陽太の財布(本人は共有財産ということにしている)頼みな所である。……正直な話、このことを事前に把握してなかったため、前回と展開が異なることになってしまったのは、反省すべき点である。

 では、その肝心の『栄養価に優れた携帯食』の開発はどうなっているかというと――。

●精霊指定都市イナテミス

 通りを、兵士と思しき者たちが複数駆け抜けていくのを、建物の窓から見ていた一ノ瀬 月実(いちのせ・つぐみ)が、ふぅ、と息を吐く。
「少し、賑やかになってきたみたいね。まぁ、それでもこの辺りが戦場になることはないと思うけど。……なければいいなぁ」
 振り返り、机に無造作に置かれた書類を一瞥する。
「それよりも、この企画書よく通ったわね。やっぱり非常時は非常時なのね」
「…………」
 月実は、隣に立つリズリット・モルゲンシュタイン(りずりっと・もるげんしゅたいん)に返答を求めたつもりだったのだが、当のリズリットは企画書に基づいて完成した新製品の試作品を見つめて、呆然としていた。
「何、リズ。変な顔して」
「月実……この『9M味』って、どういうこと?」
「どういうこと、って。文字通り9ミリ弾が入ったカロメちゃんよ? 今は各所で戦闘中、物資はいくらあっても足りないわ」
 自信ありげに胸を張る月実へ、リズリットのツッコミが炸裂する。
「物資として弾薬を食料と一緒に送るのは分かるけど、食料に混ぜんな! 現場が混乱するでしょ!
 それにここ、魔法学校領内じゃない。銃弾なんてもらったって嬉しくないわよ」
「銃を使う魔法使いがいたっていいじゃない」
「アイデンティティの崩壊だよ!」
「ふぅ、そんなことよりもお腹が空いたわ。ご飯作って、働かない人」
 キュピーン、とリズリットが殺意の波動を出しかけるが、今回の月実は成果はともあれ、働いている。
「……うぅ、私が月実のご飯を作ることになるなんて……」
 渋々、リズリットが備え付けのキッチンへと向かっていく。
「そうだわ、名前を決めなくちゃ。うーん、そうねぇ。
 なによりカロリーを摂取するためのものだから、『カロリー』の接頭語は必須ね。
 『カロリーメアリー』なんてどうかしら」
 ガッシャーン、とキッチンの方で音が響いたが、月実は気にせず話を進める。
「略称はもちろん『カロメちゃん』ね。異論は認めないわ。
 特徴は3箱に1箱、銃弾が入っていることね」
 向こうから「もうそれはやめろー!」という声が聞こえた気がしたが、やはり月実は気にせず話を進める。
「第1弾は最近流行の『ブライトコクーン』味! イテナミスの名物にするんだから、それくらいの関連がないとインパクトが薄いわ」
「特産品だからって街の名前のもの入れればそれで済むとか思ってんじゃないわよ。
 ついでにいい加減覚えろ! ここはイナテミス!!」
 皿に盛られた焼きそばをテーブルに置いて、リズリットが戻ってくる。
「……あれ? ブライトコクーンの能力を体内に取り込んで、瘴気の影響を一定時間無効化するカロメちゃんとか、もしかして作れそう?」
 リズリットの代わりにツッコミを入れるとするなら、そのアイテムはキャンペーンシナリオ限定では十分作れそうだが、そもそも今後の運営の見通しが立たないのでなんとも言えない。
「うーん、一応提案はしておこうかしら。
 ……それじゃ、普通のカロリー摂取用のものを量産体制に入りもぐもぐ」
「ちょっと待てー! 作りながらおもむろに食べ始めるな! 焼きそば食べろ焼きそば!」
「なに言ってるのリズ、これは味見よ。まずかったら誰も食べたがらないじゃない。
 カロリー摂取に必要な条件の一つは、やっぱり美味しいことよ。決して私がおなか空いてるから食べたいという話ではないわ。絶対違うわ」
「……それ、暗に私の焼きそばがまずいって言ってない? ……はぁ、こんなんじゃまともに話が進むかどうか……。
 あれ、そういえばキリエは?」
 ここに至ってようやく、リズリットはキリエ・クリスタリア(きりえ・くりすたりあ)の姿がないことに気付く。彼女がいなかったからこそ、リズリットは余裕を持ってツッコミをすることが出来たのだが。
「キリエ? あの子って意外と、商魂たくましいわよ。移動式の屋台渡したら、それを引っ張って走り去っていったわ。
 今頃砦の建設現場にでもいるんじゃないかしら?」
「……ま、まさかそんなこと……あるなぁ、きっとあるなぁ……」

「みんなおつかれさまー! 移動式うなじゅー屋台おーぷんでーす。
 おーぷん特化で安くしてるから食べていってねーもぐもぐおいしー」
 果たして予想通りか、キリエは砦の建設現場にて屋台を展開しつつ、自分も大好物のうな重を食していた。
「くんくん……わー、なんだかおいしそーな匂いがするー。ねーねー、何作ってるのー?」
「あたいも知りたいわね。ちょっと見せなさいよ」
 そこに、作業を終えて戻って来たノーンとカヤノが、屋台を覗き込む。
「あ、いらっしゃいませー。どうぞー食べていってねー」
 客の往来に気付いたキリエがうな重を出そうとして、しまった、という顔をする。
「お米の用意忘れちゃってた! お客さまの中にお米をお持ちの方は……いないよね。困ったよ」
「うーん、お米はないけど、お菓子ならあるよ?」
「ホント? じゃあそれで」
「……あたいのカンが、それはやめとけって言ってるからやめなさい」
 世の中にはうなぎの粉を使ったパイがあるそうだが、流石にリアルうなぎを用いたお菓子は危険極まりないだろう。
「しょうがない、じゃあ、うなぎの上にうなぎを重ねた新生うな重、どうだー!」
「おぉ、これがうな重……いい匂いがするよー」
「はむはむ……ま、悪くないわね。それに何かこう、元気が湧いてくるわ」
「あっ、カヤノ様もう食べてるー、じゃあわたしもー」

 そうして、三人の氷結の精霊はうな重を味わい、ここに新しいメニューが完成したのであった。
「……そんなんでいいのかー!」