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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第2回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第2回/全2回)

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●ミスティルテイン騎士団本部

「ノルベルトさん、メニエス・レインという人物は過去にこれだけのことを行っているんです。
 そのような人物を擁する事は、EMUの信用問題に関わります。即刻、教頭職の解任決議を開くべきです」
 椅子に深く座するノルベルト・ワルプルギスへ、フレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛い)がメニエスの所業(過去そして現在も鏖殺寺院に所属していること、空京市民を虐殺したこと等々)を説明し、彼女を今からでも教頭職から外させるよう説得する。
「…………」
 フレデリカの話にじっと耳を傾けたノルベルトは、おもむろに席を立ち、窓の外を見つめた格好で口を開く。
「……なるほど。ホーリーアスティン、そこまでやるか……」
「どういうことですか?」
 同席していたルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)グリューエント・ヴィルフリーゼ(ぐりゅーえんと・う゛ぃるふりーぜ)、そしてフレデリカに振り向いたノルベルトは、以下に話すことはあくまで自分自身の推測を含む、と前置きして、そして言葉を発する。
「ホーリーアスティンの狙いは、当初はミスティルテインのEMUでの権威失墜、ホーリーアスティンによる取り込みを経ての権力の掌握であっただろう。
 だが、君たちのような、ミスティルテインに協力してくれる者たちのおかげで、それが難しくなった。私としては、直近の議会選挙でミスティルテインが過半数を維持出来たのも、『教頭職を設ける』で済んだのも、君たちのおかげと思っているのだ」
 ノルベルトは、もし『欧州魔法議会諮問会』の時に契約者の助力がなければ、今頃はミスティルテインはとっくにホーリーアスティンに吸収されていたし、メニエスという人物は教頭ではなく、校長として赴任していた、そういう未来も有り得た、と発言する。
「ノルベルトさん。ホーリーアスティン騎士団はどのような考えで、メニエスを推しているのですか?」
 フレデリカの問いに、ノルベルトが自身の考えを口にする。
「当初と変わらないのではないだろうか、ミスティルテインの権威失墜だ。
 ホーリーアスティン……エーアステライトは、ミスティルテインを取り込めないと判断したのだろう。そして、このままEMUを掌握されるくらいなら、そのEMU自体を意味のないものにしてしまえばいい……こうは考えないかね?」
「……考えられはするだろうが……」
 グリューエントが呟くが、彼も、ルイーザもフレデリカも、解せぬという表情を浮かべる。仮にもEMUの一員であるはずの団体が、所属する組織をぶっ壊してまで一つの団体を貶めようとするのだろうか。当然、団体としての権威も地に落ちるだろう。
「私にもその辺りの意図は分からぬのだがな。……だがもし、もしもだ。もしも、EMUに代わるものを彼らが見つけていたとしたら……そう、たとえば魔族の国のように……」
「まさか――」
「まさか、とは言い切れん。現に議員には諮問会の時、魔族の国のことが知れ渡っている。“魔”の力を色濃く持つ彼らと接触を図りたいと思うのは、魔術結社に与する者が持ってもおかしくない感情であろうな」
 そこまで話した所で、団員の一人がノックもせずに扉を開け、息を切らせてノルベルトの下に駆け寄る。
「何だ、今は話し中だぞ」
「そ、それが、大変です」
「……分かった、まずは落ち着け」
「も、申し訳ございません」
 ノルベルトの前で、呼吸を落ち着けた団員が謝罪の言葉を述べた後、おそらく彼らにとっては驚愕の事実を口にする。

「ホーリーアスティン騎士団本部が、燃えています――」

●イルミンスール大図書館

「……以上、これらについての知識を得たい。それらの知識が得られる場所へ立ち入る許可を頂けないか」
 ガイウス・カエサル(がいうす・かえさる)の言葉を、大図書館の司書は深く被ったローブで表情を隠したまま聞き止め、そして静かに言葉を発する。
「……イルミンスールの生徒が、自らに相応の知識を望むのであれば、私はその術を授けよう。
 お前が調べたいといった事については、結果を示して良いと判断する。が、お前たちの本当の目論見に関わる知識については、お前たちは授かるに値しないと判断する。もっともらしいことをぬかして、最深部に潜り込めるなどと思わぬことだ。
 ついでに言っておくが、私は部外者を易々と招き入れるつもりはない。たとえそれが、教頭という立場に着いたものでもな。人間の一時の気の迷いで連れてこられた人物を、信用など出来るか」

 許可をもらい、最深部に教頭を連れて行く目論見を見抜かれたガイウスは、そのまま引き返すわけにもいかず、光る使い魔の案内を受けて、自分が言った『悪魔と奈落人の関係』『聖少女とは本当の意味でどういう存在なのか』『『魔王』というイコンは何なのか』についての知識が記された書物の場所へと向かう。
「……これか」
 使い魔が止まった場所に、一冊の本が台の上に置かれていた。表題はガイウスには読めない文字だったが、意味は触れると伝わって来た。
『設定に関する、もしもこうだったかもしれない話を含む書』
 その意味を考えながら、ガイウスはページを捲り、該当する項目を探していく。導かれるように見つけたそれらを読み進めて分かったことは、

・悪魔は、地上人によって地下に追いやられた地上人の、地下の環境に適応した末に生まれた種族。奈落人は、命を終えた地上人の、死後の世界ナラカに適応した末に生まれた種族。両者には共通点があるため、比較的関係は良好。利害の一致次第で共闘することもある。
・聖少女とは、古王国時代の地上人が生み出した人工生命体。最初は地上人と同じ振る舞いを示すが、自我に目覚めた彼らはやがて互いに戦い、勝った者が負けた者を取り込み、最後の一人となるまで戦い続け、その時傍に居た者(者に限らず、国、世界まで含む)に大いなる恵みをもたらす、とされている。
 事実ミーミルは、同胞であるヴィオラとネラの力を吸収している。この世界にまだ眠りに付いている聖少女がいて、ミーミルがそれらを吸収していく話もあったかもしれない。……今の状況でもう、それは起こり得ないであろうが。
・『魔王』は、『精霊編』の時から色々と、こうではないか、という設定は起こされていた。しかしどれも面倒だったので、今では結局アルマインのベースになったオリジナル機、という扱いになっている。これらの設定が掘り起こされることは、もうないであろう。

 であった。

「そうですか……ガイウスの推測通り、イルミンスールの影の支配者なのかもしれませんね」
 戻って来たガイウスからの報告を耳にしたアウナス・ソルディオン(あうなす・そるでぃおん)は、ふぅ、と息を吐く。大図書館から禁断の英知を実用化すれば、自らの信じる正義を為せると考えたのだが、司書に『お前は授かるに値しない』と判断されてしまえば、それを覆す術は今の所、思い当たらない。
 それに問題なのは、連絡を取ろうと試みているエーアステライトへの連絡が、一向に取れないことであった。……まぁそもそも、エーアステライトの方からアウナスに連絡をすることは、ほとんどなかったのだが。

●ミスティルテイン騎士団本部

「なんだと……? それで、詳しい状況はどうなっている?」
 団員から報告を聞き、沈黙が訪れた部屋の中でなんとか最初に言葉を発したノルベルトが、団員に問いかける。
「まだ詳細は掴めていませんが、ホーリーアスティン派議員22名と、我らミスティルテイン派議員3名の消息が不明です」
「なんという……!」
 ノルベルトの顔が苦悶に歪む。重要な議会は定数75の内、3分の2以上の参加がなければ効力を発揮しない(半分が参加すれば開ける会議もあるが)。現時点で25名の消息が確認できず、もし彼らの身に何かあったとすれば、現存する議員は50名。1人の欠けも許されない状況ながら、3分の2は確保されている。
 しかしもう一つの問題は、ミスティルテイン派議員3名が戻って来なければ、ミスティルテインは議会で過半数割れを起こすということである。加えて一人欠ければ議会が開催されず、こうなってはEMUそのものが『骨抜き』状態である。
(……まずはともかく、残った議員を一つにまとめなくちゃよね。今ならミスティルテインの下に一つに集まれるだろうけど、私たちだけじゃ手が足りないわ。大地さんに連絡、取れるかしら? 後は――)
 尽力してくれた志位 大地(しい・だいち)メーテルリンク著 『青い鳥』(めーてるりんくちょ・あおいとり)へ連絡を取り、協力を取り付けようとするフレデリカ。
「状況は逼迫している。力を貸してくれるのなら、是非お願いしたい!」
「えっと、あの……そう言われても、話が見えないのですけど……それにどちらかというと、力を貸してくれるようお願いしに来たのはボクの方……」
 開け放たれたままの扉の向こうから、団員と複数の者の声がする。ノルベルトが通すように指示すると、団員に連れられて非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)が入ってくる。
「わざわざ訪ねて来てくれた所、このような失態を見せてしまい申し訳ない」
「緊急事態であることは想像できますわ。よろしければあたしたちに、事情を教えて頂けません?」
 ミスティルテイン騎士団(パラミタの方)に加盟しているユーリカが進み出、ノルベルトに何が起きているのかを説明願う。所属を確認したノルベルトが一行に話をすると、そのあまりの事態に一様に複雑な表情を浮かべる。
「どうして、そのような事になってしまったのでございましょうか?」
「正確には分からぬ、だが、ホーリーアスティンの狙いは結局の所、ミスティルテインとイルミンスールを切り離すのが目的だったのではないだろうか。その上でホーリーアスティンは、EMUを利用してではなく、魔族の国を利用することにした……とすれば、一連の行動に説明が付けられなくもないが……」
 どうも衝動的な感が拭えぬ、アルティアに向けてノルベルトがそう付け足す。
「……一つ、確認させてください。
 ミスティルテイン騎士団は、状況の悪化が顕著であれば、イルミンスール魔法学校を見捨てるつもりなんですか?」
「ちょっと、近遠ちゃん! その言い方はあんまりですわ」
「いや、構わない。……ミスティルテイン騎士団がイルミンスールを見限ることは、決して有り得ぬ。
 当主として誓おう。……加えさせてもらうなら、エリザベートの父として、最大限のことはするつもりだ」
「……そうですか」
 ノルベルトの答えに満足したか、そうではないか、表情からは読み取れないながら、近遠は現在のイルミンスールが置かれた状況を説明する。魔族侵攻を食い止めきれなかった時点で、シャンバラ政府の介入が始まり、イルミンスールは自治権を失ってしまうであろうこと、そうでなくともあのような人事をEMUが決定してしまったことで、EMUとイルミンスールの立場が危うくなっていることを話す。
「……不祥事の始末は、この身を賭してでもつけよう。
 今出せるのは、現教頭の解任請求……しかしそれだけでは、後任の者を誰にするかで再び付け入る隙を与える」
 何かいい案はないか、ノルベルトが歩き回りながら思案を巡らせる。
「待て……いや、これは流石に……しかし……」
 何かを思いついたようだが、話すのをためらっているような素振りを見せるノルベルト。
「……フレデリカ君。さぞかし馬鹿な思いつきと笑ってくれてもいいが、話を聞いてくれるか」
「え? あ、は、はい」
 大地への連絡を取り終えた所で、名前を呼ばれたフレデリカがノルベルトを振り向く。
「一度設置した教頭職を、廃するのは容易ではない。故に誰か別の者を後任として任命する必要がある。
 該当者は契約者でなければならない。メニエスという者も、ホーリーアスティンと密接な繋がりがあったからこそ、赴任することが出来たのだ。
 それと同じ手を、我々が用いることには異論こそあれ、咎められることはないだろう」
 前置きのように話して、そしてノルベルトがおそらく、衝撃的な言葉を口にする。

「君に、後任として教頭に赴任してもらいたい」