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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第2回/全2回)

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【ザナドゥ魔戦記】イルミンスールの岐路~抗戦か、降伏か~(第2回/全2回)

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●精霊指定都市イナテミス

「ニーズヘッグさん。あのとき、出来る、って言ってくれて……ありがとうございます」
『んだよ、会って早々。礼を言われるようなことはしてねぇよ。オレは思うままに言っただけだ』
 出撃前、ニーズヘッグに挨拶をしに来た高峰 結和(たかみね・ゆうわ)へ、ニーズヘッグが分かりつつもぶっきらぼうに答える。
「あなたは……そうか、レオニスを救ってくれたのはあなたか」
 と、アメイアが思い出したように告げるのに、結和が見上げる。攻め込んできた自分を見捨てることなく治療を施した者に、改めて礼をしたいと言っていた龍騎士の話を受け、結和は一人、心当たりのある者を思い浮かべる。
「あの、ちょっと行ってきてもいいですか?」
「ああ、会ってやってくれ。彼は今、『わるきゅーれ2号店』の警備をしているはずだ」
 アメイアから所在を聞いた結和は、エメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)と共にそのお店を目指す――。

 『わるきゅーれ2号店』の警備をしていた龍騎士、レオニス・ツィアードは、駆け寄ってきた結和の姿を認めて驚きの表情を浮かべる。
「まさか、このような場所で再会出来るとは……いや、君はあの時も、君の戦いをしていたんだったな」
「はい……あの、レオニスさん、身体の方はもう、平気ですか?」
 結和の問いに、レオニスは胸をドン、と叩いて健在ぶりをアピールする。
「君の治療のおかげだ。今はこうして、この街の警備をやらせてもらっている。
 君が君の戦いをするように、自分も自分の戦いをするつもりだ。……行くのだろう?」
 レオニスの問いに、結和ははい、と頷く。かつて精霊と、そしてニーズヘッグと分かり合ったように、魔族とも分かり合える道を目指して。
「そうか……自分は未だ、君には勝てないな。
 ここから君達の健闘を祈らせてもらう。無事に帰ってきてくれ」
 拳を頭に付け、敬礼の姿勢を取るレオニスに見送られて、二人はニーズヘッグの下へ戻る――。


『うし、来たか。んじゃオリガ、ミレイユ、こっから中に入ってくれ。
 ……んだよテメェ、何笑ってやがる』
「いや、気に障ったのならすまない。お前も変わったのだなと思ってな。
 ……無論、私もだが」

 既に出撃態勢を整えたニーズヘッグとアメイアに出迎えられ、五月葉 終夏(さつきば・おりが)セオドア・ファルメル(せおどあ・ふぁるめる)ミレイユ・グリシャム(みれいゆ・ぐりしゃむ)がニーズヘッグの腹から覗く、見た目頑丈な服のような箇所へと歩いて行く。
「あっ……」
 終夏とセオドアが入っていき、後に続こうとしたミレイユが思い立ったように呟いて、視線をアメイアへと向ける。首を目一杯上に向けてやっと伺えた表情は、これから自分たちが向かう目標、クリフォトを真っ直ぐに見つめ、迷いや嘘、誤魔化しといった感情は見られなかった。
「? どうした、入らないのか?」
 ミレイユの視線に気付いたアメイアが、顔をミレイユへと振り向けて答える。
「あっ、えっと……アメイアさんは背中にいることになるから、ワタシ達の回復が届かないんじゃないかなって。
 ワタシ……アメイアさんも守りたい、です。ニーズヘッグを守るのはもちろんだけど、アメイアさんのことも守りたい、です。
 どうすればいいか、教えてほしいです」
 言葉を受けたアメイアが、一瞬予想外といった表情を浮かべ、次にはフッ、と笑みを浮かべる。
「お前もいいパートナーを見つけたな」
『あぁ? おい、何が言いてぇ』
 意図が分からず首を傾げるニーズヘッグをよそに、アメイアが答える。
「少しの怪我であれば、私の方で治せる。私の治癒力を上回る怪我であれば……ニーズヘッグ?」
『ケッ、なんだよ、こんな時だけ頼りにしてます的な態度しやがって。
 治癒の力だろうが加護の力だろうが、オレにかけてくれりゃあこいつに流してやるぜ。テメェらの入るそれが、伝達の役割を果たしてると思いな』
「ニーズヘッグを治す時は?」
『内側でも外側でも、どっちでもいいぜ。テメェらが殴ろうが蹴ろうが、びくともしねぇように作ってあるからな』
「うん、分かった。ワタシ、がんばっていっぱい治すからね!」
 方法を聞いたミレイユが、ぐっ、と拳を握って決意を固めて、中に入っていく。
(この前は、元気の無かったワタシを励ましてくれてありがとう。
 いつまでも泣いてたら、涙で進む道が見えなくなっちゃうから、だから、ワタシも一緒に行くって決めたんだ。
 ……状況は最悪かもしれない、けど、まだ「終わり」じゃない。どんなにジャタの森がひどい事になっていたとしても、ワタシ達は諦めない。
 今までずっと、そうしてきたんだから)
 真剣な眼差しのミレイユ、そこにスッ、とハーブティーが差し出される。
「緊張すると、喉が渇くよね。
 水分を補給して、気持ちを落ち着かせて初めて、十分な力が発揮出来るものだよ」
「ありがとう〜。……あっ、美味しい」
 渡された飲み物に口をつけて、ミレイユがふふ、と微笑み、セオドアもつられて笑みを浮かべる。
(……地球からパラミタにやって来た時の私達も、もしかしたら、今の魔族達のように見えたのかな)
 二人から視線を外して、終夏がフッ、と心に思う。
 音楽で世の中は救える。
 今だってそう思っているし、そう在りたいと思う。
 ……でもその為には、そう在る為には、本当は何が必要なんだろう。
(ニズちゃん、それにアメイアさん。二人ともとっても強いし、正直、憧れる。
 きっとああ在る為には、長い時間修練や実践を積み重ねてきたんだろうなぁ……)
 持って来たヴァイオリンが、カタカタ、と震えている。
(ひとつのものを、両手が届く場所を……。
 もっとしっかりと守れるようになりたいなぁ)
 手を伸ばして、ニーズヘッグの身体に触れて。
 ヴァイオリンを持っていた手に力を込めて、震えを消して。
 終夏も、自分の為すべきことを定める。


『うし、乗ったな。んじゃ出発……って行きてぇとこだが、ちっと待っててくれ。
 ミオも合流することになってっからな』
 イナテミスに来た直後辺りに、ニーズヘッグは契約者でもある赤羽 美央(あかばね・みお)から、ジャタの森まで乗せて行ってほしいと連絡を受けていた。
 その美央はというと――。

「カヤノさん。私は……攻めてきた者達と戦うことに決めました。これからニーズヘッグさんにお願いして、ジャタの森まで連れて行ってもらうつもりです」
 カヤノ・アシュリング(かやの・あしゅりんぐ)の下を訪れた美央は、これから自分がしようとしていることを包み隠さず伝える。
 自分が甘えていたということ。
 今を耐え忍び、心の中で悪かった点を探すだけでは、自分達の望む日常は帰ってこないし、自己満足に過ぎないということ。
 仲間、友達、敵……皆が今この瞬間傷ついているのに、誰も傷つかない方法を模索することは、甘えだということ。
 それらを聞かされたカヤノは、腕を組んで真剣な表情を浮かべていた。彼女なりに、美央の言うことを理解しようとしている素振りだった。
「私も単純でバカですから、もう、難しいことは考えません。
 何が正しかったかなんて、未来の人達が勝手に決めてくれることですから」
 美央はそう言い、そして、カヤノにはここでゆっくり休んでほしい旨を伝える。
「……あたいがそう言われて、ええそうするわ、と言うような柄だと思う?」
「いいえ、思ってません。ですから、カヤノさんにはウィール遺跡の方に行ってきて欲しいです。精霊長さんが集まって対策をしようとしていることを聞きました。……あ、もちろんカヤノさんには、知識的なお手伝いでない方をお願いします」
「いちいち言わなくてもいいわよっ! ……分かったわ、ミオの言う通りにする。
 当然でしょうけど、ジャタの森は大丈夫よね?」
 怒ってはいない、むしろ笑っているような表情で尋ねたカヤノに、美央が答える。
「ええ、安心して下さい。何としてでもジャタの森を防衛してみせます。……根拠はないですけど」
「いらないわよそんなの。ただあんたがそう言ってくれるだけでいいわ」
 言って、カヤノが立ち上がり、背中の羽を広げて飛び上がる。
「あたいは先に行くわね。あんたも遅れないようにしなさいよ」
 そう言い残し、カヤノが地上へ向けて飛び去っていく。後に残される形になった美央が、表情を引き締めて続く――。

 『氷雪の洞穴』の入り口に戻って来た美央を、魔鎧 『サイレントスノー』(まがい・さいれんとすのー)が出迎える。
「カヤノさんとのお話は、済んだようですな」
「ええ。……行きましょうか、私達も」
 美央の言葉に静かに頷き、サイレントスノーが魔鎧として美央に装着される。
(……雪だるま王国の住人が言うのはおかしな話ですが、冬の後は常に春です。
 しかしカーテンを閉めたままでは、外が春になっても気付けないでしょう)
 心にそう思いながら、サイレントスノーは主、美央の決意を受け入れ、彼女の力になることを決めたのであった。

「ふー、割とサッパリしましたわ。……ぶるぶる、この寒さでは湯冷めしますわね。
 とりあえずこの付いて来たミイラ男の包帯でも襟巻きに……あら?」
 その頃、イナテミスの温泉に浸かりに来ていた月来 香(げつらい・かおり)が歩いていると、前方に見知った格好の獣人を見つける。

「くっそ……アイツ、どこへ行きやがった……?
 あの感じだとまた裏出たみてぇだし、早く見つけねぇと他で戦ってるやつらにまで被害が……って、何言ってんだあたし! 他のやつらよりまずレイナのことだろうが!
 裏が出たってことは、よっぽどのことを溜め込んだんだ。家族だっていうなら、アイツをフォローしてやるのが勤めだろうが!
 ……うっし、そうと決まればさっさとアイツ見つけちまわねぇと――って、おわっ!?」

 ウルフィオナ・ガルム(うるふぃおな・がるむ)が気合を入れて一歩を踏み出そうとした所で、足元にいた香に驚き避けようとして、ガクッ、と力が抜けたように手足を付いて地面にしゃがみ込む。
「ぐっ……!」
「……大丈夫……なわけないですわね。そんな怪我で外出ちゃいけねーですわよ、自殺行為ですわ……と言ってやりたい所ですけど、何やら並々ならぬ訳がありそーですわね」
「もう言ってんじゃねーか……。あぁ、その通りだ。だからあたしは、ジャタの森に行かなくちゃなんねぇ」
「どうしてそこだと?」
「あたしの勘が、そう告げてんだ」
 苦悶の表情を浮かべながら言うウルフィオナを見、香がふぅ、と一息吐いて口を開く。
「仕方ありませんわね。見かけておいて死なれたら気分わりーですし、わたくしが手を貸してやりますわ。
 手伝うなって言いそうな気がしますから先に言っておいてやりますが、嫌と言っても付いて行きますわよ」
「…………」
 二度も先に言われて、ウルフィオナはぐうの音も出ない。
「……わあったよ、あたしのことはあたしが一番よく分かる。この身体じゃ正直……何も出来ねぇかもしれねぇ」
「それでもあなたは行く、と」
 香の確認するような言葉に、ウルフィオナはあぁ、と即答する。
「じゃ、決まりですわね。取り敢えずわたくしのフライングポニーに乗って行くといーですわ。
 なんならミイラ男の包帯も特別に使わしてやりますわ」
「あぁ……助かるぜ、ありがとな」
「お礼は、全て事が済んでから言って欲しいですわ」

 そうして、香とウルフィオナの二人は、レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)を追ってジャタの森へと急ぐ――。

『それじゃ行くぜ、準備はいいな!?』
「ああ、私はいつでも構わない」
 ニーズヘッグの言葉に、跨ったアメイアが、乗った終夏とセオドア、ミレイユ、『アンブラ』と共に背中に乗せられた美央が了承の意思を伝える。
『――――!!』
 了解、とばかりに咆哮を放ち、そしてニーズヘッグは大空へと飛び立っていった――。