校長室
【Tears of Fate】part1: Lost in Memories
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量産型クランジの足並みが乱れ始めた。 (「体勢は決した、か……?」) この日、騒動の渦中にあって、レギオン・ヴァルザード(れぎおん・う゛ぁるざーど)は休みなく戦い続けた。 量産型クランジは一命を捨ててかかってくる。ために戦いはどちらかが完全に停止するまで、徹底した性質のものであった。 何時間が経過しただろう。 エリザベート脱出の報が、レギオンの元にも届いた。 撤退と行きたいが、連中が退かない限り持ち場を離れるわけにはいかない。 遊撃兵としてレギオンは戦い続けた。 ブレード・オブ・リコの刃が奔る。金属と金属が擦過し、強烈な熱と光を放つ。 電光に討たれたことも一度や二度ではない。されどそのたびにレギオンは立ち上がった。 たった一人だが、その戦っぷりはまさしく、『軍団(LEGION)』という名に恥じぬものであった。 「協力してほしい」 見事な剣さばきで敵を切り崩した姿があった。女だ。 目に鮮やかな桃色の髪をロングにし、そのところどころに青いポイントを容れている。 頭には魔女のような帽子、ゴシック調の黒い服、スカート。刃は、左腕に仕込まれたもののようだ。 さして感情を動かさずレギオンは問うた。 「人間ではないな」 レギオンはぐっと糸を引いた。これはワイヤートラップを作動させるためのものだ。彼女を追ってきた灰色のマネキンをズタズタに切り裂く結果につながった。 女は応えなかった。 「クランジ、だな」 しかし今度の言葉は、ぴくりと彼女に反応をもたらした。 レギオンの発言に何か根拠があったわけではない。いわば戦闘者としての本能だ。戦うためだけに作られた機晶姫というものを、レギオンは頭ではなくその肌で感得していた。 「……そうだ。わた、私は、クランジΟΞ、又の名を大黒美空……ここから出たい。できれば誰にも見つからずに……力を貸してほしい」 「なぜ俺に声をかけた」 「わかりません……わからない」 (「やはりクランジか。信用していいものか……」) その疑問は瞬時、目の前の量産型を協力して倒すと、レギオンはブラックコートを彼女に投げ渡した。 「着ろ。道々、残敵を相当しながら帰投する。出口が見えたらどこへなりとも行くがいい」 「あ……ありがとう……」 「利害が一致しただけの話だ。次も同じ結果を期待できると思うな、大黒美空」 名前は、と聞かれレギオンはぶっきらぼうに名乗った。 行く手に見えた敵に対し、光条兵器を解き放つ。 ごっ、という音を立ててライフルから弾が発射された。命中、敵は焔を吹いて四分五裂した。 だが爆発したのは、目指す相手だけではなかった。 「誘爆……いや違う」 レギオンは足を止めて周囲を見回す。 次々とクランジが爆発している。 突然倒れ、木っ端微塵となるものが後を絶たない。 「どういうことだ……」 「おそらくは」 と、ブラックコートの内側から美空が言った。 「制御プログラムを乗っ取られ、最後の非常線が発動したのだと思う」 それが、ダリル・ガイザックという男がなしたものだとレギオンが知ったのは、もっとずっと後のことだった。