校長室
【Tears of Fate】part1: Lost in Memories
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●epilogue 2 分厚い眼鏡をいくらネクタイで拭っても、事実はまるで変わらない。 今日は良い天気だが、ジム・オーソンの心は昨日同様のしょぼしょぼとした雨天だったのである。 いくら敵の計略に乗せられたとはいえ、クランジΨ(サイ)の残骸を人間と間違うなんて、こっぴどい失敗だった。そのことで彼は自分をずっと責めていたのだが、それは、この瞬間までの話だ。 惨めな気分は吹き飛んでいた。 ただ、これからもっともっと惨めな気分になりそうである。 昼食を終えて実験室に戻った彼は、そこで衝撃的な光景に出くわした。 「いない……いなくなってる!!」 分厚い眼鏡をいくらネクタイで拭っても、半透明のカプセルが割られているという事実はまるで変わらない。 ここには、ローザマリア・クライツァールから預かっていた機晶姫、調査中のカイサ・マルケッタ・フェルトンヘイム(かいさまるけった・ふぇるとんへいむ)が眠っていたはずである。ついさっきまで調べていた相手だ。午前中、カイサはまるで目覚めることなく、こんこんと眠り続けていた。 それが、戻ってきてみれば、カプセルは割られ、そこに入っていたはずのカイサは消失していた。 よく見ればカプセルは内側から叩き割られていた。 「つまり彼女が目覚めて、自分で出たということ……?」 大きな物音を聞いてオーソンは飛び上がった。 オーソンはあとから『どうしてこのとき真っ先に、警備員に知らせようとしなかったか』と悔いることになる。 彼は、一も二もなく音のした方向へ走ったのだ。 研究室の裏口が叩き破られた音だった。やはり内側から。強力な力で。 「カイサくん! そこに……いるのか!」 破れた扉から飛び出した彼は、そこでカイサと出くわした。 黄金の瞳、褐色の肌、緑の髪……そして、背中から生える孔雀のような翼……。 「呼び声が、聞こえる……私は、行かねばならない」 「何を言って……」 ハンマーを振り回したような裏拳を顔面にもらい、オーソンはそこで昏倒した。 分厚い眼鏡も一撃で燃えないゴミとなった。 オーソンにとって幸運だったのは、まだカイサの体のコントロールが万全ではなく、彼女がその持てる腕力の何分の一かしか出せなかったことだ。 なのでオーソンは死なずに済んだが、意識はしっかり失った。 「クランジ……在来型……ディガンマ……何だ、この記憶は……」 カイサが何か言っているが、もちろん、ドクター・オーソンがこれを聞くことはなかった。