First Previous |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
Next Last
リアクション
・1月13日(木) 15:00〜
「失礼致します」
長谷川 真琴は、整備科長グスタフ・ベルイマンの元を訪れた。彼がイコンベース以外にいることは稀であるが、今日は進路面談といことで整備科の科長室にいる。
「まあ座んな」
いつも油塗れな科長らしからぬ、スーツ姿だ。部屋もそうだが、かなり綺麗な状態である。科長室に関しては、普段使ってないからなのかもしれないが。
「いつものようにあっちに呼ぼうと思ったんだがよ、イズミのヤツに『科長としての自覚を持て』って怒られちまった。
進路希望だけどよ、前に出してもらったまま変わってねぇよな?」
「はい。卒業後は、整備科の教官を目指したいと思います」
改めて、自分の希望を伝えた。
「今の自分の技量でどのくらいのことがやれるかは分かりませんが、それでも後進の指導・育成の必要性は感じています。特に最近は新しく整備科に入った方もいますし、四月になれば新入生も来ると思います。ですので、私にもその一助が出来ればと思っています。それに少しでも年齢の近い教官がいれば、何かと話や相談もしやすいと思いますから」
4月からは教官見習いとして、学院の整備科で修行に入る。卒業後いきなり教官というのは難しいだろうから、というのが自らを「見習い」とした理由だ。それにまだ、科長や教官長のようにマニュアルを見ずに全機体の整備が出来る、というわけではない。
「あんま自分を過小評価すんなよ、ハセガワ。はっきり言って、今のお前はそのまま教官としてやってけんぜ? 後進の指導ってんなら俺やアイツ(姉御)よりも適任だ」
確かに、科長や教官長は「身体で覚えろ」というタイプであり、本人達も理論は苦手だとよく口にしている。
「お前の作ったマニュアル見せてもらったけどよ、十歳になるうちの娘が理解出来るくらいだ。この前イコン見せてやったら急にいじり始めたんで分かったことだがな。最近の若ぇヤツには、身体に叩き込むより効果的だろ。まあいずれは俺かアイツのポジションを継いでもらいたいところだ」
「いえいえ……恐縮です」
「んなに縮こまんなよ。大体、ゴソウの姉の方なんざ、4月から超能力科の科長なんだぜ? 整備科の現代表が教官になったって何もおかしかねぇだろ」
「あやめさんがですか?」
噂には聞いていたが、本当だったとは。
「おっと、まだ正式には発表されてなかったか。まあそういうこった。今後とも、整備科を頼むぜ」
面談が終わった。どうやら、4月からはしばらく新入生の指導を一任されることになりそうだ。
(そういえば、今日からは新入生用の機体のオーバーホール期間でしたね)
正規パイロットになってからは個人でのイコン所有が認められるが、それまでは学院の訓練機に乗ることになっている。整備科にとっては、忙しい時期だ。
* * *
「真琴やクリスが今日からカリキュラムが変わるって言っていたのはこういうことだったのか」
真田 恵美(さなだ・めぐみ)が、イコンハンガーに並ぶ訓練用イコンを見上げた。昨年11月から第二世代機の本格的な運用が始まったが、第一世代機のイーグリットとコームラントはまだまだ現役である。
「また、新入生達はこいつらに振り回されんのかな。操縦も整備も」
クリスチーナ・アーヴィン(くりすちーな・あーう゛ぃん)が呟いた。
「去年のこの時期はちょうど第二世代機開発プロジェクトが立ち上がったところで、人手が足りなかったからねぇ。今年は時間もあるし、新入生にきちんと渡せるように先輩として卒業前の仕事をきっちりやりますか」
二年前は海京移転の準備、去年は第二世代機開発プロジェクトで忙しかったことを考えると、今年はまだ余裕があるのかもしれない。
真琴の作ったMマニュアルを元に、クリスチーナは基本的な整備を教え始めた。
「どうだい恵美、調子は?」
「整備科に転科して一年。ひと通りのことは出来るようになったと思ってたけど、これだけ本格的だとやっぱり大変だぜ」
まして、一日や二日で終わるようなものではない。
「外装のチェックは完了、と。あとはOSの設定だな」
恵美はコックピットの中に入り、システムの起動を行った。プラヴァーの実用化に伴い、旧世代機のOSも全てアップデートすることになっている。
ネットワークに繋いで一括で処理出来れば楽だが、セキュリティの問題で一機一機手動でシステムチェックを行わなければならない。無論、ここに不備があれば機体が正常に起動しなくなってしまうため、念入りに行う必要がある。
「これで、少しは操縦が楽になるかな。熟練のパイロットには不要だけど、最初のうちはあって損はないからな。新入生にはエースを目指して頑張って欲しいぜ」
そこへ、制服姿の真琴がやってきた。
「真琴、面談はどうだった?」
クリスチーナに問われ、彼女は軽く微笑んだ。
「4月から、整備科の新人教官として働くことになりました。これからも宜しくお願いします」
恵美は四月からも生徒であるが、教官のパートナーとなる身だ。
(こりゃ、弱音を吐いてる暇はねぇな。二人に追いつくためにも、もっと頑張んないと。じゃなきゃ、新入生に笑われちまうぜ)
気合を入れて、整備を再開した。
First Previous |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
Next Last