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地球とパラミタの境界で(後編)

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地球とパラミタの境界で(後編)

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「そろそろ模擬戦が始まってる頃か……」
 藤堂 裄人(とうどう・ゆきと)から漏れた言葉が、サイファス・ロークライド(さいふぁす・ろーくらいど)の耳に入った。
 選挙の様子を見守りながらも、ずっとイコンのことを考えているようだ。
「未知の機体もそうですが、あの七聖さんがどういう風にイコンを駆るのかは確かに気になりますね。私達の日々の課題である、イコンをどれだけ自由に正しく扱えるか。あの人たちは、それが出来るから代表を務めることになったのでしょう。私達も――」
 気付けば、裄人の姿がない。
「あれ? 裄人? どこですか?」
 もしかして、模擬戦を見に行ったのだろうか。
 サイファスは彼を探しに向かった。


・生徒会長の思惑


「失礼する」
 綺雲 菜織(あやくも・なおり)は、現会長五艘 あやめとの面会のために、生徒会室を訪れた。
「どうぞ。確か、隣の面談室が空いてましたね」
 現役員は今日も活動中である。その様子をひと通り眺めると、菜織はあやめの後に続いて面談室へと入った。
「堅い話をするというわけでもありませんね。少々こちらでお待ち下さい。お茶等はどうぞご自由に」
 面談室とあやめは言っていたが、室内には複数のモニターが設置されている。
「あやめさんが戻ってくるまでに、こちらも準備しておきましょうか」
 有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)が部屋の片隅にあるポットから急須にお湯を注ぎ、お茶の用意を行う。その後は、彩音・サテライト(あやね・さてらいと)を抱いて腰を下ろしてあやめが来るのを待っていた。
「お待たせ」
 振り向くと、振袖姿の小柄な少女の姿があった。見慣れた制服姿のあやめとは雰囲気が違う。
「あら、気が利くのね。ありがとう」
 椅子に座り、湯のみに手をつける。
「監査委員のことで何か聞きたい、ということではないのは分かってるわ。まあ、ゆっくり外の様子でも見ながら話しましょうか」
 室内のモニターには、試運転中の【鵺】の姿が映し出された。
「七聖君たちの様子、やっぱり気になりますか?」
「そりゃあ長い付き合いだもの。彼は幼馴染でね、私となつめ、ケンくんで昔からよく遊んだものよ」
 模擬戦が始まった。小隊戦を行う【鵺】の機動を、あやめが冷静に窺っている。
「一切射撃武装を使わないとは……さすがですね」
「うーん、やっぱりまだあの機体には慣れてないようね。まずは準備運動、ってとこかしら」
 あやめによれば、本気を出した賢吾は五月田教官長に匹敵するらしい。友人としてやや誇張している部分もあるだろうが、そのくらい高い実力を誇っていると彼女は評価している。
「ふふ……震えてるわよ。あなたも、本当は彼に挑んでみたかったのではないかしら?」
 その通りだ。相手がパイロット科生徒最強と目されるパイロットの一組ならば尚更である。
「身体が疼きます。高みがあるというのはいいものですから」
「あなたも剣術の心得があるものね。彼の秘技『新月』を打ち破れるか、見てみたいものね」
「それは、イコンでも使える技なのですか?」
「イーグリットでは無理だったわ。技に、機体の方が耐えられないから。でも、【鵺】ではそれを再現出来るように色々調整してたみたいよ」
 【鵺】はまるで空気の流れに身を任せるようにして、攻撃を掻い潜っている。そこには一切の無駄がない。
「模擬戦は順調に進んでるようですが……心配ごとはありませんか?」
「それは、機体の暴走のことを指しているのか、それとも『他の何か』かしら? 前者については大丈夫よ。後者については」
 あやめが口元を緩めた。
「順調過ぎるよりもちょっとしたハプニングがあった方が、むしろ盛り上がるんじゃないかしらね」