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地球とパラミタの境界で(後編)

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地球とパラミタの境界で(後編)

リアクション


・発展を望む者、バランスを保つ者


「そうですか……はい、分かりました」
 矢野 佑一(やの・ゆういち)カーリン・リンドホルム(かーりん・りんどほるむ)から、密航者と目された人物が確保されたことを知らされた。
「多分、妹さん――鈴鈴さんのこの学院でのことを教えてもらう代わりに、っていう条件だと思う。でも、どうして鈴麗さんの力を借りたいんだろう……?」
 ミシェル・シェーンバーグ(みしぇる・しぇーんばーぐ)が訝しそうにしている。依頼者は学院の、それも超能力科の人物だ。6月事件や、旧強化人間管理課の実態を知っている佑一としては、複雑なものがあった。
(「発展を望む者がいる限り……僕が消えても代わりはいずれ現れる」か)
 佑一の脳裏に、再びその言葉が蘇った。黒川が死んだ――殺されたことを考えると、その発展を望む者の野望を阻止するために、世界のバランスを保とうとしている者が対抗手段として召喚した……と考えることが出来る。
「ドクトルさん、研究者の中に発展を望む者……は、いますね。それが研究者や科学者といった人達ですから。その中でも、倫理や人道といったものを度外視してまで没頭するような人物に心当たりはありませんか?」
「何年も前から行方が分からなくなってるウェスト君がそうだよ。ヴィクター・ウェスト。彼は手段のために目的を選ばない男だ。例えば、もし対立し合う二つの陣営があってその一方に属していたとする。その時、敵陣営に面白い研究素材があるなら、平然と味方を裏切る。その研究の行く先には興味がなく、素材そのものを研究することに悦を見出すんだよ。そんな彼の力を欲する者は少なくないだろう。同時に彼を憎み、殺したいと思っている人間もたくさんいる。彼が人前から姿を消したのは、そういったことがあるからだろう」
「では、もし黒川が生きていて、彼の存在を知ったとしたら……」
「間違いなく、接触を図ろうとしたはず」
 だから、殺された。
「でも、色々調べてみたけど……世界のバランスを一番に考えてるのって、今の生徒会長さんだよね」
 ミシェルが呟く。
「それに、鈴麗さんをこの街に招いたのは、あの人だって話だし……だけど、そうなるとおかしいんだよ」
「誰にも気付かれずに黒川を殺せるほどの人物を味方にしているのなら、わざわざ呼ぶ必要もない。それに、こんな騒ぎを起こさせることも」
 佑一も違和感を覚えた。
「あやめさんとしても、黒川君の死は想定外だったってことじゃないかな。多分彼女なら、あえて黒川君を餌にウェスト君を釣り上げるはずだよ。周到な準備をしてね。大佐がいなくなった今、彼は世界のバランスを脅かす最大の危険因子だからね。
 だけど、それが出来なくなったから、別のプランに移行した。その道では有名な『便利屋レイ』が黄さんと姉妹だったことをどうやって知ったのかは分からないけど、彼女の力を必要とした。もちろん、彼女が既に別の依頼で動いていて、この学院に協力することと競合しない内容なら、ウェスト陣営との二重スパイとなる可能性もゼロではない。それを想定した上で、彼女は呼んだんだよ。おおっぴらにしたのは、どこかで見ているかもしれないウェスト君にあえて知らしめるため。そして、彼が食いつきそうな対象は、今の海京にいる」
「もしかして――雪姫さんが?」
 確かに、彼女は注目すべき人物かもしれない。
「十六、七年前になるかな。ウェスト君と大佐は同門の学徒だった。私が知る限りでは互いに嫌っていたが、当時を知る人の話だと、とても仲が良かったらしい。信じられないけどね。だから、彼女の後継者と目される司城さんに興味を持ったとしても不思議ではない。だけど、彼女については不可解な点も多い」
「と、言いますと?」
「彼女は、極東新大陸研究所の記録によれば発足当初からいたことになっている。だけど、私も含め誰も彼女のことは知らなかったし、そもそも名前を見た記憶がない。彼女自身も、大佐がいなくなってから研究所に顔を出したということだが、『初めて来た』と言ってたらしい。ただ、IDは正式な手続きで発行されたものだった。モロゾフ君は何か知っているようだが、『あの司城博士の親戚の子ですよ』の一点張りだよ。だけど、どこをどう調べても2020年より前の彼女に関する記録は存在しない」
 親戚であるはずの司城 征でさえ実際に会うのは十数年振り、それもまだ二回目だったという。
「あれほどの頭脳を持った子が、今まで誰の目にも触れることがなかったというのが不思議でならない。いや、だからこそ公にならなかったのかもしれないが……彼女の存在が周知されるようになってきている今、あの子の身に危険が及ばないように注意しなければいけないだろう」
 鈴麗は風紀委員に確保されたが、何らかの手段でウェストないし外の勢力が彼女に接触を試みるかもしれない。
 佑一は、【鵺】のテストのために雪姫と共にいる人達へ、そのことを伝えた。