リアクション
* * * 「と……千客万来、といったところかしらね」 四瑞 霊亀(しずい・れいき)は【ヤタガラス】のモニターをしている時に、その機体の姿を捉えた。 初めて見るタイプだ。肘から先、および膝から下の装甲が厚くなっていることから、格闘系だろうと推測される。所属は不明。 すぐに情報を集め始めた。 「謎の機体出現、か。行くわよ、早苗!」 葛葉 杏(くずのは・あん)はすぐに機体を飛翔させた。元々、【ヤタガラス】の次は自分の番だったのだ。 「アンさん、BMIを起動しても、こちらの武装は非殺傷性です!」 橘 早苗(たちばな・さなえ)が声を発した。 「それでも構わないわよ。元エースを倒すより、謎の新型を破壊した方が目立つじゃない! まさに私向きの展開」 そこへ、シフから通信が入った。 『まだ、相手の情報が掴めてません。こちらから攻撃しないよう、お願いします』 相手は一機だ。 『所属不明機に告げます。直ちに所属と目的をお願いします。そちらの所属が分かり次第、入区許可が出ているか確認を行います。返答がなければ、テロリスト『鏖殺寺院』と断定。防衛のため、迎撃を行います』 それに対し、通信を介しての返答はない。 ただ、機体がジェスチャーで何か伝えようとしてきている。 『えー……何だか分かりませんが、テロリストではないと言いたげですね。なぜ通信で返答しないのですか?』 それでもなお、答えはない。 『繰り返し、所属不明機に告ぐ。ここでの戦闘行為は、襲撃とみなす。所属と目的を明らかにし、速やかにイコンデッキに着陸せよ』 旧イコンデッキで待機していた茅野 茉莉(ちの・まつり)とダミアン・バスカヴィル(だみあん・ばすかう゛ぃる)は、Hexennachtを発進させ、未確認機と対峙した。レオナルド・ダヴィンチ(れおなるど・だう゛ぃんち)に、関係各所への要請と事実確認は任せてある。しかし、一向に反応がない。 アサルトライフルを構え、ダミアンがトリガーに指を掛けた。 『待って下さい。威嚇であろうと、こちらから撃てば相手に反撃の機会を与えてしまいます』 『……確かに、向こうも困惑しているような感じね。 あんた達は一旦下がって。訓練用装備だし、それに二機ともまだ公になってない機体だから』 模擬戦の機体を下がらせ、代わりに防衛のためのイコン部隊が来るのを待つ。 (レオナルド、要請の方はどうなってる?) テレパシーでレオナルドに確認を取った。 (海京全体への連絡は完了。イコン部隊は出撃許可待ち。現行生徒会からは、『現場の対応は候補者に一任する』と。既に生徒会長候補を始めとした各立候補者により、南地区はパニックも起こすことなく、落ち着いているよ) (待って、現生徒会は何もしないの?) (生徒会長からの指示で、所属不明機の特定を優先させてる。何というか、事情は本当に知らないみたいだけど、余裕そうだったよ。会長が大丈夫だって言ったから、慌てる必要はない、みたいな感じで) 未だにイコンベースには発進許可が下りないようだ。被害が出てからでは間に合わない。 (発進許可はどうなってるの?) (現在、一小隊が待機。一機相手に、何十機も動員する必要はないと。内訳は、教官二、生徒三) * * * 『フェル、管制室への確認を!』 十七夜 リオ(かなき・りお)からの通信をフェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)は、リオの指示を受け{ICN0003865#メイクリヒカイト−Bst}から管制室へ状況確認を行った。 「イコンのレーダーに映らない? 魔道レーダーにも……」 魔法技術によって造られたレーダーだと、プラヴァー・ステルスのような機体でも微弱ながら反応を捉えることが出来る。だが、それにも映らないということは、魔術的な何かが施されている可能性がある。 『目視で確認可能なのは一機。未確認機は通信には応じないものの、イコンのジェスチャーで何かを伝えようとしている。管制室側の推測だと「街の近くだとあれだから、もっと沖まで出て戦おうぜ」だって。あ、今は「ごちゃごちゃやってないで、誰でもいいからさっさと面かせや!」という意味みたい』 『管制室、それ本気で言ってんのかなぁ……。それより、こっちは実戦装備への許可は出たけど、発進許可が出ない。フェル、リヒカイトのセンサーで情報収集は可能?」 『カメラで相手の武装は確認出来る。腰に何か……トンファー? それ以外には何も』 外見的には格闘戦用っぽいが、それが単機で海京に飛び込んでくるのはあまりにも不可解だ。隠し武器はどうにもなさそうである。 「管制室の解釈が合ってれば、まるで道場破りの武術家だよ」 平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)は告死幻装 ヴィクウェキオール(こくしげんそう・う゛ぃくうぇきおーる)を纏い、海上を一望出来る旧イコンデッキへとやってきた。 (風紀委員の方も密航者関係で色々あったようだが、そっちは片付いたみたいだ。こっちは、まだお互いの状況を掴み切れていない) こちらは相手の正体が分からず、向こうはなぜこっちが戦いに応じないのか分からない、といった様子だ。向こうからの通信は入らないが、こちらからはちゃんと聞こえているらしい。 ならば、と生身のまま地上から声を発した。 「さて、そのままいられても困るから、降りるか去るかしてくれないか」 辺りを見渡し、レオの方を向いた。どうやら気付いたらしい。 「何も言わないんじゃ分からないな。だけど、返答によっては……覚悟してもらうよ?」 さあ、どう出るか。 未確認機は沈黙を保ったままだ。しかし、次の瞬間――海面に高い水飛沫が上がった。 (今のは、何だ!?) すぐに状況を確認してもらう。 どこかから、海面への威嚇射撃――もとい砲撃が行われたのだ。エネルギー反応が検出されたという知らせが、通信で入ってくる。 (射線から、位置の特定は? レーダー範囲外からの狙撃だって?) 一体何キロ先から撃ってきたのだろうか。目の前にいる格闘戦機のようにレーダーに映らない仕様なのは確かだろうが、エネルギー反応がレーダーの端まで続いているのは異常だ。 続いて、二回目の砲撃が着弾した。まったく同じ場所に。正確に狙ってきたのだ。 これで、向こうに攻撃の意志があることが明らかになった。 * * * 「雪姫さん、機体の解析お願い出来ますか?」 久我 浩一(くが・こういち)から頼まれ、雪姫が未確認機の解析に取り掛かったのは、レーダー範囲外からの狙撃が行われる直前のことだった。 「……スキャン開始」 海京上空の衛星を介して撮影された機体の映像がモニターに表示された。 「データベースに該当機なし。パーツ別照合――類似機構を持つ機体を確認」 その時、南地区沿岸で水飛沫が上がる。敵性機体との判断が下り、迎撃許可が出されたのが聞こえてきた。 「クルキアータ、およびクルキアータカスタム『七つの大罪』シリーズ。35%が一致」 「ということはF.R.A.G.か、アカデミーでしょうか」 問題は、クルキアータの場合戦時中に撃墜された機体の残骸が、今なお太平洋に沈んでいるということにある。ブラッディ・ディヴァインはそれを回収して利用していた。35%という数値では、彼らの残党という可能性も捨てきれない。 「……そういえば監査候補の星渡さん達は、近々アカデミーの代表者が来ることになってると言ってましたね」 雪姫による解析データをヒントに、その確認を開始した。 |
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