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地球とパラミタの境界で(後編)

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地球とパラミタの境界で(後編)

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第一章 〜午前の部〜


「ふあぁ〜……おはよ、マルちゃん」
「早(おはよう、お姉ちゃん)」
 少女は寝ぼけ眼をこすりながら双子の妹と共に、回廊を歩いていた。
「初めてだね、アカデミー以外の人達と戦うのは。どう?」
「別(別に。特に何とも思わないけど)」
「相変わらずぶあいそーだねーマルちゃんは。もっと元気にいこうよ」
「無理」
 素っ気なく返され、少女は凹んだ。
「なんだよー、ドミニクお姉ちゃん、ちょっと悲しいよー。しょぼん……」
「羨(そうやってテンションの上げ下げ自由自在なの、ちょっと羨ましい)」
「あら、そう? ありがと」
 すぐに元の調子に戻る。
「んじゃま、聖歌隊の対外デビュー戦、いっちょ頑張っちゃいますか!」
「違(スポーツの試合とは違うって。分かってのかなーこの人……)」


・不安


 星渡 智宏(ほしわたり・ともひろ)は、悩んでいた。
(ドミニクって子の封書、何が書いてあった? 今時手渡し? 徹底して漏洩を回避して、ダリアに伝える意図は何だ?)
「うーむ」
 悩んでいる彼を見かねたのか、時禰 凜(ときね・りん)が一喝してきた。
「色々悩み過ぎです。テスト落ちますよ?」
 ダリアのために、ヴェロニカや教官達に必死に願いを告げていた智宏はどこへ行ったのだと。
「智宏さんが学院とアカデミーの戦いを望んでいないこと、私以外で一番知っているのは、きっとダリアさんです」
 出来れば、杞憂であって欲しい。
「凛、すまないな」
 そうだ、悩んでいても仕方がない。
「きっと、大丈夫ですから」
 ちょうど、今は学院にいる。智宏はダリア・エルナージに会いに行った。
「ダリア、おはよう」
「おはよう。どうしたのよ、そんな顔して?」
 どうにも、不安が顔に出てしまっていたらしい。軽く咳払いをすると、彼女に封書のことを確認した。
「何が今の平穏を崩すか分からない。疑っているわけじゃなくて、心配なんだ」
 ドミニクという少女は、「今度は向こうで」とも言っていた。留学生である以上いつかは帰らなければならない身だが、その時が来てしまったのだろうか。もしそうなら、「F.E.A.G第一部隊」を統べる彼女が必要になったということだ。
 実際、何か大きな事態の連絡かもしれない。それに、均衡を崩すのは当事者とは限らないのだ。
「前に言ったよな。君を護り、君の戦いを助けるって」
 癖で頭にポンと手を乗せそうになるもそれを引っ込め、しっかりとダリアと目を合わせた。
「それを、あの戦いきりで終わらせたくない」
 あの時は、彼女の真摯な姿を見て、護らなければと思った。
「ただ、今は……意味は少し違って」
 ダリアの顔に、戸惑いの色が浮かぶ。
「――戦士の君も、一人の女の子の君も、護り続けたい。駄目だろうか?」
 自分の想いを、真っ直ぐに伝えた。
「……え? そ、それって、ま、ままま、まさか……」
 ダリアの顔が紅潮し、あたふたし始める。ここまで取り乱したダリアを見るのは、初めてかもしれない。
 何か変なことを言っただろうか。いや、現状は両校の平穏の維持と、彼女を護ることはほとんど同義だ。何もおかしくないはず。
 それを実現するためにも、この手を取って欲しい。
「は、はい! あ、いや……分かったわ。だからもっと強くなって、私に」
 もじもじしながら、小声で、
「あ、甘えさせて、ほ、欲しい……」
「今、何て?」
「私が心を許して甘えさせるくらい、いい男になって欲しいって言ってるのよ! もう!」
 あれ、この子こんなキャラだったっけ?
 毅然とした軍人とも、少し達観した年頃の少女とも異なる、初めて見る姿だった。
「……と、取り乱しちゃったわね。とにかく、そういうことなら話しておくわ」
 大きく深呼吸して、ダリアが心を落ち着かせた。
「基本的には、大した内容じゃないわよ。アカデミーの『聖歌隊』の正規メンバーリストと、各々の専用機について。ただ、外部にはまだ明かされてない情報だから、慎重に扱う必要があったのよ。
 ……なんでドミニクをメッセンジャーにしたのかは分からないけど。他に適任者はいるでしょうに」
 また、近々アカデミーと天学の代表者による顔合わせを予定しているということだった。その際に、『聖歌隊』を公にするらしい。
「具体的な日取りは決まってないわ。あと、『聖歌隊』の専用機『七大天使』についても、全部が書かれてるわけじゃない。
 ったく、全部教えて欲しけりゃデートしろとか……あの変態技術局長め。かのジール・ホワイトスノー博士の師だからって……」
 どうやら、両校の対立ではなく、むしろ連携強化に向けての動きの内容のようだ。
「本当に、それだけか?」
「ええ。あとは、新聞、特に株価はチェックしておけって」
 智宏に心配をかけまいと気を遣っているわけではなさそうだ。
「智宏さん、ダリアさん。そのアカデミーのこと、情報共有しても大丈夫ですか?」
 凛が確認を取ってきた。
 同じ監査委員候補なら、この情報を事前に知らせていても問題ないのでは、と。
「聖歌隊のメンバーについてはまだ明かせないけど、近いうちにこの学院に来るかもっていうのは知らせた方がいいわね」
 多分コリマ・ユカギール(こりま・ゆかぎーる)校長あたりは、エルザと仲がいいらしいから知っているんじゃないかと、ダリアが言った。よく電話越しならぬテレパシー越しでお茶しているらしい。封書には、エルザのどうでもいい私信も入っていたようだ。