天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

【●】葦原島に巣食うモノ 第三回

リアクション公開中!

【●】葦原島に巣食うモノ 第三回

リアクション

   一三

「無茶をしますねえ……」
 閃光、爆発、衝撃。
 漁火は手の平に突き刺さった機械晶爆弾の破片を抜いた。
 刀真、月夜、詩穂、青白磁、セルフィーナは咄嗟に身を庇ったために致命傷は避けられたものの、動けないでいる。特にセルフィーナは、漁火の盾となってしまった。
「ありがとうさん。あたしも不死身じゃないもんでね。助かりましたよ」
 漁火は身を屈めて、礼を言った。手の平の傷跡は、既に消えかかっている。
「それを聞いて安心したわ」
 空気をつんざき、どこからともなく伸びてきたパラサイトブレードが、漁火の腹部を貫いた。
「!?」
 漁火は咄嗟に刃を掴もうとしたが、一瞬早く、回収されてしまう。相手がどこにいるか分からない。漁火は目を細めた。
 次第に煙幕が晴れてくる。――と、周囲が闇に閉ざされた。【エンドレス・ナイトメア】だ。
「これは……」
 漁火の口元に笑みが浮かぶ。「やりますねえ……」
 漁火は動けない。ただ待っている。
 ぽっ、と灯りがついた。罠だろう、そうと分かっていたが、漁火は乗ることにした。軽やかに、倒れている者を踏むこともなく移動していく。
 ――見つけた。
【光術】に照らされて、シャーロット・フリーフィールド(しゃーろっと・ふりーふぃーるど)が走っている。
 漁火の腹部――先程、パラサイトブレードが刺さった場所に、再び衝撃があった。
 戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)が【トゥルー・グリット】を放ったのだ。小次郎は漁火に訊きたいことがあった。だが、それを聞き出すための力量は自分にはないと判断した。となれば、すべきことはただ一つしかない。
 漁火の体が、弾丸を外へ出そうと動き始める。
 そこに、イリス・クェイン(いりす・くぇいん)が【ファイナルレジェンド】を放つ。彼女は待った。自分の作戦が最も効果を発揮するときを。そのために、同じ契約者を犠牲にしたことは心が痛むが、どんな手を使ってでも漁火を仕留めるつもりでいた。
「これは……」
 全身を襲うダメージに、漁火は顔をしかめた。痛みはない。為に、漁火は自身の状態を正確に把握できないという弱点があった。
「借りは返させてもらうわ」
 目の前に、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)がいた。おや、と漁火は僅かに柳眉を顰めた。見覚えのある顔だ。だが、思い出せない。
 漁火にとって、人間の顔はどれも同じような物だった。だから彼女は「目」を好んだ。
 ハイナからは、操られている間のことは不問に付されたが、祥子にとっては屈辱以外の何物でもなかった。故にこの行動には、私怨が多分に混ざっている。
「日頃の行いの悪さを悔いなさい。ま、一回刺されたくらいで悔いる程の可愛げがあるとも思えないけど――」
【チャージブレイク】で溜めた力を、【正義の鉄槌】に叩き込む。その反動が、祥子を襲う。全身の筋肉がビシビシと音を立てた。何ヶ所か、切れたかもしれない。骨もヒビが入っただろう。
 漁火は、その時になってようやく、祥子の顔を見た。
「おや」
 彼女は笑った。「いい目をしてますねえ。その恨みの籠った目――好きですよ」
 パラサイトブレードの切っ先は、漁火の中の何かを砕いていた。
 祥子はそれを見た。
 炎を孕んだ、水晶だった。その炎が膨れ上がり、水晶が破裂し――漁火は消えた。
 笑みと、欠片を残して。


 紫月 唯斗と三道 六黒の互角の攻防は、ずっと続いていた。
 だが、黒檀の砂時計の砂が落ち切り、六黒のスピードが僅かに緩んだ。その瞬間、「双錐の衣」が錐のように変化し、六黒の首筋を切り裂いた。
 六黒は「破壊者の鎧」の痛みと相まって、遂に表情を歪めた。
 漁火が消えたのは、その時だった。
「やったか!?」
 祥子たちの歓喜の声が聞こえてきて、唯斗は笑みを浮かべた。
「数に頼らなきゃ何も出来ないってあんたは言うが、数に頼ってあの女を倒したぜ?」
「師匠!」
 ドライア・ヴァンドレッドが虚刀還襲斬星刀を手に前へ出ようとする。
「下がれドライア!」
「でもよ――」
「これは力と力のぶつかり合い。そしてわしは敗れた。漁火もだ。口出しも手出しも罷りならん」
 ドライアは、師の言葉に口を噤む。だが、虚刀還襲斬星刀は手放さない。
「だったら大人しく、捕まってもらおうか」
「それは断る」
「だろうな」
 あっさり投降するような人物でないことは、唯斗も承知している。
「なら、力づくで――」
「おぬしも相当のダメージを負っている。捕えるというなら、わしもドライアも死に物狂いでもう一戦しよう。どうする?」
 漁火の相手をしている仲間と合流すれば可能だろう。
 だが、肝心の漁火を倒した今、気力も体力もどれほど持つか分からない。
 唯斗はその場に腰を下ろした。
「見逃すわけじゃない」
 既に唯斗自身、その体力は残っていない。
「――また会おう」
 踵を返し、六黒は痛む全身を意志の力で押さえつけ、洞窟を去った。
 両ノ面 悪路が、ふらりと現れる。
「どこ行っていたんだよ?」
 ドライアが口を尖らせる。
「面白そうなものを見つけましてね……」
 悪路が見せたのは、炎の色をした水晶の欠片だった。