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イルミンスールの息吹――胎動――

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イルミンスールの息吹――胎動――
イルミンスールの息吹――胎動―― イルミンスールの息吹――胎動―― イルミンスールの息吹――胎動――

リアクション

「んー……はぁ。色々回れて、楽しかったー」
 既に日は地平線の向こうに沈み、辺りは段々と闇に包まれていく、その中間の赤とも青とも言えない世界の中、伸びをしたフレデリカが清々しい表情でフィリップに向き直る。
「よかったです。フレデリカさん、思い悩んでいるように見えましたから」
 フィリップの言葉を聞いて、フレデリカはああ、やっぱり、と思う。やっぱりフィル君は、優しくて、カッコいい。
「……私ね、不安だったの。フィル君はあの時、私と同じ物を背負うって言ってくれた。
 でもね、私はフィル君の気持ちが知りたかった。言葉で、私に伝えてほしいって思った。……我侭だよね、私」
 ……だから、私から言ってしまおう。いつまでもフィル君の優しさに甘えていたら、ダメだと思うから。
「……私、ね。フィル君のことが好き」
 意を決して放たれた言葉が、フィリップに届く。……だがフレデリカは見てしまった、言葉を理解したフィリップが戸惑いの表情を露わにするのを。
 ……ああ、そうなんだ。まだ私とフィル君は違う所に、立っているんだ。
  でも、今の言葉で、少し変わった、かな? フィル君のことだからきっと、分かってくれるよね……。
「ううん、なんでもない! それじゃ帰りましょう、フィル君」
「え、あ、はい」
 首を傾げなおも戸惑うフィリップに振り返って、フレデリカは沈みゆく太陽を見つめる――。


 着実に復興が進みつつあるザンスカール地方。
 ……しかし一方で、相次ぐ戦乱が残した傷跡は今尚、日常の直ぐ傍に遺っている。

「……あぁ、確かにあった。これが、世界樹ユグドラシルが付けたっていう痕か」
 大図書館に残されていた情報を頼りに辿り着いた場所で、鹿島 ヒロユキ(かじま・ひろゆき)が周囲を見回して、かつて起きた出来事を想像する。この辺りはエリュシオン侵攻の際、遥か遠くにそびえる世界樹ユグドラシルからの攻撃を受けた場所だ。鬱蒼と茂る森にあって、この場所だけが不思議と開けた感じがするのは、それだけ多くの木々がなぎ倒されたことを示す。
「イルミンスール周辺でも、不自然に曲がった樹や、黒く変色した樹を見かけましたね。
 ……まだ、この地には多くの傷痕が刻まれている。そして多くの命が失われた……」
 呟いたウィンディ・ベルリッツ(うぃんでぃ・べるりっつ)が目を閉じ、この地を襲った戦乱で不幸にも命を落としたものたちを追悼する。願わくばこれほどの悲劇を生んだ戦いが、二度と起きることの無いよう。そう思いながら目を開けたウィンディは、ヒロユキが真剣な眼差しで北方向、丘陵が広がっているであろう方角を見つめているのに気付く。
「何か、気になるものでもありましたか?」
 ただならぬ様子に尋ねれば、ヒロユキは視線をこちらに向けて口を開く。
「分からない……だが、何故だか胸騒ぎがするんだ。何かが起きるような、そんな気がする。
 それが何なのかは分からない……けれど、今の平和は決して長くは続かない、そう確信する俺がいる」
 言って、ヒロユキがまた、先程と同じ方角を見つめる。続いてウィンディも同じ方角を見れば、ヒロユキが言っているものと同じものかは分からないが、妙な胸騒ぎを感じる。
「……気に病み過ぎても、仕方ありません。この先にはイナテミスという街があるのでしょう?
 行きましょう、今からなら日が暮れる前に着けるはずです」
 だが、それが何なのかは、ウィンディにも分からない。ならば深く考えるのは止めにしようと、ヒロユキを思考の海から救い出すべく努めて明るい声を発する。
「……ああ、そうだな」
 ひとまずは納得したヒロユキが、視線を外しイナテミスへの道を辿る。最後にもう一度、今まで見ていた方角を見つめ、今度は振り返らず歩き出す――。


 そして、お待たせしました。意気揚々と買い物に行ったとあるマッチョの辿り着いた先はというと――。

「……迷いました」
 がっくり、とルイが肩を落とす。まさか店に辿り着く前に迷ってしまうとは、流石に凹んだ。
「凹んでいても仕方ありません。私が信じた方向に向かって、今は歩くのみです!
 ……しかし、ここはやけに暑いですね。季節は夏とはいえ、これは少々異常ではないでしょうか」
 滝のように流れる汗を拭い、ルイが辺りを見回す。いつの間にか森を外れ、荒涼とした大地が広がるここは、どこだろうか。

「ルイーーー!!」

 と、上空から聞き覚えのある声が聞こえてきた。上を見上げれば、随分と成長したセラの姿が見えた。
「もう、どうして一人で行こうとするんです? 自分が救いようのない方向音痴だって分かってるんですか?」
「それは……ごめんなさい」
 セラの気迫に押されたか、ルイが素直にぺこり、と頭を下げて謝る。
「……まあ、無事で何よりです。この辺りは魔力の流れが不自然なんです。何が起きるか分からないですから、早く離れましょう」
 セラに促され、ルイがその場を後にする。
「それよりもセラ、その格好は一体どうしたんです?」
「そのことでルイに相談したかったんです。帰ったら話、聞いてくださいね。それと、はい」
 振り返ったセラから渡されたのは、大きな輪っかと紐。
「家では必ず、これを付けていてくださいね」
「セラ、これはいくらなんでも――」
「……返事は?」
「……はい」
「よろしい♪」
 満足気に微笑むセラの背中を見つめて、ルイがこれは大変そうだ、とため息をつく――。