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インベーダー・フロム・XXX(第1回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第1回/全3回)

リアクション


【5】GURDIAN【1】


『!?』
『なに、この感覚……!』
『見ろ、世界が灰色に染まる……』
『俺の身体も灰色に……。なんだ、一体、これは。力が抜ける……。身体が石のように重い……くそっ』

 突如、シャドウレイヤーの範囲が広がった。
 灰色の静止した世界が、海京の哨戒にあたっていたイコン隊を飲み込む。
 シャドウレイヤーの中では、魔法少女以外の活動が著しく制限される。それはイコンも同様だ。魔法少女の搭乗する機体であれば、レイヤーによる浸食から守られるが、そうでなければ浸食を防ぐ手立てはない。
 水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)はコンソールパネルを叩き、巌島三鬼の状態を確認する。
「出力30%に低下。レーダー及びセンサーにノイズ発生。駆動系の稼動効率もダウン。高度維持に支障……」
 海京上空を哨戒していた巌島三鬼は、風を失った凧のように高度を下げていく。
 とその時、機体の肩に取り付き、策敵を担当していた鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)が、目標を発見した。
 機体直下にアイリたち、そしてクルセイダーの姿が見える。
 イコン搭載のレーダーでは人間大の目標まではカバーしきれないため、九頭切丸はハイドシーカー及び、殺気看破、ホークアイを駆使し警戒にあたっていたのだが、シャドウレイヤーの外側から内部を認識することは出来ない。彼が目標を発見したのはシャドウレイヤーに飲み込まれた直後だった。
「……レーダーに高エネルギー反応。数3。件のプラント破壊テロの犯人もご登場のようですね」
「…………」
 コクピットに九頭切丸が戻ると、睡蓮は魔法少女仮契約書で、薄羽根の生えた妖精型のマスコットに変身。
 九頭切丸も同様に魔法少女ーーフリルが付加され、より近寄り難さの上がったーーに変身する。
 二人の変身に伴って、不全に陥っていた巌島三鬼の機能は正常に戻った。
「どうかしましたか、九頭切丸?」
「…………」
「鉄仮面を貫いていてもわかりますよ。どうして自分が魔法少女なんかに、そう思っているのでしょう?」
「…………」
「生身では私より戦力になりますから、万が一イコンが機能しない状況を踏まえましてですね」
「…………(怪訝な鉄仮面)」
「ちがいますどうなるのかみてみたいとかそんなのじゃないです(抑揚のない声)」

「どうやら祭りに乗り遅れたようだ」
 モニターに開いた無数のウインドウを閃崎 静麻(せんざき・しずま)は苦々しく見ていた。
 破壊されたプラントに関連する西区の施設に監視カメラを設置し、巨大兵器の来襲に備えていたのだが、カメラはシャドウレイヤーの発生を感知することは出来なかった。空間を認識することが可能なのは、あくまで契約者のみだ。監視カメラが機能するのであれば、破壊されたプラントに設置されていたカメラから犯人を割り出すことが出来ている。
「……ま、何事も勉強だ。まずはこの胸くそ悪い空気をどうにかするか」
「ええ、私たちも変身しましょう」
 ジェファルコンの操縦を担当するレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)は言った。
「黒革の煌めきに包まれ、ビシバシ一閃、今日も悪をこらしめる! お仕置き委員長・サディスティックレイナ!!」
 黒革のハイレグレオタードに、同素材の長手袋&ハイヒールのブーツ。そして深紅の裏地が鮮やかな黒マント。解いて流された髪がまた、普段の真面目な彼女との対比もあって、よりセクシーさを際立たせている。
「……意外にもノリノリで変身シーンとかやるんだ」
「魔法少女の変身シーンは”お約束”と、天から変な声が降りてきたものですから……」
 と言いつつも、やっぱ恥ずかしかったのか、顔を赤くしていた。
「魔法少女って言うより悪の美女幹部なノリだな。そもそも少女を名乗るのが苦しくなってきてる年齢だろうけど」
「ま、まだ名乗れます! と言うか、そっちこそなんなんですか、その格好!」
 マスコット化した静麻は、未来からダメ人間を更正させる為にやって来た日本の誇る青狸にクリソツだった。
「ボク、しずえモンです」
「それダメなやつでしょ!」
「なに、心配するな。著作権団体からの追求を逃れる為に、目の部分には黒墨で横棒を入れてある」
「どうか怒られませんように……」

「システム正常に作動中。出力、異常なし。レーダー・センサー共に異常なし。各部動作良好です」
 エグゼリカ・メレティ(えぐぜりか・めれてぃ)ラーズグリーズのエラーチェックを入念に行った。
 機体にシャドウレイヤーの影響は皆無。
 もっとも、そうでなくては恥ずかしい衣装を我慢して魔法少女となった意味がない。
「……本当に不本意ですが、これも戦闘を補佐するためと思えば仕方がありません。ただ……」
「ただ?」
 前部コクピットに座る柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は眉を上げた。
「何故、主は普段の格好のままなんですか。私がこんな愛くるしい衣装に包まれて、打ち震えていると言うのに……」
「うるせぇな。そこは本職と仮免の差だろうが。本職は私服OKなんだよ。刑事だって偉くなりゃ私服になんだろ」
 本職の魔法少女と仮契約の魔法少女の大きな違いは、仮契約は強制的に変身状態になってしまう点である。
「ず、ずるいじゃないですか」
「そりゃお前の精進が足らねぇからだ。俺クラスともなれば、格好から入らなくても魔法少女を心得てるからな」
「俺クラスって、主の魔法少女レベルはたかだか”3”でしょうが……」
『お取り込み中のところ失礼します』
 睡蓮から通信が入った。
『目標の高エネルギー体を捕捉しました、映像を転送してもよろしいでしょうか?』
「勿論だ、送ってくれ」
 モニターに共有した巌島三鬼からのライブ映像が映った。
 ラボラトリーの屋根に、三体の光の巨人の姿があった。大きさは10メートル前後。背中に大きな翼を有し、全身が白く発光している。体表に金属的な質感はなく、実に有機的だ。頭部には目に類する器官はなく、ただ巨大な口が目立つ。
「イコン……なのか?」
「目標を照会中……。だめです、イコンデータベースには該当する機体、及び類似する形状の機体はありません」
「まぁイコンと言うより怪物だな。”アグニトゥス”に続き、未来の代物か?」
 以前、シャドウレイヤー内で交戦した戦艦を思い出した。だが、目の前の巨人はかの戦艦とは大分雰囲気が違う。
『グガ、ガガガァァァ、わ、グガ、わ、わ、我等の……』
「!?」
 突然、言葉を発した巨人に思わず息を飲む。
『わ、ガァ、我等の敵に鉄槌を! 我等は、わ、我等は神の祝福を受けし理想の守護者なり……!』
「”守護者(ガーディアン)”だと……?」