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インベーダー・フロム・XXX(第1回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第1回/全3回)

リアクション


【4】CRUSADER【3】


「……もしかして、読み違えたか」
 姫宮 和希(ひめみや・かずき)は大文字博士のラボの前を警戒していた。
 スーパーロボット理論がスゲーカッコいいから横取りしたい奴がいるのかも……と思い、張ってるのだが誰も来ない。
 誰も来ないばかりか、空が急に灰色になるわ、なんだか力が抜けてくるわでろくな事がない。
「……ちくしょう、もう帰ろうかな」
 弱音を吐いたその時だった。クルセイダーの一団がこちらにやってくるのが見えた。
「おおっ、やっぱり読み通り!」←違う。
 和希は仮契約書を取り出し、魔法少女に変身する。
 普段のバンカラスタイルとは違ったピンクのフリル&リボンの女子感バリバリのドレスだ。しかしこの契約書、契約者の性格が衣装にも出てしまうのか、背中にはなんだか物騒な書体で『天上天下唯我独尊』とか書いてある。
「三度のメシより喧嘩が大好き! うるせぇ奴には即飛び蹴り! 夜露死苦魔法少女バンハール!」
「こんなところに……。アウストラリアスの仲間か」
「気を付けてください、和希さーん!」
 クルセイダーの一団の後方に、アウストラリアスとポラリスの姿が見えた。
「和希じゃねぇ、今はバンハールだ!」
 バンハールが拳法の構えを取ると、フリフリドレスがふわふわと揺れる。
「……くそ、フリフリとかひらひらの衣装って恥ずかしいな。ええい、恥ずかしがっていてもしょうがない!」
 意を決して、和希……いやさ、バンハールは飛びかかった。
「あんまジロジロ見てんじゃねーぞ!」
 スカートの中身が丸見えになるのもいとわず、傍にあった街路樹を足場にして、敵の頭上を取る。灰色の世界にひと際鮮やかに映るパープルのパンツ……だが次の瞬間、鎌のひと振りのような蹴りがクルセイダーの顔面に突き刺さった。
「がはっ!?」
 倒れるクルセイダーに代わり、もう一体が、掌を素早く翻した。不意にその手に青白く光る広刃の大刀が現れる。
「今のは……?」
「理想の敵に安らかなる眠りを!」
「ちっ、喰らうかよ!」
 乱れ来る攻撃を素早く躱す。根っからの喧嘩センスと、流派『万勇拳』での修行は伊達ではない。
「何者だか知らねぇが、旨い海産物の宝庫の海京は俺の庭も同然、荒らす奴には容赦しない!」
 バンハールの姿がクルセイダーの視界から消えた。素早く足元に潜り、背後にまで回り込むと、渾身の一撃を放った。
「必殺! 仏恥義理(ぶっちぎり)バンハールキック!!」
「ぐは……っ!!」
 脇腹に突き刺さった蹴りは、メキメキと肋骨を砕き、クルセイダーを吹き飛ばす。

「海京を騒がせる悪い人は、魔法少女マジカル美羽がお仕置きだよ!」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は歩道横のポストの上でキュピーンとポーズを取った。
 レースとリボンとフリルが、たっぷり使われた魔法少女コスチューム。そしてスカートはいつも以上に短い。
「ここは私の魔法にお任せだよ、アウストラリアス!」
「美羽さん……!」
 敵は一人ではないが、魔法少女たちも一人ではない。バンハールに続き、美羽もアイリの元に駆けつけたのだ。
「君の得意技って、魔法より格闘じゃなかったっけ……?」
 犬のマスコットに変身したコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は言った。
「殴る蹴るがメインの日曜8時30分のアニメだって、ジャンルが『魔法少女』なんだから大丈夫っ!」
「……って、それやっぱり魔法じゃないじゃないか」
「ううん、そんな事ないよ。ちゃんと魔法だって使えるんだから。見てて、私のとっておきの魔法……」
「え、美羽がウィザード系の技を?」
「とりゃあああああーっ!!」
 美羽はクルセイダーに突撃……ではなく、何故だかUターンして、ポラリスに突撃していった。
「はうう……! な、なんなの!?」
「ポラリス、伏せ!」
「ほえっ!?」
 何が何だかわからないが、伏せたポラリスの背中を踏み台に、美羽は天高く飛び上がった。そして、見上げたクルセイダーの側頭部に横薙ぎの膝蹴りを叩き込む。
「……”シャイニングウィザード”!? それ、魔法ダメージじゃないから! 物理ダメージだから!」
「魔法だよ! ”天才を超えた魔術師”が編み出した魔法だよ!」
「その人は魔法使いじゃないよ!」
「おのれ……!」
 クルセイダーは態勢を立て直し、再び刃を美羽に向けた。
「足元がふらついてるよ!」
 長剣を蹴り飛ばし、竦んだところに二段蹴り。更にカカト落としで敵の脳天を叩き割る。連続攻撃に敵は倒れた。
「私の魔法の前に敵はないよっ! 魔法こそマジック!」
「魔法じゃないってば……」
 安心するにはまだ早い。クルセイダー達は倒れた同胞を踏み越え、美羽とバンハールに迫る。
 美羽はバンハールに目配せし、バンハールも美羽に返す。
「決めるよ、バンハール!」
「ああ、任せろ、美羽!」
 美羽は全力ダッシュの飛び蹴りで、クルセイダーの一人をバンハールのほうに吹き飛ばした。そして、バンハールもまた渾身の飛び蹴りで、敵の一人を美羽のほうに吹き飛ばした。
「愛と勇気のツープラトン攻撃! ダブル☆マジカル★キーーーック!!!」
 同時に繰り出されるカウンターキック。ヘルメットを叩き割られたクルセイダーは力無く崩れ落ちた。

「犬の遠吠え……?」
 高崎 朋美(たかさき・ともみ)高崎 トメ(たかさき・とめ)は静寂に響き渡る犬の鳴き声に気が付いた。
「なんだか気味が悪いねぇ。何か良くないものがいるのかもしれないよ?」
「アイリの言ってた、クルセイダーじゃ……。シャドウレイヤーが存在したんだもの、きっとクルセイダーも……」
「ああ、せやなぁ。きっと例の連中もいるはずや。アイリはんは本気の目ぇしとったからねぇ。同じ女のカンというか、覚悟決めた時の私の……昔々の私もあんなやったなぁ。でも、ええか朋美。あんな本気な目ぇ持った人に手ぇ貸すからには生半可な気持ちやあきまへんよ。アイリはんの言う事が本当なら、こりゃどえらい事件に繋がっとるんやからね」
「勿論、わかってる……。でもボクはアイリの力になりたい。だって友達になりたいから……」
 そう言うと、トメはニッコリ笑った。
「そんだけ覚悟決まってたら充分や。そしたら私も、協力は惜しんだりしませんわ」
 狭い路地を抜けて、大きな通りに出ると、バンハールと美羽、アウストラリアスとポラリスが、クルセイダーと戦っているのが目に入った。
 その横でコハク(犬)が遠吠えを上げている。
「なんや、あんたやったんか、気味悪い鳴き声は」
「き、気味が悪いって酷いな……。こうして遠吠えで魔法少女の皆に場所を知らせてたのに……」
「ああ、そうやったんか。なら、次はもっとかわいい鳴き声のマスコットになってな。犬は怖いわぁ」
 朋美とトメは仮契約書で魔法少女とマスコットに変身する。
「修理と整備ならボクにお任せ! 愛と誠の格納庫のエンジェル! メカニック魔法少女、サイバートモミン!」
「そして、その愉快な相棒、かわいいヘビのトメちゃんや」
 朋美の整備士としての経歴が反映され、フリフリドレスはメタリックシルバー、装飾にネジとかボルトが。
「……前にも魔法少女にはなった事があるけど、やっぱり恥ずかしいな。ツナギのほうが動き易いよ……」
「いつもそんな格好なんやから、たまにはええやないか。よく似合っとるで」
「ありがとう。でも……かわいいヘビ?」
「ん?」
 トメの変身したヘビはパイソン種、太くて大きくて、首に巻いたら絞め殺されそうなビジュアルである。
「ヘビはこんくらいのほうがかわいいんや。さぁくるせいだぁのひよっ子どもを締め上げるで」
「う、うん!」
 朋美達に気付き、クルセイダーも身構えた。
「あの、手の中にあるもの……!」
 朋美は彼らの手の中にあるものを目ざとく見付けた。それは掌に収まるほどの筒状の物体だった。筒の表面にあるボタンを押し分ける事で、クルセイダーは武器を出現させているようだ。例えば、一度押すと筒の尖端から青白い光が伸び短剣の形状に。二度押すと光は更に長く伸びて長剣に姿を変える。変幻自在の未来の武器のようだ。
 クルセイダーは武器を”長槍”に選択。リーチを活かし、朋美に激しい突きを浴びせる。
「……っ!?」
 朋美に銃を構えさせる隙を与えない。
「やらせまへん!」
 トメが地面をするする滑り、足元からクルセイダーに絡み付いた。身体をよじ上りそのまま締め上げる。
「………な、なんだと!?」
「手も足もでないなりに、なんなと攻撃のしようはあるもんですなぁ。私かてびっくりしますわ、ごめんあそばせ」
「おばあちゃん、凄い……よしっ!」
 朋美は脚や腕、急所を外して撃ち抜く。トメとの連携を駆使して、次々にクルセイダーの行動を封じていった。

「散開ッ!」
 しかしクルセイダーの判断は早かった。僅かでも劣勢を感じとると素早く撤退に転じる。
 身動きの出来ない同胞を見捨て、追っ手を分散させるためバラバラに散開し、あっという間にその場を去った。
「待ちなさい……!」
「はう〜〜、待ってよぉ、アウストラリアス〜〜!」
 アウストラリアスとポラリスも彼らを追ってすぐに移動を始めた。
 残されたのは行動不能に陥ったクルセイダー達。彼らから情報を引き出すため、美羽とトメが迫った。
「……さぁて、いろいろ白状してもらうわよっ」
 美羽は横たわるクルセイダーにげしげしと蹴りを入れた。トメはその身体を活かしてぎゅうぎゅう締め上げる。
「あんた達の正体と目的は何? 仲間の居場所はどこなのよーっ!」
「せや、大人しく喋ったら痛い目みんと済むんやで」
「お、おい。あんまり無茶すんなよ……?」
 バンハールは容赦なく厳しい二人をなだめる。
「……我等」
 クルセイダーは口を開いた。
「我等、神に祝福されし理想の尖兵。神の加護がある限り何も恐れるものなし。例え”死”すらも」
「!?」
 次の瞬間、クルセイダーの身体が大爆発を起こした。紫色の爆炎に飲み込まれ、二人は吹き飛ばされた。
「美羽!」
「おばあちゃん!!」