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五精霊と守護龍~溶岩荒れ狂う『煉獄の牢』~

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五精霊と守護龍~溶岩荒れ狂う『煉獄の牢』~

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●イルミンスール:校長室

「炎龍の突然の出現も気になる所だけど……エリザベート、世界樹の元気がないというのは本当なのかしら?」
「ど、どうしてあなたがそのことを知ってるですかぁ!」
 御神楽 陽太(みかぐら・ようた)と共にエリザベートの元を訪れた御神楽 環菜(みかぐら・かんな)の問いに、問われたエリザベートが椅子から転げ落ちんばかりに驚く。
「昔はここであなたと渡り合ったこと、忘れてないわよね? そのくらい、今の私でも追えるわ。
 ……で、どうなの? 世界樹の危機はシャンバラの危機でもあるのよ、知ってること全部教えなさい」
 コンコン、と頭を突きつつ言う環菜の強い調子に、ミーミル・ワルプルギス(みーみる・わるぷるぎす)が割って入ろうとするも陽太に留められる。
「環菜はエリザベート校長に助力をしたいんです。言い方がキツイだけなんですよ」
「陽太、余計なこと言わない!」
 言葉こそキツいものの、頬に赤みがあったことから、陽太の言っていることは概ね本当であろう。
「世界樹イルミンスールの元気が無い……ということは、エリザベートちゃんにも不調が? エリザベートちゃん、ちょっといいですか〜?」
 二人の話を当然のように横で聞いていた神代 明日香(かみしろ・あすか)が、エリザベートの正面に回って顔を近づけ、いつもと変わっている点がないか確認した後、額をくっつけて熱を測る。
「あ、アスカぁ、私は大丈夫ですよぅ」
 慌てるエリザベートを気に留めず、今度は抱きしめてまずは正面からの感触を楽しんだ後、背後に回って背中から心臓辺りに手を当てて心拍数を計測してみたりする。
「だからぁ、大丈夫ですってばぁ」
「少し熱が高いです、それに心拍数が上がっています。本当に大丈夫ですか?」
「そ、それはアスカがこんなことするからですよぅ……」
 まるで恋人同士――まるで、ではなく名実共に、だが――のやり取りを交わす二人、すっかり話が中断した所へ環菜が引き戻す。
「……それで、どうなのかしら?」
 尋ねる言葉に勢いが弱く、頬が赤いのは二人のやり取りが『自分にも覚えのあるもの』だったかららしいが、それは恥ずかしすぎるので黙っておいた。
「……カンナの言う通りですよぅ。私が感じた限りでは、ですけどねぇ。
 困ったことに、理由を聞いても答えてくれないんですぅ。どうしちゃったんですかねぇ……」
 しょんぼりとするエリザベートを見、環菜の顔に心配するような色が浮かぶが直ぐに消え、真剣な表情に変わる。
「不調を感じたのは、いつから?」
「つい最近ですよぅ。イナテミスが高熱に見舞われた時くらいですかねぇ」
「不調の程度はどのくらいか、分かる?」
「感覚ですけどぉ、大きなものじゃないですよぅ。ちょうど夏なので夏バテかなと思ったくらいですぅ」
 その後もいくつか質問をした環菜が、腕を組んで思案する。陽太ももし意見を求められた時のために、傍に控える。
「……炎龍の出現には、何らかの『元凶』が関わっている。その元凶のする事が世界樹にも悪影響を及ぼしている。まずはこう判断するのが妥当ね。『元凶』がどこから来たのかは、今のパラミタでは無数に考えられる。別大陸から、地下から、死後の世界から……果ては未来から。もしかしたら元凶は、既にあなた達の傍に居るかもしれない。だから、余力があれば炎龍の調査と並行して、元凶の存在についても調べるのが上策……といった所かしらね。ま、調査については他の生徒も考えているかもしれないし、これからあなたの元を訪れたりするかもしれないから、その時は事情を話して協力してもらえばいいのではないかしら」
 流暢に自分の考えを口にする環菜、能力の多くを失っても聡明さは変わらないようだった。
「世界樹イルミンスールを不調にした元凶……」
 呟いて、明日香がちら、とアーデルハイトを見る。「私は何も知らない」と首を振るアーデルハイトに「あなたとても残念な人ですね」と言いたげな視線を残して、自分の意見を口にする。
「他の世界樹はどうなんでしょう? もしも他の世界樹まで不調なら、パラミタ大陸のエネルギー低下とか考えられると思うんですが」
「あ、それは確認してなかったですぅ。ちょっとやってみますねぇ」
 椅子に座り直し、エリザベートが目を閉じる。しばらく沈黙したかと思うとパッ、と目を開き、結果を報告する。
「セフィロトとクリフォトは変わらず元気でしたよぅ。他の世界樹もだんまりだったり適当なこと言ってたり煽ってきたりしましたけどぉ、変わった所はなかったですよぅ」
「……いつも思うけど、コーラルネットワークって不思議ね。ネット回線とは違うんでしょ?」
「違いますよぅ。私も詳しくは知らないんですけどぉ、世界樹同士でいろんなものを繋げられるんですよぅ」
 えっへん、と別に自分のことでないのに胸を張るエリザベート。
「やっぱり、世界樹絡みなんでしょうか」
 そうなってしまうと、自分のような凡人に事前の対応は難しい。またちら、とアーデルハイトを見ると、「私もこの件に関しては何も出来ん」と首を振られる。
「おばあさま……」
 二度続けられると、明日香も同じような態度を取るのが難しくなる。
(そんな調子だと、困ってしまいますよ)


「アーデルさん……イルミンスールの不調について、本当に何も知らないのですか?」
 アーデルハイトの様子を間近で見ていたザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)が、気になって尋ねる。
「……先程挙がったような『推測』『判断』は既にしとるし、それを元にした対応ならば私も、他の生徒も出来るじゃろう。
 『炎龍』の件に関しては、『雷龍』『氷龍』の時と同様のことが起きとる以上、ほぼ同じ流れを踏襲すると見ていい」
「そうですね、過去の事例でも、気象に異常が出ていました。『闇龍』の時に至ってはシャンバラの空が一面闇に覆われましたね。
 ……しかし、その時でもイルミンスールが魔力を供給できない様な不調になった事は無かったと思います」
「ま、そこまでの不調ではないようじゃがの。……ともかくな、こと世界樹イルミンスールの件では、私の想像を上回る事柄が引き起こされることがしばしばある。やはり世界樹とエリザベートが契約を結んでいるというのが大きく関係しとるのじゃろう。その事が事柄を果てもなく複雑にさせる。
 無論私は、“孫”でありそれほど貴重な存在であるエリザベートを護ろうとした。じゃが現実は……おまえも知る通りじゃ。どれほど長く生きたとて、起きる全ての事柄を予測など出来ぬし、全てを知ることなどもっての外じゃ」
 そこまで口にした所で、アーデルハイトの口元に自嘲めいた笑みが浮かぶ。
「……やれやれ、まだ勘は取り戻せておらんのぅ。済まぬな、こんなことを聞かせてしもうて」
「いえ、構いません。失礼な話かもしれませんが……アーデルさんがそのような時にこそ、自分が補佐をする意味があると思いますから。少しずつでもいい、見当違いだったとしても、やることに意味があると思います。どうか一緒に、考えさせてもらえませんか?」
 ザカコの言葉に、アーデルハイトは先程とは異なる笑みを浮かべる。
「私の補佐は、大変じゃぞ?」
「それでこそ挑みがいがあるというものです」
 ザカコも口元に笑みを浮かべ、答える。

「イルミンスールの不調に関しては、まずは寿命が考えられますが、若いイルミンスールで寿命は考え難いです。ならばどこか外から吸い取られている、もしくはその魔力で内側に何か新しい物が生まれようとしているのではないでしょうか」
「うむ。世界樹の寿命についても不明な点が多くてな。私は魔力の観点から研究を重ね、世界樹が得る魔力と放出する魔力のバランスが崩れ、世界樹が魔力を使い果たした時に寿命……枯れるのではないか、とまとめたことがあった。
 外から吸い取られている、あるいは中に生み出されるものがあったとして、世界樹がそれを黙っておく理由が検討つかぬな。……もしや、それほどの序列を有する者の仕業か? あるいは世界樹に何か益があってのことか……」
 ザカコと活発に意見を交わすアーデルハイトを見、明日香が安心した表情を浮かべる。
(やっぱり、おばあさまはああであってもらわないと)
 心に呟き、ちら、と時計を見ると、お茶の時間になっていた。おそらくこれからも来訪者はあるだろうし、ここで一息入れた方がいいだろう、そう思った明日香はお茶の準備をする――。

「どろん! 今日のわたしは、おにーちゃんと環菜おねーちゃんの護衛だよ!
 あっ、ミーミルちゃんこんにちは! ひさしぶりだねー!」
「わ、びっくりしました。はい、ノーンさん、おひさしぶりです」
 お茶の時間になり、現れたノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)を加えて、その場にいた者たちでしばし穏やかな一時がもたらされる。