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海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)

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海に潜むは亡国の艦 ~大界征くは幻の艦~(第1回/全3回)
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「ここが機関部だよ」
 フレロビー・マイトナーの案内で、山葉加夜と酒杜陽一とオルフィナ・ランディが機関部へやってきた。他の者たちも、いくつかのグループに分かれて、適時艦内を見学しているようだ。
「基本的には、シャンバラの大型飛空艇の物と構造は同じだね。船体を浮かせる飛行機晶石によるフローターと、推進装置としての機晶エンジン。力場としての航行だから、スピードは出ない分、パワーは出るよ」
 ちょっと自慢そうにフレロビー・マイトナーが説明する。ニルス・マイトナーと瓜二つの、おかっぱ黒髪ロングの痩身の女の子だ。
「このエンジンで、艦のすべてを支えているのですか?」
 山葉加夜が訊ねた。船体と比べると、意外と機関部はコンパクトだ。それだけ高性能なのかもしれないが。それにしても、いつの間にエリュシオン帝国はこれだけの大型飛空艇を開発したのだろうか。
「船体保持は、各ブロックごとの飛行機晶石が管理しているから、エンジンが止まったからっていっても墜落したりはしないよ。じゃあ、次は、イコンデッキに行ってみようか」
 一同を案内して、フレロビー・マイトナーが最初に一同が艦内に入ったイコンデッキに戻ってきた。
「イコンデッキは、ヴァラヌスなら50機以上は格納できるんだよ」
「そんなに、たくさんヴァラヌスがあるとは思えないんだが……」
 オルフィナ・ランディが周囲を見回して言った。確かに、今はみんなのイコンが収納されているのである意味壮観だが、ヴァラヌスの姿は数機しか見えない。その意味ではすかすかな状態だ。
「まあ、それは諸事情で、用意できなかったんですよね。だから、傭兵を雇うはめになったわけだけれど。それでも、団長のストライカーと、ボクたちのフライヤーはちゃんとあるから」
 フレロビー・マイトナーが案内した所にあったのは、二機のヴァラヌスであった。
 一機は、メタリックレッドのヤクート・ヴァラヌスで、可変型のフローター・ウイングをつけてストライカー仕様となっている。両肩には大型のビームキャノンとミサイルポッド、腰部にはガトリング砲他、各部に火器が取りつけられている。両腕には、内装のダブルビームソードとクローがあった。胸部には、金に縁取られたシャンフロウ家の紋章がある。
 もう一機は、ブルーのヴァラヌスで、こちらはフライヤー仕様となっていた。背部キャノンを単装にし、飛行ユニットを取りつけてある。航空機的な翼には、ミサイルポッドとガンポッドが左右に装着されていた。こちらも、胸部には紋章が大きく描かれている。
「へえ、どのくらい従来機と変わっているんだろうな」
 まじまじと酒杜陽一がヴァラヌスを見ているときであった。イコンデッキがちょっとざわめく。
 見れば、今到着したのか、奇怪なイコンがリフトで降りてくるところであった。ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)の乗るへルタースケルターだ。
 シパーヒーをベースとしたイコンであるが、その外観は離偉漸屠の方が近いかもしれない。大理石の彫像を思わせる美しくも巨大な女性の顔を中心として、肩の部分にやや小さい二つの女性の顔と、ドラゴンの頭となった手首がついている。脚はなく、コマのような軸が一つあるだけで、全身は蠢く茨の蔓が被っていた。
 ガシャガシャと金属鎧の音を響かせながら、ブルタ・バルチャがニルス・マイトナーの所へとむかう。
「IDカードをお作りします。お名前を」
 ニルス・マイトナーが、ブルタ・バルチャに訊ねた。
「作らないとダメなのかな?」
「ええ。これがないと、艦内を動けません」
 ニルス・マイトナーが答えたが、すぐさまブルタ・バルチャが嘘感知でそれを確認した。確かに、これは必要な物のようだ。
「本名じゃないと……」
「もちろん。なんでしたら、恐竜騎士団に問い合わせしますが……」
 これまた、素性を隠せそうもないと悟ると、ブルタ・バルチャが渋々本名を名乗った。
「はい、できました。これを肌身離さず持っていてください。ブルタ・バルチャさん」
 IDカードを渡しながら、しっかりと名前と顔を覚えたニルス・マイトナーが言った。
 
    ★    ★    ★
 
 艦隊の合流ポイントはまだであったが、大陸に上陸して南下するフリングホルニには、情報を聞いて集まってきた者たちが集合しつつあった。大半が、何らかの理由で近くにイコン込みでいた者たちなので、集合は思いの外早かった。もちろん、佐野和輝のブラックバートからテメレーアを通じ、各学校経由でフリングホルニの現在位置情報が素早く伝わったと言うこともあるが。
 機密保持という点では、直接通信はスクランブルがかけられていた。その他の通信は、主に携帯電話の回線を通じて行われていた。これが、逆に、敵に情報がもれにくいという働きをしていた。さすがに、敵に電子戦専用特務艦でもない限り、すべての通信を傍受分析するのは不可能であろう。携帯でやりとりされるデータ量は、シャンバラでは膨大である。シャンバラ国軍やエリュシオン帝国竜騎士団の専用チャンネルではなく、一般回線を介して行われているので、対象の通信の数が敵の処理能力を大幅に超えてしまっていたのだ。
 何機かのフィーニクスが、立て続けに着艦する。どの機体もフィーニクスの特徴である鳥形のシルエットをしているが、いずれもユニークである。
 その中でも、ジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)イーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)の乗るフィーニクス・ストライカー/Fは一番原型のフィーニクスに近い。明るいオレンジに塗装された機体の両翼の下には、ショルダーキャノンユニットが設置されている。機首にはビームアイ、脚部にはマイクロミサイルポッドと、強襲型の機体となっていた。
 フィーニクスという機体は、ジヴァ・アカーシにとっては、テストパイロットをしていたと言うこともあって思い入れが深い。現在の機体も、イーリャ・アカーシが手に塩をかけて完成させたものだ。
 アレスティング・ワイヤーをホールドして制動をかけるフィーニクス・ストライカー/Fの隣の滑走路では、僚機であるティー・ティー(てぃー・てぃー)源 鉄心(みなもと・てっしん)の乗るマルコキアスが着艦体勢に入っていた。飛行形態で滑走路に降りる。こちらのシルエットもオーソドックスなフィーニクスの物であるが、細部の意匠がより生物的となっていた。両翼は鷲の翼を模し、機首はやや丸みを帯びた狼然としたデザインになっている。それと、なぜか、蛇状のテールスタビライザーを持っていた。全体的には鳥形と言えるかもしれないが、正確にはキメラの一種のようなデザインだ。
「イコナはついてきているか?」
レガートさんと一緒に、甲板に無事ついたようです」
 源鉄心に聞かれて、外部モニターでペガサスのレガートに乗るイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)の姿を確認して、ティー・ティーが答えた。
「お疲れ様でしたわ。やっぱり、今回はスイカをおいてきたので、速かったです」
 ちょっと残念そうにレガートに言いながら、イコナ・ユア・クックブックがパカランパカランと甲板を進んで行く。
「早くどいてくれないかなあ」
 うろちょろと甲板の上を進むイコナ・ユア・クックブックを見て、上空待機をしていたスクリーチャー・オウルの中で、天貴 彩羽(あまむち・あやは)がちょっとぼやいた。
 フィーニクスベースの黒い機体を、末端を真紅に染めたスクリーチャー・オウルは、鋭角的な機首と二本のテールスタビライザーが特徴的だ。両翼は大きく三つに分かれているため揚力を得ることはあまりできないが、可動性の高さから飛行形態・人型形態の双方で高い運動性を有するようになっている。
「大人しく、着艦指示が出るまで待つでござる」
 あせらないあせらないと、サブパイロットシートからスベシア・エリシクス(すべしあ・えりしくす)がなだめた。
 今一度旋回する間に、マルコキアスがリフトでイコンデッキへと降りていく。停止後、リフト上のターンテーブルで反転したマルコキアスが、牽引車に牽かれてハンガーの方へと移動していった。空になったリフトが、せわしなく飛行甲板の高さへと戻っていく。
「シグナルきたでござる」
「よし、着艦するわよ」
 ようやくという感じで、スクリーチャー・オウルが着艦体勢に入った。
 着艦待ちをするイコンが出たと言うことで、フリングホルニがいったん停止した。合流地点はもう近いが、そのポイントはあくまでも艦隊の合流地点である。今のうちに、イコンは搭載してしまおうということのようだ。
 フリングホルニが停止したため、着艦しやすくなった人型のイコンが一気に甲板に降りてきた。
 美しいパール色の装甲を持った機体がララ・サーズデイ(らら・さーずでい)リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)の乗ったラルクデラローズだ。アルマイン・ブレイバーをベースとしたその機体は、例にもれず甲虫のような外観をしてはいるが、よりスマートで中世後期の騎士を思わせる姿をしている。マント状のランダムシールドと細身のクレイモアが特徴的である。
 その後ろに、大型のイコンが着艦した。紫月 唯斗(しづき・ゆいと)エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)の乗る魂剛である。流星をベースとしているため、その全高はラルクデラローズよりもかなり高い。全体の装甲をスリムにし、より人型に近い鎧武者のようなフォルムをしている。軽量化したペイロードは機体各部のブースターに回し、機動性を高めた格闘機体という物になっていた。
 反対側の滑走路には、バランスを取るかのように、これもLサイズの第六天魔王が着艦した。中に乗っているのは、織田 信長(おだ・のぶなが)桜葉 忍(さくらば・しのぶ)である。
 漆黒に赤のだんだら模様が入った機体は、JVG−MONEYカスタムをベースとした物である。大型のハイブリッドキャノンである第六天魔砲を持ち、背中には鷹型のイコンホースが合体している。
 大型イコンらがイコンデッキに収納されるのを待って、待機していたジェファルコンベースの三機が降りてきた。いずれも、イコンホースを補助推進装置として装備した超高速タイプである。
 鮮やかなコバルトブルーの機体は、シフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)ミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)の乗るアイオーンである。二基のイコンホースを両肩に装備し、ジェファルコンの特徴であるエナジーウイングを収束させた独特のフォルムを持っている。バスターレールガンなどを装備した、大火力砲撃機である。
 フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)十七夜 リオ(かなき・りお)の乗るメイクリヒカイト‐Bstは、ノーマルのジェファルコンのシルエットだが、アイオーンと同様にイコンホースを使った大型ブースターを装備している。こちらはビームサーベルによる近接格闘を想定した機体となっている。
 桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)エヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)の乗るセラフィートは二機とは違ってかなり特徴的であった。同様にイコンホースを使用した推進装置を装備しているが、こちらは収束させたエナジーウイングを複数展開させることによって、推力と機動力を確保している。こちらは複数の剣による近接戦闘に特化した機体となっていた。
「リフトに乗るぞ」
 アイオーンを運んだリフトが戻ってきたのを見て、桐ヶ谷煉がセラフィートを前進させた。
「ううっ、なるべく早くしてくれ、お、重い……。エリス、少し太ったか?」
 サブパイロット席のエヴァ・ヴォルテールが、軽く呻いた。二人乗りのイコンに無理矢理もう一人乗せたせいで、エリス・クロフォード(えりす・くろふぉーど)がエヴァ・ヴォルテールの上に乗っかる形になっている。
「失礼ね。太ったですって!? 私、そんなに重くないわよ!」
「分かったから、暴れないでくれ、重い……」
「だから、重くないんだってば!」
 膝の上でエリス・クロフォードに暴れられて、エヴァ・ヴォルテールが悲鳴をあげた。エヴァ・ヴォルテールとしては、だき石をしているようなものなのかもしれない。
 すべてのイコンの収容が終わってフリングホルニが再発進するころ、一隻の大型飛空艇が合流してきた。レン・オズワルド(れん・おずわるど)の乗る格闘式飛空艇 アガートラームだ。大型飛空艇に格闘用のアームを二本取りつけたという、非常に奇妙な形状をしている。そのアームでフリングホルニにつかまるようにしてアガートラームを繋留すると、レン・オズワルドは暗黒比翼を使ってフリングホルニに乗り移った。
 これで、実に20機のイコンと、2隻の大型飛空艇がフリングホルニの艦隊に編入されたことになる。
 だが、この場所に停泊している間に、密かにエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)がフリングホルニの外壁にはりついてきたことに気づく者はまだ誰もいなかった。