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インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)
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【1】 CHURCH【2】


 朝の礼拝の時間になると、たくさんの信者たちが聖堂に集まった。
 メルキオールを始め、教会に仕える神官たちも顔を揃え、超国家神に祈りを捧げる。礼拝には信者だけでなく、見学に来た海京市民の姿も見受けられた。教団が勢力を拡大していると言うのは、どうやら本当のようだ。
 樹月 刀真(きづき・とうま)は見学者に混じり、様子を窺っていた。
(あれがメルキオールか……。見た目は優男だが、あの年齢で司教にまで上り詰めたほどだ。見た目通りの男ではないのだろうな)
 礼拝が終わって、信者の相談事を聞く神官たちに目を向けた。
(神官はここにいるだけでも20名、テンプルナイツは4名か……ナイツは施設の警護にあたっている者もいるだろうから、10名以上は控えているだろう)
「そんな怖い顔をしてると怪しまれますよ」
 シスターに扮したアイリが横に座った。
「これだけ人が多いと身動きがとりにくいですね。同好会の皆も上手く入り込めてるといいのですが……」
「皆さん、優秀ですから大丈夫でしょう。
 問題はその先、如何にグランツ教とクルセイダーの関係を明らかにするかですよ。彼らの関係は以前に関わった事件で知っていますが、決定的な証拠が無い限り、しらばっくれられたら追求出来ません。
 やはり、シャドウレイヤーとグランツ教の関係を明らかにすることで、教会とクルセイダーの繋がりを証明するのが確実でしょう」
「そう言えば、月夜さんが教会内に大掛かりな装置がある、と疑っていましたね」
「ええ、俺も報告は聞いています。おそらくシャドウレイヤーはナラカと関係がある装置だと考えています」
「ナラカと、ですか?」
「はい。ナラカと関係の深いソウルアベレイターの攻撃を完全に防ぎ、クルセイダーがシャドウレイヤーの中で自由に動き回れるのは、”闇と状態異常への強い耐性”によるものでしょう。その源はナラカにあるのではないか、と。
 仮にそうだとすれば、シャドウレイヤーの発生装置とはナラカに空間を繋ぐ為の装置。ナラカエクスプレスに使われる規模の装置なら、起動に必要な魔力や電力、機晶エネルギーは膨大です」
「だから月夜さんに電力使用量を調べさせてたんですね」
「あとは上手くその辺りを引き出せればいいのですが……」
 懺悔室ではメルキオールが直接、信者や市民の懺悔を聞いていた。
「司教自ら懺悔室に入るとは熱心ですね」
「ええ、先ほど神官の方に聞いたのですが、出来るだけ近くで信者や市民の声を聞きたいと、彼のたっての希望でそうなったそうです」
「なるほど。どこまで真実かはわかりませんが、俺たちに好都合なのは間違いないですね」
 刀真は席を立ち、懺悔待ちの列に並んだ。

 懺悔室は左右に人ひとりが入れるだけの空間のある小さな部屋だ。
 片側に神官、片側に告白者が入り、罪の告白をすると言うもの。左右の空間は仕切られ、唯一小窓が間にあるが、おたがいの姿を見る事は出来ない。
(この仕切りの向こうにボスがいるじゃん……!)
 市民のフリして教会に入り込んだトゥーカァ・ルースラント(とぅーかぁ・るーすらんと)は、懺悔室に入る前に、クドラク・ヴォルフ(くどらく・うぉるふ)に目で合図した。
 一見、平和な礼拝堂だが、クルセイダーの本拠地の疑いがある場所、クドラクは入口の前に立ち、さりげなくトゥーカァのガードを務める。
 トゥーカァは椅子に座り、入口を閉めた。
 すると壁に付いた小窓から声が聞こえてきた。
「迷える子羊よ、ようこそ教会へ。神の前で汝の罪を告白シナサイ」
 おお、なんかそれっぽいじゃん、と思いつつ、彼女は自分の過去を話し始めた。
「実はトゥーカァ、鏖殺寺院にいたじゃんよ。子どもの頃に寺院に拾われて、技術者してたじゃん」
「オオ、かの邪教に……」
「いろいろあって、今は天学の生徒になったけど、でも寺院でやってきた事は消えないじゃんよ。普通の人たちに混じって学校に通ってても、本当にここに居ていいのか、不安に感じるじゃん。やっぱりトゥーカァは皆とは違うじゃんか」
「……見えない傷を癒してくれるのは大いなる愛デス」
「愛?」
「教団にはココロに傷を負った信者がたくさんおりマスが、超国家神サマに祈りを捧げるうちにみるみる回復していきマシタ。信仰はアナタに新たな生きる希望を授けてくれるデショウ」
「……それって信者になれば救われるってこと? だったらトゥーカァも入りたいじゃん!」
 自然に聞き返しながらも、内心はしめしめと笑っていた。教団の事を調べるには信者になったほうが動き易い。自分から入信の話を持ちかけようと思っていたが、彼から話を振ってきたなら好都合だ。
「それは素晴らしいお考えデス。ただ、入信を希望される方には、まずは礼拝やボランティアに参加して頂く決まりになっておりマス。そこでの働きが認められれば信者としてお迎えする事になりマス」
 意外と面倒くさかった。
「……なんかたるいじゃん。今すぐ入信プランとかがいいじゃん」
「それじゃ全然ありがたみがないデスヨ。教団としても真摯に活動に取り組んでくれる方をお迎えしたいと考えてマスし、その人のことをよく知らずに迎えてしまっては、教団に害をなす人も紛れてくるデショウ?」
 トゥーカァはぎくりと身を強ばらせた。
「そ、そんな人い、いないと思うじゃんけどなぁー……」
「ともあれ、教団に救いをお求めデシタら、毎日の礼拝にご参加クダサイ。それとボランティアにも是非、脚を運んで頂ければと思いマス」
「は、はぁ……」
 しばらくボランティアの精神について説かれたあと、トゥーカァは懺悔室を出た。
 ゲンナリする彼女の顔を、クドラクはじっと見つめてきた。
「なんか明日、近所のドブ掃除することになったじゃん……」

「ドウゾ、神の前で告白を。悔い改めれば赦されるデショウ」
 続いて懺悔室に、刀真が入った。
「……すみません、今日は懺悔をしに来たのではありません。教会に嘆願に来たのです」
「……続けてクダサイ」
「俺はナラカに関わる邪悪な存在を殺す為に追っています。でも、敵が放つナラカの気配に身体が耐えきれず、いつも逃げられてしまうんです。アイシャ様に祈っても無駄でした」
「……闇はアナタのココロの中にありマス。神を信じ、道に迷わなければ、神は道を照らしてくださりマス。超国家神サマを祈りを捧げるのデス」
 メルキオールはありがちな定型文で返してきた。
「いえ、俺はそのような定型文を聞きに来たのではありません」
「?」
「ここになら闇に耐えられる方法があると聞いたんです! お願いです、俺に闇に耐える為の力を下さい! 力を得るためならば、なんでもします。もう、貴方達にすがるしかないんです、お願いします!」
 刀真はクルセイダーの身体から出ていた紫の霧、あれにナラカへの耐性の秘密があるのでは、と考えていた。
(命を使い捨てにするクルセイダーだ。使い捨て要員は常に必要だろう……!)
 垂らした釣り針の動向を見守る。しかし。
「……どこでそのようなお話を聞かれたのかは存じマセンが、教会ではそのような力を与える事は出来マセン」
「そんな!」
 メルキオールの反応はそっけないものだった。
「……シカシ、それでも力を求めるのであれば、神へ祈りを捧げナサイ。アナタに信仰が芽生えた時、神は手を差し伸べてくださるデショウ」
「……どういう意味ですか?」
「お話は終わりデス」
 懺悔室から出た彼に、アイリが声をかけた。
「何か引き出す事は出来ましたか?」
「はぐらかされましたね……。こちらの意図を見透かされてる感覚もありました。でも……」
「でも?」
 ”アナタに信仰が芽生えた時、神は手を差し伸べてくださるデショウ”。
「信仰無き者に真理は明かせないと言うことかもしれませんね……」

(クイーンって言うと、どうしてもアディティラーヤの監獄塔で会ったインテグラルクイーンを思い出すわね……)
 懺悔の列に並びながら、館下 鈴蘭(たてした・すずらん)はふと思った。
(インテグラルが時を遡れるのは分かっているし、真の王、世界樹アールキングもニルヴァーナから来たっていうし。パラミタで国として成るなら世界樹も必要って事は……でも、全てを繋げる確証はまだないわ……)
 未来から来たクルセイダー、グランツ教の神、ニルヴァーナでの経験。一見、無関係にも思えるそれらはどこかで繋がっている気がした。
 しかし、まずは事件の解決が先決だ。
(監査委員としてグランツ教がどんな組織なのか見極めないと。私たちの海京を消滅なんてさせないわ)
 順番が回ってきた鈴蘭は懺悔室に招かれた。
 壁の向こうにメルキオールの気配を感じながら、彼女は告白を始めた。
「私の事をずっと好いてくれている人がいるんです。でも、私はそういう気持ちがイマイチ分からなくて……。応えてあげる事が出来ないのが心苦しいんです」
「……懺悔、と言うより恋愛相談デスネ」
「え、ダメなんですか?」
「イエ、海京市民の皆サマのため活動するのが、我等グランツ教デス。このメルキオールが、ファッション雑誌の恋愛相談コーナーばりにスバッとお答えしまショウ」
 壁の向こうでメルキオールは胸を張った……ような気がする。
「お願いします。あの、メルキオールさんは、誰かに恋した事はありますか?」
「ありマセン。ワタシは神に仕える身デスから、特定の女性に想いを抱くことはあり得マセン」
「それって、超国家神様一筋ってこと?」
「イイエ。神への愛は、恋とは違う感情デス。ワタシが神を自分のモノにしたいと考えていれば、それは恋かもしれマセンが、違いマス。神へ捧げる愛は感謝に似ていマス。ワタシは神と出会いたくさんのモノを与えられマシタ。だから、ワタシは神へ感謝を返したいのデス。それがワタシの喜び、それがワタシの愛なのデス」
「へぇぇ……」
 メルキオールの声は、心なしか、弾んでいるように聞こえた。神への愛を語ることは、彼にとって幸福なことなのだろう。
「でも、メルキオールさんって格好良いから、女の子から好かれた事は沢山あるんじゃ?」
「ええ、まぁ……。時折、ワタシに想いを告げてくださる女性はいらっしゃいマスが、ワタシはその気持ちにお答えすることが出来マセン」
「そんなに超国家神様が好きなんだ。メルキオールさんが心酔されるぐらいだから、よほど素敵な方なんでしょうね」
「ハイ。慈悲深く美しい、ワタシ達にとって光のような存在デス」
「へぇぇ、会ってみたいなぁ。私も入信してみようかなぁ」
「まずは礼拝やボランティアに参加して頂く決まりになっておりマス」
 先ほどトゥーカァに言ったように、メルキオールは説明した。
「そっか……。すぐにはなれないんですね。でも信者になった方が、メルキオールさんのお話をもっとお聞きする事が出来るんでしょう?」
「ええ、信者の方向けの集会を開いたりもしてイマスヨ」
「へぇぇ……!」
「皆で神について語り合ったりする楽しい会デス」
「楽しいと言うより、なんだか難しい集いのような気が……?」
「そんなコトはないデス。超国家神サマのどの演説が好きかトカ、DVDの何分何秒で見せる仕草がグッと来るトカ、超国家神サマはブログやらないのかなトカ、そんな他愛も無い話で盛り上がってイマス」
「……なんかイメージが違うと言うか、信者と言うか、なんだかアイドルのファンみたいですね……」