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インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第2回/全3回)
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【1】 CHURCH【4】


 月詠 司(つくよみ・つかさ)はちぎのたくらみとシュナイダージムの効果によって、13歳の少女に変身していた。設定では名前は”リサ”。
 懺悔の順番を待つ間、ママと名付けた人形を虚ろな目でいじり病的な雰囲気を醸し出していた。
 横では、姉妹と言う設定(名前は”リズ”)のシオン・エヴァンジェリウス(しおん・えう゛ぁんじぇりうす)が一心不乱に祈る……フリをしている。
 司は礼拝に来ている人々の様子を窺っていた。
 静かに祈りを捧げる老夫婦、若い男女もいれば、小さな子ども連れた親子の姿も。要はいろいろな人が来ていた。
 そこにシャドウレイヤーで対峙したクルセイダーのような狂気は感じられない。神官やナイツも同様に危険は感じられなかった。
(クルセイダーとは随分と雰囲気が違いますね)
(演技してる風でもないって感じ〜)
 そう言ったのは、コサージュに変身し、司の髪を飾る花妖精ミステル・ヴァルド・ナハトメーア(みすてるう゛ぁるど・なはとめーあ)だ。
 会話が外部に漏れないよう、2人はテレパシーで会話している。
(クルセイダーの捨て駒っぷりからするとぉ、信者を洗脳&強化して使ってんだと思ったんだよねぇ〜、でもなんか違うっぽい〜?)
(ここにいる人たちを見る限り、普通の人たち、ですよね……)
 しばらくして順番が来ると、シオンはリサ(司)を外で待たせるのは心配だからと、特別に同行の許可を貰った。
 一緒に懺悔室に入った司は、人形と戯れるフリをしながら、まず部屋のサイコメトリをしてみた。
(……どう?)
(……ダメですね。有益な情報はないようです)
 壁の向こうから、メルキオールの声が聞こえた。
「罪を神の前で告白してクダサイ。神がアナタの告白をお聞きになりマス」
「……今日は”妹”のことで相談に来ました」
 シオンは言った。
「実は少し前に両親を亡くしてしまったんですが、それからと言うもの、妹のリサが心を病んでしまって……ずっと人形を母親だと思い込んでるんです」
「人形を?」
「はい。人形と引き離そうともしたのですが、そうするとリサは泣き出してしまって……」
 涙をこらえる芝居をしながらシオンは、司を肘で小突いた。
(……え?)
(ほら、ちゃんと演技して。泣いて)
(急に言われましても……)
(マジしょうがねぇ〜やつ〜)
 ミステルは花粉を振りまいた。
「う、ぐ……すんすん……えぐっえぐぅ。ま、ママをかえしてよぉ〜えぐえぐ……」
「ほら、この通りです、司教様」
「ナントいたわしい……」
「ズビズビズビー!」
「な、なんでデスカ、今の!?」
(ちょっとツカサ、鼻すすらないでよ。悲壮感が台無しじゃない)
(だ、だって花粉がすごくて)
(……もう。蕎麦屋じゃないんだから、静かにすすって)
 気をとり直し、シオンは演技を続けた。
「……もう、どうしたらいいのか、わかりません。ワタシがしっかりしていないばかりに、リサは……」
「ドウカ自分を責めないでクダサイ。妹サンが病んでしまったのはアナタの所為ではありマセン」
「いいえ、ワタシの所為です……。どうか、どうかリサを救ってください。ワタシはどうなったっていいんです。でもどうかリサだけは……!」
「アナタ、そこまで……」
 ふと壁の向こうからすすり泣く声が聞こえてきた。
(……泣いてる?)
「アナタの愛があれば……くすん、妹サマはきっと良くなりまマス。ドウカ希望だけは捨てないでクダサイ。いつでもグランツ教はアナタの味方デス……くすん。
 ここではココロに傷を抱えてシマッタ人たちの話を聞く相談会も開いておりマス。良かったら妹サンと一緒に参加してみてクダサイ……」
(ほんとに泣いてるみたい……)
 初対面したメルキオールの印象は、意外にも”善い人”だった。

 続いて懺悔室を訪れたのは、ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)御神楽 舞花(みかぐら・まいか)だった。
 ふたりの保護者である御神楽 陽太(みかぐら・ようた)はパラミタでの鉄道事業が忙しいのか、海京には来ていないようだ。
(……前回の尾行は上手くいきませんでしたから、今回は地道に皆さんの援護に回りましょう)
 舞花はこれでも名の知れた有名人、自らの名声でメルキオールの気を惹き、すこしでも潜入している仲間の時間が稼げれば、と考えていた。
 しかしその計画は懺悔室に入った時点で挫折していた。
「……あれ?」
 メルキオールと自分の間に立てられた壁に、舞花は目をしばたたかせた。
 先ほども説明したが、懺悔室はおたがいの顔が見えない構造になっているのだ。
「………………」
 うなだれる彼女に代わって、ノーンが口を開いた。
「ごめんなさい、”ちょうこっかしんさま”のことはよくわからないけど……お話しを聞いてもらうのはダメかな?」
「それでアナタの心が安らぐのであれば構いマセン……ケド、あの、ふたりイマセンカ、そっち側?」
「あ、だめなの?」
「懺悔室は原則、ひとりで入るものデスので……」
「そうですか、失礼しました」
 舞花はノーンに耳打ちする。
(ノーン様、一応、外で警戒しておいてくれませんか。何かがあるかもしれませんから)
(何か?)
(ええと、詳しいことは後で話します)
(なんだかよくわかんないけど、わかったよ)
 ノーンは外で待つ事にした。
「……話を戻しますが、実は最近ある宗教団体に関して疑問を感じていまして。宗教に携わる方のご意見を参考までにお伺いしたいのです。確か、メルキオール様は空京にいらしたのですよね?」
「ええ、グランツ教の支部は空京にもありマスから」
”Can閣寺”と言う宗教団体の名前は聞いた事がありますか?」
「女の子に人気らしいんだけど、どんな”きょうぎ(教義)”か教えてくれないみたいなの。ひょっとしたら犯罪と関わってるのかもしれないし心配だよねぇ」
「の、ノーン様!?」
 ノーンは首だけを中に突っ込んで、話に混ざってきた。
「だ、だめですよ……」
「入ってないよ、首だけだよ……あうあうーー」
 外から神官に引っ張られ、首だけノーンは引っ込んだ。
「……ええと、話をしてもいいデスカ?」
「すみません、どうぞ」
「Can閣寺の名前は、聞いた事がありマス。恋愛事に悩む女性の駆け込み寺だトカ、なんトカ。恋に迷う人はいつの時代にもイマスから、そのようなお寺があるのは当然だと思いマス。
 ただ、教義を伏せているカラと言って、犯罪集団のように言うのは良くないデスヨ」
「それはまぁ、そうですね……、すみません」
「ただ、もし恋の悩みを相談したくても、Can閣寺でしづらいと言うことであれば、グランツ教にお越しクダサイ。グランツ教は皆サマの心の平穏のために活動しておりマス。恋のお悩み事は不肖、このワタシ、メルキオールが解決してご覧にいれマショウ」
 なんとなく壁の向こうで、彼が宝石のように目を輝かせているのがわかる。
「え、ええと、特にそういう悩みがあるわけではないのですが……」

 クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)は”冒険屋ギルド”のレンの依頼で、メルキオールの懺悔室に並んでいた。
 曰く、出来るだけ長く彼を懺悔室に足止めしてほしいとのこと。
 既に敷地内に潜入しているレン……その相棒であるクーデリカの声が、どからともなくテレパシーで聞こえてくる。
(首尾は如何でしょう、クドさん。足止め出来そうですか?)
(やるだけやってみますけど、まぁ心配はいらないと思いますよ。しばらくメルキオールさんは動けないと思います)
(……そうなのですか?)
(だってねぇ……)
 クドは自分の前と後ろに並ぶ、懺悔希望者の列を見た。
 ここがラーメン屋なら相当な人気店であることは間違いない。うんざりして、ちょっと帰りたくなるほどだ。
(ま、お兄さんも頑張ってみますよ)
 しばらくして順番が来たので、クドは懺悔室に入った。
「(……彼は善人らしいですよね。それが本当であれ、表向きの設定という嘘であれ、とりあえず彼は”良い事”しか言えない。清廉潔白で出来た人間としての行動しかできないって事になります。ならばそこを利用させて頂くとしましょう)突然ですが、日本には付喪神……物にも神や霊魂が宿る、といった話があるのはご存知でしょうか?」
「……え、ええと、ハイ。知識程度なら存じてイマス」
「お兄さん、その話を信じていまして」
 クドはおもむろに懐から一枚の布を取り出した。
「……これ、死んだ母親のパンツです。これにいつ魂が宿るのか、ずっと待っているんですけど、いつまでたってもその兆しが見られないんです。このパンツから声が聞こえてこないんです。
 これって……やっぱり、お兄さんが間違ってるって事なんでしょうか? 付喪神はこの世に存在しないって事なんでしょうか?」
 小窓にぐりぐりパンツを押し付けた。
「お、落ち着いてクダサイ」
「お兄さん、その付喪神の話を信じて……実は妹に、このパンツに母親の霊魂が乗り移って、いずれお話が出来るようになるなんて言っちゃったんです」
「エ……? な、なんでそんなコト言っちゃったんデスカ?」
「お兄さん、見てられなかったんです。母親と話したいと妹が泣く姿があまりにも辛くて……」
「そうだったのデスネ……」
「でもいつまでたってもそんな事は起こらなくって……その、つまり、そうなると、お兄さんは妹に嘘をついた事に……」
「うそつき! このおおうそつき!」
 懺悔室の外からミルチェ・ストレイフ(みるちぇ・すとれいふ)の声が聞こえた。
「おぱんつをおがんでれば、おかーさんとはなせるっていったよね!? にーちゃん、いったのに! まってればしんだおかーさんとはなせるっていったのに! なのに! いつまでたってもはなせない! おかーさんとはなせない! にーちゃんのうそつき! そんなとこにかくれてないで、でてきてよ! このうそつきぃっ!」
「ここは礼拝堂ですよ。大きな声を出すのはおやめください」
 神官たちがミルチェをなだめる。
「うう、お兄さんはどうすれば……」
 その時、向かいの戸が開く音がした。
 なんだろうと思っていると、こちらの戸が開いて、メルキオールが顔を出した。
「め、メルキオールさん!?」
 その目から滝のように涙が流れている。思わぬ彼の様子にクドも驚いたが、そのあとの言葉に更に驚いた。
「形見のパンツを貸してクダサイ」
「え、ええ……!?」
 何を言っているかわからないと思うが、彼は形見のパンツを顔面に装着した。
「コンニチハ。パンツの精デスヨ」
「!?」
 異様な風体に、ミルチェは後ずさった。
「お母様じゃなくてゴメンナサイ。でもパンツの精は、あなたのお母様がずっとあなたの事を見守っている事を知ってマスヨ」
 慈愛に満ちた精の眼差しに、怯えていた彼女もそろそろと近付いた。
「ほんと?」
「ええ、パンツの精はなんでも知ってるのデス」
「おかーさんはなんか言ってる?」
「お母様は悲しんでおられマス。かわいい子ども達が自分のパンツでケンカしているので悲しんでるのデス。イロイロな意味で。だからもう争うのはやめにしマショウ」
「ぱんつのせいさん……」
「話す事が出来なくても、お母様はいつも一緒デス」
「うん、わかった……」
 役に入り込み過ぎたミルチェはぐすぐすと泣いていた。
 そしてクドももらい泣きしていた。
「パンツの精さん、すごくいい人じゃないですかぁ……」