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フューチャー・ファインダーズ(第1回/全3回)

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フューチャー・ファインダーズ(第1回/全3回)

リアクション


【13】


 例えば、知らない町に置き去りにされた時。多くの人はたぶん不安に襲われる。
 しかし、知らない町にいると知って、及川 翠(おいかわ・みどり)に沸き起こったのは、未知の世界を探検したいと思う冒険心だった。
「……探検してみたいなぁ。ダメかなぁ、お姉ちゃん?」
「た、探検?」
 ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)は、声を上ずらせた。
「あのね。翠、今はそれどころじゃないわ、とにかく移動しましょう」
「それがいいよ。ここにじっとしてるのって、嫌な予感しかしないもん……」
 サリア・アンドレッティ(さりあ・あんどれってぃ)も賛成した。
 三人は、大きな港を見たいという翠の希望で、南の第9地区に行くことに決めた。
 クルセイダーが徘徊しているようなので、空飛ぶ魔法で、建物の屋根伝いに移動を行う。誰か一人、忘れていることに気付かず。
「……あら? 翠さんもミリアさんもどちらへ?」
 佐藤 奏(さとう・かなで)は、頭の上を飛び去る三人を、ぼんやり眺めた。
 しばらくして、自分がナチュラルに置いていかれた事に気付く。
「はわわっ! お、置いてかないでください〜!」
 別に、屋根に登る必要はないのだが、なんとなく同じ高さに。
 この無駄な行為に気付いた時には、時既に遅く、転がり落ちそうになりながら、三人を追いかける羽目になってしまった。
 ドジっ子属性の持ち主に、高いところは、ほとんど死にに行くようなもんである。
「あわわわわっ! た、助けてぇ〜〜っ!」
 第9地区との境界は、不思議なことに警備がほとんどいなかった。門のところには、クルセイダーが数名張り付いているが、門から続く壁には全然だった。2、3人哨戒する姿が見えたが、その人数では、この長い壁を警戒するのに明らかに少ない。
 ここの警備は、第7地区の騒動のため、大半はそちらに移動してしまったのだ。
「……こんなに警備がいないなんて、罠かしら?」
「さっき警報が鳴ってたことと、関係あるのかな……」
 ミリアとサリアは、首を捻った。
 けれど、ずっと屋根にいるわけにもいかない。三人(もう一人は少し遅れて)は、壁を飛び越えた。
 すると、目の前に第9地区の大港町が広がった。
 潮風の舞う港町は、別名”ナインポート”と呼ばれている。
 光を宝石のように乱反射する青い海。陽を浴びて、赤々と燃える赤瓦の屋根を持つ建物の一群。
 そして、港にはたくさんの船が行き交う。サルベージ船もたくさん往来しているが、その他にも、別の地区とを結ぶ定期船、交易を行う輸送船、それから、太平洋に存在するメガフロート要塞とを結ぶ教団の軍艦の姿もあった。
 とても大きな、賑やかな町だ。
「これは冒険のしがいのある町ね〜。あ、でも、その前に……」
「どうしたの、翠?」
「忘れる前に、これをしとこうと思って」
 そう言って、不可思議な籠に”この街で目指すべき場所”と入れた。いずれこの箱を開ける必要になった時、きっと助けになってくれるだろう。
 三人(+一人)は、港に向かった。
 サルベージ組合の本社の前を通った時、ふと目の前を、なんだか見覚えのある女の子が通った。翠ははじめ気が付かなかったが、すぐにミリアが気付いた。
 アイリ・ファンブロウ(あいり・ふぁんぶろう)だ。
 面識はないが、彼女のことは噂に聞いている。寿子が探していたことを思い出し、声をかけると、彼女は怪訝な顔をした。
「さっき、寿子さんが第8地区の広場で、あなたのことを探してたわ」
「……あの、どなたですか?」
「アイリさんのパートナーの寿子さんだよ」
 サリアは言った。
「パートナー? すみませんが、私はまだ誰とも契約はしていませんよ?」
「え? そんなはずないよ。一緒に、グランツ教と戦ってたじゃない」
「……今、なんと?」
「だから、グランツ教と戦ってたって……」
 翠の言葉に、アイリの表情が険しくなった。
 気が付くと、屈強なサルベージ船の船員に囲まれていた。奏は即効捕まって、猫の子のように、首根っこを掴まれている。
「な、なんなの?」
「どこで知ったのかは知りませんが、この町でそんな事を吹聴されては困るんです……」

 サルベージラグーン沖に、一隻のサルベージ船の姿があった。
 大型の船だ。甲板には、巨大なクレーンがあって、乗り組員もたくさんいる。
 この船の目的は、都市の防衛艦によって撃沈された、所属不明の潜水艦をサルベージすることだ。何者なのか、何の目的で都市に接近したのか、それを調べるのが、この船の仕事なのだ。
 船には、叶白竜と世羅儀、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)が乗船していた。
 記憶喪失のエヴァルトは、ここにいる理由を見出せずにいる。
 けれど、グランツ教の名を聞いた時、沸き起こるものがあった。敵意と殺意だ。奴らは敵だ。エヴァルトの本能が、記憶を超えてそれを教えてくれている。
(ただ、まともに戦っても勝てない……!)
 しかし、本能は同時にもうひとつ、大きな直感を彼に与えていた。
(このサルベージラグーンには、何かがある……。海の底に大きな力が眠っている)
 それが、教団を倒す力になればいい。
 そんな人がいる一方で、ブルタは、未知の世界に来た不安はなく「異世界トリップ? それ美少女がたくさん出てくる奴!!」と厨二脳全開だった。
「ところで、こちらの女性船員はどこにいるのかな?」
 邪気眼レフを装着して、船員に話しかける。
「女性も多い会社って言うんで、ここでバイトするのを決めたんだ」
 海と言えば、全身密着型のボディスーツ。特に、サルベージ業者にとっては制服と言ってもいい格好だ。
 想像してみてほしい。ナイスなバディのお姉さんが、ボディスーツを着た姿を。浮き出たラインの艶かしさ。胸とお尻の描く奇跡の曲線。これぞ海のお宝である。
「出来れば、写真を撮りたいんだ。大丈夫。あくまで記録用だよ」
「女なんかいないよ」
「え?」
「うちは女性は多いけど、大体事務方だからなー。船に乗って重労働は、男の仕事。男は船、女は港ってな」
「詐欺だ……」
 ブルタは、甲板を涙で濡らした。潮風が胸に沁みる。
「……何しに来たんだ、あいつは」
 エヴァルトは肩をすくめ、甲板で作業中の白竜と羅儀に話しかけた。
「あんた達は、さっきから何してるんだ?」
「所持品の動作確認をしているところです」
 アクアバイオロボットとインプロコンピューター。それから、銃型HCだ。
 どれも故障はなく、正常に作動している。銃型HCの通信機能は、通信回線の問題で、都市の回線にアクセス出来ないが、町に戻れば仕様の改造は可能だ。
 HC、ロボットは、特筆すべきデータは入ってなかった。ただ、コンピューターには、気になるものが記録されていた。
「……動画ファイル?」
 再生してみると、一人の男が映った。炎のように逆立った銀髪。日に焼けた健康的な肌。燃えるような熱い瞳。研究者のようだ。
 白竜と羅儀は、見覚えはあるものの、誰だか思い出せない。しかし、エヴァルトは彼を知っていた。
「……大文字博士?」
 映像は、暗い場所で撮影され、酷く乱れている。時折、稲妻のような閃光が走り、音声はけたたましい轟音に掻き消され聞き取ることは出来ない。大文字が、必死で何かを話したかと思うと、不意に画面はまっ白になり、映像は終わった。
「な、なんだこれは? 大文字博士はどうなっちまったんだ?」
「それより、この映像……」
 もしかして、自分達がここに来る直前に撮影されたものではないだろうか。
 しばらくして、潜水艦のサルベージが始まった。
 潜水服に身を包んだ四人は、他の船員と一緒に、海に潜った。
 意外にも活躍したのは、ブルタだった。ウォータブリージングリングとダークビジョンの力で、魚のように素早く目標に辿り着き、テキパキと……夢破れた怨念を仕事に叩き付けるように作業を行った。
(……どうした?)
 羅儀は、白竜がぼんやりしているのに気が付いた。
(……あ、いや)
 海中に入った時、白竜の脳裏に、記憶がフラッシュバックした。なにか動物のような、白のなにか……コスチュームを着た、女装姿の自分が浮かんだ。
(もしかして自分は変態コスプレイヤーなのか……?)
 恐るべき考えが、沸き起こった。
 忘れよう。今は目の前の事に集中。それが一番大事、と言い聞かせる。
 それから、それにしても……と海底を眺めた。
 海中作業用の発光球が照らす先に、都市が広がっていた。
 かつての栄華を伝える高層建築群。歪み曲がり、海底に波を打つ大通り。街並は、各ブロックごとに分離。海底に段々畑を形成し、静かに眠っている。
(……これは、海京じゃないか)
 エヴァルトはすぐにわかった。他の三人もすぐにわかったと思う。
 信じがたい光景だった。
 船員達によって目標に鎖が巻き付けられると、搭載された大型クレーンで、一気に引っ張り上げる。引きずり出された潜水艦は、二つに折れ曲がっていたが、積み荷は無事だった。艦内貨物庫から、Gの文字が書かれた鋼鉄の箱を回収する。
「人がいるぞ!」
 その時、船員の誰かが叫んだ。海面に、手足を拘束された人が浮かんでいたのだ。
 救出された人物の姿を見て、エヴァルトと白竜と羅儀は、はっと息を飲んだ。
 柔らかな桃色の髪に、西洋人形を思わせる整った顔立ち。身に付けた漆黒の聖衣。
「……め、メルキオール……!?」