リアクション
「フ、ザケ、ロオ、オオオオオオ!」
「……! 気絶するほどの激痛なのに!」
予想だにしなかったファナティックの行動に後退を余儀なくされるエース。
もはや、ファナティックの精神は肉体を凌駕していた。
「エース!」
「……これは、捕縛なんて生ぬるいことは言ってられないかもしれないね」
エースが苦虫を噛み潰したような顔をしながら、苦言を吐いた。
「あと一撃だけ、任せて欲しい」
「フリューネさん……」
エースの元へ傷だらけのフリューネが来てそう言った。
そのフリューネから見える覚悟に、エースは無言で頷いた。
「これで本当に終わらせよう」
フリューネの右にはレンが、左にはリネンが立っていた。
「行こう。行って全部、終わらせよう」
「奴の後ろは俺に任せろ」
二人と共にフリューネが最後の攻撃を仕掛ける。
小細工なし、真正面からリネンとフリューネが突貫する。
「ムシ、ケラがあああアアアっッ!!」
途端、空気中が震撼する。咆哮が、空気を伝ったからだ。
「グアアアアアアッ?!」
『どうじゃ、その身にはちときついじゃろうて』
駆けつけたガーディがファナティックに向けて咆哮したのだ。
♪――――――――――――――♪
更に、咆哮が終わった後に今度は耳がとろけるほどの美声が群をなしてファナティックの耳へと届く。
声を取り戻した、人魚たちの大合唱だ。
「ニ、ンギョカアアア!! キサマラ、ノウタハ、トウソウヲ、シズメルゥ! ダカラコソウバッタトイウノニィィ!」
「歌は平等です。ファナティックさん、あなたも例外ではありません。どうか心を落ち着けて」
「ヤメロオオオオオオオオオオオ!!」
それまで精神の昂ぶりにより感じなかった激痛がファナティックの身へとぶりかえす。
「八方塞だな。ついでに、羽交い絞めはどうだ?」
「キ、キサマア!?」
『ポイントシフト』を使いファナティックの後ろに移動したレン。
直後、ファナティックを後ろから羽交い絞めにする。
その真正面にはフリューネとリネンが己が武器を握り締め、迷いなくファナティックへと向ってきていた。
「ハナセ! キサマモシヌゾ!?」
「信頼するパートナーの手にかかるなら、それも悪くはない」
至って冷静にレンは言い放つ。その言葉に嘘も迷いもなかった。
「これで……!」
「「終わりよ!」」
ファナティックの眼前でリネンとフリューネが叫び、
【アーリエの剣】と【飛竜の槍】をファナティックへと突き立てる。
「ガ、ハァ……!」
持っていた不気味な鎌が天高く舞い、遂にファナティックの動きが止まる。
「……俺ごと貫いても良かったものを」
ファナティック共々貫かれなかったレンがそう言うと、フリューネが笑顔でこう答えた。
「それじゃお酒の相手をしてくれる相手がいなくて、寂しいじゃない」
「……そうか。そうだな」
フリューネの言葉に、そう答えたレンは優しく微笑んでいた。
「……貴様らには、機晶石の声が聞こえないから私にこんなことができるのだ」
驚くことに、ファナティックはまだ生きていた。
「お前には聞こえるって言うの?」
「当たり前だ。……アダムも、貴様らも所詮は同じか」
「アダムって、さっき言ってた……」
聞き慣れない言葉に、フリューネが怪訝な顔つきで呟く。
「アダム……私と同じクォーリアでありながら、機晶石を道具として扱い、天空城を奪い、無転砲を発射して浮遊大陸を破壊しつくした憐れな奴」
侮蔑をこめながらファナティックは言った。
「お前なら、いいえ。機晶石ならそうじゃなかったと?」
「当然だ。……まあいい。どのみちあのヘセドの娘、、ひいてはクォーリアの娘とクォーリアが争うのだ、愚かなことよ」
「クォーリアとクォーリアが争うって……。いいえ、それは後でいいわ。さあ、ブルニスの水管理機能を戻しなさい」
「なら我を殺すがいい」
「……何ですって?」
フリューネが眉根を動かして、ファナティックを射殺さんばかりに睨みつける。
対してファナティックは嘲笑しながら言った。
「水管理機能は我が命が絶たれた時に正常に戻るようにしておいた。
ブルニスの水管理機能を正常にしたいのなら我を殺すといい。貴重な情報源である我をな」
「……貴様!」
「くくく、保険をかけずして我が戦うと思うたか? 我は機晶石に導かれ、その意思を聴くもの。このようなところで死ねるものか、ハハハ、ハハハハ」
「いいや、あんたはここで死ぬよ」
小型船に乗ってやってきたホーティがファナティックに言い捨てる。
「小物が、貴様が我を殺すというか? やれるのか? 貴様ごときに」
「ホーティ、手を出しては」
「誰も手なんて出しゃしないよ。あんたはあんたに殺されるのさ」
「くだらぬ戯言を―――――」
ドスッ
「ガ、アア! こ、これは、我の鎌?」
先ほどファナティックの手から上空へと飛んでいった鎌が、ファナティックの身へと深々と突き刺さったのだ。
「だから言ったじゃないか。……いや、その鎌、多分機晶なんたらで出来てるんだろう? よかったじゃないか。機晶なんたらはあんたを導いてくれたじゃないか。地獄へと、さ」
「そんな、ばかなことが……ああ、機晶石よ。今一度、我に、お告げ、を―――」
やがて、ファナティックは喋らなくなった。
全ての危機を乗り越えた一向は、ガーディに連れられ『大切な力』の場所へと移動する。
『この辺が一番暖かいのじゃが』
「確かあの辺に……あ、あそこあそこ!」
レキが指差したところには光が灯っていた。近づけば、暖かさが増したように感じられる。
「これ、そのまま取ってもいいのかしら」
「女は度胸、ほら!」
ホーティがフリューネを押すと、その反動でフリューネが光に触れる。
「ちょっと! いきなり何を――――――」
『……ガガッ』
「えっ?」
ホーティに文句を言おうとしたフリューネが再度光へと向き直ると、そこには見知らぬ男性がいた。
『この、力を手に入れる者よ……。私の名はヘセド。ただ一人の生き残り、最後の“クォーリア”である』
「な、なんなんだい?」
フリューネが光に触れ、このホログラムが起動した。記憶装置から映し出された立体的な映像の男性はゆっくりと喋り始める。
『この大切な力は【ノアテレポーター】。飛空艇に取り付けることで瞬間的な移動が可能となる』
光が凝縮され、それはフリューネの中で形を成した。
これが【ノアテレポーター】。
『……この力を欲している、ということそれすなわち。考えたくはないが、また奴が現れたのかも知れない……。奴、アダムが』
「ヘセドにアダム、ファナティックが言っていた人たちよね」
「ヘセドはこいつで、アダムはなんかしらの装置を使って浮遊大陸をめちゃめちゃにした、だったかね?」
ファナティックの言葉を思い出すフリューネとホーティ。
構わず映し出されたヘセドと言う人物は喋り続ける。
『仮に、アダムが復活したのならば奴は必ず命なきクォーリアたちを、機晶石の力で持って無理に使役するはず……』
機晶石、恐らくファナティックが死ぬまで崇拝することをやめなかった機晶石のことだと推測される。
『……いかなる理由で君たちがこの力を手にいれたか……はわからない。だが、死してなお操られるクォーリアたちを、救って欲しい。
そして、できることならば……アダムに……相対すであ、ろう、我が、むす、メノ、ちカら、ニ―――』
最後の言葉を待たずして、かすれながらホログラムは終了した。
「……アダム、相当な悪人みたいじゃないか」
「アダムが復活し、クォーリアたちを操り再び何かをしようとしている。そして彼、ヘセドの娘というのは恐らく……」
ホーティがぼやく横で、フリューネは考える。ヘセドの娘が誰なのか。その答えにフリューネは薄々感づき始めていた。
「……ベルネッサ」
そう、ぽつりと呟いた。
「……何かまだまだ大変そうだけど、とりあえずはブルニスも無事だったし、よしとしなきゃね」
フリューネがそう言いながら、一息つく。そこへピィチーや他の人魚たちが集まってきた。
「みなさん、このブルニスを救ってくれてありがとうございました。お礼に歌を聴いてください」
そう言って、ピィチーたちは歌い始めた。
その歌に酔いしれるもの、踊りだすもの、一緒に歌いだすものがでてきて、ブルニスは軽くお祭り騒ぎだった。
「ねぇ、あんたたちはこれからどうするの」
フリューネがホーティに話しかける。
「……今回で気付いたよ。真っ当な奴から盗んでも何もいいことはないって、さ」
「うん」
珍しくしんみりとした口調で喋るホーティに、静かに頷くフリューネ。
「悪どく稼いでる奴の方がお金やらお宝やらたくさんもってるってことに気付いたんだよ」
「うん?」
はい、ここでシリアス終了のお知らせ。
「要は悪い奴らから盗んだ方が稼げるってことさ! つまり、ホーティ盗賊団はホーティ義賊団になるってわけさね!」
「そ、そう」
「なんならあんたも入れてやってもいいわよ?」
義賊としては大先輩であるフリューネに大胆無謀&無茶な要求をするホーティ。
そんなホーティを見て、フリューネは笑う。
「あは、あははは! あーやっぱりあんた、面白いね。あっちの二人もだけどさ」
フリューネが指した方には人魚の声にボロ泣きしているバルクと、それを呆れながら拭っているルニの姿があった。
「うん、考えとくよ。でもその前に、やることがあるんじゃない?」
「やる事? 何だいそりゃ」
「ベルの機晶石、盗んですいませんでしたって。ベルとか、他の人に謝らなきゃでしょ」
言われたホーティがすぐさま逃げる準備をする。
「さあお前たち! 宴は終わりだ、さっさと行くよ!」
「だーめ! これが終わったらベルのところへ行くからね!」
「なにニヤニヤしながらひっついてきてるんだい! は、離しな!」
フリューネがホーティを離すことは遂になかった。
そう、悪いことをしたらごめんなさいをしなくてはならないのだ。
頑張れホーティ義賊団、負けるなホーティ義賊団。
君たちの義賊人生は、始まったばかりなんだから。
ブルニスの水量 現在100%
ちなみに。
「あー天使ちゅわーん! って、天使ちゃんがいないわ! さっきまでいたのに、一体どこへ!?」
「……かくまって」
「了解」
ニキータはタマーラを見つけたものの、華麗にスルーされていた。どうやら、二人のおっかけっこはまだ続くようだ。
かくしてブルニスを襲ったファナティックは倒れ、
フリューネと契約者たちはブルニスを救い、大切な力を確保することに成功したのだった。
To be continued……
バルクの快進撃はいつか始まる、はずなのです。
本シナリオへのご参加、ありがとうございます。ゲームマスターを担当した流月和人です。
彗星のごとく登場し、流星のごとく退場していったファナティックでしたが、
その死の間際に語られた「アダム」なるものの非道の行い。
そして「クォーリアの娘とクォーリアが再び争う」などの言葉を残していきました。
まだ、物語は終わらないものの一先ずはブルニスを救ったことに感謝を。
ではピィチーさん、お願いします。
「えっ!? あ、あの! 皆さん、ブルニスを救ってくれて、ありがとうございました!」
『全てが終わったら今度は遊びに来るといい。ハッハッハ!』
ガーディさんからもお礼の言葉が届きました。最後に、私からも。
ファナティックを倒し、ブルニスを救ってくださいましてありがとうございました。
しかし、物語はまだ終わりません。この物語のエンディングが、ハッピーで終わることをピィチーさんやガーディさんと共にお祈りしています。
「ちょいと! 大活躍だった私たちを忘れてるんじゃ―――」
それでは。