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リアクション
「バルク、あんたの勇姿は忘れないよ……さあ突っ走るよルニ、あと、えーと」
「タマーラ」
「ああそうだったね。刹那に教わった通りなら、もうすぐのはずさ」
バルクを生贄に今もなお装置へと向うホーティとルニ、タマーラ。
そして遂にその姿を捉えた。黒い機晶石が埋め込まれた装置を。
「よし! 周りには誰もいない! このまま頂きだよ!」
装置まではあと数分で着く。長かった道のりもようやく、ホーティがそう思ったとき。
「そのお宝は、我々が貰うであります!!」
謎の声と共にホーティの足元周辺に銃弾が撃ち込まれる。
「……次から次へと、何なんだい!」
「なんだかんだと聞かれたらであります!」
「あ、それ以上ダメだからね? でも、あなたたちだって狙撃されるようなことばかりしていたじゃない」
岩陰から現れたのは葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)とコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)の二人。
二人はずっとホーティ盗賊団を遠目から監視していたのだ。そう、遠目から。
だから、彼らが契約者たちと協力しあっているということまではわかっていない。
「くっ、まったくもって言い返せない……誰だい!? 盗みばかりしていたのは!」
「ホーティ」
「……ルニとタマーラ、あんたらはあの装置まで走りな。ここは私がなんとかするよ」
「了解」
ホーティの真剣な面持ちに応え、ルニとタマーラが走り出す。
「ちょ!? 少しは「ここは私が」、とかないのかい!?」
当たり前のように走っていたルニへと目を向けるホーティ。
しかし、もうルニはいない。バルクが暴走した時に足腰が鍛えられたようだ。
「……ふん! やってやるさ、やってやるさ!」
「あ、二回言った。テンパってるわね」
「ふふふ、そのお宝は、我々が頂くであります!」
悪党顔でニヤリと笑いながらホーティに言い放つ吹雪。
「何であんたも二回言ったの。あとその言い方だとこっちが悪党なんだけど、ねえ、ねえ?」
「あ、コルセアも二回繰り返したでありますな」
吹雪は聞き逃さなかった。しかしコルセアは余裕でこう返す。
「強調表現よ」
「そうでありましたか。なら自分のも強調表現であります!」
ホーティを前に余裕の二人。見かねたホーティが怒ったように言いつける。
「あんたら、何しに来たんだい! コントを見るために止まったんじゃないよ! あたしは!」
「私たちだってコントなんてしてないわ」
「したのは、時間稼ぎでありますよ」
「な、んだって? ……!?」
動きの止まったホーティの頭上、そこに蛸の影が……。
ごほん、そこにはイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)が降ってきていた。
「な、なんだいこの蛸は!?」
「蛸ではない、イングラハム・カニンガムである。そして、仕置き人である」
イングラハムの何本もの腕うねる。触手の如く、うねる。
「お仕置きが必要なのである。この、触手で!」
「ふ、ふざけるんじゃないよ! って、体が」
「『しびれ粉』をまかせてもらった。大人しく仕置きされるといい」
イングラハムの触手がホーティへ向う。このままでは危険だ。いろいろな意味で。
「させない」
「た、タマーラ!?」
いつの間にか戻ってきていたタマーラが【ウインドタクト】で風を巻き起こし、周りにあった水ごとイングラハムを吹き飛ばす。
「こ、これが本当の、凧揚げ、か」
何か言いながらもイングラハムは飛ばされていく。遠く、遠くへと。
ついでにホーティの周りにあったしびれ粉もなくなったことで、ホーティも自由になった。
「た、助かったよタマーラ。……ルニは?」
「ルニならきっと、一人で平気。信じろ」
「……ああ、そうするよ。あの子は立派な、団の一員だからね! さあ来なコント二人組み。このホーティ様と」
「タマーラ」
「が、相手してやるよ!」
二対二の構図になったホーティもいつもの調子を取り戻す。
「成る程、伏兵でありますか。だが、お宝を頂くのは私たちであります!」
「三回も言わないの。というか完全に悪役なんだけど、はあ……」
どうしてもお宝が欲しい吹雪と、苦労人ツッコミのコルセア。だが、ルニが走っている分、ホーティたちのほうがお宝に近い。
結末は、一体。
「また走る私」
ティブルシーから走りっぱなしのルニが呟く。
だがこんなのも悪くない。密かにそう思っていた。
「……敵」
ルニの声の通り、装置を守りにファナティックの部下たちが戻ってきたのだ。
かなりの数がいる。しかしルニは止まらない。
「託された」
ホーティに、タマーラに、(行きずりだが)バルクに。
アインに、レジーヌに、朱里に、牡丹に、レナリィに。
そしてここで戦う契約者たちに。
ルニはまたしても託された。だから、ルニは止まらない。
斧を構えて、敵の真っ只中へと、勇敢に。
部下たちが一斉にルニへと向う。武器を持って、殺意を持って。
「……どいて!」
瞳に闘志を燃やし、薙ぎ払う。鮮烈で痛烈な一撃。
だが足りない。ルニ一人では足りない。あと一歩だというのに。
「届いてっ」
体を無理やりねじり、もう一撃。だが、それでも足りない。
その一歩が今は、遠かった。
ルニの筋繊維が悲鳴をあげる。敵が襲い掛かってくる。
それでもルニは装置へと走り、必死に手を伸ばす。
「お願い!」
その眼前が敵で埋め尽くされても、その隙間から見える装置へと走る。
もう無理だ。だがそれでもルニは走るのをやめない。
だからこそ。
「届くよ、あなたの手にはきっと届く」
横から声が聞こえたと同時に、眼前にいた全ての敵が弾き飛ばされる。
走ることをやめなかったルニはそのまま装置へと手を伸ばして。
装置を、取った。
「お疲れ様。あとは私たちに任せてね」
ルニとルニを助けた人物に迫り来る最後の一団。
「まったく、女の子一人に何人でくるのよ。……あなたたち、もてないでしょ?」
何人かの部下が反応し、いきなり突出する。図星だったのだろう。
「お願いできる?」
その言葉とほぼほぼ同時に、銃声が鳴り響き、突出した敵が落ちる。
「これが返事だ」
狙撃を行った者からの粋な計らいを受けて、ルニを助けた人物が笑う。
「ありがとう。……私も、いくよ!」
『超加速』を使い、【ダークヴァルキリーの羽】を展開し残っていた部下たちへと猛襲。
瞬く間に部下たちを蹴散らしていく。ものの数秒で取り囲んでいた一陣を倒した。
それを見た敵残存勢力は顔を青ざめさせる。
攻撃を終えたその人物が、名乗りを上げる。
「『獅子の旅団』、総勢639人。既にこの辺一体は取り囲んでいるわ! それでもまだ足掻くというのなら、このルカルカ・ルー(るかるか・るー)がお相手するわ!」
圧倒的なインパクト。その発言に嘘はなく、この辺りの空中・水中は旅団員たちによる包囲網がしかれていた。
この状況に観念したのか、部下たちが手に持っていた武器を放棄する。
これにて、雌雄は決した。
全てが終わり、ルカルカはルニの元へと歩いていく。
「包囲網をしいて、トレジャーセンスを使ってここに来たら、ルニちゃんが敵に囲まれてるんだもん。びっくりしたよ」
「……」
ルニは装置を持って後ずさる。それを見ても、ルカルカは笑顔だ。
「でもさっきの目、かっこよかったよ。ナイスファイト!」
「なんだ、お前か。また会ったな」
ルカルカとルニの元にダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が姿を現す。
「いい踏み込みだった。だが、少々やり過ぎだったな」
「まあまあ。ルニちゃんが突っ込んでくれてなきゃ、持ち逃げされてたかもだし」
「そのための、包囲網だろう?」
「万一もあるじゃない。それをルニちゃんが潰してくれた、それで十分だよ」
余裕な二人を見て、一言だけルニが呟く。
「……ありがとう」
感謝の言葉を、助けてくれた二人へと。
装置奪還後、牡丹とダリルにより装置の解析を行っていた。
「成る程、そういう仕組みか」
「あ、ダリルさん。コピーの機能をつけてもいいですか? ホーティさんと約束しているので」
「構わない」
「……コピー完了です。後はお任せしますよ」
「ああ。それでは、人魚の声を解放する」
ダリルが最終操作を終えると、装置から素敵な声が幾重にも重なって放出されていく。
人魚の声は無事に、各人魚へと戻っていった。人魚の声を解放した後の装置は、ルカルカたちが回収し、国軍にて保管する予定だ。
「ホーティさん、これ約束のものです」
牡丹がコピーした人魚の声を渡そうとしたとき、ホーティの口から意外な言葉が返ってくる。
「……ああ、それかい。捨てといてくれ」
「いいのですか?」
「あんないい唄を生で聴いた後じゃ、コピーなんかいらなく思えちまったよ。あの装置も保管されるで損だらけだねぇ、まったく……」
微笑むホーティの視線の先には泣きながらも喜ぶピィチーの姿があった。
「あれ〜ツンデレはもうやめたの〜」
マイペースレナリィがホーティに尋ねると、ホーティが慌てる。
「つ、ツンデレなんかじゃないよあたしは! ……たく、バルク、ルニ! あと、タマーラと刹那たちもそっちでよろしくやってんじゃないよ!」
そう言いながら自分に協力してくれた五人のもとへずかずかと歩いていった。
大切な力と人魚の声はクリアした。残るは、ファナティックのみ。
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