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【裂空の弾丸】Recollection of past

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第2章 潜入! ジークロード! 3

「ひっ、ひいいぃぃ……」
 そのとき、飼育員である機晶兵が見たのは、この世のものとは思えぬ目であった。
 ほとんど光の入らないうす暗い部屋の中に、そいつは足を踏み入れてきた。
 漆黒の黒い髪。真っ赤な瞳。サングラスの奥からのぞくその血のような瞳が、機晶兵の擬似的な感情に“恐怖”というものを植え付けていた。

 がしゃんっ

 そいつの手にするマスケット銃が音を立てる。
 あとは引き金を一発引けばそれで終わり。機晶兵の胸に、その銃口が押し当てられた。
「なあ……そんなに怖がるなよ」
 その“女”はニヤついた笑みを浮かべながら、腰を抜かした機晶兵を見下ろした。
「なぁに、すぐに楽にしてやるさ。もっとも、てめぇが騎竜の弱点やクドゥルとかいう野郎の弱みを教えてくれるなら、話は別だがな。ん? どうだ? 話す気になったか?」
「うぐぅ……」
 銃口は機晶兵の口に移動する。
 腔内に押し込まれた銃の冷たい感触に、機晶兵は泣き言を言うばかりだった。
 ああ、もっとも――それすらも、許してはもらないかもしれなかったが。
「やめておけ……」
 そのときだった。
 機晶兵に銃を突きつけるザミエル・カスパール(さみえる・かすぱーる)に、静かな制止の声がかかったのは。
「あん?」
 彼女が振り返ると、そこにもう一体の機晶兵を切り伏せた男が立っていた。
 レギオン・ヴァルザード(れぎおん・う゛ぁるざーど)。ザミエルと共に、飼育施設に潜入した契約者であった。
「そいつはとっくに喋るつもりでいる……。無駄に殺す必要もないだろう……」
「はっ、甘ちゃんだねぇ。機晶兵に殺すも生かすもないだろうに……」
 ザミエルは揶揄するように言ってから、銃を引き抜いた。
「はっ……あふっ……ぁ……」
 妙に人間くさい機晶兵は、ようやく命が繋がったことに安堵してその場にくずおれる。
 が――

 ドガァッ!

「がふっ……」
「誰が寝て良いって言ったよ? ん?」
 ザミエルの足が機晶兵の顔を蹴り上げた。
 そのまま、足裏でその顔を壁にめり込ませる。凄まじいまでの非道の徹底ぶりだ。
「…………」
 レギオンはなにも言わないまでも、その手を剣にそっと伸ばしていた。
 何かあれば、ザミエルを止めるつもりである。
 ここにザミエルの契約者であるレン・オズワルド(れん・おずわるど)がいれば、あるいはその心配はなかったのかもしれない。
 だが、いまその制止の力がない以上、彼女を止めることが出来るのはレギオンのみである。
 彼にその自覚があったかどうかは知らぬが、その意思は感じられた。
「さっさと話したほうが身のためだぜ?」
「……わ、わかりました……」
 機晶兵がか細い声でそう言ったのを聞いて、ザミエルはようやく足を離した。
「ク、クドゥル様の乗る、ブラックドラゴンの弱点は――――」
 その答えを聞く間も、ザミエルは悪童めいた笑みを消すことはなかった。

● ● ●


 ドゴオオオオオオォォォォォ!

 壁に大穴がぶち空けられる。
 もうもうと浮き上がった煙から現れたのは、ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)――いや、ケンファだった。
「ちっ……クソがぁ……このままじゃ身体が持たねえぜ……」
 彼はこぢんまりした誰もいない部屋で、一人壁に背を預けた。
 そう。ケンファはいま、ひどく傷ついた状態にあったのだった。
 それはひとえに彼の身体によるものである。
 この身体はケンファのものではなく、ハイコドのものだ。
 言わば他人の身体を借りている状態にある。
 いくらケンファが回復魔法をかけて好き勝手に動き回ろうとも、やはり他人の身体というのは不便なもので、ケンファの動きや怪我に、身体そのものの回復がおいつかないのであった。
 そのため、いまは触手を使って無理やり動かしているような状態だ。
 ズタボロになっているのも、無理はない……。
「ちぃ……くそっ……ここにあるのは食料ぐらいか……。お、鎮痛剤があるな。こいつはいただいていこう」
 ケンファは倉庫になっているその部屋で、ダンボールや棚の中を次々に漁った。

 びしゃっ……びちゃっ……

 音がするのは、ケンファの傷ついた身体から溢れ出ている触手の欠片である。
 まったく不便なものだ。早いところ、どうにか対策を打たねばならないだろう。
(それまでは……ヒヒッ……まあ、我慢してくれや)
 ケンファはニヤついた笑みを浮かべて、その場にくずおれた。
 しばらく休むつもりであった。
 部下の空賊や飛行機晶兵たちが、他にも回復薬などを探してくれているだろう。
(それが見つかるまでは……少し……)
 ケンファはしばらく、深い眠りについたのだった。