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フロンティア ヴュー 1/3

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フロンティア ヴュー 1/3

リアクション

 
 
 “滅びを望むもの”の一部である龍頭は、一応は倒したはずだった。
 なのにまだ異変が続いている……。
 漠然とした不安を感じていた新風 燕馬(にいかぜ・えんま)は、今回の話を聞いて、龍頭に向かうことにした。
 具体的な根拠の無い行動だったので、パートナー達には言わずに単独で、のつもりだったのだが。

「……何故いる」
 目の前には、パートナーの剣の花嫁、ザーフィア・ノイヴィント(ざーふぃあ・のいぶぃんと)がにっこりと笑っている。
「おいおい、つれないことを言わないでくれたまえよ。
 それとも僕じゃ頼りないかい?」
 ザーフィアにしてみれば、『燕馬を単独行動させるな』はパートナーの共通認識である。
 一人で何かしようとして大体酷い目にあっているのだから、放ってはおけない。
 ザーフィアの言葉に燕馬は、そんなわけないだろう、という顔をした。
「もしや遠慮しているのかい?
 だとしたら、燕馬くんは気の遣い方を間違ってるよ」
 ザーフィアは、燕馬の剣だ。使われない剣に何の意味があるだろう。
「……頼りにしてる」
 ぼそりと呟いた言葉が本心なのだと伝わって、ザーフィアは笑みを深めた。
「――うん」
 じゃあ行こうか、と歩き出しながら、それでも、燕馬は念を押さずにはいられなかった。
「――無理はするなよ。
 身体に違和感を感じたら、すぐに帰れ」
 彼女の余命は短い。
 ヒラニプラで、そう言われた言葉を思い出す。
「……そんなに心配しなくとも、僕はまだナラカに行くつもりはないよ」
 入り口は、すぐ近くにあるけどね、と『大穴』を指してザーフィアは笑い、洒落にならねえよ、と燕馬は溜息を吐いた。

 ということにはなったものの、さて、何をどうすればいいのかはさっぱり思いつかないのだった。
「うーん、やっぱり思いつきで行動するもんじゃないな……」
「燕馬くん、あそこに誰かいるよ」
 起伏の激しい、岩肌の道を、誰かが歩いているのが見える。
 というか、歩いているのは一人で、残りはじゅうたんの上に座って浮いている。
「目的は同じなんじゃないかな? 持ってるダウジングがぐるぐる動いてる」
「………………お前、よく見えるな」
 ザーフィアは、絶望的な視力の悪さに眼鏡を使用しているのだが。
「実はまた度数を上げてね」
「自慢できる話か」
 得意げに、くいっと眼鏡を押し上げるザーフィアに、燕馬は突っ込まずにはいられなかった。


◇ ◇ ◇


 イルミンスール生の日堂 真宵(にちどう・まよい)は、大図書室の深部で、教導団魔術師がこれまでに知られていなかった伝承について記された文献を発見した、という噂を聞いた。
「むむ、お宝の匂い!」
 真宵のトレジャーセンスに、ピキンと引っかかるものがある。
「チャンス。
 チャンスなのよ。シボラなんて教導団も大っぴらには動けないから個人調査に勝るものなし。
 自由に動けそうな元祖四天王も来る気配無いし、チャンスなのよ!」
 とはいえ、真宵もシボラには詳しくない。
 そこで、シボラに行ったことのある立川 るる(たちかわ・るる)を誘った。
「オッケー、丁度卒論のテーマ捜してたんだ。
 シボラ? 勿論詳しいよ! 大学のフィールドワークで行ったことあるし。
 密林でしょ!」
 るるのシボラ知識は以上だった。


 ――とにかく、一行はシボラを訪れたのだった。

 幸運のおまじないとして、出発前に、るるは髪を結わえ直した。
「まよちゃん、髪結んで」
 自分ではできなかったりする。
「何でわたくしが……」
 ぶつくさ言いながらも、真宵は渋々結んでやる。
「よしっ、これでバッチリ! スゴイ卒論書いて学会に発表するよ!」

 シボラは密林地帯も多いが、国境近くは山間部も広がる。
 この時点で既にるるのシボラ知識は役に立たなかったが、それはさておき、起伏の激しい地形を、るるのパートナー、ラピス・ラズリ(らぴす・らずり)が用意したじゅうたんに乗ってふよふよと進んだ。
 ただ、じゅうたんは三人乗りである。
「レディファーストじゃない?」
 るるの言葉に、じゅうたんの所有者である、唯一の男、ラピスは反論する。
「るるちゃんは、幼い体力しかない僕を歩かせようって言うんだ!」
「飛べばいいじゃん」
 ラピスは守護天使である。しかし問題はそこでは無い。自力飛行は歩行と同等の体力を消耗する。
「じゅうたんは僕のだから、僕は乗るんだもん!
 ワカモノが歩きなさいっ。ダイエットになるよ」
 るるはちらっと真宵を見、
「わたくしが歩くとかとんでもないわ」
と言いながら、自称お嬢様の真宵はパートナーのベリート・エロヒム・ザ・テスタメント(べりーとえろひむ・ざてすためんと)を見た。
 テスタメントはぱちぱちと瞬く。
「テスタメントは5782歳で体力より知力勝負で……」
という言葉は誰の耳にも入らなかった。

「巨人族の秘宝かあ〜。それだと秘宝も大きいのかなあ?」
 道中の、秘宝談義にも花が咲く。
「確かにね。
 秘宝が聖剣だったら、馬鹿みたいに大きな剣てことじゃない?」
 るるの予想に、真宵も答えて言う。
「それとも、世界樹自体が聖剣、とか」
「そうですね」
とテスタメントも頷いた。
「この手の“剣”は、本当に剣とは限らず、何かの象徴的なものであることも多いです」
「大陸の世界樹、かぁ」
 るるは見えない世界樹を見上げるようにした。
「今迄発見されてこなかったってことは、きっとユグドラシルみたいにただ大きいだけじゃないんだよ。
 実はすごく小さいとか、代わりに竹みたいに地下茎でとんでもないことになってるとか、山の中に埋まってるとか」
 ふむふむと、知った風にラピスは頷く。

 そんな会話の間にも、るるが卒論の資料の為に写真を撮りまくったり、るるの占いのフラワシが下駄を投げたり、ラピスが両手に持った二本の針金にぐいぐい引っ張られたりして、四人はあちこち彷徨った。
「何か、『大穴』の場所からはちょっと離れて来たね?」
 『大穴』自体も崩落を続けているが、地面が崩落している場所は、『大穴』だけではない。
 同じく独自に龍頭の調査に来て、そちらの方向から調べていた清泉 北都(いずみ・ほくと)達や燕馬達と出会い、何となく合流して、彼等はやがて、岩肌が縦に裂けたような、巨大な洞窟を見つけた。
 ラピスのダウジングが、ぐるぐる回転している。
 が、それを確認するまでもなく、全員が緊張を持って、暗い洞窟の奥を見つめた。
「……何か、変な気配ビンビン感じるんだけど……」
「でも、洞窟だわ。『遺跡』じゃない」
 迷うように真宵が言う。
「山がまるごと遺跡でも、僕は驚かないよ」
 北都が言った。
「それに、これは地下の遺跡の風穴とかなのかもしれない。
 もしくは、崩落して大地がずれたことで、中の遺跡に繋がったのかも」
 何にせよ、先に進むつもりだった。
 北都が興味があるのは実のところ、聖剣よりは、古代種族の文字や絵、文化の方にだったが。
 勿論聖剣も重要だと認識しているが、ここへ来て、熾天使や巨人族など、古代種族の出現が相次いでいる。
 何か歴史を紐解くようなものが、そこに存在すればいいと思った。
「北都。どうかお気をつけて」
「うん」
 パートナーのクナイ・アヤシ(くない・あやし)の言葉に、北都は微笑んで、お守りのように、ぽんと軽くポケットを叩いてみせる。
 クナイが『禁猟区』をかけて渡したハンカチが、そこに入っている。