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リアクション
【鏡の国の戦争・決戦2】
「壮観だな」
四機の戦艦が東京湾側上空に並ぶ姿は、湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)でなくともその仰々しさに何か言いたくなったろう。
彼が指揮を執る土佐は、他の三つの戦艦、HMS・テメレーア、伊勢、ウィスタリアの間にはデータリンク用ネットワークを構築され、円滑かつ高速な情報伝達を有する。
さらにそれぞれの艦にはイコンが搭載されている。
「旗艦、HMS・テメレーアより入電、間もなく艦砲射撃を行うとの事ですわ」
「了解した」
高嶋 梓(たかしま・あずさ)は、データリンクネットワークから得られた情報を元に、土佐の砲撃目標に向くよう調節する。
「主砲、発射準備整いました」
「よし、合図を待て」
データリンクがあるので、数える必要は無い。四つの艦、特に旗艦が最適だと判断したタイミングで砲撃の指示が出る。
「主砲、撃ちます」
「よし、まずは先日の礼をしてやろう」
四つの戦艦の、四つの主砲が同時に攻撃を開始する。
だが、土佐のモニターに表示される高エネルギー反応は、四つでは終わらない。全く別の地点から、敵陣に放たれる砲があるのだ。
この戦場に居るのは、自分達だけではないのである。
「反撃は?」
「反撃は……敵航空部隊を確認とウィスタリアから」
「航空部隊、規模は?」
「戦闘ヘリが相当数、恐らく全て怪物化したものですわね」
「大した戦力ではないな。旗艦からは?」
「各艦予定通り前進せよ、との事です」
「了解した。接近するヘリに対し近接防御開始! 敵を叩き落せ!」
土佐甲板には直掩機のイーグリットが2機と、プラヴァーが一機出ていた。
「くそ、ついてねぇ」
プラヴァーのパイロット、岡島 伸宏(おかじま・のぶひろ)はコックピットの中でぼやいた。
「まさか、ジェネレーターに異常が出るなんて」
山口 順子(やまぐち・じゅんこ)も浮かない顔である。二人の愛機であるイコンは、夜間整備中に重篤な問題が発見され、急遽パイロットがあてがわれていなかったこの機体に乗り換える事になってしまったのである。
アナザーにはイコンを万全に仕上げる整備場はなく、部品を受領しようにも、一晩という時間は短すぎた。
ぼやいている間に、敵機接近の報が響く。向かってくるのは、僅かな戦闘ヘリだ。まずは土佐の対空砲、レーザーマシンガンが出迎える。
「おいおい、その上出番まで奪うってのか」
土佐の対空防御は凄まじく、ヘリはマシンガンを回避しきれずに一機、また一機と煙を吹き、重力に抗う力を失っていく。
「待って、何か射出したわ」
墜落中のヘリから、ミサイルが射出される。真っ黒なミサイルだ。発射されたミサイルは、するすると対空砲をすり抜けて近づいてくる。
「怪物ミサイルか、ヘリは土佐に任せろ、イコンはミサイルを狙え」
ミサイル防御は、その弾道を計算して行われる偏差射撃だ。地通自在に動くミサイルの撃墜には向かず、まだヘリも残っている。
「早い」
「いや、遅い!」
プラヴァーの銃剣付きビームアサルトライフルがミサイルを撃墜する。
「くそ、取り回しが悪い」
伸宏はミサイルを着実に撃墜していくが、彼にとってこの機体は重い。
「だめ、すり抜けられた!」
ミサイルの一発が、土佐の側面に直撃する。振動、ダメージの度合いはこちらにはわからない。その度合いを誰かに問いただす前に、すぐ横のイーグリッドにミサイルが直撃した。
甲板の上を跳ね飛ぶイーグリッドを、伸宏は追う。イコンの手を伸ばそうとして、やめた。掴むには僅かに遠い。
「あとで謝るから簡便してくれよ」
銃剣付きビームアサルトライフルを、突き立て、土佐にイーグリッドを縫いとめた。剣はイーグリッドを貫通し、土佐甲板にも深い傷をつけた。
イーグリッドの動きが止まったのでゆっくりと、銃剣付きビームアサルトライフルを抜き取る。既に対空砲は静かになり、最初の歓迎は終わっているようだった。
すぐに各イコンは、アルバート・ハウゼン(あるばーと・はうぜん)とソフィア・グロリア(そふぃあ・ぐろりあ)がイコンの補給、修復作業に入る。
船体にぶつかったミサイルは、表面装甲で十分に受け止める事ができた。あの程度なら、あと二十から三十発程度なら無視できるだろう。
「さっそく赤、中破が一ですか」
アルバートは、人間でいえば太もも部分を刃物で貫通させられ、かつ頭部のメインカメラをミサイルで吹き飛ばされたイコンを、イコンでっきの隅に送った。余裕が出れば修理もするが、今は補給が先である。
「敵は待ってはくれませんわ。さぁ、補給作業を始めますわよ」
ソフィアがイコン整備班と共に作業を開始した。
伊勢格納庫は、がらんと広くなっていた。
ほんの少し時間を巻き戻せれば、ここに居た七機のイコンと整備班、パイロットでにぎわっていた姿を見る事ができるだろう。
その中央に背筋を伸ばし立っている鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)の肩をジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)は軽く叩いた。
「帰ってくる、そうじゃろ?」
二十二号は微動だにしない。
「そうじゃな、この戦いが終わったら〜」
「迎撃部隊確認、ここからが本番よ」
オペレーターのコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)の声が、笠置 生駒(かさぎ・いこま)のジェファルコン特務仕様及び、その指揮下のイコン各機に届けられる。伊勢の艦載イコン四機並びに生駒の直属の部下二機だ。
「ジェファルコンのセンサーでも捕らえた。各機散開、シミュレーション通りに迎撃する」
イーグリッド六機は機敏な動きで迎撃体勢を整えた。間もなく、敵大型怪物八体を確認する。
まず伊勢の四機が扇状に広がった状態からウィッチクラフトライフルで出迎える。当然、怪物達は盾を掲げた。
「予想通り、そのまま足を止めてもらうよ」
ジェファルコン特務仕様は横にスライドするように回り込もうと試みる。ジェファルコン特務仕様とイーグリッドでは一目で武装の質と量が違う。注意を引くには格好の動きだ。
「今や」
シーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)の号令で、瓦礫の影に隠れていた二機のイーグリッドが飛び出し、がら空きの側面及び背面にウィッチクラフトライフルを浴びせかける。装甲を盾に頼っているレッドラインに、この一発は重い。
「四体行動不能にしたで―――ちょい待ち、一機足りひんで」
向かって来ているのは八体居た筈だが、横に回りこんだシーニーに確認できたのは七体だけだった。ぎりぎりまで敵の位置と数は確認してたはずで、消えた一機はかなり近い地点に居るはずだ。
シーニーはレーダーに視線を落とす。消えた一機は、目で発見する前に、耳に飛び込んできた。味方機の悲鳴という形で。
「ライオン頭かいな」
顔を上げたシーニーが確認したのは、頭部を引き千切られてその場に崩れ落ちたイコンと、その頭部を左手に掴むライオンヘッドの姿だ。
周囲の味方機がライオンヘッドにウィッチクラフトライフルを向ける。
「いけない、同士討ちになる。そいつはワタシが相手する、みんなは残りのレッドラインを逃がさないで!」
体の芯を引っ張られるような急加速で、生駒はライオンヘッドに肉薄した。デュランダルを抜き、下から切り上げる。機体のバランスを崩しやすい動きだが、パイロットとしての技量があれば問題無い。
ライオンヘッドはこの一撃を片足を引き、上体を反らして回避した。
「まだだ」
振り上げた勢いを機体制御で殺し、間髪いれずに振り下ろす。一歩踏み込み、間合いを詰めた一撃はもう体を反らす程度では避けられない。
「なんやて」
シーニーが驚きの声をあげる。
ライオンヘッドはそのまま切られる事も、攻撃を受けるでもなく、さらに体を反らし、両手を地面につけた。ブリッジの姿勢、いや、そのまま止まらず、バック転になった。振り上げられた足がジェファルコン特務仕様の顎を蹴り上げる。
揺れるメインモニター、だが人間と違って脳震盪にはならない。
レッドラインのバック転は一回で終わらず、二回、三回と続き、あっという間に間合いを広げられた。
最後に一回で、大きく飛び上がり、六階ほどのビルの上に立って止まった。
膝立ちになったライオンヘッドの視線は、ジェファルコン特務仕様を見ていない。それより少し奥、レッドラインの方を見ていた。その視線は、横へと進んでいく。
「く、しまった」
ライオンヘッドの異様な機動に目を奪われていた隙に、レッドラインは既にほぼ離脱を完了していた。ライオンヘッドはそれに満足したのか、ビルの向こう側に飛び降りていく。
「追撃は―――」
「追撃の必要はないであります」
扶桑からの通信、声の主は葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)だ。
「ビックバンブラスト発射用意! 目標が十分距離を取るまで待機! ……よし、十分だ。総員対衝撃、閃光防御!! 撃てぇっ!」
地上の生駒達イコン部隊が対ショック姿勢を取る。眩い閃光と衝撃が、ビックバンブラストが発射された事を物語った。実際のその目で確認した者は、イコン部隊には一人も居ない。モニター越しでも、目にあまりよくないのは明白だからだ。
「反応消滅」
続いた声は、コルセアのものだ。
「よし、損傷したイコンを回収もできるな。イコン部隊は補給の為に一旦帰還を、周囲の警戒は伊勢で行う」
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