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【光へ続く点と線】遥か古代に罪は降りて (第2回/全3回)

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【光へ続く点と線】遥か古代に罪は降りて (第2回/全3回)

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レナトゥス

 レナトゥスはルシア、美羽、匿名らと戦闘の激しい地域を外れて湖底の岩陰を伝いながら巨大イレイザーの方へと向かっていた。先ほど合流したノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)はすぐにレナトゥスの手伝いに彼女らのあとを追ってきたのだった。
「レナトゥスちゃん、あの大っきなイレイザーさんの所に行きたいんでしょ? ノーンも手伝うよ!」
彼女は合流してすぐに、動きやすくなるようにとウォータブリージングリングを1つレナトゥスに貸していた。ノーンのパートナーである御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は、夫婦でヴァイシャリーからザンスカールへの路線拡張を勤しみながら、民間側からのバックアップとして、ニルヴァーナへの物資等補給ラインの構築や維持も並行して行うことで彼女らの手助けを行っている。綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)はスポーンの街へ行くつもりでいたのだが、途中見かけたレナトゥスが追われているのを見て成り行きから同行していた。途中襲撃を受け、美羽とコハク、匿名はあとで追いつくからとレナトゥスらに先に行くよう促し、現在は別行動となっている。戦闘力を持つアデリーヌとノーンが後ろを護り、さゆみが先頭に立つ羽目となったのだが……。さゆみには大きな欠点があった。絶望的とまで言われるほど方向感覚が欠如しているのである。アデリーヌは嫌な予感に包まれながら先頭を行く恋人を見た。
(さゆみが先導だなんて……わたくしとしては何事もないように祈るだけですわ……。
 ああ、祈ることしかできないなんて……この状況に関しての己の無力さをひしひしと感じますわ)
無力感を感じながらも我は射す光の閃刃や光術を敵襲に応じて即使えるよう、その準備に怠りはない。
ノーンが全員に空飛ぶ魔法も手助けになるかもと掛けているので、動きに支障はさほどない。ノーンは追っ手やイレイザーの気配をディテクトエビルで察知しつつ、妖精の領土を駆使して最大限に全員の動きを助けている。
 さゆみは目標は大きいのだから、とにかくアレを目指せば迷うことはないだろうと甘く考えていた。だが、実際のところ簡易なルートは音無がHCにインプットしてくれているとはいえ、湖底のこのあたりは遺跡の廃墟と岩が混在し、天然の迷路を形作っている。場所ももう前線であり、契約者たちによって大分数を減らしたとはいえ、イレイザーとイコンが未だ戦い続けている。その戦いの余波も避けながら走るのである。追手を振り切るのには無秩序な逃走は効果的かもしれないが……一向に巨大イレイザーに近づいてくる気がしない。まして目標もまた遺跡に近寄るイレイザーを迎撃しているため、一箇所にじっとしているわけではない。ノーンと同時に合流した神崎 優(かんざき・ゆう)が声をかける。
「ここ、さっきも同じところを通ってるだろ……。一旦止まろう。さっきから走りっぱなしだ、少し休もう」
「う……あははは、そ、そうかな」
さゆみが引きつった笑い声を上げ、ごまかそうとする。アデリーヌはフッと乾いた笑みを浮かべた。廃墟の一角に藻類が生い茂っているためよく見ないと周囲の岩と同化してわからないが、身を隠せそうな建物のようなものが見える。一同はそこにもぐりこんだ。一堂が腰を落ち着けると優が言った。
「とにもかくにも、ゴダートの手にレナトゥスを渡すわけには行かない。
 人間としての自我・意志を持ち始めた彼女を人形扱いするゴダートは許せん!
 あんなやつのことだ、彼女に対して非人道的な実験・調査をする危険がある。
 前線だし、イレイザーも警戒しなくてはならないが、なるべく戦闘を避けていくのがベストだと思う。
 戦闘によるタイムロスも痛いし、何より目立つことで追っ手の目をひきつける可能性があるしな」
普段は人の姿だが、銀狼の獣人神代 聖夜(かみしろ・せいや)が頷く。
「俺も聞いた。地球人以外を劣等種族とかぬかしてる野郎だとか。許せねえ。
 だが……敵ってわけでもないから闇雲にやっつけちまうわけにもいかないんだな。
 手加減しながら戦い、逃げる。俺らめちゃくちゃ不利だよな」
「だから戦わないように、隠れながら逃げないとだよね。あともうちょっとなんだけどな」
ノーンが追っ手の気配がないか警戒しながら言う。
「でも、どうしてそんな人が調査隊のトップになんかついたのかな。
 ニルヴァーナもパラミタも地球人以外の存在がいっぱいいるわ。
 そんな態度の人ではここでトラブルになることなんかわかってるでしょうに……。
 ゴダートさんと同じ同じ地球人の契約者だってそうよ。
 パートナーや友人、恋人や家族のことをそんな風に扱われたら反感を持つだけなのに」
守護天使の神崎 零(かんざき・れい)がかすかに白い翼を広げる。
「なんかあくどい手でも使ったんじゃないのか?」
聖夜がこぼす。陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)が皆にイナンナの加護をかけながら言った。
「世界のバランスを保つというのは難しいことです。偏った知識や感情はその妨げになります。
 あのような考え方が浸透すれば、世界のバランスは崩れてしまいます。
 なにか身近なことできっかけを得て、考え直すチャンスがあればよいのですが、なかなか難しいでしょうね」
さゆみが言う、
「とにかく……早くレナトゥスさんを巨大イレイザーに届けなくては。
 ……もう見える位置まできてるのだし、下手に小細工を弄して湖底から隠密に接近するほうが難しいと思うの。
 むしろイレイザーと戦ってる人たちにに支援要請を出して援護を受けて敵中突破した方がいいんじゃないかしら
 ……ちっとも近づいてる気がしないし」
「最後のは、主にどなたかの方向音痴の影響かと思いますけれども……。
 ですがどうしても接近するためには水底にいてはダメですわね」
アデリーヌが肩をすくめる。ノーンがにこっと笑う。
「それなら、ノーンはホエールアヴァターラ・クラフトを持ってるから、これにレナトゥスちゃんを乗せたらどうかなぁ?
 ヴィサルガ・プラナヴァハで覚醒させたら、より安全に早くいけると思うんだ」
「それはいいプランだな。もう目と鼻の先に目標はいる」
アラムが言って、ルシアを促し、アクリトに連絡を取った。近辺にいるイコンを数機配備し、イレイザーを退けてくれるという。通常の戦闘とまぎれさせようという作戦だ。他のメンバーは追っ手の目を閃光などでくらまし、飛行する――水中なのでこの表現も妙だが――レナトゥスを見えない状態にしようということで話しは決った。優がレナトゥスに向き直った。眼をまっすぐに向けて語りかける。
「貴女が辛い時や苦しい時、心が折れてしまいそうな時は迷わず俺達を頼って欲しい。
 絶対にゴダートなんかに渡したりはしない!
 例えどんなに離れていようと、暗闇に飲まれそうになっても必ず駆け付け、その手を掴むから」
「もちろん私達も手伝うからね」
「もちろん俺達も手伝うからな」
「もちろん私達も手伝いますからね」
零、聖夜、刹那がレナトゥスに微笑みかけ、同時に言った。他の面々も言葉には出さずとも思いは同じだ。
「ありがとウ」
言葉だけではなく、みなの暖かい気持ちも感じ取り、レナトゥスがいわく言いがたい表情を浮かべた。休憩を終え、全員が外に出る。上方ではイコンが数機展開している。ノーンがヴィサルガ・プラナヴァハを使い、覚醒させた航行モードのホエールアヴァターラ・クラフトにレナトゥスを乗せた。幸運のおまじないも発動させる。
「レナトゥスちゃん、グッドラックだよ!」
淡い光輝を帯びたホエールアヴァターラが、一直線に巨大イレイザーの頭部へと向かう。後方で叫び声が起きた。追っ手だろう。零、刹那、ノーンがいっせいにそちらに向けてホワイトアウトを放った。通常の3倍の威力である。文字通り目を開けていられぬほどの閃光が辺りを覆いつくす。視界を奪われた兵士たちの怒声が響いた。
 レナトゥスが巨大イレイザーの頭部に近づくと、アピスの歓迎の思念と共に胸部に開口部が開き、レナトゥスは巨大イレイザー――パラ実校舎――に収容された。最奥部でアピスに近づくレナトゥス。アピスが前脚の一本を差し伸べてきた。思念がレナトゥスにもそうするよう、促す。レナトゥスが手を差し伸べると、右手の人差し指にアピスのそれが触れた。アピスの体が淡い光に包まれた。どうやらベアードの行った交信手段を、友好的接触であるとアピスが受け取ったようだ。指先を通じてレナトゥスの知識、経験などがアピスの精神に流れ込む。
「ハジメマシテ、ソシテ、ヨロシク」
アピスが触覚を震わせてレナトゥスに挨拶をし、レナトゥスは微笑んだ。
「よろしく、ナ」
そしてアピスは精神を集中させた。レナトゥスの知識、一種の精神の共有を得て、なすべきことのひとつがわかったのだ。