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古の白龍と鉄の黒龍 第4話『激突、四勢力』

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古の白龍と鉄の黒龍 第4話『激突、四勢力』

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 “灼陽”内部で小規模な爆発が生じ、出来た穴から酒杜 陽一(さかもり・よういち)が内部へ侵入を果たす。
(味方が装甲の薄い箇所を作ってくれたおかげで、予想していたよりも早く潜入出来たな。爆弾も手元に残すことが出来た。
 後はここから司令室を目指すか。……おっと、このスイーツを食べておくか。鉄族相手にどれだけの効果があるか分からないが……)
 取り出した、食べると頭の回転が速くなるが影が薄くなるという不思議なスイーツを口にした所で、艦内に待機していた鉄族が続々と現れる。彼らは物陰に潜んだ陽一を見つけること無く爆発の起きた箇所へ向かい、穴を塞ぐ作業を始める。どうやら効果は鉄族にも有効であったようだ。それだけ元ネタとなった者の影が薄いということなのかもしれないが、それを言うと当の本人が傷つくので止めておこう。

 こうして、人間体の“灼陽”確保を目指し、移動を開始する陽一。
 もしここに鉄族だけが居たのなら、彼は“灼陽”を確保することが出来ただろう。……しかしそこには契約者のパートナーが居た。

「! “灼陽”様、侵入者です!」
 爆発が生じた後で、モニターを注目していたヘスティアが侵入者を指差す。するとそれまで彼に気付かなかった者たちが、「どうしてこんな所に!?」「何故気付かなかった!」と口々に声を上げる。
「“灼陽”様、どうかヘスティアに出撃の命令を! 契約者が相手であれば、同じ契約者であるヘスティアが向かうのが一番です!」
 懇願するヘスティアに、“灼陽”は一瞬躊躇い、何故自分が躊躇ったのか不思議に思う。
「うむ、ならば行け、ヘスティア。侵入者を撃退するのだ!」
「はい! ヘスティア、出撃します!」
 ヘスティアが敬礼の真似事をして、彼女専用に用意された攻撃ユニットをよいしょっ、と背負う。そして部屋を出て行こうとして、
「ヘスティア」
 “灼陽”がその背中に声をかける。
「はい?」
「……私はお前の淹れたお茶が飲みたい」
 自分でも何故このような事を言ったのか分からない“灼陽”に、ヘスティアは一瞬首を傾げ、そして満面の笑みを浮かべる。
「はいっ!」

(艦内は監視システムで監視されているはずだ。既に俺の姿も気付かれているだろうか)
 段々と司令室へ近づいている予感を得ながら、陽一は迎撃のシステムへの対策を検討する。侵入に大部分を割いたため、武装は最低限しか持っていないが、艦内システム程度であれば掻い潜る事が出来ると考えていた。

「そこのアナタ! ここから先はヘスティアが通さないのです!」

 だから、道の先にヘスティアの姿を見つけた時、陽一はマズイな、と思った。同じ契約者であれば持っているものに大差はない。となれば純粋に経験と、持っているもので有利不利が決まる。
(見たところ相手は重装備、どれか一発でも喰らえばそれだけで致命傷だ。……だがこんな所にミサイルまで持ってきて、撃つつもりなのか?)
 陽一は剣一本であるのに対し、ヘスティアは銃の他、武装コンテナを背負っていた。当然ここは“灼陽”艦内、ミサイルなど撃てる広さはない。
(……言っては何だが、彼女はアホの子なんだろうか)
 心の中でそんな事を思いながら、陽一は残っていた機晶爆弾を投げ、体内に溜めた気を掌から発射して爆弾に当て、爆発を起こす。
「はわーーー!!」
 爆発はミサイルを誘爆させ、ヘスティアに大きなダメージを与える。下半身が吹き飛んだ格好で地面にくすぶるヘスティアに申し訳ない気持ちを抱きながら、陽一が傍を通り抜けようとして足を掴まれる。
「行かせ……ないのです……絶対に……行かせないのです……!」
(なっ!? まだこれだけの力を――そうか、確か機晶姫はリミッターを解除することで限界を超えた性能を発揮できると聞いていたが、それか!)
 振り解こうと試みるが、片方の手で船体を掴み、もう片方の手で陽一の足を掴むヘスティアに完全に阻まれる格好になる。
(くっ……すまない!)
 ここで時間をかけるわけにも行かず、陽一は苦渋の決断でヘスティアのまずは自分の足を掴んでいる腕を剣で切り落とし、次いでもう片方の腕も切り落とす。四肢をもがれ今度こそ地に伏せたヘスティアから一刻も早く離れようとする陽一だが――。
「あああああああああああああ!!!」
 生物が死力を解放する時にはおそらくこのような声を発するだろう声をあげ、ヘスティアの辛うじて生きていた飛行ユニットが火を噴く。陽一の背中を襲うヘスティア、陽一は屈んで辛うじて避け、ヘスティアは天井、床、正面の壁、天井と跳ね返り――再び陽一に突撃する。
「ぐうううう!!」
 強烈に押し戻される力を受け、陽一は踏ん張るがついに足が滑り、ヘスティア共々押し戻される。壁にぶつかってもなお擦りながら移動させられ、やがて何の巡り合わせか、陽一は穴を修復していた鉄族の所まで押し戻される。
「な、何だ!?」
「侵入者だ!」
「捕まえろ!」
 口々に叫び、陽一に迫る鉄族にこれ以上の作戦続行は難しいと判断した陽一は、最後の機晶爆弾を爆発させて鉄族を混乱させ、修復途中だった穴から外へと飛び出す。艦外へ飛び出した陽一に鉄族の応射、そして“灼陽”の攻撃が迫り、絶体絶命に陥る。
「「最大船速! リーヴァを盾代わりにしますわよ!
 ……まったく、どうしてわたくしがこのような事をしなくてはいけませんの?」
「ウィスタリアからの通信を聞いてしまったお嬢様が、見過ごせるはずがありませんものね。
 それよりもお嬢様、シグルドリーヴァはもう持ちそうにありません」
 『ウィスタリア』からの通信を受けた『シグルドリーヴァ』が、自身を盾にして脱出を図る陽一を支援する。その間に陽一は離脱を成功させるが、『シグルドリーヴァ』の船体には無数の穴が空き、もはや航行出来る状態になかった。
「気合と根性、ですわ! お願いシグルドリーヴァ、もう少しだけ頑張ってくださいな」
 それでもノートが機関に喝を入れるが如くチョップを放てば、何故か一時的に最大出力を叩き出す。
「テレビの直し方ですか。……とにかく、機関最大! 艦首上げ角20!
 ギュルヴィ! 指定ポイントまで最大船速で! 総員衝撃に備えて!」
 操舵手ギュルヴィに命じ、他の皆は胴体着陸の際の衝撃に備える。そしてギリギリ龍族の支配圏に飛び込んだ所で、『シグルドリーヴァ』は盛大に砂煙を上げながら胴体着陸し、機関は最後にボフッ、と黒煙を吐いて力尽きるように活動を停止した。

「…………」
 “灼陽”が、『ヘスティアだったもの』と対面を果たす。下半身は爆発の衝撃で粉々になり、両腕は切られ、首から上は無残な姿に成り果て、人で言うところの心臓に値する機晶石も僅かに光るばかりであった。
「…………」
 それを見つめ、“灼陽”は口を開かない。いや、開けなかった。彼女に何て言葉をかけていいか分からなかった。
 “灼陽”は鉄族の長である。長を族の者が護るのは当然であり、結果失われようとも何も思わない。……しかしヘスティアは鉄族ではない。それなのにここまで戦い、結果として“灼陽”を護った。
「…………よく……やった……」
 やっとのことで声を上げた“灼陽”、その時自分がひどく悲しんでいる事に気付き、あぁそうだ、私は彼女を失うかもしれない事を恐れたのだ、だからあの時出撃を躊躇ったのだ、声をかけたのだと思い至る。
「“灼陽”様! オリュンポスパレスからの連絡、途絶えました!」
 重い雰囲気を切り裂いて、通信員が報告をもたらす。その時の“灼陽”の反応は迅速だった。
「場所は!」
 “灼陽”の声に反応して、モニターに『オリュンポス・パレス』が最後に発した位置情報が示される。
「全速前進! 『伊勢』にもこの戦域からの離脱を指示しろ! 彼らを決して失わせるな!」
 “灼陽”の命令に、鉄族は従った。“灼陽”の搭乗員にとっても、ヘスティアの損失は少なからぬ精神的ダメージを与えており、彼女を復活させ得る可能性のあるハデスの損失は絶対避けるべきとの共通した意思があった。
「“灼陽”様、カタパルトより緊急発進した機体があります!」
「放っておけ!」
 カタパルトから発進したイコンの存在を知らせる報告を一蹴して、“灼陽”は一刻も早く『オリュンポス・パレス』を護らねば、との思いに囚われる。

 ――その時、『オリュンポス・パレス』はどのような運命を歩んでいたかと言うと。

(ここがオリュンポスパレスの、弾薬庫ですね。おそらくここに、『ビッグバンブラスト』が格納されているはずです)
 途中、障害を機晶石を用いたビームで排除しながら、メティスが『オリュンポス・パレス』の弾薬庫へ辿り着く。これを無力化するか、いっそ要塞内で爆発するようにしてしまえば、そう思っていたメティスは『ビッグバンブラスト』の先端部に何やら注意書きがされているのを見つける。

『注意! ここを押すと自爆装置が作動します。絶対押しちゃダメ! デメテール』

(…………)
 何も思うのを止めて、メティスはそのいかにもなボタンを押す。直後警報が鳴り響き、『ビッグバンブラスト』の自爆装置が作動している旨を知らせる。
(後は、ここから離れるだけですが……あっ)
 弾薬庫の入り口まで来た所で、身体から力が抜けたようにメティスが地面にしゃがみ込む。道中障害を排除するために放った機晶石をエネルギーにしたビームは、エネルギーの素こそこの要塞内に無数に存在しているため無限の利用が可能なように思われるが、『体内に取り込んだエネルギーを発射する』行為が、メティスの身体に負担を強いていた。
(なるべく、離れなくては……)
 動きの鈍った身体を引きずるようにして、メティスがその場を離れる。

「……はっ、警報っ!? っていうか、捕虜がいないしっ!」
 その頃、警報で目が覚めたデメテールは、自分が捕虜を捕らえていたはずの部屋に閉じ込められていることに気付く。
「しかもこの警報って、ビッグマックなんとかってミサイルの自爆装置起動音!?」
 ……よし、聞かなかったことにしよう! あっ、でもこのままじゃ自爆に巻き込まれてどっかーんじゃん!
 うわーん助けてよー」
 緊急事態をあっさりと放棄したデメテールだが、自分がこのままでは自爆に巻き込まれてしまうと知って慌てて助けを求める。

「……デメテール君の普段の仕事振りを忘れていた僕の責任ですね。この前は珍しく仕事をしたものですから、こういうことを起こす可能性を考慮していませんでした」
「ちょっとー、それってどういうことかなー。役立たずだって言いたいわけ?」
 十六凪の言葉にデメテールがつっかかる。ちなみにここは『オリュンポス・パレス』に用意された脱出ポッドであり、特別頑丈に作られていた。デメテールはハデスの召喚によって閉じ込められていた部屋から脱出に成功、今はハデスとデメテール、十六凪で脱出の準備を整えていた。
「このような所で我が秘密結社オリュンポスの野望が潰えるとは……!
 だが“灼陽エックス”、お前が俺の遺志を継いでくれることを期待しているぞ!」
「ハデス君、遺志、ではハデス君が死んでしまいますよ」
「そ、それは困るな! 俺はまだ死ぬつもりはない!」
「じゃあ、脱出しちゃいましょう。ハデス君、そこのボタンを押してください」
 十六凪の指示に従い、ハデスが赤いボタンをぽちっ、と押せば、衝撃が一行を襲う。
「ねーねー、ヘスティアはー?」
「ヘスティアなら“灼陽エックス”の下に行ってもらっている。……むぅ、しかし通信が繋がらぬな」
 状況を報告しようとして取り出した携帯に、しかしヘスティアは応答しなかった――。